宴への道中
これから俺の唯一と言っていい友人であるコーフィ=チープの歓迎会を行う。
≪東方の魔法王≫にしてヒノモトの国の王である俺の友人だからな。
ただの冒険者だが、国を挙げて歓迎を行うのだ。
け、決して手違いで兵を差し向けたことを許してもらう為じゃないぞ?!
お、俺は一国の王で相手は冒険者をやめて現在はただの店の店長なんだ。
俺が許しを請う必要なんて全くない。
でも、さすがに歓迎の宴を開いてもらったのだ。
いきなり襲ってはこないだろう。
そんなことを思いつつ、コーフィと同じ馬車に乗って王宮に向かいながら世間話を行う。
今現在何をしていたのかや、コーフィの冒険者時代の話などを聞き出した。
どうやら、コーフィは中央ですでに伝説化している≪散歩に行こう≫の創設者であり、異名は≪無敗の防壁≫だそうだ。
確かに、こいつの結界魔法は俺でも破るのが面倒な代物だ。
そんな異名がついてもおかしくはないだろう。と思いつつ、魔法なんぞよりも身体能力の高さで異名がつくと思っていたので驚いた。
「お前は戦いに参加しないのか?」
「う~ん。僕が出ると他の子が育たないからね。冒険者でパーティーを組んでたのは魔法技術を冒険者に教えるのと魔の森を攻略できる人材の育成が主だったからね。まぁ、でも最後のパーティは皆、仲が良くてね。次を育成する気になれなかったんだよ。だから今は喫茶店のマスターをしてるよ。」
そう言ってコーフィは胸元から何かメモを取り出して俺に渡してきた。
「是非、今度遊びに来てよ。」
そう言って渡された目を受け取り広げて見ると喫茶店のあるであろう場所を記入した簡素な地図とサービス券が入っていた。
サービス券は魔法による自動書記でなく手書きの物だ。
少し歪な字で書いてある。
「これ・・・ 魔の森の中なんだが・・・」
地図はものすごい簡素であり、最寄りの街の名前とそこから140キロほど北に行き、さらにそこから30キロほど西に行った場所だった。
うん。
まずこんな場所に行けないよね。
魔の森の140キロってかなり実力がいるよ?
それも、複数人の実力者が徒党を組まないと入れないよ?
国王になる以前、魔の森の実力を知るために一度だけ潜ったことがあるが、俺個人の実力ではどう頑張っても50kmゾーンを超えることがやっとだった。
100kmは超えられない。
超えようと思ったら五大将軍を引き連れて行かないとまずいレベルだ。
まぁ、コーフィなら大丈夫なんだろうけど・・・
同じ魔法使いの同門であり、兄弟子としてはとても複雑な心境により「こんな危険な場所に行けるか!」というのが躊躇われたので俺はそっと懐にしまうことにした。
「俺も忙しいから。約束はできんぞ。」
「そうか・・・ 残念だよ・・・」
俺が予防線のために言った言葉を真に受けてコーフィは1人ショボくれているが気にしない。
ここは兄弟子として「いや、行こうと思ったらいけるんだけど。俺国王だしね。」というアピールをしなければならないのだ。
「そういえば、初めて三大国家の国王に会いに行った時も歓迎の儀式を受けたけどあの方法って危険だからやめた方がよくないかな?」
コーフィは俺が行けないことを残念に思いながらも仕方がないと割り切ると話を切り替えてきた。
だが、切り替えてきた方向が急すぎて俺には理解できない。
「歓迎の儀式ってなんだっけ?」
思わずそう聞き返すとコーフィは「もう、何言ってんだよ。さっきを使って行ったあの儀式だよ。」と苦笑いを浮かべながら答える。
「え・・・」
俺は思わず素で驚いてしまった。
「ん? どうかした?」
コーフィは俺が驚いたので不思議そうに首を傾げながら尋ねてくる。
そうか。
コーフィにとって俺の部下や息子の攻撃は歓迎の儀式なのか・・・
そう言えば、10年ぐらい前に風の噂で三大国家の近衛騎士団が合同演習中に不慮の事故に遭い負傷って話が流れたが・・・
まさか、三大国家の国王よ・・・
コーフィに近衛騎士団を壊滅させられてから話し合いのテーブルに着いたのか?
そして、コーフィに「さっきの攻撃は何?」と聞かれて「歓迎の儀式です」と答えたのか?!
そんな馬鹿な・・・
とツッコミを入れたいがここは俺も便乗することにしよう。
「ああ! そ、そうなんだ! 三大国家が何年か前にこういうのを行ったと知ってな! 実際にやってみたんだがどうだろうか?!」
俺が手振り身振りであたふたしながら答えるとコーフィは困ったような笑みを浮かべて「服が汚れるからやめた方がいいかな」と答えた。
ああ、お前にとってはその程度の事だろうよ。
本当は国王に簡単に謁見できると思ってやってきた馬鹿を始末する手段なんだがな・・・
強いとは思っていたが、俺の息子にヴァリス、五大将軍の3人とその直属の部下相手に軽くあしらう程度の力で勝つとは思いもよらなかったよ。
まぁ被害は出なかったし、今回のことでバカ息子と問題児が改心すする切っ掛けになるだろうし良しとしよう。
五大将軍やその部下達には良い演習になったということで納得してもらおう。
「あ、そうだ。ヤングドにお願いがあるんだけど。」
俺が一人納得しているとまたコーフィが話を始める。
「ん? なんだ?」
まぁこいつと俺はそんなに仲がいいわけじゃないし、何か理由があってきたのだろうと察しがついたので一応話を聞くことにした。
「うん。実は新しい魔法の開発を依頼したいんだ。」
コーフィが持ってきた話は俺への新魔法技術開発の依頼だった。
コーフィはすでに師であるオールド=ヴィルターの下で最高峰の魔法技術を手にしている。
というか、こいつは旧式の魔法を使えない。
そんなわけで、すでに最新最高の物を持っているのにまだ欲しがるのか・・・
と頭を悩ませつつ話を聞くと必要なのは『食材の保存』に必要な魔法らしい。
「そんなの知るかー!」
と声を大にして叫びたくなったが、こいつの依頼を受けるのは悪くない。
なにせコイツはあの≪散歩に行こう≫のリーダーだった男だ。
≪散歩に行こう≫が今までにしてきた功績は非常に多く、非常に大きい。
その中に一つ。
俺がかなり気になっている物が存在する。
それについて、取引をしてみるのも一興だろう。
うまくすれば『魔剣』が手に入る可能性がある。
「その話は宴が終わってからの交渉次第だな。」
俺はそう言って話をそこで終わらせると、ちょうど馬車が城に着くのだった。