104,Q本日は?Aレッツゴー図書館、です!2
目的の本を探して、図書館内をウロチョロしていると、モエギが肩の上で軽く跳ねた。
図書館内だから音を立てないように、ということのようだ。超いい子。
「どうしたの?」
小声で聞くと、翼で左側を指さすような動きをする。
そっちに何かあるらしいので歩いて行ってみると、あったよ。目的の本が。
「流石モエギ」
指先で撫でると、嬉しそうに体を揺らす。
……図書館来るときのお供はモエギで決まりだな。
コガネだと入れるか分からないからね。
契約獣だって言っても信じてもらえるかどうか……
それはともあれ、目的の本だ。
タイトルは【9人の勇者】。
先代勇者さんの話だ。
こっちの世界に来てから結構本を読んでいたので、文を読む速度はだいぶ速くなっている。
朝早くから来た理由は、人が少ない時間に来たかったのと、一気に読んでしまいたかったのだ。
近くにあるイスに座って本を開く。
〈230年ほど前、1つの冒険者パーティーがあった。
そのパーティーは後に勇者と呼ばれるようになる。
勇者とは、本来1人の人間離れした能力を持ち、魔王を討伐する任を受けた者のことを言うが、このパーティーは全員のことを勇者と呼んだ。
魔王討伐の任を受けたのは、パーティーのリーダーである神速の聖剣だったとされているが、神速の聖剣が自分1人のみを勇者とするのなら受け入れない、と言い、パーティー全員を勇者として扱ったという。〉
……聖剣さん、王様からの任を断ろうとしたの!?
魔王討伐の任って王から申し付かるやつだよね!?
普通断れないやつだよね!?
王様の兵士よりも強いって自信があったから断れたのかな?
あ、断ってはいないのか。
……条件変えさせるのも相当なアレだと思うけど……
〈そもそも勇者というのは、大聖堂が神からの知らせを各国に伝え、知らせの内容と一致した者を王が王宮に招き、勇者の任を与えるものだ。
勇者は、人類の行方を左右する重要な人物である。
そのため、勇者が現れたという知らせを受けた各国は全力を持って勇者を探す。
勇者が生まれた国、というその肩書が、国同士の力関係をも変えるからである。〉
なんか世知辛いこと書いてある?
頭が良くないからあんまりよく理解できてない気がするでござります。
とりあえず、勇者大事!でいいのかな?
〈話が少し脱線してしまったので、元に戻そう。
神速の聖剣は、第1大陸のスレイプニル出身であった、という記録が残っている。
その他のパーティーメンバーの出身は、
不死鳥が第6大陸のペルーダ
闇の支配者が第2大陸のモルモー
精霊女王が第4大陸のスコル
烈火の錬磨士が第5大陸のスクォンク
だとされている。他のメンバーの出身国は分かっていない。
上記の国は、勇者の出身国だと大々的に公表していた国である。
この国は今でも強い発言力を持っている〉
この世界、国同士が戦争をしていることはほとんどないが、それでも争うことはあるらしい。
その際、国際的に立場が高い方の言い分が通りやすいのは当たり前。
強い発言力を持っているに越したことはないのだ。
……ってことだよね?ここの内容って。
〈パーティー全員が勇者として認められたのは、神速の聖剣だけでなく全員が高い能力を持っていたからだが、私はその中でも精霊女王と錬金王に注目したい。
精霊女王は、不可能だと思われていた精霊の召喚に成功した人物であり、精霊に好かれ、精霊自ら彼女に寄って来ることも多々あった。
彼女以外に精霊を召喚することが出来る者はいない。
精霊を見ることが出来る者もほとんどいない状態だ。〉
あ、そういえば精霊見えるのって珍しいんだったね。
私が見える人だから、なんか珍しくも無いような気がしてたや。
〈そして、錬金王。
錬金王は錬金術という技術を確立させた人物だ。
錬金術は、今でこそ当たり前のように存在する技術だが、彼が確立させるまでは不安定で使用されることはほとんどないような物であった。
とある錬金術師が、彼の言葉を書き留めたノートを持っていた。
そのノートの中には、錬金術を構成する要素や、確立させるために彼が学んだ分野などが細かく記されていた。
その錬金術師はこう語った。
「私は確かに、錬金王に錬金術を学び、あの方を師と呼んだのだ。
だが、あの方の記憶はもうほとんど残っていない。
記憶にあるのは、私が初めて錬金術を成功させたときの嬉しそうな声と、魔王討伐に赴く前に私の元に来て
、私の代わりに錬金術を広めてくれ、と言った声だけだ」〉
錬金王、この人に錬金術を進化させようとしてない?
自分がいなくなっても大丈夫なように準備してない?
実際いなくなってる(?)から正しい判断だったんだろうけど……
「うーむ……」
「チュン?」
唸っていたらモエギがいつもより小声で心配してきた。
いや、ちょっと終活について考えてただけだよ。
大丈夫、と言ってもモエギは心配なようで、手の上に移動してきた。
「チュン?」
「本当に大丈夫」
何でこんなに心配されてるんだろう……?
私なんかしたっけな?
不思議に思いながら、読書を再開する。
〈勇者たちの記憶、記録はほとんどが失われた。
それがなぜかは分からないが、あるエルフが言ったのだ。
「これは、あの方たちが望んだことだ」
と。
その言葉をそのまま受け取るならば、勇者たちが魔王討伐の後、自ら記録を消去したことになる。
記憶が残っていないことも、彼らの魔力の高さから考えれば可能なことだ。
だが、なぜそれを行ったのか、なぜ行わなければならなかったのか。
それを知らなくてはならない気がしている。
まるで自らの存在を消去しようとするようなその行動の意味は、どんなに調べても出てこないのだ。〉
……ふっしぎー。
最後まで読み終わった本を閉じながら、先代勇者さんたちの行動の意味を考えてみる。
が、まあ分かるわけもなく。想像するのも難しい。
というか、弟子が居たのって錬金王だけなのか。
この本の作者はそれをどうやって調べたんだ……?
レヨンさんと同じ系統の能力でも持ってるのかな?
……コガネの師匠の錬金術師さんは何か知ってたりしないのかな?
すごい人らしいし、何かしら知ってたり……
まあさすがに望み薄かなぁ……
うーむ、気になる。
先代勇者さんたちは謎が多すぎる。
気になる。すごく気になる。
今度レヨンさんのところ行ったら聞いてみよう。
レヨンさんなら何かしら知ってる気がする。