魔法王との会談 総資産額はいくら?
俺はコーフィの言葉に頭を抱えた。
『1000億Gを三大国家経由で支払いたい』という謎の言葉が俺の理解の幅を超えていたからだ。
1000億Gを払えるということはコーフィが1000億Gを保有しているという予想が立つ。
しかしだ。
1000億Gもの資産をお金で保有している人間は少ない。
ほとんどの者が持っていてもお金ではなく何か別のもので保有しているだろう。
例えば家だったり、土地だったり、鉱山だったり、宝石や金銀財宝だったりだ。
そうでなければ1000億ものお金がどこかで保管され流通に出回っていないことになる。
そんな事態になれば商人や国が放ってはおかないだろう。
流通を回す為に何かしらの手段が取られるはずだ。
そうでなくとも、それほどの資金を持つ冒険者が存在すれば俺の耳にも入っているはずだ。
だが、そんな噂は存在しない。
それほどの大金を隠して保有することはほぼ不可能だろう。
だとすれば、コーフィがお金を払える理由は先程の言葉にあった『三大国家経由で』の部分に集約される。
これは表向きは『大金なので三大国家を通して支払う』という意味に取られるが、コーフィの実力を知っている俺からすれば『三大国家に払わせる』とも取れる。
その場合、三大国家はコーフィに脅されて俺に金を支払う形になり、コーフィに逆らえない三大国家の矛先は腹癒せに『東方の魔法王』たる俺に向くことは間違いない。
そもそも、一つの魔法研究に1000億は明らかに過剰な金額だ。
相手はどれほどの期間でどれほどの額を必要としてこの金額を提示したのかを知りたがるだろう。
国家機密なので『話さない』という選択肢もあるが、その場合は相手に『都合のいい解釈』の余地を与えてしまい。
最終的には三大国家 対 ヒノモトの構図が出来上がることは目に見えている。
(ヤバい! またしても我が国存亡の危機だ!!)
俺は頭を抱えてまたしても自分の愚かさ加減を見誤った。
コーフィは昔から考えなしに行動するヤンチャボーイだったが、まさか成人していい大人になってもなんでも力で解決する馬鹿だったとは・・・!
おまけに、その相手に三大国家を選ぶだなんて・・・!
(ここで三大国家と我が国との間に亀裂が入ったら、我が国が三大国家と同盟を結びヒノモトの国の基盤を盤石にするという俺の目標が達成できなくなる。こうなったら・・・)
俺は一度大きく深呼吸をしてから話の方向を転換するためにコーフィに願い出る。
「すまん。コーフィ。今の話はなかったことにしてくれ。」
「え?! ど、どうしてだい?!」
俺の突然の申し出にコーフィは先程の落ち着いた様子から一転して驚きいた表情を浮かべる。
まぁ、それはそうだろう。
国家の長たる王が調印間近の約束を反故にしたいと言い出したのだ。
普通ならば許されざることだ。
その証拠に俺の傍に控えているメイドや秘書官も驚きのあまり表情を失っている。
しかし、俺はそんなことを気にせず言葉を続ける。
「すまない。コーフィ。先程の金額はお前に断らせるために提示した額で本当はもっと金額は安いのだ。」
「それはつまり、値下げしてくれるということ?」
「いや、そうではない。」
俺が約束を反故にした理由を述べるとコーフィは『値段を変更するだけだ』と思ったのか落ち着きを取り戻して話を戻す。
しかし、そんな彼の言葉を俺は頭から否定してから言葉を続ける。
「本当は断らせて交換条件を引き出すつもりだったのだが、本当の交換条件を言おう。お前がばら撒いた魔剣の入手方法。または製造方法が条件だ。先に言っておくが入手方法は入手した場所や人物について話すだけでなく実際にその場所や人のもとまで連れて行ってくれよ?」
俺が出した条件を聞き、コーフィは少し考える仕草をして沈黙する。
各国の王達だけでなく、俺にまで教えたくないとは余程の秘密なのだろうか。それとも製造方法が秘中の秘なのか?
しかし、もはや史上最強の存在であるコーフィが魔剣如きの情報を漏洩したくないとは思えない。
まさか、魔剣よりもヤバい物を隠しているのか?
「もし、魔剣の創造主に会うとしたら、会うのはヤングドだけかい?」
しばらくの間、逡巡した結果。
コーフィはそう言って口を開いた。
やはり魔剣には、その存在以外に隠したい何かがあるのだろう。
そして、その隠したい何かは各国の王や世間一般には言うことのできない代物の様だ。
それを知ることはコーフィの『弱み』を握ることになる可能性もあるが、下手をするとコーフィを『敵に回す』恐れもある。
正直言ってこれは『危険な賭け』だ。
(普通の国王の思考ならば、こうなるのだろうな・・・)
そんなことを思いながら俺はコーフィに対して力強く言葉を返した。
「ああ、会うのは俺だけだ。そこで見聞きした情報は全て俺が選別して王国に持ち帰る。だからお前は安心して合わせてくれればいい。」
残念ながら俺は王としてまだまだ未熟だ。だが、そのおかげで王としての立場よりも、俺は魔剣の製造方法に対する欲求の方が勝っているし、その欲求を純粋に選ぶことができる。
「ふぅ。頼むから余計な情報を撒き散らさいでくれよ?」
コーフィはそう言って俺に頼むと約束を交わしたことを意味する握手を求めてきた。
俺はガッシリと両手でその握手に応じるのだった。
その後、雑談交じりにコーフィに説教をした。
「いくらお金が欲しくても三大国家を脅すのはどうかと思うぞ。」
「脅す? なんのこと?」
俺の言葉にコーフィは『何のことかわからない』ととでも言いたそうに答える。
「1000億Gの話だ。三大国家を脅して引き出すつもりだったんだろう?」
「君は失礼だな。俺がそんなことするはずないだろう!全く、君は昔から俺を何だと思っているんだ・・・」
俺の言葉をコーフィは「失礼な奴だ!」とでも言いたげにプンプンと怒り拗ねだした。
「え・・・ じゃあ、聞くがどうして三大国家経由なんだ?」
「冒険者時代に三大国家には報酬として多額の金額を貰う約束にしていてね。分割払いにしてるんだけど。受け取るの面倒だから預けてるんだよ。ただ、必要な時には引き出せるようにはしているんだよね。」
コーフィのその言葉に俺は空いた口が塞がらなかった。
いったいぜんたいどんなことをすればそんな風になるのか・・・
「ち、ちなみに・・・ 三大国家にいくらぐらい預けてるんだい?」
「預けてるお金? すぐに引き出せるのは多分は1500億ぐらいじゃないかな? 三大国家以外の国にもお金を預けてるから総額で2500億までなら用意できると思うよ。」
ちなみに、預けているお金が2500億なのであって『分割払いしている多額の報酬』は別に存在する。
コーフィ=チープ
それは世界の重鎮たちによってその実力を秘匿された世界最強の生物にして、世界で最もお金を持つ人物なのかもしれない。