98,Qついに、ですか?Aついに、です!
今日も雨です。
そしてお客さんも全然来ないです。
ちなみに私は今作業部屋で麻痺毒を製作中。
というか、製作し終わった所。
「……出来たんじゃね?」
今回のはかなりいい感じだと思う。
とりあえず、今までの中で一番の出来だ。
ヒエンさんチェックを入れてもらおうと思い、店に行こうとしたらヒエンさんが作業部屋に入ってきた。
「どう?アオイちゃん」
「ヒエンさん!結構いい感じじゃない!?」
「どれどれ……」
ヒエンさんは濾し器の中の麻痺毒を柄杓ですくい、小ビンに入れて光に透かした。
……なんか、絵になるな……
ヒエンさん、黙ってれば大抵のことは絵になるんだよね。
「……うん。合格ね」
「やったぁ!」
ヒエンさんが微笑みながら右手の親指と人差し指で丸を作り、それを見て思わず歓声を上げる。
長かったよぉ……今回成功までが長かったよぉ……
「ちなみにだけど、アオイちゃん」
「なあに?ヒエンさん」
「アオイちゃんの薬作り成功までのスピードはおかしいくらい速いわよ」
「……え?」
ヒエンさんは面白がっているときの表情で、小ビンを置いて私に向き直る。
「普通、ポーションは1か月、毒消しは2か月、麻痺毒は4か月くらいかかるわ」
「ヒエンさんは?」
「麻痺毒は1か月かかったわね」
……マジか。
ヒエンさんはぽかんとしている私を見て微笑む。
「アオイちゃん、オリジナルスキルと薬師の才能にその他の能力吸い取られてるわね」
「おおう……まあ、いいか……」
「いいのね……」
便利だし、不自由なこともそんなにないしね。
チート性能に磨きがかかった気がしなくもないけど、きっと気のせいだよね。
「あ、そうだ」
ヒエンさんがポンっと手を叩いた。
……何だろう、嫌な予感しかしない。
「アオイちゃん、私2,3週間くらい留守にするから、店番よろしくね」
「……ふぁ!?」
またか!!
ヒエンさん、今回は事前に言ったからってドヤ顔しないで!!
前回よりも期間長いし……
「ちなみに、どこに何しに行くの?」
「イツァムナーに人に会いに、よ」
「イツァムナーって、第2大陸の奥だったよね?2,3週間で大丈夫なの?」
「馬で走り抜けるから移動は片道3日くらいなのよ」
馬に乗って走り抜けるヒエンさん。
……かっこいいな!?想像したらめっちゃかっこいいんだけど!?
ヒエンさん美形だからね。
カッコイイことしてたら男の人に見えるくらいだからね。
「まあ、雨期だしお客さんもそんなに来ないわよ」
「そうかもしれないけど……」
ここで私が何か言ってもヒエンさんが留守にするというのは決定事項なのだろうが、やはり店主不在は不安なのだ。
コガネちゃんはいるけども。
それでも不安には変わりない。
コガネちゃんがいることで感じる安心感と、ヒエンさんがいることで感じる安心感は全くの別物なのだ。
そんな私の心を読むかのように、ヒエンさんは私の頭に手を置いた。
そしてあやすようにゆっくりと頭を撫でる。
「大丈夫。私が離れていても、エキナセアには私の結界が張ってある。私はいつでもここにいる」
そう言ったヒエンさんの声は、何だかいつもよりの大人っぽくて、ヒエンさんなんだけどヒエンさんじゃない誰かの声のようだった。
普段のヒエンさんより低い、中性的な声。
聞きなれないのに、すごく落ち着く声だった。
「アオイちゃんのイヤリングには、魔法をかけてある。何かあれば、すぐに戻ってくるから」
「うん……」
口調も、普段とは違って違和感があるはずなのに、私はなぜかずっと昔にその声を聞いたことがある気がして、子供のような返事をしてしまった。
ヒエンさんは、それを聞くと微笑んで、私の頭から手を放した。
「私は旅支度をしてるから、とりあえず麻痺毒はこのビンに入れておいてちょうだい」
「はーい」
作業部屋を出ていくヒエンさんは全く持っていつも通りだった。
さっきのあれは私の勘違いなのかな?
そうではないと分かってはいたが、何となく考えたくなくて、麻痺毒をビンに移す作業に集中した。
流石に違和感を持たれてしまったようだ。
まあ、アオイちゃんは無意識に思い出すのを避けるだろうからひとまず心配はないだろう。
思わず「ヒエン」としての私にヒビが入ってしまった。
「あのタイミングであの表情はずるいよな……」
アオイちゃんは覚えていないであろう記憶が呼び起され、思わず素が出てしまった。
今はまだ、その時ではないというのに。
「歳とって色々達観したと思ってたけど……私もまだまだだな」
アオイちゃんに関することになると、なんだかんだ冷静ではないような気がする。
あの子は妹みたいなものなのだ。
多少過保護になるのは仕方ないだろう。
「……少し、改めないとな」
自覚できるほどに、私はあの子に過保護だ。
今回の留守も、それを改めるにはちょうどいい機会かもしれない。
麻痺毒を移し終わるのと、ヒエンさんが降りてくるのと、コガネちゃんが帰ってくるのはほぼ同時だった。
コガネちゃん、なんか最近お使い行きまくってんね。
なぜか知らないけど雨期に入る前にはそんなになくならなかったものが、雨期に入った途端に無くなったりするんだよね。
何でだろうね。不思議だね。
どうせなら晴れてる日にお使い行きたいよね。
というか晴れてないと私まともに外出できないんだよね。
傘が重くてどうにもならないのだ。
せめてもう少し軽くならないだろうか。
片手で持てる重さになってくれればお出かけも出来るのに。
「主、出来たの?」
「出来た!!」
荷物を置いてきたコガネちゃんに聞かれ、ガッツポーズをしつつ返事をすると、拍手してくれた。
可愛い。天使かな?
……あれ?コガネちゃんはヒエンさんのお出かけの事知ってるのかな?
「コガネちゃん、コガネちゃん」
「なに?主」
「ヒエンさんが留守にするの知ってる?」
「……マジか」
あ、知らなかったんだ。
目を丸くしたコガネちゃんは、話を聞いてくると言ってリビングに行ってしまった。
これからヒエンさんはコガネちゃんの質問に答えることになるのだろう。
私とは違ってごまかしが利かないからね。
コガネちゃん、ファイト。
「チュン」
「あ、モエギ」
「チュン、チュッチュン、チュン」
「あー……そうだね。雨期が終わるころに試験があるから、それが終わったら頼んでみようか」
サクラはコガネちゃんについて行ったようだ。
相変わらずだなぁ……
私よりコガネちゃんの方が好かれてる気がする。
「モエギは行きたいところとかある?」
「…………チュチュン、チュン」
「第5大陸……なにかあるの?」
「チュン、チュンチュンッチュン」
「へえ……行ってみたいな」
「チュン」
モエギと話していたら、ドアの隙間からサクラが飛び込んできた。
そしてそのまま私の手の中にダイブする。
「ピ!」
「おーサクラ」
「ピィッピ!」
「なんだね?」
「ピィ、ピッピィッピピ」
「……早いな」
ヒエンさんは明日の朝には発つそうだ。
即断即決すぎやしないか?
いくらなんでも準備期間短いだろ。
「……もしかして、ヒエンさんが最近作業部屋に籠ってたのって……」
「チュン」
「ピィ」
だよね。絶対ヒエンさん今回の外出、前々から決めてたよね。
何で決めた時点で言ってくれないのだろうか。
最早イタズラとかのレベルじゃないからね。
「対応能力を鍛えるため、とか言うんだろうな……」
「言ってたよ」
「あ、コガネちゃん」
言ってたんだ。やっぱり。
ヒエンさんはそれっぽく聞こえる反論を用意してイタズラ仕掛けてくる人だからね。
……なんか、麻痺毒製作成功よりヒエンさんの留守の方が印象的で、初成功を全力で喜ぶ気になれないな。
聞いてください。
ブクマが50になりました!
書き始めるときに定めた目標達成です!
ありがとうございます!