97,Q雨ですね。A雨ですねぇ…
レド君とお出かけした次の日は、昨日の反動かのように雨がひどかった。
お客さんもあんまりこなさそうだし、今日はのんびり勉強かな(白目)
……勉強したくないよー!!
「主、手が止まってる」
「……飽きた」
「まだ10分くらいしか経ってないよ」
「うう……」
コガネちゃんが厳しい。
なんかやる気出ないんだよなあ……
勉強って何でこう面倒なのかね。もっと面白かったらやる気も出そうだけど……
「チュン」
「ん?どうしたのモエギ」
「チュッチュン、チュン」
「うぐぅ……」
モエギが1番手厳しいな……
しかも正論だから何も言い返せない……
確かにやらないと困るのは私なんだよな……
「ピィィ……」
「うん、そうだね」
サクラが外に出たい……と言っている。
朝からずっとこんな感じだ。
雨だからね、仕方ないね。
「アオイちゃん」
「あ、ヒエンさん」
「ちょっとお使いを頼みたいんだけど……」
「いいよー。どこまで?」
「西区よ」
作業部屋から出てきたヒエンさんからお使いメモを貰おうと立ち上がると、コガネちゃんに笑顔で着席させられた。
……何でしょうか、その笑顔は。
普段は守りたい、その笑顔って感じなのに今は背中がぞくっとする笑顔だよ?
「私が行ってくるから、主は勉強」
「え、いや、私がお使い……」
「勉強してて?」
「あ、はい」
威圧をかけられた。
……確かにもうすぐ試験だし、勉強しないと駄目なんだよね。
モエギも私の監視についてるし……これはやらないと駄目なやつだ。
うう……分かったよう……
「じゃあ、お願いねコガネちゃん」
「うん」
「それと……」
私が机に潰れている間にヒエンさんとコガネちゃんがお使いの確認を終わらせていた。
サクラは飛べなくてもいいから外に出たい、と言ってコガネちゃんの肩に移動した。
「気を付けてね」
「うん。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
コガネちゃんを送り出し、冷静に考えてみると私が雨の日に出かけるとか普通にダメだな。
傘が重すぎてしんどい。
この世界の傘って、なんか知らんが結構重いんだよね。
雨を吸ってさらに重くなるし。
「……コガネちゃんが行って正解だったね」
「チュン」
「モエギは外に出なくてよかったの?」
「チュン、チュンチュン」
「そっか。モエギらしいや」
サクラと違ってモエギはじっとしているのも苦ではないらしい。
性格の違いがはっきり分かる。
面白いね。
……そんなことを言っていたら、やる気が多少回復してきた。
勉強……するか。
やる気のあるうちにやらないとね。
あとからやるっていうのは絶対やらないって言ってるのと同じだからね。
主はあまり好きではないようだが、私は雨の日が嫌いではない。
雨は恵みだ。そもそも水が好きなのだ。
水は清らかなもので、神獣にとって水辺などは居心地のいい場所なのだ。
「ピィ……ピッピィィ……」
「はいはい。仕方ないよ」
サクラにとっては自由な飛行を邪魔するものでしかないようだが。
遊びたい盛りなサクラは雨季が嫌いなのだろう。
モエギはひたすら窓の外を眺めたり、雨音を聞いたりして雨期を楽しんでいるようだが。
なんというか、サクラと主はどこか似ている。
そして私とモエギも何となく似ている。
二手に分かれるときにこの別れ方になるのは、ある意味必然なのかもしれない。
「ピィィィィィィ」
「うるさい」
耳元で叫ぶな。
流石にうるさい。
元々人より耳がいいのだ。
「普段の音量なら肩から落としてた……」
「ピ、ピィ」
雨期の所為で元気を吸い取られている今だったからいいものを……
サクラも大人しくなったところで、列車から降りて傘をさす。
少しばかり重量があるが、別に問題はない。
主ならつらいだろうが。
「さて……歩いて探さなきゃね」
「ピィ」
今日はサクラを店の捜索に駆り出せない。
店主手描きの地図はシンプルだが分かりやすいので迷うことはないだろう。
……疲れたよ。お客さんも来ないからずっと問題を解いてたんだけど、もう疲れた。
休憩しようそうしよう。
コガネちゃんはまだ帰って来そうにないし、自分でお茶淹れて飲もう。
「私が淹れるとあんまりおいしくないんだけどね……」
「チュン?」
「お茶」
「チュン」
モエギが納得の声を上げ、肩に乗ってついてくる。
リビングに移動してヤカンに水を入れ、火にかけている間にカップを用意。
カップの中にはこの世界のお茶の元、みたいな花を入れておく。
「……沸騰するまでが長いんだよね」
「チュン」
モエギと戯れながら沸騰するのを待ち、沸騰したらカップの中にお湯を注ぎ、しばらく待って花が浮いてきたら花を取り出してカップをもって店に移動する。
エキナセアに置いてあるのはこのお茶だけだが、この世界はお茶の種類が多い。
何でかは知らないけど。
花じゃないのも結構あるし、それと同じくらい花のもある。
ちなみに私は緑茶派です。
エキナセアに置いてあるのがこのお茶なのはただ単純にヒエンさんの好みだ。
私も嫌いではないが、麦茶とかの方が好きなんだよな……
考えていたら、お茶の飲み比べとかしたくなってきた。
今度晴れたら巡りたいな。
「モエギ、今度はいつ晴れるかな?」
「チュン……チュン、チュッチュン」
「だよね……ヒエンさんとか、天気の予測できそう」
「チュン」
「流石にできないわよ」
急に扉が開き、ヒエンさんが会話に参加してきた。
ビックリした……すっごいビックリした……
モエギも驚いて固まってる。
「私の知り合いはできるけど」
「マジか……」
「エルフとかも天気には敏感よ」
「そうなんだ」
「ええ。レド君も割と分かるみたいね」
そこら辺は、やっぱり種族差があるものなのだろう。
獣人とかも敏感なイメージがあるんだけど、そんなことはないのかな?
今度シロクロちゃんに聞いてみよう。
「……あれ?そういえば最近シロクロちゃん見ないな……」
「あの2人なら第6大陸よ。少し前に行くって言ってたわ」
「え、そうなんだ……」
第6大陸とか、めっちゃ遠いな……
あの2人なら大丈夫だろうけど、遠くって聞くと心配になるよね。
危険度はガルダの周りと変わらないんだろうけどね。
そんなことを考えている間にヒエンさんは作業部屋に戻っていった。
……何で一瞬だけこっちに来たのだろうか……
すぐに戻るならこっちに来る意味なかった気がするんだけど……
まあ、多分自分の名前が会話の中に出てきたからだろう。
ヒエンさんは隙あらば会話に混ざるからな。
そしてすぐに去っていく。自由だね。
「ただいまー」
「あ、コガネちゃん。おかえりー」
のんびりお茶をすすっていたらコガネちゃんが帰ってきた。
片手で箱を抱えて、片手に傘を持っている。
駆け寄って傘を受け取り、畳んで傘立てにさしておく。
「店主は?」
「作業部屋に居るよー」
コガネちゃんは箱を抱えなおして作業部屋に向かった。
私は軽く濡れているサクラをキャッチし、ハンカチを取り出してサクラを包んだ。
サクラが面白がってじゃれついてくるので、じゃらしながら拭く。
ひとしきりじゃれ終わるころにはサクラも乾いていた。
そしてコガネちゃんも戻ってきた。
コガネちゃんも軽く濡れてるね。
ハンカチではダメそうなので(サクラを拭いた結果ハンカチが濡れた)奥に行ってタオルを取ってくる。
「コガネちゃん、風邪ひくよ~」
「ありがとう主」
普段は世話を焼かれる側なので、少しでも世話を焼けるのがうれしい。
そんなわけでコガネちゃんにタオルを渡してカウンターに座る。
「あ、そうだ主」
「うん?」
「これ、店主が」
そういって渡されたのは焼き菓子。
いつもの店のものだ。
「糖分が欲しいだろうからって」
「わあ……うれしい……」
普通にうれしい。
その後コガネちゃんもお茶を持ってきて、プチお茶会が始まったのは言うまでもない。