120,Qまたですか。Aデジャヴ…
私に跳びかかってくる魔獣はやけにゆっくりに見えた。
……走馬灯とか見えそう。まだ見えてないけど。
そんなことを考えられるくらいには、ゆっくりだ。
そんなにゆっくりになるなら逃げたいが、それは出来ないらしい。悲しい。
いよいよ魔獣が目の前に来て、牙をむいた。
……あーマジで終わったかな。
ゲームオーバーかぁ……もうちょっと色々したかったなぁ……
なんて、思っていたら、魔獣が横に吹っ飛んだ。
自分の意志で飛んだのではなく、他者からの干渉を受けて、吹っ飛んだ。
……なんだろう、なんか、前にもこんなことがあった気がする。
「……無事か?」
「あ、はい。ありがとう、ございます」
「うむ。無事で何よりだ」
目の前には、魔獣を吹っ飛ばしたのであろう人が立っている。
日の光を受けてキラキラと輝く銀髪を、高い位置で一つに結った、とても綺麗な女の人。
その雰囲気がどこかヒエンさんに似ていて、安心やら混乱やらで、その場にへたり込んでしまった。
「どうした、どこか痛めでもしたのか?」
「いえ……ちょっと腰が抜けて……」
「そうか。まあ、無理もない。魔獣に襲われるなんて、そうそうないことだからな」
……すいません。めっちゃ襲われます。
もう数える気も起きないほど襲われてます。
でも、魔獣に襲われた回数なら数えられるか。魔物はほんとに数えきれないけど。
……というか、この人は何者だろうか。
魔獣を1撃で吹っ飛ばすくらいだ、強いのは分かる。それに、なんだかすごく高貴な雰囲気がする。雰囲気というより、気配?高貴な気配を纏ってる……?
とにかく、本当に危ないところを助けてもらったのだ。しっかりお礼を言わないと。
そう思って、力の入らない足にどうにか力を入れて立ち上がると、空から何かが降ってきた。
……やけに見覚えのあるそれは、私の前で急停止する。
「モエギ!」
「チュン、チュンチュッチュン!」
「うん、はい、ごめんなさい……」
珍しく大きい声を上げたモエギに怒られてしまった。
今回は、いつもの比じゃないほどの心配を掛けただろうし、仕方ない。
女の人は、小鳥と会話をする私を不思議そうに見ていた。
「言葉が分かるのか?」
「はい」
「君は……獣人、ではないな。何か特別な種族なのか?」
「いえ……種族は特別ではないんですが……」
普段はあまり人に言わないようにしているが、この人になら話してもいいか……
助けてもらったわけだしね。それに、なんだか安心感がある。悪い人ではない。
そんなことを考えて、オリジナルスキルのことを話そうとすると、聞きなれた声が聞こえてきた。
「主!」
「あ、コガネ!」
声のした方を見れば、サクラに誘導されてきたのだろう、コガネが走ってきていた。
珍しく、軽く息が乱れている。
コガネは私の無事を確認して安心したように息を吐き、私の横に立つ女の人を見て目を丸くした。
「主……この方は?」
「あ、助けていただいた方です」
「そうか……主を助けていただき、感謝します」
「うむ。たまたま通りかかっただけだ。気にするでない」
……ん?コガネがこんなに丁寧なの、ちょっと珍しい気がする。
何でだろ、私が死にかけたから、とかじゃないみたいだし……
「……主、この方はこの国の王女だ」
「…………へ?」
「なんだ、知っていたのか。今は忍んで街に降りてきている。そう固くならなくていい」
私が固まっている間にコガネと王女様は話し始め、サクラとモエギは私の肩に止まった。
「お主ら、旅の者か?」
「はい。ガルダから」
「ほう、なかなかの長旅だな。……ガルダか……かの国は、優秀な薬師も多いらしいな」
「薬師……そうですね。……薬師に、用事がおありで?」
「ああ、王宮のポーションの在庫が底をつきてしまってな。信頼のできる薬師の元に行こうとしていたところだ」
その言葉を聞いて、コガネと顔を見合わせる。
王女様が直々に買いにでるのか……
しかも、供の1人も連れずに。
……あ、お忍びだって言ってたから、それでか。
「だが、その薬師も在宅か分からなくてな……なるべく早く調達したいのだが」
その言葉を聞いて、コガネと顔を見合わせる。
ポーションなら、作れる。これでも薬師ですし。
「あの……必要なのは、ポーションのみですか?」
「そうだな。急ぎで用意すべきはポーションのみだ」
「それなら、私が作ることもできますが……」
「うむ?君は薬師なのか?」
「はい。……あ、名乗り遅れました、私、こういう者です」
言いながら、胸の内ポケットを漁って薬師免許を取り出す。
それを見て、王女様は目を輝かせた。
「ほう、中級薬師か。……そうだな、差し支えなければ今から王宮に向かい、ポーションを作ってほしい」
「はい、喜んで」
話を振っておいて何だが、なんと返事をしていいのか分からない。
変な返事をしていないといいな。
コガネが何も言わないから、多分大丈夫だろう。