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中毒者続出・・・? 西方の秘宝

「な・・・ なんだこれは・・・」


ガイ=ドラグーンは困惑の真っただ中にあった。

それもそのはず、今彼は西方の秘宝を目の前にしているのだ。

それは黄金色に輝く神秘を体現したものだった。

黄金色に輝くその謎の調味料の名は『マヨネーズ』というらしい。


「マヨネーズ・・・」

「マヨネ~ズ~!」

「よこせー!!」


そこにはまるで何かに取りつかれたかのような自分の仲間達。

その眼はランランと血走っている。

どう考えても異常なその情景を目にしつつ神秘的に光輝くマヨネーズから眼が離せない。

これだ。

この見たこともない妙な調味料のせいで、俺の仲間達は異常を起こした。

どう考えてもこれはまずいものだ。


だが・・・


「これは渡さん!!」


俺は仲間達を跳ね除けて、マヨネーズに食らいつく。

なんと表現すべきなのだろうか。

この魅惑の物体は・・・



それは少し前のこと・・・



コーフィの店でホットケーキをご馳走になっている間に、一緒に来ていたレヴィアの奴が《獅子皇帝》の連中を連れて2階に上がっていった。

その隙に、すっかり冷めてしまっていたが、机に残されたホットケーキを完食して満足していると、仲間達から非難の声が上がった。

行儀が悪いだの、なんだのと五月蠅い連中だ。

冒険者にとってそんなのはどうでもいいだろうに・・・


「いや、守護天将筆頭なんだからもう少し自覚を持って行動したまえよ。」


≪雑魚狩り≫の奴までそんなことを言いだしたが、守護天将だろうとコーフィ=チープの行動は一切変わらなかった。俺も立場なんて気にせずに行動したいんだからいいじゃね~か。


「だったら君も人外魔境で生活するかい?」


俺の不服そうな表情を読み取って≪雑魚狩り≫がそんなことを言いだした。

いや、それは面倒そうだからやめておくわ。

そもそも、こんな場所で生活できるのはコーフィぐらいだろう。


「店員さん。小腹空いたんで、なんかお勧めのもの持ってきてくれや。」


俺はこの話題から逃げるように魔族の店員に声をかけて適当に料理を注文する。

獅子顔の獣人系の魔族に注文したので、多分肉系の料理が来るだろう。


「お待ち同様です。」


そう考えていた俺の考えは甘かったのだろうか。

出てきたのは妙な調味料のかかったサラダだった。


「お前。獅子の獣人だよな。」


「そうですが・・・ 何か?」


俺は思わず店員の顔を見上げてまじまじと見つめてしまった。

店員は驚いたような顔で俺を見つめる。

ホットケーキの後で肉を食おうと思っていた俺も俺だが、サラダを出すこいつもこいつだ。

見たこともない妙な黄金色の調味料がかかっているが、大丈夫なのかこれは?

この色は卵を使ったものだろうか?

卵はいろいろな料理に合うというがこれはどうなんだろうか?


「見たこともない調味料ががかかってるわね? それは何?」


「これはマヨネーズというそうです。私もこちらに来て初めて見たのですが、なんでも西方で秘宝と称えられる幻の調味料だそうで、滅多に手に入らない代物なのでこの機会に是非。」


仲間の1人がもの珍しそうに俺の目の前に出されたサラダを見ながら尋ねた一言に、店員はにこやかにそう答えた。

なるほど、西方の調味料か。

そういえば、コーフィは三大国家と西方の大連盟に東方にできた新しい大国を引き合わせる国際会議を開くと言っていたな。

俺も会議の護衛に呼ばれたんだった。


「じゃ、私もそれください。」


「私も同じものを。」


「俺も!」


仲間達が同じものを注文する中で、俺は興味がわかず仕方なく自分で適当に注文をしてからフォークを手に取った。

サラダなんてどんな調味料を使おうがたいしてうまくない。


「あ~ん。」


・・・

・・


そう思っていた時期が、俺にもあった。

だが、違ったんだ。

サラダってのは野菜が主役じゃない。

重要なのはそれを食べるための調味料だ。

肉だって、ただ焼いただけじゃ意味がない。

繊細な肉のうまみを感じるためには調味料によって確かな下味をつけることで味に厚みを持たせなければならない。


このマヨネーズという調味料は、サラダに使われる野菜たちを下味にして大きくその旨みを跳躍させている。

でなければ・・・

こんなにうまいはずがない!!


「お代わりだ!!」


俺のお代わり宣言を皮切りにマヨネーズに興味を持った周りの奴らが、サラダを注文しまくった。

こうして、俺達は店にあるマヨネーズを食い尽くし、残ったばかりの僅かばかりのマヨネーズを争って血で血を洗う激しい激闘を繰り広げることになるのだった。


「うおおお!! マヨネーズ~!!」


「よこせ~! それをよこせ~!」


マヨネーズのかかったサラダ目掛けてフォークが矢のように降り注ぐ。

だが、その程度の攻撃で俺からマヨネーズを奪おうなど甘い!

華麗にサラダの入った皿をフォークの進行方向から外して攻撃を躱す。


「待ってたぜ!」


だが、そんな俺の動きを読んでサラダの移動先にフォークを伸ばす影が・・・!

チッ!面倒な!!

サラダを無理に戻せば反動でサラダが落ちてしまう。

この店でそんなことをするのは自殺行為だ。

俺はカウンター席の椅子が回転することを利用してそのまま回転しつつ、自分のフォークで後ろから伸びて来るフォークを弾き飛ばすと半回転した反動を殺しつつ手元にサラダを引き寄せてフォークを突き刺して齧り付く。


口の中には程よくしっとりした甘さと酸味を感じる。

ああ、この味を何と表現すればいいのかわからないが、とてつもなく幸せだ。


「「「マヨネーズ!!」」」


そんな幸せを噛み締める俺にまたもや無謀な挑戦者がフォークを突き出して挑んできた。

全く3人の同時攻撃ならどうにかなるとでも思ったのだろうか。

貴様ら如きがこの俺に逆らうなんて10年早い!!


俺は足払いで一人の体勢を崩しつつ側面からのフォークを自分のフォークで迎撃。

背後の奴には背中側に体を倒して頭突きで沈んでもらう。

側面からのフォークを弾きその反動でカウンター側に体を向ける。

そして、もう一度サラダに齧り付く。


左右や側面からはまだ視線を感じる。

どうやらあきらめる気はないらしい。

今のうちにサラダをできるだけ食す!!

できれば味わって食べたいが、現在のこの状況ではそうもいっていられない。


食さなければ食される。

ここは弱肉強食の世界。

強いものが勝つのだ。

だが俺は最強の冒険者ガイ=ドラグーン。

周囲の雑魚相手にこの俺が負けるはずがない。


ガシリ!


そんな俺の慢心をついてか。

3人が禁断の手法に手を出した。

フォークを使わない方の手で俺の両腕を掴んだのだ。

おまけに1人は俺の頭部を抑えている。

正気かこいつら・・・! この店でそんなことをすれば・・・!


最早、周囲の3人には周りの一切合切が見えていない。

マヨネーズをただ求める野獣と化した彼らは俺からサラダの入った皿を奪おうと手を伸ばす。

俺はあまりの事態に気が動転して皿から手を放してしまった。

というか、3人が俺を捕まえたのを見て今まで様子を見ていた4人目が伸ばしたフォークが俺の手に刺さって手に持っていた皿を手放してもらった。


「あ・・・!」


誰かの小さな叫び声が聞こえる中でゆっくりと落ちていくサラダを前に両腕を掴まれた俺にはなす術はなかった。

だが、そんなサラダの入った皿はカウンターを飛び越えて現れた5人目の手によって華麗にキャッチされる。

中身を零すことなく、ひっくり返って落ちていた皿を器用に元の状態に戻してゆっくりとカウンターに置いた。

一息つく間もなく、その光景を見ていた周囲の奴らが一斉にフォークを伸ばした瞬間。

この店(世界)の支配者が口を開いた。


「お客様? 店内での乱闘はご遠慮くださいね?」


だが、そんな熱く激しい激闘も1人の男の笑顔で一笑に帰した。

多くの者が中毒症状に我を忘れていたはずなのに、その笑顔を見た瞬間。

生物としての本能が『死』の予感を悟ってその行動を止めた。

全員が愛想笑いで店の主人に笑顔を返して、謝罪の言葉を述べる。


こうして、俺と仲間たちに消えることのない衝撃を与えたマヨネーズ争奪戦は決着がついた。

残っていたサラダはマヨネーズを一口も食べていなかった者達が、俺達が争う姿を見て興味を持ったために一口ずつご馳走になっていた。

一口しか食べられなかったことを嘆き悲しむ彼らの気持ちは俺達にもよくわかる。


その悔しさを俺達が忘れることはないだろう。

そして、その悔しさを胸に秘めた俺達は必ず見つけてみせる。マヨネーズという西方の秘宝を・・・!

その神秘にして可憐。甘くとろけながらも俺達の人生に稲妻のように駆け巡ったその衝撃をもう一度味わうために!

俺達の新たなる冒険の目標は決まった。

いざ、西方へ・・・!


ガイ=ドラグーンは冒険者からマヨラーにジョブチェンジした!

作者はマヨネーズは食すけど、そこまで好きじゃない。

マヨ丼とかマヨチュッチュする人は実在するのだろうか?

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