満員御礼
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ。」
こんなに気分良くお客様をお出迎えする日が来るだなんて・・・
信じられない。
今日のお客様は冒険者20名。麒麟200体以上。
以前にもやってきた麒麟の群れがまたの来訪に歓喜の微笑みを浮かべてしまう。
ガイも僕の店にリピーターとしてやってきてくれるどころか。
ヤグル君や他の冒険者仲間も連れてきてくれるだなんて歓喜の極みだよ。
感謝の意味を込めて全員に回復魔法をかけて回る。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください。」
前回同様、周辺の木々を切り倒してテーブル代わりにして麒麟用のテーブルを作成。
冒険者の人達は店内に入ってもらい、全員にメニューを渡す。
ガルム君とバーンズ君には接客をお願いし、リリアナ君には足りなくなるであろう食材の調達に出向いてもらった。
以前は俺一人だったからできなかったけど、今回は従業員がいるおかげで食材の確保も何とかなりそうだ。魔族の従業員がいるからか。最初は全員が戸惑っていたけれど、ガイたちを中心に注文を入れ始めると全員がそれに倣って注文をしてくれる。
外にいる麒麟達も同様に注文を入れてくれる。
最初は独りで来ていた子供の麒麟と何かを話していたような感じだったけど、話が終わると普通に注文をし出した。
俺が子供を責めないで欲しいとお願いしたのが効いたのだろうか。
確かに、この魔の森を単独で行動するのは危険だ。
まして子供など、周囲から見れば餌以外の何物でもない。
よくここまで無事に辿り着けたものだ。
彼は本当に運がよかったのだろう。
まぁ、本格的なお説教は縄張りに戻ってからということにしてもらい、ここでは楽しくお食事をしてもらおう。
前回のような失敗の内容に改装して少しは食材の貯蔵量は増やしてある。
従業員の確保で食材の補充も可能。
今度こそ、満足のいくサービスを展開できるに違いない。
「オーダー入りま~す。」
ガルム君とバーンズ君が店内と外を忙しなく動き回っている。
優雅に・・・
彼ら2人には何があろうとこれを心掛けてもらっている。
どれだけ忙しい状況でも走ったり慌てたりしてはいけない。
世間一般の喫茶店のイメージである。
静かで落ち着いた空間を壊してはいけないのだ。
今回は、大勢のお客様がブッキングしてしまったために250近いお客様が来店されている。
だが、それでものんびりとした空間で落ち着いて食事やコーヒー、ハーブティーなどを楽しんでもらうためにどれだけ忙しくても、それを見せてはならない。
大丈夫。
調理場のスペースも広くしたことで分身同士がのんびりと一人一人が作業できる空間は確保できる。
フロアもガルム君とバーンズ君にはオーダーだけ取ってもらって、俺がすべての料理を運べば問題ない。
2人はまだ大量の食器類を持ったままの移動が困難だからね。
綺麗に盛り付けた料理を崩されてはかなわないので、回収する食器は取ってきてもらうけど、給仕は俺がやればいい。
「店長。また腕を上げました?」
「嫌だな。ロッシュ君。おだてても何も出ないよ?」
たまに話しかけて来るお客様との会話もしっかりこなす。
それにしてもロッシュ君はよく食べるなぁ。
今でも少し丸いのにさらに丸くなってしまうよ?
「ここの料理がおいしいからいけないんですよ。お代わりください。」
おいおい、だからおだてても何も出ないってば・・・
まぁ注文の品を大盛りにするぐらいはするけどさ。
彼は実においしそうに食事をしてくれるので作り甲斐があるなぁ~。
それに引き換え、窓際の席に座った若い冒険者の一団は何をしているんだろうか。
コーヒーを頼んだっきりお通夜みたいな感じになって・・・
砂糖もミルクも入れていないのにスプーンでコーヒーをかき混ぜながら死んだ魚のような眼をしている。
麒麟の群れに囲まれた恐怖がまだとれないのだろうか?
仕方がない。
サービスでホットケーキを差し入れしてあげよう。
はちみつもクリームも奮発しちゃうぜ!!
「は~い。これ、当店のサービスなので遠慮なくどうぞ。」
人数分のホットケーキを焼いてテーブルに給仕に行くと、全員がこちらを向いて固まった。
その表情には明らかに恐怖の色が滲んでいる。
まるでこの世の終わりでも見たかのような顔だ。
彼らはいったい何を見たのだろうか。
聞いてもみてもいいのだろうか?
「あ! なんでそいつらだけなんだよ! 俺にもくれ!」
そんなことを考えていると、ガイが目ざとくホットケーキに目をやる。
しょうがないな。
こうして、俺は仕方なく人数分のホットケーキを焼くことになった。
当然、お客様は平等に扱う。
250人分を無料で提出したさ。
まぁ、今日は大盛況だから問題ないだろう。