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で、幼子の正体は?

「ハワ、ハワワワ・・・」


拝啓、こんにちは。皆さまはいかがお過ごしでしょうか。

わたくし、レヴィア=タンは知らぬ合間に母となっていました。

驚きです。

まさか、わたくし如きが彼の聖女であっただなんて青天せいてん霹靂へきれきです・・・。

しかもお相手は師であるコーフィ=チープです。

師匠のことは個人的に尊敬しておりましたが、まさか子を成そうとするほど愛していただなんて・・・

青天の霹靂です。


「まんま」


ああ、まるで足下から雉が立つが如く。

初めて見た我が子が私のことを『ママ』と呼んでいます。

まさに・・・


・・・青天の霹靂です!!


「あれ? ヘブン。起きたのかい?」


「・・・!」


私が現実逃避をしている間にいつの間にか師匠が背後にやってきていました。

いや、師匠はいつも神出鬼没なので驚くことではないのですが、これはもういろいろと聞かなければなりません。


「あの・・・」


「まんま!!」


私が言葉を紡ぐよりも早く、幼子が元気よく私から離れて師匠の下に向かいます。

その口からはよだれが垂れているのか。

私のマントとの間に糸を引いているようです。


「ん? ああ、ご飯かい? できてるよ。おいで。」


師匠は幼子の涎なんて何のその。

いつの間にか取り出したのか。ハンカチで口の周りを拭きながら優しく抱き上げると階段を下りて行きました。

私は、その後姿を見ながら呆然と立ち尽くしてしまいました。

幼子の存在が私の中で大きすぎて、『まんま』と『ママ』を聞き間違えていたことに気づきませんでした。


その後、しばらくしてから一階に下りるとそこには幼子にご飯を上げる師匠とそれを周囲で見守る人達とに分かれていました。

皆、師匠に子供がいたことに驚いて声も出ないようです。

あのガイさんでさえ、この事態に声をかけることがきないようです。


「おい、コーフィに子供ってお前何か知ってたか?」


「知るわけないじゃないですか。こんな大問題が浮上したら《五高弟》で会議を開いてますよ。」


ガイさんとヨシュアさんが2人でこそこそと会話をしています。

それもそうでしょう。


あの師匠に子供がいる。


なんて、三大国家の国王に隠し子がいる。よりも重大な問題です。

寧ろ、師匠の奥さんの座をかけて日夜戦い続けてきた世界中の美姫達がこのことを知れば、未曽有の世界大戦規模の暴動が起きる可能性があります。

邪神が顕現する可能性があるこの時期にそんなものが起きれば、下手すれば世界が終わってしまいます。


でも、誰も師匠の子供については何も聞けない。

だって、下手に聞いたりなんかして巻き込まれたら厄介ですからね。

触らぬ神に祟りなし。

この場は見なかったことにしておくのが無難でしょう。


「おい、獣人。おまえ、あの子供について何か知っているか?」


直接聞くのは憚られたのか。

ガイさんが獣人のウェイターを捕まえて話を聞いている。

あの≪暴君≫でさえ、藪をつついて蛇を出す気はないらしい。

いや、出てくるのは蛇ではなくドラゴンかはたまた邪神か・・・


「ん? ああ、セブン様のことですか。さぁ?初めて会った時は気づきませんでしたし、二回目に会ってここで働くようになって以降もお世話は店長がお1人でなさっているのでわかりかねます。」


だが、情報収集は失敗に終わった。

名前が『セブン』ということ以外はわかっていない。

そう言えば奥さんの姿を見ないがどこにいるのだろうか?


「そういえば、ここに女性の店員がいたよね? まさか、彼女が母親ってことはないよね?」


今度はヨシュアさんが獣人に話しかける。

もう1人の魔族の方は愛想がよくないし、雰囲気が話しかけづらい。目元が怖いからだろうか?

いや、今それよりも子供の件だ。

そういえば、確かに女性のウエイトレスが1人いたな。

彼女はなぜか店の外で狩りをして、獲物を裏口の前に投げ捨てるように置いて去っていく。

給仕は一切せず、狩りだけをしている。

なぜなのだろうか。不思議だ。


「ハハハ。ご冗談をリリアナ様と店長が初めて会ったのは一月ほど前ですよ? リリアナ様はそれ以前は魔王城から出たこともない箱入り娘ですし、ありえませんな。」


見た目的にはどう見ても年下な女性のウエイトレスを様付けで呼ぶということは彼女は魔界ではいいところのお嬢様なのだろうか?

だが、師匠の奥さんではなさそうだ。


「ではここに、もう1人女性はいないのか?」


もしかしたら、他にも従業員がいるのでは?ということだろう。

ガイさんがさらなる質問を重ねる。


「いえ、この店には我々魔族3人と人間2人の計5人だけですよ。」


重ねて出した質問もやはり空を切った。


では・・・

果たして相手は誰?


そんなことが脳裏に過りながらも、誰もこの件を師匠には追及できなかった。

うちの馬鹿弟子たちは師匠にかかわりたくないのか。

誰も口を開かなかった。

誰か空気を読まずに質問してくれないかな・・・。

そんな願望を抱きつつ、この日の夜は更けていった。

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