表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/102

コワムゥの冒険

僕の名はコワムゥ。

偉大なる麒麟の雄である。

でも、まだ成龍していないため、単独での行動を許されない身なのだ。


でも、僕は聞いてしまったんだ。

以前、僕たちの群れのボスとその側近、並びに大多数の女性陣を引き連れて、僕たちの住む森に新しく住み着いたという謎の生物に挨拶に向かったのがついこの間だった気がする。

そこで、僕たちのボスは友好を深めたかったらしいのだが、どういう訳かは分からないけど。

交渉は決裂したらしい。


おかげで、大人達は一日中。交代で見張りを行って謎の生物が襲ってこないかを監視しているらしい。

ただ、帰って来てからというもの。

女性陣はのほほんとした様子で、「もう一度、あそこで食事をしたい」と騒いでいた。

なんでも、この世のものとは思えない食事を行ったらしい。


ボスでさえ、たまに「もう一度行きたい」とボヤくほどだという。

そんなにおいしい食事を出してくれた謎の生物が一体何なのか。

どうして食事を出してくれたのにもかかわらず、友好を拒否して敵対関係になったのか。

謎だらけなんだけど・・・。


でも、一番気になるのはやっぱり・・・


食事がどれだけおいしかったかだよね!


噂だけではどれほどおいしい食事をしたのかはわからないけれど。

僕が思うにすごくおいしいものを食べたと思うんだ。


なにせ、その食事を食べた女性達は皆。幸せそうに微笑んでいるのだから!

だから、僕もそんな食事を食べに行こうと思うんだ。


そう思い至った瞬間。

僕は群れから離れて独りでおいしい食事を出す謎の生物のいる場所に向かっていた。

謎の生物の場所には行ってはいけない。


友好関係を築くのに失敗した時に群れのボスから出た言葉の意味は理解しているけれど。

それでも、僕にとってはおいしい食事の魅力の前では意味をなさなかった。


謎の生物場所は大体はわかるのだけど。

正確な位置はわからない。

でも、近くにまで行けば何かしらの痕跡から居場所がわかると思うんだ。

そんな短絡的な思考のまま走り続けた結果。


僕は不思議な笑い声に誘われるかのように向かった先には木々に妙な物が貼ってあった。

白い色の物に色とりどりの色彩で妙な模様がついている。

これが何かはよくわからないが、なんとなくこれを目印に行けばいいような気がしてきた。

よくわからない声も、これが張ってある方に続いている。


(よし、行こう!)


僕はよくわからないまま、進んでいくのだった。




~リリアナ=フォン・アンダーリップ~


何事においても完璧な私は、店長からの依頼であるチラシ配りを終えてお店に帰ってきた。

いつみても、木を刳り貫いて作られた質素で安っぽく、雅のない佇まい。

私の居場所としてはあまりふさわしくない場所だけれども、店長がどうしても居て欲しいというので、寛大な私はこのお店の看板娘をしている。


本来なら、そのおかげで千客万来、商売繁盛間違いなしなのだが、残念ながら立地の関係でお客様は今までゼロ。

お客様が来ないのでは、いくら私の世界一の美貌を持ってしてもどうすることもできない。

見たもの全てを一瞬にして捉え、虜にするこの美貌も、見ることすらも叶わないのであれば、どうすることもできない。

まさに、深海の宝石。


最初の頃は、このお店の店長は馬鹿なんじゃないかと思っていたのだけれど。

もしかしたら、このお店がこんな場所にあるのは私の美貌を世間に知られないためなのではないかしら、そう、このお店の店長は私の美貌に一目惚れをしてしまい。

私をここから出さないためにこんな辺鄙な場所で商売を続けているのだわ。

ふふふ、この私を籠に入れて飼うことを望むだなんて傲慢で強欲な男だわ。

でも、私は寛大な心の持ち主。しばらくの間はあの男にも夢を見せてあげましょう。


「お嬢様。おかえりなさいませ。」


私が帰ってきたことに気づいたガルムが恭しく出迎えてくれた。

さすがは私の従僕。褒めてあげるわ。


「ところでお嬢様。 お客様はどちらですか? 店長は連れて帰ってくるまで店に入れないとおっしゃっておりますが・・・」


まぁ、なんて度量の狭い男なのかしら。

先程の小さなことを気にして、店長はまだそんなことを言っているらしい。

そんな度量の小ささでは良き殿方にはなれなくてよ?

ガルム。ちょっとあなた店長に男の度量について語ってらっしゃい。


「お嬢様。正直言ってもう私のフォローも限界です。今までにお嬢様が出された被害総額はすでに1億を突破しております。我々の給料では、払い切れません。」


ガルムがそう言って私を見て呆れたようにそう言った。

確かにそうかもしれない。

でもね。

よく考えてみて?

私達の実力からしてこの給料は安すぎないかしら?

もっと給料を増やしてくれてもいいと思うのだけれど?


「お嬢様。私やバーンズの給料は増えております。店長は実力に応じた給料を提示してくれております。減給されているのはお嬢様だけです。正直言って、ただ働きどころか。解雇されてもおかしくないほどの状況です。」


ガルムはそう言って淡々と私にお説教をする。

この完全無欠の私をここまで罵倒するだなんてあなたも偉くなったものね? ガルム。


「お嬢様。逆にお尋ねしますが、減給の末に給料0になったあなたが、給料50万の私より偉いとでも?」


「当り前じゃない。私は王族であなたは私に使える騎士なのよ?」




~コーフィ=チープ~


リリアナの言葉にガルムは言葉を失ったのか。

がっくりと肩を落として彼女の前から踵を返して立ち去る。

その肩をバーンズが優しく抱きしめて「大丈夫か?」と優しく語りかけていく。

その言葉は何を言えばいいのかわからないが、とりあえず何か言いたかったという彼の身上がうかがえた。


そんな二人を横目に、僕は問題児を見つめる。

リリアナ=フォン・アンダーリップ。

傲岸不遜にして、生粋の王族のためか。妙に自信に溢れている。

だが、現状では戦闘能力以外でその力が発揮されることはない。


僕が力加減を覚えてもらうために始めた修行でも、気の発現やその扱い。その応用である自身の能力との融合によって得た。自身の戦闘能力を超強化する技術。

王族ゆえの高い魔力に加えて、闘氣と魔力の融合を行うセンス。

それだけを見れば才能の塊なのだが、彼女はそこから先に進むができない。

高いセンスと才能だけである程度のことができてしまう。

そのせいで、細かい力の制御による能力の効率化ができないのだ。


おかげで普段からその強力な力を持て余してしまっている。

最近では、触れなくても食器が割れることが多々ある。

今の彼女は歩く兵器だ。


師匠としてしっかりとした教育を行うために一度、叩きのめしておきたいのだが・・・

彼女自身の能力が全快状態ではない上に、全快になっても俺より弱いために、実力差を教え込んでもあまり意味がない気がする。

そもそも、魔族の世界では生まれ持った能力と実力で序列が固定されることが多いらしく。

自身を鍛えることをあまりしないそうだ。


(育った環境上、説明して理解してもらうのは難しいのかな・・・)


俺は頭を抱えて悩んでいたのだが、窓の外を眺めているとあるものが目に入った。

それは、木々の間からこちらのことをひょこりと覗く2つの瞳。

小さいが、あれは以前に店にやってきた麒麟の子供ではなかろうか。

なぜこんなところに?


子供の麒麟は、ゆっくりとこちらの様子を窺いながらも近づいてくる。

最初は木に隠れていて気付かなかったが、その背には魔獣の死体が乗っていた。


(・・・お客様だ!!)


その姿を見て、以前来てくれた麒麟の子供がやってきたのだと察した俺はすぐに店を出た。

リリアナやガルム、バーンズも気づいたみたいだけれども、彼らは獲物だと思ったのか。

臨戦態勢を取っていたので、一撃で地に沈めて俺は子麒麟の前に立った。


「いらっしゃいませお客様。どうぞ。こちらへ。」


俺の行動に怯えていた子麒麟だが、にこやかな笑顔を向けて歓迎すると、俺の後について来てくれた。

俺は、以前に麒麟の群れを招くときに使った木の下へと子麒麟を案内した。

もちろん。以前、一刀両断にした切り株はまた生えていたので、手刀で切り裂いておいた。


「ガルム君。おしぼりと水。それにメニューをお出しして。バーンズ君はテーブルと拭いといて。リリアナ君はできるだけ何もしないで。」


こうして、久しぶりのお客様を出迎えながら、俺は店員に指示を出す。

地に沈んでいた店員たちはゆっくりと起き上がってから指示に従って動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ