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幕間 本に埋もれる

 男は本を読んでいた。

 もう何度読んだか分からなくなってきた本を、最初から最後まで読んでいた。

 最後までいったら、再び最初に戻る。

 そうして、1冊の本をひたすら読み返していた。

 意味はない。

 ただ、こうしていると昔の事がよく思い出せる。

 思い出してどうするわけでもないが、男は調べ物に疲れるとこうして本を読むのだ。

 もう、覚えてしまったその本を、ただひたすら読み返す。

 昔を思い出し、昔を懐かしみ、そしてまた、調べ物に戻るのだ。


「……ふう」


 小さく息を吐き、本を閉じる。

 本から目を上げると、見えるのは本棚だ。

 本がギッシリ詰まった本棚に四方を囲まれている。

 だが、目的の本はこの本棚にはない。

 すこし、遠いところにあるのだ。

 男はイスから立ち上がり、読んでいた本を机に置く。

 そして目の前の本棚の横を通り、床に積まれた本を避け、建物の中を移動する。

 広い広い建物の中は全て本で埋まり、生活感がまるでない。

 生活するためのスペースは建物の最奥にあり、男はほとんどそこには行かずに本の壁の中で生活していた。


「さて……どこに置いたか……」


 目的の棚に着いた男は、本棚を見上げて整った形の眉を寄せた。

 一つの本棚に入っている本は約1500冊。

 その中から記憶だけを頼りに目的の本を探し出す。


「銀の蝶番、深い赤の背表紙、黒の刺繍……」


 記憶の中から本の情報を引っ張り出し、該当する本を取り出していく。


「厚さは約6センチ、縦は約20センチ、横は約15センチ……」


 該当する本、1冊。

 中を軽く読んで確認し、小脇に抱えて移動する。

 次の本棚は入っている本が約7000冊、探しているのは2冊ほど。


「1冊目は……青の背表紙、白の刺繍、厚さ約5センチ、縦が約17センチ、横が約12センチ……」


 呟きながら目的の本棚を探す。

 長い髪が揺れる。


「2冊目は……白の背表紙、金の蝶番、厚さ約8センチ、縦が約25センチ、横が約20センチ……」


 目的の本棚を見つけた。

 髪を耳にかける。

 先が尖った耳があらわになる。


「……あった……」


 1冊目を早々に見つけ、2冊目を探す。


「……これか」


 ここでの探し物は簡単に見つける事ができた。

 男は3冊の本を自分の肩の位置に浮かべ、先ほどの本の壁の中に入る。

 この3冊も、何度も読んだ。

 この建物の中にある本は全て読んだ。

 何度も、何度も。

 読んでいるうちに、最初に読んだ時とは印象が変わる本もあった。

 本に秘められた真相に気付いた本もあった。

 だが、探している事は書かれていない。

 どこにも記されていない。


 男は見つかるはずのない情報を探し、今日も本に埋もれるのだ。

驚きの真実。

実はこれ書いたの去年の7月です。

丸々1年眠ってました。ビックリ。

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