12,Qあれは誰ですか?Aヒエンさん、のような気がします。
コガネ君に抱きかかえられ、ドラゴンのせいで一部が崩れた街の中を走る。
どうでもいいんだけど、コガネ君の私の抱え方が、類に言う「お姫様抱っこ」というやつなんですね。
これ、恥ずかしいとかの前に恐い。
いや、落ちはしないんだろうけどね。なんか、落ちそうじゃん?
「コガネ君、頼むから落とさないでね?」
「大丈夫だ。……主、何もそんなに恐がらなくても……」
「恐いものは恐い。ビビリなんだよ。私は」
言いながらコガネ君の首元にしがみつく。
コガネ君、足速い。街の風景がどんどん後ろに去っていく。
と、そこで突然コガネが止まった。
「どうしたの?」
「いる」
「……なにが?ドラゴンが?」
「ああ。この建物の向こう側にいる」
「えー……マジかー……で、どうするの?」
「主はどうしたい?」
答えになってないぜ、コガネ君よ。
そして唐突にそんな事言われても困るのでござりますよ?
「……もし、あれを倒してって言ったら、できる?」
「不可能ではない。もう少ししたら冒険者が集まってくるだろうから、ある程度ダメージを与えれば、どうにかなると思う」
「じゃあ、お願いしても、いいですか?」
「わかった」
コガネ君は建物の影に私を降ろし、跳んだ。
……跳んだよ。建物跳び越えたよ。
すげぇー。
「っと、そんな事言ってる場合じゃないぜ」
壁に手をついて、ゆっくりと腰を浮かせる。
うん。まだ足は震えているが、壁伝いならどうにか動けそうだ。
ジリジリと移動して、建物の隙間から顔だけ出して向こう側の様子を伺う。
その瞬間、
「グオオォォォ!」
ドラゴンの雄叫び(?)が響き渡った。
「ひゃいっ!?」
私は妙な声を出してその場に座り込む。
……また、腰が抜けたようだ。
なんなんだよ、まったく!そんなに私を驚かすのが楽しいか!
なぜか怒りながら再び隙間から顔を出す。
見えたのは、コガネがドラゴンに向けて魔法をぶっ放しまくっている光景だ。
ドラゴンは片翼を折られ、もう片翼をもがれている。
そのため空に逃げる事も出来ないようだ。
というか、空に逃がさないために先に翼を折ったのだろう。
ドラゴンは弱々しく反撃するが、コガネには当たらない。コガネはドラゴンの攻撃を簡単に避け、炎を、雷を、氷を、ドラゴンにくらわせる。
ドラゴンは身体の至る所から血を流し、もがき苦しんでいた。
……私が望んだことだから、私はどうこう言えないんだけど、こうやって見ると、ドラゴンが可哀想になってくる。
いやはや、我ながら都合がいい。
1人で勝手に暗い気持ちになっていると、冒険者の方々が到着されたらしい。
コガネ君が戻ってきた。
「おー。お疲れ、コガネ君」
「……主、大丈夫か?顔色が悪い」
「ん。大丈夫。……ところでコガネ君」
「なんだ?」
「コガネ君、男だったの?」
さっきは聞き損ねた。
そして、そうだとしたら申し訳ない。今まで勝手に女の子だと思ってた。
思いっきりちゃん付けで呼んでたし。
「いや、俺たちに性別の概念はない。なろうと思えば女の姿にもなれる」
「あ、そうなの?」
よかった。女の子でも間違ってはいない。
「ちなみにどっちの方が楽とかあるの?」
「戦う時はこっちの方が楽だな」
「なるほど……」
それは体格的な事なのかな?
女の子の時がどんな姿かは知らないが、今のコガネ君はかなり背が高い。
あの小さなキツネさんと同じだとはおもえない。
「……ところで、なんで人型?」
これが一番気になるところだ。
「元々、白キツネの特に魔力の強い個体は人化出来るんだ。俺も出来るんだけど、今までは体が弱ってて、一時的に出来なくなってた」
「弱って……チグサさんに捕獲されたから?」
「いや、あれはどちらかと言うと保護だな。拾われてなかったら死んでた」
そうなのか。ありがとう、チグサさん。そして疑ってごめんなさい。
そんなやり取りをしている間に、ドラゴンが倒されたらしい。建物の向こう側から歓声が聞こえて来た。
そこで、なにか忘れている事に気が付いた。
「……ねえ、コガネ君」
「なんだ?」
「ドラゴン、2体いるんじゃなかった?」
「いるぞ?もう1体も大分近づいてきてる。そっちの方がデカイみたいだ」
……え?なんて?
「……じゃあ、これより強いの……?」
「そうなるな。……それに、怒ってるぞ。さっきのと番だったんじゃないか?」
なんてこった。そりゃ怒るよ!自分の奥さん(旦那さん?)殺されたら誰だって怒るよ!!
「……どうするの?」
「逃げる」
逃げんのかい!でもまあ、それが一番なんだろう。
コガネ君は言いながら私を抱き上げた。
だから恐いって。お姫様抱っこはやめてって。
「コガネ君、背負うとかじゃダメなの?」
「これが一番楽だ」
「そうなの?」
「……ああ」
コガネがすっ……と目をそらす。
おいこら。
「絶対嘘だぁ!」
「行くぞ主。掴まってろ」
「ひゃあっ!」
コガネが急発進した。
絶対ごまかすつもりだ。全然ごまかせてないけど。
「主、あいつだ」
「え?でかくない?」
「でかいな」
「……あれ、倒せる?」
「さすがに無理だ」
オーマイゴット。コガネでも無理らしい。
どうしましょ。コガネが言う事が本当なら、あのでっかいドラゴンは、ただいま怒り心頭で街を襲う可能性が大だ。
そんな事を考えていると、ドラゴンと目が合った。
……デジャブ。
「来たぁぁぁ!!」
「主、ドラゴンに好かれてるのか?」
「違うだろ!あれは捕食対象を見る目だ!」
「主は美味しそうなのか……」
「その言い方やめい!っていうか逃げないの!?」
コガネに泣きつくように言うと、もう少し引きつけてから。というなんとも冷静な答えが返ってきた。
コガネは冷静なようだ。
なら、この場はコガネに任せて私は十字を切って念仏を唱えようではないか。
ふふふ。お花畑が見えるぅ〜
「主、跳ぶぞ」
「え?なに?は?跳ぶ!?ちょっ!」
セルフで三途の川を渡ろうとしていたら、コガネのせいで本当に三途の川を渡りそうになった。
びっくりした。心臓出そう。
コガネはそのままトーントーンと跳び続け、少し離れたところに着陸すると、細い路地に入って私に覆い被さる。
「コガネ君、これはどうゆう状態だい?」
「気配を消してる。主の気配はなんか特殊だから、ドラゴンに狙われるんだと思う」
「なるほど。だからコガネの気配で上書きしてしまおうと」
「そういう事だ」
だとしたらなんで頭をぐりぐり押し付けてくるんでしょうね?これ、撫でられたい猫の仕草じゃね?
コガネの頭を撫でるべきか撫でざるべきか考えていたら、私とコガネのいる路地に繋がる大通りをドラゴンが通った。
「ひっ……!」
「主、声を出すな」
声をあげそうになった私の口をコガネが塞ぐ。
そしてドラゴンから隠すように私を抱えてドラゴンに背を向けた。
「こ、コガネ……?これ、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。俺たちは人ではないから、ドラゴンが捕食対象にする可能性は限りなくゼロだ」
その言葉を肯定するように、ドラゴンは興味を失ったように立ち去った。
「ひぃぃ……今ので寿命が5年は縮んだ……」
「なに、それは大変だ。人間の寿命はただでさえ短いのに」
律儀に乗ってくれるコガネに感謝しつつ、息を吐く。
「この後どうするの?」
「あのドラゴンを追いかける」
「えっ……本当に?」
「大丈夫だ。危なくなったら逃げるから」
言いながらコガネが立ち上がる。
慌ててしがみつくと、フッと微笑まれた気がした。
……なんだろう。コガネのこの溢れ出るお兄ちゃん感。
路地から出て、一定の距離を保ちつつドラゴンの後を追いかける。
すると、突然ドラゴンが呻き、どこかに向かって走り始めた。いや、飛び始めた。正確に言うと、助走をつけて飛んだ。
「コガネ、どうするの?」
「上に行こう。近付かなくても見えるかもしれない」
コガネは宣言通り上に跳び、このあたりで一番背の高い建物、時計塔に着地した。
いい眺めだ。街、壊れてるけど。
「主、あそこ」
「ん?あ、本当だ。あのドラゴン……どこ行くんだろ」
「さあ、なにか目的の場所があるんじゃないか?」
しばらく見ていると、ドラゴンの前に人影が現れた。
その人影に向かってドラゴンは突撃し、一撃で翼を穿たれた。
そのまま地面に衝突したのだろう。
土埃が舞い、人影がその中に突っ込んでいく。
少しだけ時間が経つと、ドラゴンの、断末魔が聞こえてきた。
「主」
「どうしたの?コガネ君」
「あれは、なんだ?」
「……なん、だろうね」
小さい方のドラゴンを倒したコガネが倒せないといったドラゴンを、ものの数分で倒した人影。
得体の知れないそれが、なぜかヒエンさんの姿と重なる。
「いやいや、ないない」
「主?」
「ん?いや、なんでもない」
さすがに、違うだろう。
遠目でよく見えなかったからそう思うだけだ。
そう、自分に言い聞かせる。
唐突に起こったドラゴンの襲撃事件は、なんとも言えない謎を残して終結した。
どうもどうも、瓶覗でございます。
今回でドラゴンが倒されました。呆気なく。
いや、短い登場でしたね。
どちらかと言うと、コガネの人化の方が自己的には重大ニュースです。
唐突ですが、ここで、コガネ(キツネ時)と、コガネ(人型時)で口調が違う理由を説明しておこうと思います。
キツネ時のカッコ書きの内容は、アオイちゃんが書いてると思っていただけると簡単ですね。アオイちゃんにはあのノリで聞こえて(?)ます。
なので、コガネの実際の口調は人型時です。
以上、唐突な説明でした。