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お客様!ご無事ですか?!

それは青天の霹靂だった。

久しぶりにやってきたお客様をおもてなししている最中。

轟音とともにやってきたいくつもの木片。

完璧かと思われた結界をすり抜けてやってきたそれらは無情にもお客様めがけて飛んできた。


コーフィ=チープは魔の森で安全な場所を確保するために大規模な結界を周囲に張っている。

しかし一方で、喫茶店を経営するという都合上、お客様が通れるようにもなっている。

そのため、結界には領域の魔法を応用することで条件を付けて発動するように仕組まれているのだが、その条件は『敵意がない』ことなのだ。

つまり、敵意を持った麒麟の群れやドラグーンインパクトの衝撃波は結界で防御できても、ドラグーンインパクトで飛んできた破片には結界は対応できないのだった。


突然の事態にガルムもバーンズも反応できない。

唯一反応を見せたのはリリアナだったが、彼女が動けば木片が飛んできた程度の事態ではすまい。

最悪彼女はお客様に危害を加える可能性さえある。

そのため、コーフィは瞬時にリリアナを行動不能にしようと動いた。


だが、リリアナはコーフィの行動を予知していたかのように攻撃を回避する。


「オホホホ! このわたくしをそうやすやすと止められるだなんて思わないことね!」


コーフィの咄嗟の行動を寸での所でとはいえ回避できたことに歓喜の声を上げるリリアナ。

だが、その合間にも木片はお客様へと向かう。

お客様は突如として響いた轟音に驚いて動くことができていない。

飛んできた木片がたとえお客様に当たってもダメージにはならない。


なにせ、現在来ているお客様は子供とはいえ麒麟なのだ。

木片如きでは何の問題もない。

だが、未熟とはいえ喫茶店店主としてのプライドがそう言った問題を許さない。


「アバブフ・・・!」


少し本気を出して完全にリリアナを封殺した俺は瞬時にお客様と飛んでくる破片の間に入って拳圧で破片をすべて弾き飛ばした。

これで大丈夫。

そう思っていた俺の油断をついて飛んでくる小さな木片。

それはフラフラと舞うように落ちてきてお客様にお出ししているミルクの上に落ちた。

拳圧で吹き飛ばそうとしても、そのあまりに小さな木片はその小ささ故に風で煽られても遠くには飛ばない。一度の突風ではひらりと交わされただけで終わってしまう。

台風のように連続して風を起こせば飛ばせばできなくはないが、それではお客様にまで影響が出てしまう。


結果として最終的には努力空しくミルクの上に落ちてしまったのだった。


「申し訳ありません。お客様。すぐに取り替えます。」


俺は即座にミルクを新しいものに取り換えると、店のことをガルム君とバーンズ君に任せることにした。

お客様は現在、食後の一杯を楽しんでいるだけだ。

俺がいなくても問題ない。


「リリアナ君。起きてください。出番ですよ。」


俺は先ほどまで倒れていたリリアナ君を起こすと現況の排除に向かうことにした。

先程の巨大な一撃による騒音と破片の飛来は明らかに当店への営業妨害に他ならない。

元凶は即座に排除しなければならない。


「な、なんですの?」


気を失っていたところから立ち直ったリリアナ君にこれから営業妨害を行った元凶を排除しに行くことを告げると彼女は喜々として追従した。


「まぁ! この私にケンカを売るだなんていい度胸ですわ!!」


俺は早速、リリアナ君と共に元凶の元へと向かった。

そして、そこで思わぬものを目にすることになった。


そこにいたのは複数体の麒麟。目に見えるだけで数十。周囲の気配を探れば200ほど存在が確認できた。

そして、その麒麟に囲まれるようにガイを先頭に20名ほどの冒険者が見える。

なるほど、先ほどの巨大な一撃はガイの仕業か。

そして、多数の麒麟に対する攻撃の数々。


先程の破片を飛ばしてお客様のミルクに異物を混入させたのとはわけが違う。

これほどの営業妨害をしてくるとは、ガイ。そんなに俺と戦争がしたいのかい?


コーフィ=チープの中では既に麒麟=お客様の図式が成立しており、そのため麒麟たちがここにいる理由はまた自分の店に来るためだと信じ切っていた。

そして、ガイたちの存在はそんなお客様を全力で妨害しているようにしか見えなかったのだ。

ガイたちと麒麟との戦力さなど一切考えてはいない。

そこにある事実のみを曲解したコーフィの行動は光よりも早い。


共に駆けていたリリアナを置き去りにして、音もなくガイたちの前に降り立ったコーフィは気を全力開放して叫ぶ。


「うちのお客に何してくれてんだ!」


その言葉にガイたち一行と麒麟たちは戦慄した。

言葉の意味など彼らにとってはこの際どうでもいい。

問題なのは目の前の存在が戦う意思を示していることにのみある。


ガイ・ドラグーンは知っている。

目の前の存在が自分など足元にも及ばない強者だということを・・・


麒麟たちは覚悟していた。

ここで自分達は戦って死ぬのだと・・・


だが、そんな理解も覚悟も目の前の存在の前では無意味。

これから起こる出来事は強者による蹂躙でも、死闘でもない。

言わば、選別に等しい。

ゴミとそうでないものを分ける。

ただそれだけの行為。

抵抗をする暇などない。抗う余地などない。行動を起こす機会さえ存在しない。

この世、全ての不条理を内包した存在が今まさに動き出した。

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