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若き英雄

「ヒヒーーン!」


「「「ヒヒーーン!!」」」


大勢の麒麟が大樹の切り株をテーブルにして歓声を上げる。

傍目から見るとただの嘶きにしか聞こえないが、彼らは大変喜んでいた。


それもそのはず、以前に危険生物コーフィとの交渉による友好を深めるという計画は失敗している。

なので、此度の接触は群れの中から選び抜いた決死隊による突撃が目的だった。

この決死の突撃によって危険生物に『群れが全滅した』と錯覚させるつもりだったのだ。


だが、彼らは戦いに来たつもりが、なぜか以前同様に歓迎されていた。

今回は特に何も持ち込んでいないのだが、それでも自分達のために席を用意してメニューと水を出してくれる。

ここまでは前回と全く同じところまで進んでいる。


これは、再度の交渉の機会を得たのではなかろうか。


そう考えた麒麟達は歓喜した。

ここに来る前、長であるシュルツ以外の麒麟達の大半は、実は危険生物に勝つ気でいた。


自分達は最強の龍種の一角に数えられる誇り高き種族。

どんな敵であろうと群れで襲えば負けるはずがない。

そう、思い込んでいた。


だが、気を全開放した危険生物を見てその心はあっけなく砕け散った。

勝てる勝てないの次元ではない。

相手と自分の立ち位置が路傍の石と生物ほどに開きがあることを彼らは悟った。

言葉通りの意味で、どうにでもできる。

邪魔ならばどければいい、拾って投げてもいいし、踏んづけても構わない。

それほどまでに、絶対的な力の差がある。


こちらの努力など、向こうからすれば『何かした?』と尋ねられるほどに変化が見られないことだろう。

永く魔の森で生活してきた彼らですら、これほどの強者を見るのは稀である。


そんな絶望に初めて直面した若き麒麟達や歴戦の猛者たちが、今。

たった1体の幼馬を英雄として称えていた。


危険生物との交渉決裂状態から脱却。

それどころか、この歓迎ムード。

周囲で起こっている異常事態には正直なれないが、そういった現実を忘れるためにも彼らは歓声を上げて飲めや歌えの大宴会を開催した。

無論、喫茶店である【オアシス】にお酒の類はあまり置かれていない。


理由は店長のお酒の弱さ。

その弱さゆえに、彼はお酒は大量に飲むものではないと思っている。

さらに、その弱さゆえに彼はお酒の善し悪しを知らない。

どのような物であろうと、酒の類は一口飲めば酔う。

それほどに酒の類に弱い彼にとってお酒の善し悪しはないものと同然だ。

よって、お酒の種類に疎く。多くの酒類は置いていない。


本来ならば喫茶店なのでお酒の類は必要ないのだが、彼の店の客層は周辺環境から冒険者限定だ。

元冒険者である彼は冒険者がお酒を飲むことを知っているので、少量は確保している。

といっても、知り合いの商人に頼んで適当に置いているだけであるために、冒険者にしかそういったメニューを渡さないので、麒麟達が酒類を飲むことはない。


「ヒヒ~~ン(踊ります!!)」


「「「ヒヒ~~ン!!(やれやれ!!)」」」


こうして、酒のない大宴会が麒麟達の中で行われていった。

長であるシュルツも、今だけはこの歓待を心地往くまで味わった。

だが、彼らは知らない。

この店が一般的な喫茶店であることを・・・


そうこれは極一般的な商売なのだ。

つまり、料金が発生するのだ。


前回と違い。

今回彼らは、コーフィ=チープと戦いに来ている。

それゆえに、前回のような貢物(代金代わりの魔物の死体)を持っていない。


麒麟の命運はもはや1人の男の掌の上にあった。

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