117,Q楽しそうですね。A風が気持ちいいです!
大陸間の門を抜け、目の前に広がったのは色の濃い緑。
吹き抜ける風には草木の香りが混ざりこんでいる。
……この大陸は、森だ。
「第4大陸は、中央に大陸の3分の1くらいの大きさの森があるんだ」
「……でっかくない?」
「でっかいよ。魔力が豊富だから、森の中の魔獣がすごく強いんだ」
「入らない方がいい、のか」
「うん。森の魔力のせいで魔力探知とかも上手くいかなくて、道に迷ったりもするから入っちゃダメ」
「……ちなみに、その森の名前は?」
「迷いの森」
「やっぱりか……」
なんか、どこにでもあるね。迷いの森。
私がやってたゲームにもあったよ。
レベリング場所にしてたせいで迷わなくなったけど。
というか、迷っても出るまで適当に進んでたら出れるから問題なかったって感じ。
「近くを通るだろうから、森は見えるよ」
「お、ちょっと楽しみかも」
ワクワクしながら窓の外を眺めていると、突然窓に逆向きのチグサさんの顔が現れた。
「ひえ!?」
「驚かせてしまったかな?」
「そりゃ驚きますよ!?」
「あはは、ごめんごめん。行き先を伝えておこうかと思ってね」
「……この方向だと……イピリア?」
「そうさ。夕時には着くから、それまでのんびりしていていいよ。……あ、お昼ご飯は12時半の予定だよ」
チグサさんはそれだけ告げて、上に帰っていった。
……なんでわざわざ窓から……
降りるの面倒、とかかな?
でも、2階の窓からも出入り出来るって言ってたような……
「……うーん…………あ、コガネちゃん、イピリアってどんなところ?」
「森にそこそこ近い、平和なところだよ」
「森に近いんだ……」
「うん。命知らずな冒険者が森侵入の休憩場所に使ってるイメージ」
ほう。ゲームの中なら私が長期滞在する所って感じかな。
強い魔物とかってレアアイテム落としたりするから、それをひたすら集めてたんだよね。
レベル上がりやすいし。
「侵入するんだ」
「うん。魔物も強いけど、その分いい素材を落とすし、森の中の資源は手付かずの物も多いから」
「やっぱりいい物落とすんだね」
「魔力を溜め込んだヤツも多いからね。魔法の道具とか作るのにはもってこいなんだ」
「なるほど……」
資材を求めてるのは、国とか街とかかな?
そこの依頼を受けて森に入ったりもあるんだろうか。
……森の中の資源ってなんだろう?
「そろそろ見えて来るよ」
「どっち?」
「こっち」
窓の縁に手を付いて身を乗り出すと、たしなめるようにモエギが舞い降りてきた。
顔のすぐ前を飛ぶので、それに押し戻される形で馬車の中に引っ込む。
「チュン(危ないです)」
「うん、ごめん。サクラは?」
「チュッチュン(上で遊んでます)」
「そっか」
上ってことは、見張り台かな?
サクラは懐っこいから、初めて会う人でも構ってくれるなら肩に止まるし指にじゃれつく。
モエギはちょっと離れたところからそれを眺めてるみたい。
コガネちゃんが言うには、2羽とも悪い人には近づかないらしいから、あの子達がじゃれつく相手はいい人なんだろう。
「あ、見えた」
「おー……あれ?」
「そう。あれ」
「……遠いね」
「そうだね。まだ遠いね」
まだ、って事はもっと近づくのか。
見た感じは、深い緑色の森。
木がおっきいなー……くらいしか普通の森との違いもない、かな。
「……イピリアは、魔力を遮断するんだ」
「え?」
「迷いの森が近いけど、イピリアの領土の中では魔法なんかが一切使えないんだ。だから、森の魔物が入って来ても簡単に撃退できる」
「魔力を遮断……魔力探知とかも?」
「できないよ」
それは……なんか凄いな。
でも、全く魔法が使えないならちょっと不便そう……
怪我とかはポーションがあるからいいとして、建物が崩壊したとかは……ガルダでは魔法と錬金術で直してるからそう思うのかもしれないけど。
「だから、暮らしてる人は他の国より屈強かもね」
「力仕事、全部自力だもんね……」
「そのかわり、魔力を好まない種族が集まってきたりするんだ」
「そんな種族がいるんだ?」
「うん。行ったら会えるかもね」
ちょっと気になる……いいや、だいぶ気になる。
会いたい。会ってみたい。
コガネちゃんが「会えるかも」って言うってことは、危険な種族じゃないんだろうし。
どんな種族なんだろう……