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レヴィアは見た。

それは、弟子達への話が終わった後のことだった。

私の話を聞いて、すっかり落ち込んでしまった弟子たちを部屋に残して廊下に出る。

今までの歴史を覆す力を得たために、世界を見下すという勘違いに陥った弟子たちを正すためとはいえ、師匠の力を見せつけ、その力で行った数々の異形を聞かせることしかできない私は、師としてはとても頼りない存在なのだろう。


自分の力では、あの子たちを止められない。

かつて、師匠の下で学びならがら冒険者をしていた頃。

次々に現れる才能ある同門の友や知人に、自身の才能と未熟さを教わり、師の下を去った後。

せめて、師の授けてくれたこの力を人々のために使おうと思い至って始めたのが、塾だった。

冒険者になるために必要な技術と知識。

最先端の魔法術式と当時は三大国家さえ知らなかった闘氣術を広めることで、世界にとっていいことが起こると当時の私は信じていた。


だが、私の拙い願いは自分を遥かに超える弟子達の増長によって自身の力では止めることのできない大きな時代のうねりになりつつあった。

彼らは、自分達が手にしたその圧倒的な力を前に傍若無人に振舞い。

いずれは、自分達がこの世界を支配するなどという妄言を言い始めた。


そんな弟子を、師匠のように赤子を諭す親のように咎められればよかったのだが・・・。

不甲斐ない弟子の私では、昔の伝手を伝って友人に相談することしかできなかった。

その友人に見てもらったところ、私の弟子たちの中でも特に優秀な《獅子皇帝》の子たちの実力は、元《散歩に行こう》の中堅クラスよりやや下らしい。

元《散歩に行こう》の中でも最弱である私や中堅クラスだが、魔剣を所持していない友人では勝てる見込みが少ない。


そういった理由から、私は三大国家の王達に相談を持ち掛けた。

三大国家の王達には、闘氣術や新魔法術式を教え込んだ実績を買われて交流があったために何とか話を聞いてもらうことができた。

まぁ、私の弟子たちの増長具合を知りたかった向こう側には情報収集の側面もあったのだろう。


私の実績を買っている。

三大国家の王達のよく使う言葉だが、実際はコーフィ=チープに対する人質だ。

弟子に甘い我が師に対する三大国家の国王達が取る気休め程度の行為だが、このおかげで私の地位は少しばかり高い。

三大国家内で下位貴族より上程度の爵位を貰い、中位貴族程度の知名度と権限を持っているので生活には困らない。

おかげで、私の塾は無償で受けられるものとなっている。


話がそれてしまったが、私が三大国家の王達に『弟子たちの増長』で相談を行った結果。

なんと、彼の《五高弟》の1人である。

≪雑魚狩り≫様が今回の件で動いてくれることになった。

彼の《五高弟》が動くのであれば、もう怖いものはない。

弟子達の増長しきった精神もこれで何とかなる。

そう思ってはいたが、まさか師匠に直接合わせる構図を作るとは思わなかった。


まぁ、結果的に良かったので良しとしよう。

弟子たちの精神が少し凹んでしまった気もするけれど。

これで無用な血が流れる事態は避けられるだろう。


そう思いながら、廊下を歩いていると、どこからか子供の笑い声が聞こえてきた。

聞き間違えかと思ったが、断続的にだが楽し気な子供の声が聞こえる。

私は忍び足で声のする方へ近寄ると、僅かばかり扉を開けて隙間から中を覗き込んだ。


すると、そこには先ほどまでお昼寝をしていたであろうと思われる子供が、布団を蹴とばして起き上がり、何やら楽し気に笑っていた。

何がそんなに面白いのかは理解できないが、子供には大人には見えないものが見えるというし、妖精とお話でもしているのだろうか。


しかし、なぜこの喫茶店に子供が・・・?

見る限りでは人間の子供・・・。

あの3人ほどいた魔族の子供ではなさそうだ。


では、あの子は師匠の子か?

ん・・・?

・・・師匠の・・・子供・・・?


・・・

・・


師匠の子供?!


ば、ばばば・・・

馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!

ありえない!!


師匠に子供がいるだなんてそんなの聞いてない!!

というか、相手は?!

相手は誰?!


こ、ここここ!こんなことが≪救世主≫や≪歌姫≫・・・

いや、≪五高弟≫や他の《散歩に行こう》のメンバーが知ったら大事になる。

師匠のことを知る国家の王達も自国の姫や令嬢を婚約者にしようと様々な手を考えている。


師匠の相手はその辺にいる並の女性ではダメなのだ。

せめて、貴族か高貴な出の一族か。

もしくは、《五高弟》や各国の王達を黙らせるだけの実力がないと駄目だ。


そうでなければ、様々な場所から苦情や・・・

いや、苦情なんてどうでもいい。

問題は、≪救世主≫だ。


彼女は師匠のことを神の如く信仰している。

そんな彼女がどこの馬の骨とも知れない女性と師匠の間に子供ができただなんて知ったら・・・


・・・世界が終わる!!


しかし、本当に一体相手は誰だ?

子供の大きさからして年齢は2~3歳。

逆算すれば、女性との関係は3~4年前ということになる。

まだ師匠が《散歩に行こう》を率いて冒険者をしていた時期だ。


それは同時に≪救世主≫という難攻不落の城砦が師匠を不逞の輩から守っていた時期でもある。

そんな時期にどうやってその女性は師匠と関係を持てたというのか・・・。

いや、師匠の実力ならば≪救世主≫の監視網を突破できる。

女性の方からは難しくとも、師匠の方から会いに行けば関係を作ることも難しくはない。


問題は、世界中の美姫達を相手にしてきた師匠を搔っ攫った女性がどのような女性かということだ。

あまたの国々が師匠を手中に収めるために古今東西の美女を集め、酒池肉林を築こうとも、真顔で『こういうの苦手なんで遠慮します』と笑顔で言って国賓クラス以上の御もてなしを用意した国王の顔に泥を塗りまくったあの師匠の心を射止めた美姫が存在するだなんて・・・!


「うぅ~・・・ ま・ま・・・」


私が衝撃のあまり固まっている間に、いつの間にか足元にあの可愛い幼子がやってきていた。

おまけに、私の足にしがみついている。

ただ気になるのは、私のマントになぜか齧り付いていることだ。

お腹が空いているのだろうか?


「ま~ま!」


え?

これもしかして私のこと母親として呼んでる?

え? ええ?!


いやいやいやいや!!!

生んだ覚えなんてありませんよ?!

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