想定外の事態
敵に向かって仲間たちが駆けていく。
相手はこの辺で最強らしいが、所詮は巨大な緑色のビッグフットとカボチャの人型植物モンスター。
今までの戦闘経験からしてどういう動きをしてくるかは予想できるし、ここに来るまでに案内役の連中から能力は聞いている。
「先行するぞ!!」
仲間の内、まだ魔剣を手にしていない5人が先行して2体の魔獣に向かって突出する。
そうして、魔獣の視線を先行する5人に引き付けている間に、後方で僕たち3人が魔法で攻撃を加える。
「ツイン・サイクロン!」
「ブリザード・ランス!」
「プロミネンス・フレア!」
魔剣を持つ3人の同時攻撃。
デッドの持つ《フーマ》の風の魔法を基軸に、左に《スノーホワイト》の氷、右に《プロミネンス》の炎を宿して2体の魔獣を攻撃する。
ジャック王ランタンは植物系モンスターだが、炎を操る故に火属性に耐性がある。だから、≪白銀≫の放つ氷の魔法をジャック王ランタンに向け、フォレストビッグフットに僕の放つ炎の魔法をぶつける。
先制攻撃で負傷させたところで、先行している5人が追撃をかける。
今までの魔獣ならここで終わりだろうが、今回の魔獣はこの辺でも最強種らしいので、あとから僕たち3人が合流してさらに攻撃をかける必要性があるだろう。
そんな予想の下で動いていた僕たちの思考は非常におめでたいものだった。
奴らの実力は僕たちの予測のさらに上をいく。
僕の放った炎の魔法はツイン・サイクロンと合流し、強大な風と合わさってさらに激しく燃え上がり火力と威力を上げてフォレストビッグフットに直撃した。
フォレストビッグフットは巨大な炎に包まれ、奇声を上げる間もなく全身を炎に包まれて沈黙した。
(案外呆気なかったな。)
予想外の弱さに拍子抜けしてしまった。
なんという脆さ、これがこの辺の最強種の実力なのか?
これでは今まで出会った魔物たちのほうが強かったな。
そんな感想が僕の脳内を支配した。
「ボォアアア!!!」
そんな僕の右側面から突如として挙がった巨大な鳴き声。
振り向けば、先ほど倒したはずのフォレストビッグフットがそこにいた。
(は??)
理解できない状況に一瞬我を忘れる。
次の瞬間に振ってきたのは意識を一瞬で刈り取る巨大な拳。
予想外の一撃に僕の意識は瞬く間に奪われた。
~デビット~
炎が直撃したはずのフォレストビッグフットがいつの間にか右側面にいた。
周囲には気を配っていたはずだが、まさかの2体目の出現に困惑している間にクラウがやられた。
予め展開していた防御魔法により即死は免れたようだが、地面に倒れ伏し、起き上がる様子はない。
なぜ2体目がいるのかは定かではないが、臨戦態勢を取り敵を迎撃する。
「シェリル!」
即座に、そばにいるシェリルに警戒を促しつつ2人で戦うために視線をそちらに向けてアイコンタクトを取ろうと試みた。
だが、その視線の先にいるシェリルは最初に攻撃を放った方角を見て愕然としていた。
警戒しつつもそちらに視線を送れば、そこには目を疑う光景が広がっていた。
5人の仲間たちがジャック王ランタンになすすべなく敗北していたのだ。
最初に放った氷の一撃などなかったかのように、周囲は炎が渦巻いている。
燃え上がる青白い炎を仲間たちが必死に防いでいるが、あのままでは敗北は目前と言っていい状況だ。
氷の魔法はおそらく、あの炎によって溶かされてしまったのだろう。
見る影もない。
そして、もう一つ驚くべきことは・・・
先ほど倒したフォレストビッグフットのいた場所に、死体はなく。
あるのは焼け焦げた樹木のみだった。
幻影。
即座に俺は理解した。
最初に攻撃したフォレストビッグフットは偽物。
姿を隠す隠ぺい能力を応用して、樹木を魔獣に見せていただけだったのだ。
「アブェ?」
どこを見ている?とでも言いたげに、フォレストビッグフットが声を上げた。
その声にとっさに反応して、俺とシェリルは退避しつつけん制の魔法攻撃を放った。
氷の刃と風の刃がフォレストビッグフットの体を貫く。
だが、それと同時にフォレストビッグフットの体はすぅーっと煙の如く消え去った。
「どこに行った?!」
声を大にして叫びつつ、周囲に探索の魔法を放って奴を探す。
ジャック王ランタンは今は無視でいい。
仲間たちは助けに行かなければならないが、まだ少し猶予はある。
その前にまず、フォレストビッグフットを・・・
そんな考えが、俺の頭を支配した瞬間だった。
ムギュリ
何かが、俺の体をつかんだ。
まるで、蛇か何かが体に巻き付いたかのように動けない。
「糞!なんだ?!」
下を見れば、そこには巨大な手。
いや、指があった。
「アギアァ・・・」
間延びした。
のんびりとした声が背後から聞こえてきた。
(まさか・・・)
そんなはずはない。
そう思いつつ、背後を振り向けば、そこには先ほどまで正面にいたフォレストビッグフットが立っていた。
そう、俺とシェリルが距離をとるために移動した場所はフォレストビッグフットの手の上だったのだ。
そして、俺とシェリルは同時にフォレストビッグフットの手中に収まってしまった。
(脱出しなけれバアギィイイヤァアアア!!!)
魔法を発動させようとすると同時にフォレストビッグフットの握る手の力が上がった。
それは万力のように俺の体を締め上げてメキメキと骨を軋ませるのだった。