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東方の宴 寿司 それは東方の神秘

俺がスシを食べて、謎の毒に侵されている所を目撃したのか。

心配そうにこちらに駆け寄ってきた。

その隣には少し遅れて九十九姫も一緒だ。


ヤングド同様、彼女も心配そうにこちらを見ている。

どうやら無用な心配をさせてしまったらしい。

俺は差し出されたお茶を飲み干すと一息ついて2人に事情を説明する。


「つまり、毒物が混入していたと?」


ヤングドは話を聞き終わると視線をスシを握ってくれた店長を睨みつける。

店長は「そんなことはしてやせん!」と容疑を否定。

いや、というか本気で殺す気ならお茶なんて出さないだろう。


「あなた。それはないんじゃないかしら。権兵衛さんにはコーフィ様に毒を盛る理由がありませんし、それに先程聞いた症状はワサビのせいではないかと・・・ あなたも初めて食べた時には悶絶していたではないですか。」


そんなヤングドを九十九姫がやんわりと宥める。

彼女の言葉に昔のことを思い出してその言葉に納得したのか。ヤングドは「ああ」と何かに納得したかのように小さく呟いてからこちらに視線を戻した。


「コーフィ。多分、その症状はワサビという食べ物でな。東方で刺身を食べる時に良く使われるものでな・・・」


と、俺にワサビについて説明を始めた。

後ろでは九十九姫が権兵衛さんと呼ばれていたスシ屋の店長に「先程は主人が失礼を・・・」と謝っていた。

権兵衛さんは王族に対しても不遜な態度で「頂ければ問題ありやせんよ。それよりも、何か握りやしょうか?」と素晴らしい職人魂を見せてくれた。


「お~い。コーフィ?聞いているのか?」


そんな2人のやり取りを見ていた俺にヤングドが「俺の話を聞け!」と言いたげなジト目を向けて来ていたので視線を戻す。


「ああ、聞いてたよ。さっきのはワサビっていう東方で使われる調味料なんだろう?初めて食べてびっくりしただけだよ。」


俺は聞き流していた話をなんとか思い出してヤングドと話をしながらまた席に着いた。

彼は俺と九十九姫の間の席に座ると「お勧めをワサビ抜きで」と権兵衛さんに注文した。

それに続いて九十九姫が「同じ物をワサビありで」と注文した。

それを聞いてヤングドが「普通にお勧めって頼めよ」と小声で指摘し、そんなヤングドを見て九十九姫は「フフフ。良いじゃないですか。好き嫌いは人それですよ」と笑っている。

そんな2人を見ながら俺も権兵衛さんに「2人と同じ物をください」と注文する。


「ワサビはありでいいのかい?」


権兵衛さんの質問に俺は「お願いします」と答えると彼は「かしこまりました」と返事を返して握り始めた。


「それにしても、いつ見ても分からねぇな。寿司職人ってそんなに難しいのかね?」


権兵衛さんがスシを握るのを見ながらヤングドが疑問を独り言のように呟いた。

確かに言いたいことは分かる。

スシという料理はオニギリに魚の切り身を乗せただけの料理だ。

一見すると誰でも作れそうな料理に見えるが、観察しているとその難しさがわかる。


オニギリと違い、ただ硬く握るだけではだめだ。

そもそも、魚の刺身と合わせるためにご飯に何か調味料をかけてご飯を柔らかく仕上げているのだ。

なのに、固く握ったのでは調味料の意味がなくなってしまう。

おそらくはご飯が微妙に酸っぱいのはこの調味料のせいだろう。

おかげで、脂の乗った新鮮な魚を食べても後味はさっぱりしていて何個でも食べられそうに仕上がっている。


さらには握る時にご飯だけでなく上に乗せる刺身も一緒に握っている。

この時に強く握ってしまうと刺身がボロボロになり見栄えが悪くなる。

だからと言って握る力が優しすぎると下にあるお米がボロボロになってしまう。

それらを防ぐためには絶妙な力加減が必要だ。

それは職人技でしかなしえない匠の技の賜物だ。

素人ではまずこの技術を身に付けるだけでも大変だろう。


おまけに、この握る速度は極力短い時間でなければならない。

永い時間をかけると手の温もりが刺身に移ってしまい、生暖かい刺身を食べることになる。

それでは寿司が不味くなってしまし、暖かくなった生ものは危険だ。

それでは食べることすら拒絶されてしまうだろう。


故に寿司職人は技能職で間違いないと俺は思う。

という、考察を1人でしていると隣では国王夫婦が楽しげに話をしている。

どうやら九十九姫がヤングドにスシがどれだけ作るのが大変かを解いているらしい。


そんな2人を見ながら俺は差し出された権兵衛さんに握ってもらったスシを食べる。

うん。

おいしい。


見た目、作られる工程。

それらは一見シンプルで味気なく、誰にでも作れそうに見えるのに実際にやってみると奥深く底知れない。神秘的な料理。

そこには、新鮮な魚を新鮮なままおいしく頂くための匠の技が隠されていた。


結論、スシとは東方の神秘である。


こうして俺は宴の席でスシをお腹いっぱい食べて満足げに宴を後にするのだった。


・・・・

・・・

・・


「あ、飾り切りについて聞くの忘れた・・・」


宴が終わり部屋に案内された後で思い出した重要案件に俺はスシの持つ神秘の恐ろしさに驚愕した。

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