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兄貴肌

最後の最後で、またもや一同を驚かせるコーフィ。

あの麒麟の群れをすべて服従させ傘下に収めるとは、やはりあいつは人外の化け物だ。

やることなすこと全部が予想をはるかに上回る。

こいつといると楽しくもあるが、俺にはちょっと荷が重い。

実力差がありすぎてついていけない。

昔はその実力差もよくわかってなかったが、強くなったせいでわかるようになって、からは少し近づきがたい存在になっちまった。なんだか少し寂しいぜ。


まぁ、今回の三大国家からの依頼は無事に果たせたし、《獅子皇帝》の連中の鼻っ柱も折れたから俺的には万々歳だしいいか。切り替えよう。

これから西方に行ってマヨネーズを捜さないといけないしな。

帰る前にコーフィに話を聞くかな。


「ああ、師匠。実は他にもお願いがあるんだ。」


ん? どうやら≪雑魚狩り≫の奴はコーフィに個人的なお願いがあるらしい。

彼の《五高弟》がいったい何をお願いするのか少し気になるぜ。

聞き耳を立てるわけじゃないが、俺にはコーフィにマヨネーズの件を聞く用事がある。

すぐそばで待たせてもらおう。


「彼らを鍛えて欲しい。レヴィアじゃもう教えられることが限界なんだ。僕もいろいろと忙しいしさ・・・。頼むよ。」


≪雑魚狩り≫のお願いとは《獅子皇帝》の連中をコーフィに鍛えて欲しいというものだった。

おいおい、確かにレヴィアじゃ教えることに限界があるだろうが、寄りにもよってコーフィに頼むのか?

《獅子皇帝》の連中。顔を青白くしてるぜ?

ま、面白そうだからいいか。

たっぷりと可愛がってもらうといい。

あいつの修業は地獄なんて生易しいもんじゃないぜ?

俺は内心で大爆笑しながら実際はニヤリと笑って顔を青白くして固まっている《獅子皇帝》の連中を見た。

いや~。なかなかいいリアクションだぜ。


「ああ、ついでにガイ君達も鍛えてやってよ。特にガイ君は免許皆伝してるっぽいから秘伝を教えられそうだよ。」


だが、そんな笑顔満点の俺を凍りつかせる一言を≪雑魚狩り≫は放ちやがった。

ふざけんな! コーフィの修業とか命がいくつあっても足りんぞ!!

俺はすぐさま声を大にして異議を唱えようとした。


「へぇー! ガイ。免許皆伝したんだ! 結構時間かかったね。でも、ようやくこれで次に行けるね!」


だが、そんな俺の言葉は一言も発することなく、コーフィの声に掻き消えた。

だってあいつ、なんだかすごくいい笑顔でそんなこと言うんだもんよ・・・。

なんというか。

天然で表裏のない奴の笑顔って正面から受け止めると自分の心の内の醜さが垣間見えて直視できねーんだよな。


「ガイのパーティの人達も育て甲斐がありそうで楽しみだよ!」


完全にとばっちりを受けた俺の仲間達が白い目でこっちを見て来るが、無視だ無視。

そもそもこっちはすでに免許皆伝に至って、修業は終わったと思ってたのに【秘伝】とかいう聞いたこともないものを覚えこまされるんだぞ。

そっちの方がたまったもんじゃね~よ!!


俺は心の中でそんな悪態をつきながらも、一切反論はしなかった。

それは、反論すること自体に意味がないことを長年の付き合いで知っていたことと。

《五高弟》に近づける希望を見出したからに他ならない。

これで俺もようやく、高い塔の頂上の景色が拝めそうだぜ。


「じゃ、とりあえずは実力を見させてもらおうか。」


そんなことを考えている俺の前ににこやかに笑いながら悪魔が死の宣告を告げた。

実力を測る。

そのもっとも単純で合理的な方法は、【拳を合わせる】である。

つまりは、試合をするということだ。


誰と?

そんなの決まっている。

あのコーフィ=チープとだ。


わかっているはずなのに誰かが誰かに質問して、誰かが答えている。

見回してみれば、周囲には目から力を失った連中が大勢いた。

試合をしないであろう。≪雑魚狩り≫の仲間達は平然としていて少しムカつく。

俺の仲間達はまだいい。

試合だということを理解しているし、たまに俺と一対一で修業をしているから圧倒的な実力差を前にしても心がそう簡単に折れることはない。


だが、獅子皇帝の連中は駄目だ。

こいつらは、ここにコーフィを殺しに来ている。

そのことはコーフィに伏せているが、こいつらは俺達のことを信頼していない。

自分達がレヴィアと話している間に真実を伝えて俺達が修業に見せかけて殺すつもりと思っているのだろう。

眼が死んでいる。


絶望しきっているのか。

口をだらしなく開けて目に光はなく、絶望のあまり視線が下に下がり疲れ切った顔をしている。

このままでは戦う以前に精神的な疲労でダメになってしまう。


単純な手合わせの試合なんかでコーフィが時間を長くとるとは思えない。

そうなると戦闘は一対多数。

コーフィ1人に対して俺達は修業を受ける全員で戦うことになる。


「おう!お前ら!高々、訓練程度でビビってんじゃね~よ!」


大声で周囲にいる連中に声をかける。

俺の声を聴いて俺の仲間達だけでなく、下を向いていた≪獅子皇帝≫の連中も俺に視線を向ける。


「やらなきゃやられる勝負じゃね~ンだ。自分の実力を最大まで出すただの訓練だ。止まるな。動け。腹に入ったもんを消化して力に変えて、体動かして温めろ。んで、作戦練ってあいつをぶっ飛ばすぞ!」


俺は試合に臨む全員を集めて軍議を開く。

人数差を利用して戦術を組み、実行する。

数多くの冒険者が強大な魔獣を狩るために生み出したる戦術は王国のへっぽこ兵士を基準に間抜けな参謀が生み出す戦術とは違い、各個人の能力に合わせて最適化し、それぞれが最大限の威力を発揮できる場所で仕事を成す。


「冒険者も兵士も、戦うプロだ。だが、俺達は王国の騎士と違い自由度が高い。それが個別化を助長し、万能化を遠ざける。そのせいでいろいろと困ることもあるが、その代わりに俺達はそれぞれの道を自分なりに極めることができる。だから俺達は強い。」


≪暴君≫と呼ばれ、最強とされる冒険者である俺にも苦手なものはある。

基本的に遠距離攻撃のない俺は遠距離に対する攻撃能力だけなら国に仕える一般的な兵士以下だ。

だが、俺に勝てる兵はいない。


ここにいる誰もが、得手不得手を持っている。

だから力を合わせてそれを塞ぎ、万能で強大な人を作る。

それがパーティだ。


「これから俺達は1人の戦士になる。その戦士はここにいる全員の力を持つ万能にして最強の存在だ。その力をもってすれば人外の怪物に一泡吹かせることも夢じゃねー。お前ら!気張って行けよ!!」


「「「オオ!!」」」


俺の言葉に全員から元気よく声が返ってくる。

そこにはもう、先程までいた死んだ魚のような眼をした連中はいない。

その瞳はやる気に満ち。背筋はまっすぐに伸びて、顔は希望に向かうかのように上を向いている。

これならやれる。

さぁ、決戦だ!!


「準備はいいみたいだね。じゃ、時間がもったいないから早速始めようか。」


コーフィの奴も準備万態のようだ。

その顔には先ほどまでと同じように笑顔を浮かべている。

今にその顔をアッと言わせて見せるぜ!


「実力を見るだけの試合だから気軽に行こうね。全員の能力を細かく知りたいから、試合形式は一対一がいいかな。じゃ、始めるから散開してもらえる?」


「は?」


全員で戦術を練っていた俺達はその言葉に唖然として言葉を失った。

おいおい、それじゃ全員とするまでに時間がかかりすぎるぞ?


「じゃ、先手は譲るからいつでもどうぞ。」


そう言ってコーフィは静かに席に着いた。

その手にはいつのまにかコーヒーが入ったマグカップが握られている。

おいおい、お前が相手じゃないのか?

なんだかそれはそれで拍子抜けだが・・・

それで実力を正確に測れるのか?


「ガ、ガイさん・・・」


俺の後ろからルビーの奴が話しかけてきた。

なんだと思って振り向くと彼女は口をパクパクと開きながら周囲を指さしている。

指の示す方向に目をやるとそこにはコーフィがいた。

おいおい、あいつがどうかしたのか?


「「「さぁ」」」

「「「1人につき」」」

「「「1人ずつ」」」

「「「相手になろう」」」


そこには、俺達と同じ数に増えたコーフィが散開して立っていた。

ああ・・・

そういえば、そんなこともできましたね・・・。


この時、俺達は確実にどこか遠い目をしてこの光景を見ていたことだろう。









「もうヤケクソだ!! 行くぞお前ら!!」


数瞬の現実逃避の後にようやく俺はそう言って剣を抜いて戦いに赴いた。


「「「オオ!!」」」


俺の後に続き、半ばヤケクソ気味の怒号と共に全員が散開してコーフィに戦いを挑んだ。

結果は散々だったが、何とか全員が生き残ることに成功した。


そして、共に視線を超えた俺達は熱い友情で結ばれるのだった。


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