屯所での待ち時間
俺は今、東方の国。ヒノモトに来ている。
理由は新しい魔法を俺の兄弟子であるヤングド=ヴィルターに作ってもらうためだ。
食材を多く、より新鮮な状態で保存する魔法の開発は俺のお店の未来がかかっているので何としても取り付けたい。
そう思ってヒノモトの国の王都であるキョウにやってきた。
煌びやかな街並みに活気ある人々の賑わい。
どうやら俺の兄弟子は王としても優秀なようだ。
(なんだか鼻が高い!)
そう思いつつ城の城門で「国王であるヤングド=ヴィルターの友人でコーフィ=チープといいます。ヤングドには会うことはできませんか?」と訪ねてみた。
最初は国王の名を呼び捨てにする俺に驚いて一瞬剣を抜きかけたが、俺がそれを止めてにっこり微笑むと皆、剣を収めて城門傍の屯所に案内された。
それからいくつか質問を受けた。
名前や出身国、服装や国王との関係などの質問に答えると「国王に確認をとってまいります。」と言って質問してきた若い男が何処かに報告に向かって行った。
彼は何者なのだろうか。
周りの人たちは彼が恐ろしいのかすごく恐縮していたな。
男がいなくなると今度は女性がお茶菓子を持ってやってきた。
女性が入って来た瞬間、兵士たちの顔つきが一瞬変わって何かを言いかけたが女性がゆっくりとした仕草で口元に人差し指を当てると皆黙り込んだ。
何かの合図だろうか?
女性の後ろには茶器などを持った女中さんもいるようで、「何をしに来たんだろう?」と首を傾げると女性は挨拶をして俺の前に座り込んだ。
なんでもこの女性は待ち時間の間、俺の話し相手になってくれるそうだ。
こうして、俺はお茶を啜りながら茶菓子をいただいて時間を潰すことになった。
準備を終えた女性が「さぁ、どうぞ」と出してきたお茶を見て、さすがは東方と驚いた。
お茶とお菓子が中央と全然違う。
中央のお茶は茶色いのに対して東方のお茶は緑色だ。
一瞬、腐っているのか疑ってしまった。
そして、一口飲んだ感想は「苦い」だった。
コーヒーの苦さとは違う独特の苦さがある。
(嫌がらせなのかな?)
と顔を歪ませた俺にお茶を入れてくれた女性が「我が国自慢の茶葉のお味はどうかしら?お口にあって?」と尋ねてきたので俺は苦笑いを浮かべながら「おいしいです」と返しておいた。
これがこの国のお茶の基準だとすれば東方のお茶は大陸でも有数の不味さなのではないかと少し不安になった。
そして、俺はお茶から逃げる様にお茶菓子に手を付ける。
お茶菓子はチョコレートなのだろう。
黒くて四角い。
ただ少し気になるのは中央のチョコと比べて色が薄く柔らかい事だ。
(水で薄めて固めたのかな?)
と思うぐらいに柔らかくチョコにしては色が薄い。
パクリと一口食べてみると驚くべきことに柔らかくなめらかな舌触りが心地よい。
チョコレートとは全く違う甘さが口の中に優しく広がる。
(な・・・ なんだこれは?!)
俺は二口、三口と次々と黒い物体を口に運ぶ。
一口食べた瞬間からチョコレートではないことはすでに分かっているので名前が判らないので『黒い物体』呼ばわりしているがこれはとてもおいしい。
もぐもぐ食べていると目の前の女性が「ヨウカンは気に入って頂けたようで何よりですわ。」と微笑んでいた。
お茶が気に食わなかったことはバレていたようだ。
まぁ、自分でも苦笑いを浮かべていた自覚があるので仕方がないか・・・
そう思って俺は顔を上げると女性にヨウカンについて尋ねる。
ヨウカンは東方でポピュラーなお菓子だそうだ。
アズキという豆から作るそうであと必要なのはカンテンぐらいなので簡単に製造できるらしいのだが、残念ながら中央ではあまり売れないらしいので出荷はしていないそうだ。
こんなにおいしいのに少し残念だ・・・ お土産に買って帰ろうかな・・・
そんなこと思いながら女性と話していると口の中が甘ったるくなったのでお茶を啜る。
お茶を啜るとまた口の中が苦くモヤモヤするのでまたお茶菓子を食べる。
そんなことを繰り返していると一瞬にしてお茶とお菓子がなくなった。
それを見て女性が「おかわりもありますよ?」と言ってヨウカンを出してきた。
今度のは半透明な中に黒っぽい豆や金色に輝く豆が入っていた。
「いただきます。」
そういって俺はお茶のお代わりも求めてお椀を彼女に差し出した。
女性は「喜んで」と微笑んでお茶のお代わりを入れてくれる。
気づけば俺はお茶菓子とお茶を飲みながら女性と談笑していた。
これぞ東方の神秘なのだろうか。
最初は不味いと思っていたお茶も今ではなんだかおいしく感じるし、次から次に出てくる様々なヨウカンは俺の胃袋に吸い込まれるようにして消えていく。
俺、こんなにお腹すいてたっけ?
女性はなぜか昔のヤングドについて知りたがったので師匠と共にいた時間の話を少しした。
話を聞く女性はヤングドの昔話を楽しそうに笑って聞いているので、ヤングドと仲がいいのかもしれない。
恋人かなにかだろうか?
いや、たしか王になったヤングドは結婚していたはず・・・
奥さんかな?
と女性の正体について考えているとさきほど俺に質問をして去って行った男が返ってきた。
ヤングドとの会話が終わったのだろう。
これでヤングドに会うことが出来ると思い立ち上がった。
だが、この後。俺はヤングドの部下っぽい男にものすごい剣幕で怒鳴られることになるとは思ってもみなかった