94,Q出来そうですか?Aまだ掛かりそうです。
麻痺毒製作5日目です。
まだ1回も成功してないんだよね……
毎回進歩はしてると思うんだけど、なんかうまくいかない。
なんでだろなー?
「……えーっと……次は……」
ちなみに今はナベに水を入れたところ。
ここにヒアという蝶の鱗粉を入れてコトコト煮込む。
「アオイちゃん、どう?」
「うーん……どうだろう?」
ヒエンさんは現在店番中で、時々こうして顔を出す。
コガネちゃんはお使いに出かけている。
「……うん。ここまでは出来てるわね」
「やった」
「でも、ここからよ」
「はーい」
麻痺毒製作は、毒消しの数倍めんどくさい。
作っている間に自分が毒に侵されるのを防ぐための色々な作業があり、それを怠ると自分に被害が来るし、やり方を間違えると効果が薄れてしまう。
私は毎度毎度やり方に若干違いがあるらしく、どうにも効果が薄いのだ。
うーん……本は見てみたしヒエンさんのやり方もちゃんとメモして実践してるんだけどね。
「こればっかりは作りまくるしかないかぁ……」
ヒエンさんはいつの間にか店に戻っていたので、呟きに答える声はない。
……モエギはどこに居るんだろう?
今魔力波使うと手元が疎かになるから探せないや。
「サクラはコガネちゃんと一緒に行ったんだよな……っと」
呟きながら火を止める。
ここから余熱でコトコト煮込む。
火を止めてすぐに毒ポーションの実を砕いて入れる。
毒ポーションの実とは、ポーションの実の木がとある細菌に侵されると実る実である。
昔は希少価値が高かったらしいが、今ではある程度意図的に細菌を繁殖させることが出来るようになったため値段が急降下した、という話をヒエンさんから聞いた。
ちなみにヒエンさんは、前から独自のルートで安定して毒ポーションの実を仕入れていたらしい。
何でこう、私が関わる人は皆独自ルートと持っているんだろうか……
「えーっと……次は……」
メモをパラパラめくり、本もパラパラめくりながら次の作業を確認する。
……なんというか、私は作業工程を全部覚えきらないと成功しない気がするな。
………………疲れた。コガネちゃん今何してるのかな?
「こちらコガネ、目的の物を入手した」
「ピピッ!」
「よし、次行こう」
裏道にある店から出て、意味もなく路地に入ってサクラを指に止めてしゃがみ、逆の手を耳に当てる。
特に意味はない。そう。無意味。
何でやったのかと聞かれれば、何となくとしか言いようがない。
暇なのだ。ゆったりお使いするのは。
「次は……邪念の石……?」
「ピィッ!?」
「怪しいよね……」
「ピィ……」
これは一体何に使うんだろうか?
店主が必要とする材料(?)はよく分からない怪しいものが多い。
元々何なのかよく分からない薬を作る人だから材料もよく分からないんだろう。
「それにしても邪念って……」
いくら何でも怪しすぎる。
しかも売ってる店がものすごく奥まった場所にあるのだ。
怪しくないわけがない。
「……まあ、行くけどね」
「ピッ!」
「サクラ、探してくれる?」
「ピィ!」
サクラを飛ばし、自分も路地から出る。
主が麻痺毒を作っていて構ってくれないからといって、必要以上に時間をかける必要はないのだ。
構ってもらえないからといって、職務放棄はしない。
「ピィ!」
「見つけた?」
「ピ!」
戻ってきたサクラを指に止め、店に向かう。
……入り組んだ道だな。キマイラみたいだ。
キマイラ、最近行ってないな。錬金術に関する本は貰ったから読んではいるが、師匠に聞きたいことが増えてきた。
「……頼んでみようかな……」
「ピ?」
「何でもないよ」
「ピッ」
そんなことを考えている間に目的の店に到着していたようだ。
思ったよりきれいな建物だった。
でも怪しいことに変わりはない。
まあ、店主が行かせる店なら危険はないだろう。
何やら色々隠し事はしているようだが、主を傷つける気がないのは分かる。
むしろ過保護なほどに守っているようだ。
店主の正体が何なのかは気になるところだが、今はお使いが優先だ。
これはまた暇な時にでも考えよう。
店主が自分にかけている魔法が何なのかも、店主が近くに居る時の方が分かりやすいだろう。
あの人、一瞬の隙もないほどに自分に魔法をかけてるついでにそのことを認識できないように阻害魔法までかけてるのだ。
気にしない方が無理だろう。
私はこれでも魔法特化の神獣なのだ。
たとえ主に物理攻撃特化型だと思われていても種族的には魔法特化なのだ。
実際最近物理攻撃しかしてない気もするが、魔法特化なのだ。
「……物理の方が楽だよね……」
「ピ?」
「何でもないよ……」
演唱が必要なくても魔力練ったりこねたりは面倒なのだ。
だったら物理攻撃の方が楽だ。
「ピィ、ピッピ?」
「あ、そうだね」
店の前で止まったまま考え込んでしまった。
いけない、いけない。
サクラを肩に移動させ、店の扉を開ける。
≪お客さん?≫
聞こえたのは、幼い少女の声。
どこから聞こえているのかは分からない。
「うん。買い物を頼まれてきたの」
≪誰に頼まれたの?≫
「店主……ヒエン。ヒエン・ウィーリア・ハーブ」
≪……奥へ来て≫
声が消えると共に魔力も消え、壁に扉が現れた。
人との関わりを最低限に保ちたい者がよくやる魔法だ。
扉に認識阻害魔法をかけ、その奥で待機。人が来たらあらかじめ部屋にかけておいた監視魔法と発声魔法を使って奥に入れるかどうかを決める。
奥に進むと、光が差し込んでいた。
ガラスがはめ込まれた壁の向こうは植物が咲き乱れていた。
周りが高い壁で、箱庭のようだ。
「こっち」
声をかけられ、声のした方を見ると1人の少女が立っていた。
目を引く少女だった。
雪のように白い肌と、ほとんど黒に近い深い青色の髪、深紅の瞳。
そして頭の両側、耳の上あたりから生えた、黒く大きな角。
「何がいるの?」
「邪念の石を1つ」
「分かった。待ってて」
少女はそう言って奥へ消える。
サクラが何か言いたげにこちらを見ているが、指先で窘める。
「……何も言わないんだね」
「種族の事?」
「うん。初めて会う人に何も言われないのは久々」
「元が人なら、人だと思ってるから」
少女はこちらを軽く見て、手元に目を落とした。
手のひらサイズの箱に綿を詰めている。
「……分かるんだ」
「大体のことは魔力で」
「さすが、神獣様」
「分かるんだ?」
「人間やめてるからね」
少女は綿を詰めた箱に靄がかかったような色合いの石を1つ入れ、ふたを閉めた。
そしてリボンを結び始める。
「……ヒエンさん、元気?」
「元気だよ」
「そっか」
リボンを結び終わると、箱を両手で差し出してきた。
受け取って代金を差し出すと、半銀貨を返された。
「代金間違ってた?」
「おまけ。ヒエンさんにもそう言っておいて」
「いいの?」
「恩返し」
答えになっているようななっていないような返答には何も言わず、半銀貨は受け取っておく。
店主が魔獣化した者を元に戻す手伝いをしているという話は聞いたことがある。
この間の魔獣の件にも首を突っ込みに行ったらしい。
「……ねえ」
「なに?」
「今度、遊びに来てもいい?」
「……いいけど……」
「ここの庭、精霊の気配がして落ち着く」
「ああ、なるほど。いいよ」
そんな会話をして、店を後にする。
お互いに名乗りもしなかったが、それは今度でいいだろう。
向こうは冗談のつもりかもしれないが、私は本気で遊びに来るつもりだ。
「ピィ」
「うん?」
「ピィッピピ」
「うん。そうだよ」
今度の休みにでも押しかけよう。
残念ながら、私は許可を貰えば遠慮しない主義だ。
さて、お使いはこれで終わりだ。
さっさと帰って読書でもしよう。