118,Q着きましたか。Aはい!
お昼休憩を挟み、馬車は再び動き始める。
お腹いっぱいだし、馬車の揺れは心地いいし...
うーん...眠たい...でも窓の外の景色も気になる...
「ここからはそんなに景色も変わらないよ。灯棒が見える直前くらいに起こすから、寝ててもいいよ」
「うーん...じゃあ、お言葉に甘えて...」
なんなら甘えまくってコガネちゃんの膝枕...
あ、冗談です。はい。...え?いいの?やったぁ!
そんなわけで、コガネちゃんの膝枕と頬に擦り寄ってくるモエギのもふもふ感という至高の組み合わせと言えるであろう心地良さには抗えず、(そもそも抗う気もないが)私の意識は簡単に夢の中に誘われた。
「……主、寝ちゃったね」
「チュン」
「寝るまで凄い速かったね」
「チュン」
「……疲れてたのかな?」
「チュッチュン」
「そっか」
「チュン」
主が横になって5秒で寝落ちた。
主の綺麗な黒髪を撫でながら、モエギと会話する。
サクラは、じゃれ付いてくるからよく話しているが、モエギは主との連絡係のようになっているせいもあってか落ち着いて話したことは少ない。
モエギは、とても落ち着いている……と見せかけてサクラ関連の事は結構ガバガバだ。
サクラの行動管理は出来るのに、サクラと連絡が取れなくなると慌てて私に連絡してくる。
念話だから、大声なんて出さなくていいのに凄い慌てて大声を出したりする。
そういう時のサクラは大体自分のしていることに夢中になってモエギの声が聞こえていないだけだから、何回か連絡を取るか、何かしらの音を出せば気づくのに、モエギはいつもそれを忘れている。
大事なのは分かるからちょっと落ち着け?
なんて、主にも言われてる。
……そういえば、主と連絡が取れなくなった私の行動と似てるって店主が言ってたな……
「...モエギは、サクラ大事?」
「チュン!」
「そっか」
妹、なんだったか。
血の繋がりなんかはないが、妹。
歳も同じだけど、妹。
そんなことを言ってた。
サクラも、モエギはお兄ちゃんだって言ってた。
……ちょっと羨ましい。
白キツネは基本一匹ずつしか産まれない。
それに、次の子が産まれる前に親とは別れて暮らすようになる。
だから、兄弟という存在は居たとしても知りえない。
……主は、兄弟いるのかな?
そもそも、主はこの世界の人じゃないはずなのに、まるで最初からこの世界で育ったかのように過ごしている。
兄弟は居なくても、家族はいるはずなのに、それを忘れたかのようにこの世界でイキイキと生活している。
……なにか、裏がありそうなほど。
裏があるとして、主は恐らくそれを知らない。
知っているとしたら……
「チュン、チュッ」
「え、そんなに?」
「チュン」
「そっか」
モエギに、怖い顔をしていると言われてしまった。
いい想像をしていた訳では無いが、そんなに怖い顔をしていただろうか。
……心配させちゃったかな?
モエギを撫でると、安心したように擦り寄ってきた。
サクラは上ではしゃいでいるようだ。
静かな昼下がり、どうせならほのぼのと過ごそうか。
「主、主起きて。そろそろ着くよ」
「うー……起きる……」
コガネちゃんに揺さぶられ、体を起こすと辺りは夕日に染まっていた。
結構寝ちゃってたのかな?
「ピッ」
「チュン」
後から声が聞こえ、振り返るとサクラとモエギが床に転がっていた。
……うん?なんで転がってるの?
「2羽とも、昼寝してる主の上で昼寝してたんだ。今主が体を起こしたから落っこちたんだね」
「寝床にされてた……?」
「うん」
なんとまあ。別に重くも無いしいいけど。
……寝ぼけてるモエギはなかなかレアな気がするなぁ。
サクラはよく寝ぼけて壁にぶつかってるけど。
「それより、もう着くよ。道の両側に灯棒が刺さってる」
「あ、本当だ!」
「おや、起きてたかい。聞いただろうけどもうすぐ着くよ。宿はもう取ってある」
「チグサさん……仕事速いですね」
「うちには2人ほど、馬車より速いやつが居てね」
つまり馬車から降りて走って行ったと。
なにそれすごい。
この馬車、結構速いのに。
そんなことを思っていると、馬車が少しずつ減速し始めた。
……着くのかな?着いたのかな?
「着いたみたいだね。アオイちゃん、聞いたと思うけど、イピリア内では一切の魔法が使えないからね。コガネちゃんとはぐれないように」
「はい!」
「それと、ボクらは明日迷いの森に行ってるから、明日はイピリア観光をしてるといいよ」
「はーい!」
気付けば、馬車はもうイピリア内に入っていた。
日頃ずっと感じていたコガネの魔力が感じられなくなって少し不安。
……でも、まあ離れることもないだろうし……
それに、思ってたより大きい建物が多いな。
観光も楽しくなりそうだ。
・*・:≡( ε:)