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魔法王のお願い

調理に関する話が終わり、この国でのヤングドの働きぶりや夫婦生活について聞いていると時間は瞬く間に過ぎていく。

ヤングドは王としての知識や配慮に多少欠けるが、まぁそこそこの頭の良さと容量の良さで乗り切っているらしい。

まぁそれも陰で支える御醍五条一族の力を借りての話なので、名君や賢王と呼ばれるほどじゃない。


しかし、九十九姫も御醍五条一族も彼の部下達でさえ、そこは気にしていないという。

なぜならば、それらを遥かに凌ぐ魔法の才と資質がヤングドにはあるからだ。

本来ならば、九十九姫の婿養子になった後は国の中枢で魔法技術や開発を一任される組織の長になってくれるのが理想の形だったそうだが、自尊心と野心が強いヤングドはそれでは納得しないだろうという判断で、前王は彼に玉座を譲ったそうだ。

無論、前王太子であった九十九姫の兄は大反対だったが、今は大人しくしているらしい。

まぁ問題が起こればすぐにでも蹴落とすつもりだったのだろう。

聞けば、そのための準備もしていたという。


(まぁ確かに、傍から見たら魔法の知識が高いだけの野心家だからな・・・。国政なんてできないと思われるのは仕方がないか。)


しかし、前王の判断は前王太子の予想に反して正しかった。

王としての最良ではないがそこそこ有能で、おまけに魔法使いとして超一流の彼はこの国の魔法使いと魔法技術を瞬く間に発展させて国土を広げていった。

結果、もはや前王太子の出る幕はなくなった。

なにせ、国土が3倍以上に膨らみ人の入れ替えが激しくあったのだ。


彼によって鍛えられた魔法使い達は今ではこの国の軍部を牛耳っている。

ヤングドを排斥しようとすれば、この国の軍事力すべてを敵に回すことになる。

おまけに、彼は国民にも好かれている。

理由は二つ。

一つは、敗北した国の人達を奴隷にしなかったため、配下に収めた国の人々は特に不満を言わなかったこと。

もう一つは、魔法技術による生活基準の向上。


彼は魔法を戦闘面だけでなく、生活面でも使いやすい物を開発した。

それは当初、傭兵時代に野営などの生活面を少しでも良くするための技術だったが、それを一般化したことで、この国の生活水準は三大国家の平均的な庶民より上である。

以前は小国であったために低かった生活水準が、大陸最大の権力を持つ三大国家に匹敵するところまで上がったのだ。

国民は両手を上げて喜んだことだろう。


そのせいで、他国からはその技術欲しさに戦争を仕掛けられることがままあるが、この国の兵数はまだ三大国家には遠く及ばないが、兵士の強さだけは三大国家を上回っているので問題ない。

そんなわけで、たびたび戦争をしながらもこの国には人がドンドン集まってきているらしい。

将来的には三大国家と盟を結び。

大国の仲間入りを果たした後で、周辺の国に魔法技術を輩出して地盤固めを行う予定だそうだ。


「待たせたな。」


日が傾き、窓の外がうす暗くなり始めた時にそう言ってヤングドは部屋に訪れた。


「いや、大変有意義な時間を過ごさせてもらったよ。」


そう言って俺はヤングドに九十九姫から聞き出した調理方法や生活向上のための魔法をメモした紙を見せる。


「おいおい。調理法はともかくとして、この魔法の類は一応国家機密だぞ?」


「良いじゃないですか。この国の民ならば誰でも知っている基礎知識ですよ。他の国も何人もの間諜を送り込んでその技術を盗んでいるとも聞きますしね。」


ヤングドの言葉に九十九姫が反論すると彼は頭を掻きながら「まぁいいか」と呟いた。


「コーフィ。悪いがお前にお願いがあってな。ついて来てくれ。」


そう言って彼は部屋を出ていくので俺もその後を追う。

その後ろから九十九姫が悲しそうな顔をしながらついてくる。

先程まで一緒にいた侍女たちはそんな九十九姫を心配そうに見つめながら彼女の後を追う。


(いったい何があるのかな?)


先程までの天真爛漫な笑顔の絶えない九十九姫が一転して苦しそうな悲しそうな表情で黙々と俺の後をついてくる。

気になってチラチラと後方を見てはヤングドに事情を聴こうと隣に並んで彼の顔を覗きこむと、そこには厳しく己を律した男の顔を保とうとして口元に自身の力の歯痒さを噛みしめ、瞳には悲しみを貯め込んだ男の顔があった。


(これは・・・)


面倒な事態が待っている。

そう確信したが、逃げるわけにはいかなかった。

俺にとって数少ない友人のお願い。おまけに相手は国王とその妻である王妃の2人が大きくかかわっている。

国家間の問題ならば手伝う気は一切ないが、どうやらこの2人の表情からしてそうではない。


(ではいったい何の様なのだろうか?)


という考えは持たなかった。

だって、今からその話を聞くしね。

詮索して先手を打つとかしなくても、面倒なら断ればいい。

これは命令でもなければ、交渉の場でもない。

友人同士の私的なお願いなのだ。


そんな楽観的な考えの下で歩くこと十数分。

いや~、長いこと歩いたね。

やっぱり王宮は広い。

ここは王宮から少し歩いた隔離施設の様な場所の様だ。

なんだか、何かを厳重に守っている様子が窺える。


しかしそれは恐らくは危険物ではない。

そういった物を監視している時に出る独特の緊張感はない。

寧ろ、『他人に見られたくない物』でも隠しているような感じだ。

皆、俺を見るたびにヤングドにお伺いを立てている。

彼はそれを手を上げて「構わん」とだけ言って中へと進んでいく。


そして、一つの扉の前に数人の子供達がたむろしていた。

その中の2人には見覚えがある。

確かこの国に来た時に起こった模擬戦に参加していた子供達だ。

名前は確か御醍五条 よろず君とヴァリス君だったか。

他の子供は初めて見る。というか、万君が抱えてるのは赤子か?


もも。万。けいにヴァリス君まで・・・ いったいどうしたの? ろくまで連れ出して・・・」


それを見て九十九姫が駆け寄ると万君から赤子を預かりろくと呼んだ。

陸と呼ばれた赤子は母親に抱かれて嬉しそうにはしゃいでいる。

しかし、他の三人の子供達は皆悲しそうな顔をしている。


「父上、母上。セブンをどうするおつもりですか?」


そんな中、母親の言葉に応える様に万が一歩前に出て質問を述べる。


「お前が知る必要はない。」


「あなた・・・」


万君に冷たい一言を放つヤングドとそれを見て悲しげな瞳を彼に向ける九十九姫。

なにやら、問題があるようだな。


「隠さないでください。セブンをどうしようというのですか?」


そんな2人の様子に口を挿めない部外者の俺を余所に、万君は質問を続ける。

その背後には百と京と呼ばれた子供達が万君の服の裾を掴んで体を隠しながらなぜか俺を睨んでくる。

隣にいるヴァリス君も蚊帳の外なのか俺と同じように口は挟まないが、立ち止まっていた扉を見つめながらこちらの様子を窺っている。

いったい中には誰がいるのだろうか?

話から察するにセブンと呼ばれる子がいるのだろうか?


「お前たちには関係ないといっただろう!誰か!この子達を部屋に返してくれ!」


ヤングドがそう言って声を張り上げるとヴァリス君と万君は臨戦態勢に入った。

それを見てヤングドが憎々しげに口元を歪める。

そうして、3人は一触即発の雰囲気を作り上げた。

互いに牽制するように魔力が濁流のようにぶつかり合う。


ヤングドは魔力の量だけ見れば二人に劣る。

しかし、二対一のこの状況でもその闘志と魔力に一切の揺らぎも迷いもない。

それと引き換え、対する2人の少年の魔力には動揺と恐怖がにじみ出ているのが窺える。

それでも、2人が引かないのはそのセブンなる存在のことを気にかけているからだろう。

一触即発の雰囲気に周りの兵士たちも動けずにいた。


(はぁ。面倒だなぁ・・・)


俺はそんな一触即発な彼らを放置して彼らの前を通り過ぎて、閉ざされた扉を開け放ち中にいるであろうセブンなる人物と対面することにした。




「「「・・・!」」」




一触即発の空気の中。

悠然と自分たちの前を通り過ぎた一人の男の存在にその場にいた一同が驚愕の表情を浮かべる。

一触即発の両者の間を軽快なステップでも踏みながら歩んでいくその姿。

自分たちの頂点に君臨する至高の王とその後を追う若き優秀な子供達。


そんな両者の間を切り裂いた一陣の風は優雅に笑みを浮かべながら「開けゴマ!」と間抜けな声を上げながら奥の扉を開いたのだった。


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