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御醍五条 万

父である魔法王の命により、僕は戦場に降り立った。

共に戦場に立ったのは親友であり、兄のような存在のヴァリス。

そして、我が国の最高戦力である五大将軍である雲郭とファダルとその直近の部下。


敵はすでに五大将軍の1人、劉克と戦闘を繰り広げている。

そいつは、中央か西洋にある店の店員の様な格好をしている。

正直言って「ふざけているのか?」と思いたくなるような格好の男だが、劉克が倒しきれないところを見ると相当な実力者なのだろう事は理解できた。


我が父に『人の領域から外れた超常の存在』と言わしめるほどの怪物の様だが、僕は全く信じてはいない。

どうせ、そう言って大袈裟に誇張して僕とヴァリスをビビらせて僕らの鼻をへし折る気なのだろう。

僕達は少し悪戯が過ぎる国の問題児だからな。


問題児であることは自覚はしているが直すつもりはない。

僕はいずれ東方の魔法王である父の後を継ぐのだ。

今のうちに遊び倒しておいてもいいだろう。


そんな甘い考えで戦いに出てすぐに、ヴァリスの奴が作戦を無視して攻撃を開始した。

後ろにいるファダルが怒声を上げて怒り狂っている。

雲郭はすでに予期していたのか的確に部下に次の指示を飛ばしている。

さすがは、歴戦の勇。

どのような事態にも動じない精神力と胆力は称賛に値するが、その必要はない。


なぜなら、ヴァリスはすでに決めにかかっている。

劉克との戦いで疲弊した相手に手加減の一切ない攻撃を仕掛けるその凶悪さと残忍さは僕でも「やりすぎだろ・・・」と思うが、まぁ目を瞑ろう。

僕達は魔法を封印されていて少々暴れたい気分なのだ。


ヴァリスは二回目の封印の上に封印中にずっと魔力をチャージしていたから余計に暴れたいのだろう。

僕は後ろにいる雲郭かファダルに相手してもらおうかな・・・

そんなことを考えていると、予想に反して敵から反撃があった。


風の魔法を使ったのかヴァリスの放った『アクアブラスト』の魔法を跳ね返してきたのだ。

ヴァリスは反撃があると思っていなかったのか、対応できていない。

僕はそれを見てすぐにヴァリスの前に出て『ファイアウォール』を展開して水を蒸発させた。


敵を倒した後に、ファダルを驚かそうと思って準備していた魔法がこんなことに役立つとは思わなかった。

敵の反撃の後、ヴァリスは何かの魔法を発動させたのか。

上空に魔力をバラ撒いた。

だが、特に変化は何もない。


気になったのは、ヴァリスが魔力をバラ撒いた後に父が「コーフィ! 全て撃ち落せ!!」と叫んだことだ。

その言葉を聞いて、コーフィと呼ばれた男が上空に石を投げだした。

一体何をしているのか分からなかったので隣にいるヴァリスに尋ねようとしたが、その光景を見てなぜかヴァリスの顔色がどんどん悪くなってくる。


血の気が引き、顔色が赤から青へ行ったかと思ったら青から白へと変わっていくのだ。

おまけに口は開きっぱなし、眼は見開いたままで瞬きを一切しない。

一体何がどうなっているのか分からないが、どうやら敵はかなりすごいことをしているらしい。


そんな敵の奇行はすぐに終わった。

上空に石を投げるのをやめたのだ。

投げられた石はどこに行ったのか全く落ちてくる気配がない。


僕は仕方なく周りに命令して攻撃を再開した。

ヴァリスは呆然と敵を眺めたまま動こうとしない。

仕方なく、僕達は彼抜きで戦闘を開始した。


そして、十分後。

僕は・・・ いや、僕達は父の言った意味を理解した。


これは確かに人外の化け物だ。

僕達が敵うはずがない。

おそらくは父と同じ実力の者達が百人・・・ いや、千人いてようやく同等だろう。

父の実力は世界でも有数で上から片手で数えた数以内に入るだろう。

そんな父ですら一万人規模で必要なのだ。


普通の軍隊ならば数十万人規模かそれ以上の戦力が必要だろう。

正直言って馬鹿げている。


どの辺が馬鹿げているのかを説明すると、最初、僕は奴は風属性の魔法でこっちに攻撃して来ているのかと思ったが、戦っているとその認識が間違っていることに気づかされた。


まず第一に奴は魔法を使っていない。

風の魔法と思われていたソレは実は腕を振った時に出る衝撃波だったのだ。

道理で魔力を消費している様子も、術式を展開している仕草も見えないはずだ。

奴はただ腕を振るだけで台風並みの強風を周囲に発生させることができるのだ。


その風のせいで僕達の魔法はすべて掻き消されてしまうのだ。

おかげで、こっちは一方的に魔力を消費させられてすぐに戦えなくなってしまった。

風の防御魔法か何かだと思って高威力の魔法を使用しすぎたのがあだとなった。


いや、その高威力の魔法でも結局奴には一撃も入れることができなかったのだ。

小さな魔法で隙を窺ったところで結果は同じだっただろう。

寧ろ、魔力切れで戦えない状態になったので魔力を残して絶望せずに済んでよかった。

自暴自棄になって突進するという事態が防がれたのだ。


普通、こうなると敵に魔力をなくなったところを襲われて殺されそうなものだが、そうはならないと僕達は確信していた。

なぜなら、こっちは殺す気で戦ったが相手は殺す気は全くなかったのだ。


(いや、正確に言うならば戦ってすらいなかった。)


奴にとって僕達は周囲を飛び交うハエか何かで鬱陶しく近くを飛び回るから腕を振って払い除けようとしていただけで、別に敵意はないのだ。

近づいてこなければ放置。

それが奴のスタンスだ。


その証拠に、こちらが魔法を使う為に術式を組んでいる間は攻撃されなかった。

寧ろ、魔法攻撃を待っている節がある。

だが、こちらが気を抜くと視線で威嚇してくるので一切気を抜くことができない。

まるで、訓練されているかのように気の抜けない状況で戦い続けた僕達は魔力だけでなく精神力も削られて立つことすらままならないほどに疲弊した。

やっとのことで立っているのは雲郭とファダルの2人だけだ。

劉克は最初から闘っていたためか途中で魔力が切れて戦場から離脱した。


そして、攻撃の止んだ戦場のど真ん中で敵は服についた埃を払いながらこういった。


「もう終わり?」


その言葉に僕達は何も言わずに頷いた。

それを見て敵はニッコリと笑って「じゃ、ヤングドの所に案内してくれるかい?」と近くに立っていた雲郭に尋ねる。

雲郭は主である魔法王に合わせるべきなのかどうかを迷って口を閉じ、押し黙る。


雲郭の判断は正しい。

この人外の化け物が何の目的で父に会いに来たかは知らない以上。

我が国の存続のために父との直接の対峙は避けたい。

何か問題が起こっても我が国の武力では対処できない。

それほどの戦力をこの男は有している。


「あれ? 駄目なの? 困ったな・・・ どうしよう・・・」


雲郭が押し黙っているので男は本当にただただ困ったようなしぐさで頭を掻きだした。

演技には見えないその仕草にどことなく愛嬌がある様な気もするが、男の実力を知る僕達からすれば猛獣が目の前に差し出された肉を前にしていつ食べるかを迷っているようにしか見えない。


それほどまでに男は強大だった。


(どうするべきなのか・・・)


皆がそのことに頭を悩ませていたその時だった。


「待たせたなコーフィ。準備ができたので迎えに来たぞ。」


その言葉に振り向くとそこには我が父である御醍五条 ヤングド=ヴィルターが立っていた。

婿入りしたので父の名は御醍五条の姓をつけている。

中央や西方では苗字は名前の後につけるらしいが、東方では前につける。

父は名前に興味がないからなのか。

自分の苗字を後に、婿入りした時の名字を先につけているのでかなりおかしな名前になっている。


「お前たちも時間稼ぎご苦労だった。良い人生経験になっただろう。これより宴を行う。精一杯疲れを癒すと良い。」


そう言って父は僕達とコーフィと呼んだ男を連れて城へと帰っていく。

コーフィと言う男は父に会えたのがうれしいのか馴れ馴れしく肩を掴んで父と話をしている。

父のことは「ヤングド」と呼び捨てにしているし、父も男と話をするのが楽しいのかいつもは見せない笑顔で笑っている。

このコーフィと言う男はいったい何者なのだろうか・・・

謎ばかりが深まっていくそんな一日だった。

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