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東方の問題児参戦

「陛下は何をお考えなのだ!」


男は激高していた。

尊敬し敬愛する陛下の命といえども、今回の命令は理解できなかったからだ。

激高する彼を前にして副官の男は苦笑いを浮かべることしかできない。


「まぁ、そう怒るなファダル。陛下にも何か考えがあるのだろうさ。」


そう言って彼に声をかける中年の男の存在を見てファダルと呼ばれた男は振り返り、副官の男はホッと一息ついた。

その様子から声をかけた男が信頼の置ける人物だということを物語っている。


雲郭うんかく殿。雲郭殿は陛下の判断に思うところはないのか?」


ファダルは雲郭という中年の男を睨みつけながらそう尋ねた。


「まぁ、そう怖い顔をするな。陛下の考えはよくわからんが、命令に忠実に戦うのは臣下の務めであろう。さすがに、五大将軍のお前やワシが規律に反するのはまずいからな。文句は戦いが終わった後で酒の席ですればいい。」


ファダルの眼力をものともせずに雲郭はそう言ってファダルの前を歩き出す。

ファダルは渋々ながらもそれに続く。

そうしなければならないことをファダルも頭では理解できているのだ。

自分もそして、目の前を歩く雲郭もまた、ヒノモトの国の最高戦力とされる五大将軍の一角を担う存在なのだ。


それが「陛下の命令が理解できない」などといって命令に従わなければ国が荒れるのは目に見えている。

圧倒的な魔法の力によって支配される我が国にとって武官の持つ権限は重く、その言葉は政治にまで影響しかねない。

五大将軍の1人が陛下の命に逆らえば、力によって国を支配する陛下を快く思わない有象無象の者共がこの国をダメにしてしまうことは目に見えている。


この国は今、非常に不安定な情勢にあるのは政治に疎いファダルにもわかっていた。

数年前まで小国に過ぎなかったヒノモトの国の急速な発展は陛下によってもたらされた新魔法技術にの恩恵であり、その恩恵がもっとも活躍するのが戦場だ。

故にこの国は戦争で勝ち続けることで大きくなった。


そんな国の急速な発展によって国土と民を手に入れたために法改正は間に合わず、各領土の民の意識の差などの問題も多々ある。

そんな微妙な国のバランスが崩れていないのは陛下とその陛下を手に入れた御醍五条ごだいごじょう王家とそれに仕える優秀な文官達の力があってこそだ。


「うちの王様は政治に疎いからな。ワシ達の様なごつい武官が気を使わねばならん。」


そう言って前を歩く雲郭の言葉にファダルは無言で頷いた。


五大将軍の1人であるファダル=モルダートは魔法王がこの国に来る前に拾った教え子で傭兵団時代から魔法王の片腕として戦ってきた。

かたや、もう一人の雲郭は魔法王が来る以前からヒノモトの国の大将軍であり貴族社会でも武門のトップに立つ御手洗三条みたらいさんじょう家の現当主である。


雲郭の実力自体は五大将軍最弱ではあるが、長年にわたり国を支えた経歴と貴族たちの反乱を抑えるために今でも軍部のトップに立ち、便宜上は五大将軍の長ということになっている。

本人は実力が一番下なので遠慮したいのだが、兵法にけや面倒見のいい性格の雲郭を五大将軍の残りの四人は長として認め、魔法王もその指揮能力には一目を置いている。


「しかし、雲郭殿。ヴァリスやよろず様の出陣はさすがに文句を言うべきでは・・・」


ファダルは周辺に人がいないことを確認すると雲郭にそう話しかけた。


「まぁ、気持ちは分からんでもない。」


ファダルの言葉に雲郭も少し不安な顔をして空を見上げる。

先程、名の上がった ≪問題児≫ ヴァリスと ≪我が儘小僧≫ 万は面倒見のいいおおらかな性格の雲郭にとっても鬼門だ。


ヴァリス。

平民であるので苗字はなくただのヴァリス。

東方で≪問題児≫という異名を持つ少年は現在15歳。

陛下がこの国に来る前に拾った子供の1人であり、体内に異常な量の魔力を有する『魔力障害者』であった。


陛下に会った4歳の時でさえ、高位の魔術師の10倍の魔力を幼少時から有していたために魔力が脳を圧迫し言語を話すことができなかった。

現在は魔力をコントロールして言語を話すことができる様にはなっているが、魔力を発散することが生き甲斐のように魔法を多用する。

圧倒的な魔力量を武器に魔法王から賜った力を欲望のままに使う為に実力は五大将軍以上、潜在能力的には魔法王を超える可能性を持ちながらも現状に甘んじて暴れ回る問題児。

現在は魔法王に力を封印されて城に幽閉されていたのだが、今回の件で外に出ることになった。


この≪問題児≫の扱いに苦労しているというのにさらに今回の作戦にはもう1人、不安要素が加わる。

そのお方の名は御醍五条 万。現在8歳

御醍五条 九十九とヤングド=ヴィルターの嫡男であり、その潜在能力はまたも魔法王越え。

将来的には魔法王の後を継ぐ優秀な王になると期待されていたが、甘やかされて育ったために現在は≪問題児≫に並び称されるほどの厄介者。


潜在能力だけで無く魔法における才能すらも魔法王を超えるほどに優秀だが現状に満足して遊び呆けている。

潜在能力が近いこともあり≪問題児≫と仲がいいので世間体も悪い。

昔、その才能を発揮して≪問題児≫の封印を解いた罰で現在は魔法王に≪問題児≫共々封印を施され現在は城に幽閉中。

だが、やはり今回の件で≪問題児≫同様に封印を解除され前線に送り込まれることになった。


「はぁ、まぁしかし・・・ 今回の件はあの二人にとって転機になると陛下もおっしゃていたし・・・ ワシらが何とかするしかあるまい。」


雲郭は不安を顔に浮かべたまま、ファダルにそう笑いかけた。

その顔に少々の不安を覚えながらもファダルもまた腹を括った。


「はぁ、まぁいいでしょう。 陛下の考えは分かりませんが全力を尽くしましょう。」


そう言って2人は部下を引き連れて劉克の援軍へと向かうのだった。



その後、2人の予想通り。

問題児は作戦を無視していきなり敵目掛けて駆け出すと『アクアブラスト』の魔法を発動し強襲するのだった。


「あの阿呆が!!」


ファダルの怒鳴り声が虚しく戦場に木霊した。

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