124,Q大丈夫ですか?A不安ですね…
勇者さんパーティーと別れ、お昼ご飯を食べつつ果物を与えてサクラに機嫌を直してもらいました。
果実が決め手というよりは、モエギがずっとサクラにスリスリしてたからだと思うけど、まあ果物も少しは貢献したでしょう。
「これからどうするの?」
「もう一か所見たいところがあるんだ」
「そうなんだ。じゃあそこに行って……市場、見てみたいんだけど、いい?」
「ああ。市場にも寄って行こう」
「わーい」
お店を出て、コガネと手を繋いで通りに入る。
人の多さは相変わらずだが、朝より歩きやすい気がする。
朝が一番人が多かったりするのかな?
「……主、こっちから行こう」
「はーい」
コガネ君が手を引いて裏道に入る。
この国は色々危ないから、と表通りだけを歩いていたのに、何かあったんだろうか。
疑問に思いながら進むと、何やら美味しそうな香りが漂ってきた。
……これが目的?さっきご飯食べたのに……
「……いや、おやつに。今食べるんじゃなくて、おやつにな?」
「ああ、なるほど」
私の目線に気付いたのか、珍しくコガネが言い訳がましい事を言う。
美味しそうだから文句はないけどね?
普段そんなに食べないけど、我慢してるのかな……?って思っただけだからね?
コガネが疑惑の目を向けられながら買ったのは、クッキーみたいな物だった。……うん。クッキーだね。
味は、ぱっと見で2種類。ココアっぽいのと、普通のやつ。
「……そろそろ着くぞ」
「はーい」
若干気まずげなコガネ君の先導で、2番目の目的地に到着した。……ここは……なんだ?
中心が大きくへこんだ円形の土地に柵が張られて近付けないようになっている。
階段で中心の窪みまで降りられるようになっているみたいだが、柵に切れ目はない。今は入れない、ってことかな?
「ここは、かつてこの国で唯一魔法が使えた場所なんだ」
「……使えたの!?」
「ああ。中心が窪んでいるだろ?そこに魔導器が置かれて、この円形の土地の範囲だけ魔法が使えた」
「……今は、使えないんだよね?」
コガネは、無言で頷いた。
そして柵に触れながら思い出すように、記憶を探るように言葉を紡ぐ。
「……40年前くらいまでだな。ここで魔法が使えたのは。その後は一切使えなくなって、今はこうして念の為柵が張られている」
「……なんで使えて、なんで使えなくなったの?」
「詳しい事は分かっていない。ただ、必要があったから使えて、必要が無くなったから使えなくなったんだろうな」
うん。むつかしいことわかんない。
そういう、哲学みたいな話は苦手なんだよなぁ……
私が理解出来ていないことを悟ったのか、コガネ君は手を引いて次の場所に移動した。
「ここから人が増えるから、はぐれないように、な」
「はーい」
手をしっかり繋ぎ直して大通りに入る。
両側に露店が連なるここは、この国で一番の賑わいを見せる市場だった。
人混みの隙間から見える色とりどりの露店に目を奪われていると、コガネ君に手を引かれた。
「主、見つけた」
「おっ。じゃあ行こう」
この市場で探している物はコガネ君にも伝えてある。
というか、カーネリア様に教えて貰った物だから、コガネ君も聞いてたんだよね。
コガネ君の後ろにくっついて進んでいくと、少しだけ人混みの薄い所に出た。……それでも、めっちゃ人いるけどね。
売っているのは、金や銀の装飾品。
細かい細工がされていて、とても綺麗。
イピリアは金属加工の職人さんが多いらしく、こういった装飾品の質もいい。興味があるなら覗いてみろ、とカーネリア様が言っていた。
確かにこれは見る価値ありますな。
ほかの露店と違い、客引きをしない代わりに用心棒のような人が店の横に立っていた。
露店の位置も他より少し後ろで、何となくここだけ空気が違う感じがする。
「いらっしゃい、何かお探しかね?」
「えっと、ピアスを探してます」
「右の端にまとめてあるぞ」
「ありがとうございます」
装飾品系に関して、私は基本興味が薄い。
自分が着けるって考えるとどうにも興味が薄れるのだ。
そんな私が、わざわざ人の多い市場に入ってお店を探して沢山のピアスを前にして真剣に悩んでいる。つまりは自分用ではないわけで。
「……ピアス、空いてたか?」
「うん。左に1個だけ空いてるんだって」
銀の装飾品も多いと聞いて、真っ先に頭に浮かんだ人が普段見えないけど実はピアスを開けているらしく、この状況になったわけです。
かっこいいデザインがいいなー。とか、あんまり大きいと邪魔になるよね。とか色々考えて選ぶのは中々楽しい。
うーん……少しくらい自己主張するピアスがいいな。
せっかく買うんだし、見えるやつがいい。
でもチェーン長いと邪魔になりそう。
大きすぎるのもな……結構面倒かも。楽しいけど。
「んー……」
「決まらんかい?」
「はい……」
「その感じ、自分のじゃないんだね?」
「はい」
店主であろうおじいさんに話しかけられた。
まあ、そこそこの時間ここで唸ってるし、気になるよね……
「どんなのがいいんだい?」
「えっと……かっこよくて、動いてても邪魔にならないような物?」
「ふうむ……かなり値は張るが、いい物があるぞ」
おじいさんはそう言って、奥から木箱を出てきた。
手のひらサイズのそれを渡され、促されるまま箱を開く。
中には綿が敷き詰められ、中央に小さな剣が収められていた。否、剣の形をしたピアスが収められていた。
刀身に幾何学模様が彫られ、持ち手にはドラゴンが止まっている。
でも、大きさは小指の第一関節くらい。
「ほえ……」
「恐ろしく値は張るし、1つしか無いしで売れてないんじゃよ。わしの最高傑作なんだがなぁ」
「おいくらですか」
「金貨一枚、じゃ」
「買います」
「……正気か?」
「はい。買います。コガネ」
「はいはい」
早速カーネリア様からの報酬をかなりの額使ってしまったが、問題ない。なんの問題もない。だって私のお金だもの。こちとら経済回しとんじゃ。
「主人、これは聖銀だな?」
「ああ。そうじゃ」
「聖銀……?」
「この世界で最も希少な鉱石だ。魔よけの効果がある」
なるほど。それでめっちゃ高かったわけか。
魔よけ効果はいいね。なんかあると落ち着く気がするね。気のせいかな?
というか、おじいさんが何やら呆れたような目でこっちを見てるんだけど……
「それも知らんのに即答したんか……」
「だ、だってかっこよかったですし……すっごい細かい模様も彫り込んでありましたし……すごいと思った物にお金払うのは躊躇しない質でして……」
ごにょごにょと言い訳をしつつ、木箱の蓋を閉じる。
コガネ君にお金を払ってもらい、木箱を預ける。
コガネ君が持ってた方が安心だからね。
おじいさんは、またおいでーと言って手を振ってくれた。
「……いい買い物をした」
「……新たな主の一面を見た」
呟きながら、少し市場を見て回って宿に戻る。
気付けばもう夕方だ。アジサシさん達は帰ってきてるかな?
「お、いいタイミングだ。アオイちゃん」
「あ、チグサさん。おかえりなさい」
「ただいま。早速だけど、明日の昼くらいにイピリアを出ることになったんだ。準備をしておいてくれるかい?」
「はーい」
いつ出発するか分からないから、旅の道具は必要以上に解かないように、とは言われてたからね。
新しく買ったあれこれを詰めれば準備は完了だ。
アジサシさん達とどこまで一緒になるか分からない旅だから、聞きたいことがあったら早めに、とも言われてる。
あんまり危険な所には連れて行けないから、そうなったらそこでお別れだ。
アジサシさんも、目的地があって移動しているっていうより、珍しい魔物の予兆なんかを見つけたらそっちに移動するって感じらしい。
「……昼に出発して、夜までにどこかに着くの?」
「いや、着かないな。多分野宿だ」
「……私、生きて朝を迎えられると思う……?」
「……守る」
「お願いします」
本気で死ぬ可能性が見えてきた気がする。
でも、アジサシさんが何も考えずにそんな事をするとも思えないので、多分大丈夫だろう。……多分。