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魔法王の苦悩

ドゴオン!!


遠くから派手な爆音が聞こえてくる。

どうやら戦闘が始まったらしい。

曲者は処刑場に行かず、王都の郊外の荒野に連れて行かれたらしい。

まぁ、劉克が無理やりそっちに連れて行った可能性もあるが、最低でもあいつが勝負したくなる程度の実力があることを認めたのだろう。

そうでなければ、その場で拘束して処刑場に連れて行っているはずだ。


(それにしても・・・ どこから差し向けられた暗殺者だったのか・・・)


王として気になるところではあるが、武力制圧で国土を広げている者として心当たりは複数ある。

一つつきとめては制裁をし・・・ などとやっている時間はない。

俺は手にした資料に目を落としながら緑茶を片手に休憩を行う。

初めてこの国に来た時に緑茶を飲んだ感想は『不味い』の一言だったが、今ではこの味の虜になってしまっている。

飲めば飲むほど味の出る不支持な飲み物だ。


「あ・・・ 茶柱が立ってる・・・」


これは良い事があるかもしれない。

そんなことを思いながらこれからの国のことについて少し物思いにふける。


(将来、息子に国を預けるのなら、それはできるだけ平和な国の方が何かと心配ごとがなくていい。この国がある程度大きくなったら三大国家や西方諸国連盟とも話をつけて大国の仲間入りをして治安の維持を行えばこういう行為も減るだろう。)


と、楽観的に考えてあえて今は放置することにした。

それよりも気になるのは、遠くから聞こえてくる魔法の音が止むことなく続いていることだ。

どうやら、かなり苦戦しているらしい。


魔法王である俺が治めるこの国では現在、指揮官としての能力よりも優秀な戦士として能力の高い者を高い地位に置いている。

そのため、我が国の5大将軍は魔法王である俺に次いで軍の最高戦力といえる存在だ。

それを苦戦させるとは敵はただ者ではないようだ。

下手をすると正面切っての戦闘で俺が負けていた可能性もあったかもしれない。


「あなた、少しいい?」


そういって部屋に入ってきたのは俺の妻である九十九だ。

九十九は俺を見ながら心配そうな顔をしている。

その憂い顔も彼女がすると儚げで1枚の絵の様に美しい。

正直、彼女が居なければ俺はヒノモトの王にはなっていなかっただろう。


「どうしたんだ?」


俺は素っ気なく答えながら窓の外を見る。

九十九は俺の魔法使いとしての実力を認めた前王が政略結婚を持ちかけたことで俺と結婚している。

そのため、彼女は最初俺に怯えていた。

だが、俺の方も突如としてできた美人な嫁さんに四苦八苦してあまり声をかけられなかった。

そんな過去を悟られない様に今でも俺は寡黙で女には興味のない風を装っている。

無論、彼女は頭がいいのでそれを看破しているが侍女達は俺のことをそう思っているので俺はこのままのスタイルを貫く事にしている。


「ここには私しかおりませんわ。」


と前置きして、彼女は話を続ける。

この前置きは俺に何か重要な話があるか、単に甘えても構いませんよ?という彼女の優しさだ。

今回は重要な話があるのか彼女の眼は真剣だ。


「あの・・・ 今回来た来訪者の方なのですが、本当にお友達ではないのですか? 勝手ながら少しお話させていただいたのですが、あの方が嘘を言っているように感じなかったもので・・・」


そういって彼女は勝手な行動をした後ろめたい気持ちからか俯いてしまう。

一国の王妃が素性の確かでない者に勝手に会うなど危険極まりない行為だ。

だが、俺は彼女を起こることはしない。

彼女は優しく俺のことを好いてくれている。


その証拠になるかはわからないが、彼女は俺の子を3人も産み我が国は後継ぎの心配がない。

ただ、俺は過去のことをあまり話したがらないし俺の友人を名乗ることのできる人物がヒノモトの国にはいないので俺の友人を名乗る人物のことが気になってしまったのだろう。


「問題ない。俺の知り合いに喫茶店を営んでいる者などいない。」


俺は彼女にそう言って安心させようとするのだが・・・


「でも、あの方・・・ 確かコーフィさんといったかしら、最近になって冒険者をやめて喫茶店を始めたらしいわよ?」


「・・・!」


その彼女の一言に俺は身震いした。


コーフィ・・・


その名を俺は知っている。

我が偉大なるオールド=ヴィルターの開発した新魔法技術を持ってしても足元にも及ばない圧倒的な戦闘能力を持つ怪物。

奴に追いつくために俺はこの国の多くの人間に長年に渡って魔法技術を教え込みその技術の進歩を促そうとしてきた。

だが、それでも未だにあの男に通用する魔法は存在しない。


東方の魔法大国となった我が国の戦力は東方では敵なしで、中央の三大国家には数で劣るだろうが室では負けていないと自負している。

だが、そんな我が国の軍事力を持ってしても勝てるかどうかわからない怪物。

人智どころかすでに神の領域に魔法の力なしで入り込んでいるとしか思えない超常の存在。


「コーフィにどこであった・・・?」


俺は九十九にそう確かめた。


「さっき、城門の屯所でですけど?」


俺の質問に九十九は首を傾げながら答えた。


「コーフィは今どこにいる?」


「劉克さんがどこかに連れて行ったみたいですよ? 瞬間移動で・・・ というか、先程から聞こえる魔法の炸裂音は劉克さんがコーフィさんと戦っているからではないですか?」


・・・


やはりそうか・・・

コーフィが俺に会いに来ていたのか・・・

そして、俺はあいつに処刑を言い渡してしまったと・・・


「すまん。九十九・・・」


俺は力なく項垂れるととりあえず彼女に謝った。


「はい・・・?」


彼女はなぜ謝られたのか分からずに俺の顔を覗きこんで心配そうな表情を向けてくる。

きっと今の俺の顔は青ざめてひどい顔色をしているのだろう。

顔を覗いた九十九が心配そうに声をかけてくる。

だが、そんな言葉は俺の耳には届かない。

なにせ俺は今、人生の岐路の立っているのだ。

選択を間違えれば間違いなく逃れられない死の運命が待っているのは想像に難くない。

今の俺なら5分・・・ いや、2分は持つだろうか・・・


「この国はもうだめかもしれない・・・」


俺はそう九十九につぶやくと人を呼んだ。


人が来るまでのほんの数秒の間に俺は自分の馬鹿さ加減を責めた。

なぜ、名前を聞かなかったのか。

なぜ、自分の目で確かめなかったのか。

だが、そんなことをいくら考えてももう遅い。

時間はすでに動き出している。

過ちは過ぎ去った出来事でしかなく、後悔は先に立たない。

今やるべきは生き残るためにできることを探すことである。

なにせ俺は死刑を待つ罪人ではなく王なのだ。

命じれば大抵の事はできるはずなのだから・・・


とりあえず、謝罪の意を込めてコーフィのために歓迎の宴を開くことにした。

劉克をけしかけてしまった以上、無意味かも知れないがアイツなら話せばわかってくれるかもしれない。


あと、この機会に俺の子で嫡男である我が儘小僧と東方に来るまでに拾った問題児、この国の優秀な魔法使い達をコーフィに差し向けることにした。

なぜそんなことをするのかって?

歓迎の準備が終わるまでの時間稼ぎだ。

貴族もできるだけ多く集めよう。

料理は豪華に大盤振舞おおばんぶるまいだ。

下手をすると、これが最後の晩餐になるかもしれないからな。


俺はコーフィに差し向ける者達を集めてこういった。


「魔法至上主義の我が国の猛者たちよ。お前たちは殺す気であいつに挑むのだ。それでも、勝つことはできないだろう。だが、それは恥ではない。この世には魔法という奇跡の力を持ってしても届かぬ極地がある。それを見ることはこれからの君たちの財産になるはずだ。健闘を祈る。」


俺の言葉の意味を誰一人として理解できなかっただろう。

だが、この戦いの後には全員が嫌でもその言葉の意味を知ることになる。


なぜならば、彼らが赴くのは戦地ではなく、人智を超えた神の領域なのだから・・・

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