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三大国家の国王達

三大国家の一つ。

アボレア帝国の皇帝であるグラッツ・マルドレア・ドン・アボレアの下に一通の手紙が届いたのはもう執務を終わりかけた夜の遅い時間帯だった。


「陛下。西方にある諸国同盟が盟主。マルド=ヴィルターより親書が届いております。」


執事の言葉にグラッツは眉を顰める。

三大国家最大の領土と軍事力を有する我が帝国に最近できたばかりの同盟の盟主風情が直接皇帝である自分に親書を送ってくる。

これははっきり言って異例の事態だ。


三大国家の国王やその重鎮ならともかく、他国の国王では皇帝である自分に直接親書を送ってくることはまずない。例外は個人的なつながりのある者だけだ。

しかし、グラッツには同盟の盟主であるマルドなる男との面識はない。

そういう場合は、まずこちら側の宰相か大臣、重臣にお伺いを立てるのが礼儀だ。

そうしなければ『我が国と自国とのパワーバランスを鑑みない馬鹿』と認識される。


「そんな物。破り捨てればよかろう。」


グラッツはいちいちそんなことを言わせるなとでも言いたげに部下を睨みつけるが、執事の男はそんな視線を意にも介さず、皇帝の前に立つとゆっくりを口を開く。


「そうしたいのは山々ですが、親書の内容は別として、連名に書いてある名が問題でして・・・」


長年、グラッツを支える執事の男は恐れることなく言葉を述べると渋々といった様子で親書の中身を見つめる。

その様子からただ事ではない事態だと悟ったグラッツは眉を顰めた。


「あの男か・・・」


内容ではなく、連名に書いてある男の名前と聞いてグラッツは頭を掻いた。

三大国家の他の国の重鎮や国王が、同盟と接触しているといった報告は受けている。

だが、その内容は同盟を切り崩す為に周辺の国や同盟に加盟している国に圧力をかけている程度だ。

もっとも、同盟の盟主たるマルドと言う男に未然に防がれてしまっている状態の様だ。

それ故に、マルドと言う男との接触は極力控えている。

三大国家の重鎮や国王がマルドと共謀して連名で何かをするとは到底思えない。


であれば、答えは一つ。

三大国家の国王に親書を送りつけることを許されたただ一人の平民。

人智を超える力を秘めし怪物。


コーフィ=チープ以外にありはしない。


グラッツは頭痛を感じそうになりながら瞼を閉じてその上をゆっくりとマッサージしてから手を離すと、執事の男に内容を促した。






フランシア共和国の国王たるボリック・バーン・ジェイル・フランシアは驚愕していた。

その顔はつかれているのか目の下にクマがあり、少しやつれ気味だ。

しかし、それ以上に問題なのはその顔色だ。

まるで血の通っていないのではと思わせるほどにその顔色は白くなっている。

それは、目の前に散らばる一通の手紙の存在が原因だった。


彼に手紙が届いたのは昼食を終えた午後の執務中の事だ。

毎日毎日やってくる書類の数々に頭を抱え、うんざりしながらも仕事をしている時にその新書は持ちこまれた。


「国王陛下! 大変です! これをお読みください!」


慌てた部下が持ちこんできたその新書を読み飛ばし気味に読む。

彼は内容を読んで一笑にふすと手紙をバラバラに破り捨てた。


「こんなものいちいち、ワシの下に持ってくるな!!」


親書の内容を馬鹿馬鹿しいと思い破り捨てると、それを持ち込んだ部下を怒鳴りつける。

それはそうだろう。

親書の内容は『国際交流会の参加以来』だったのだ。

数多の国の国王やその重鎮を集めて、国際的な問題を話し合ったり、人脈を広げるための交流の場を作ろうとするその会議の有用性はすぐに理解できた。

約五百年周期で現れて人界の多大な被害をもたらす邪神が、いつ現われてもおかしくない現状を鑑みれば、この会議は早急に実現すべき内容かもしれない。


しかし、だ。

歴史と伝統、人界最大の権力を持つ三大国家が会議を開くのならば話は分かる。

だが、相手はつい最近できた西方諸国をまとめ上げただけの国家とも呼べない同盟の盟主が主催したいと言ってきているのだ。

大国の威信にかけて、この件は握りつぶす必要がある。

そう思い、部下にすぐに他の国にも同様の話が来ても「そんな会議には出席するな!」と圧力をかけるために部下に奇声を上げる。


「お待ち下さい陛下!」


しかし、そんな私に先程親書を持ってきた部下が待ったをかける。

忌々しく睨みつけると男は敗れ去った親書の一部を手に取り、私の前に持ってきた。

その瞳は真剣みを帯び、その場所を読んで欲しいと訴えかけていた。


「まったく。これが一体なんだというんだ・・・」


そう思い、その一文に眼を通す。

そこには・・・・ 『連盟者 コーフィ=チープ』と書かれてあった。


「ぐ、ぐぁあアアアアアア!!!」


私は頭を抱えて叫んだ。

それはもう力の限り叫んだ。

しかし、叫び疲れたそこにはバラバラに破り捨てられた親書が散らばっていた。


時間は戻ってこない。


その事実に項垂れる様に椅子にもたれかかると、燃え尽きた灰のように白くなり私はガックリと肩を落とす。

周りの部下達は何が起こったのかわからなかったのだろう。

慌てているが、今の私にはそんなことは関係なかった。


(こ、この事実が知られれば・・・ 我が国は・・・)


遠い空を見上げるかのように天空を見上げて、私は職務を放棄した。


(ああ、それが青いなぁ~・・・)








ゲネシック興国の国王たるバサリック・アーバン・ズィー・ゲネシックはある会談途中にその新書を見ることになる。

それは、とある西方の国の外交官との秘密の会談。

他の人物に聞かれるわけにはいかない。

そんな秘密の会談に入ってきた男はこの国の宰相たる人物だった。


「これはこれは宰相殿。一体どうされたのです?」


外交官の男は慌てた様子で会談の場に入ってきた宰相を悠々と見つめている。

そのことから、先程まで会談の内容が男にとって都合の良い内容だったことが窺える。

そんな彼とは裏腹に、バサリックは宰相からもたらされた親書に視線を落とすと顔色を悪くしていった。


「オーラン殿。」


「なんですかな? バサリック国王陛下。」


青い顔をしたバサリックの問いかけに、とある国の外交官のオーランは何もわかっていない様子で平然と尋ねた。


「今回の会談での内容はなかったことにしたい。」


「は? それは・・・ 何の冗談でしょうか?」


バサリックの突然の申し込みにオーランは一瞬目を見開いて訳が分からず、少しばかり沈黙すると言葉を返す。


「冗談ではない。今回の会談の内容・・・ いや、貴国への援助の話も後ろ盾の話もなしにしていただきたい。」


そんなオーランの言葉をバサリックはバッサリと切り落とす。

それどころか、今までの関係すらなかったことにししようという発言にオーランは目を見開き立ち上る。


「な!! 突然何を言い出すのです! 西方に突如として現れた同盟を切り崩す。これは、我が国と貴国との共通の目的ではないですか! 教会とのつながりがあり、直接手が出ないので我が国に援助と言う形で手を貸すことでこれをなすのが我らの共通の使命だったはずです!」


そして、怒声を上げてオーランはバサリックに今まで二人で話してきた内容の認識について齟齬がないことをつげ、その考えを改めてもらおうとした。

しかし、バサリックは首を横に振る。


「悪いが。事情が変わったのだ。この文には参加を要請する国の名も書かれている。その中には貴国の名も記されているようだ。つまり、これと同じ物が貴国にも届くということだが・・・ まぁ、最初の部分だけなら読んでも構わんだろう。」


そう言ってバサリックはオーランに数枚ある親書の一番最初の紙だけをみせる。

それを見たオーランはわが目を疑った。

その手紙の内容はいたって簡単なもので『国際交流会開催の依頼書』だった。

が、その発起人が三大国家ではなく、つい最近できた西方の同盟の盟主だというのが気に入らない。

普通ならば、三大国家の国王であるバサリックは一笑にふすはずの内容だ。


先程まで、つい最近できた西方の新興勢力である諸国同盟を内部分裂させて解体するための作戦会議をしていたのだ。

なのに、バサリックはこの依頼書を見た瞬間に先程までの話を無しにした。

まるで、この交流会に参加せざるを得ないとでも言った風な感じだ。


「参加されるのですか?」


一応、念のためオーランはバサリックに確認をとる。


「ああ、参加せざるを得ん。」


バサリックのその眼には揺らぐことのない決心が光を帯びていた。


(いったいなぜ・・・)


西方最大の国家、オブリュの外交官オーランは興味深そうにバサリックが持つ親書の二枚目以降が気になるが、バサリックがそれを見せることはなかった。


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