東方の魔法王
俺の名前はヤングド=ヴィルター。
彼の有名な大魔法使いオールド=ヴィルダーの直弟子だ。
世間的にはオールド=ヴィルターの直弟子は俺と兄弟子のマルドの2人ってことになっているが実際は3人いる。
まぁ、こういう身内の話はどうでもいいので今は流そう。
俺は今現在、東方のヒノモトの国の国王であり≪東方の魔法王≫として東方の国々を次々と吸収、合併して力をつけている。
いち早く俺の才能を見抜いて姫を送りつけ玉座を明け渡した俺の義父はなかなか頭のいい男だ。
義兄は頭が悪く俺の結婚と玉座につくことを良しとしなかったので、暗殺を考えたこともあるのだが、俺の奥さんである九十九の願いでそれだけはしなかった。
なので、正々堂々と代理戦争をして戦うことにした。
代理戦争の方法はこの国でもっともポピュラーな五番勝負と言うのを受けた。
お互いに5人の代理人を立てて先に3勝した方が勝ちというものだ。
まぁ、俺は東方に来る前から才能ある者を見つけて弟子にして鍛えてきたので5勝するのは楽勝だった。
なにせ、俺の師匠が考えた新魔法技術は俺と俺の弟子以外には直弟子の2人しか知らないのだ。
師匠が開発した新技術は以前まで主流だった魔法技術を遥かに凌ぐので相手にならない。
俺はあっさりと5戦全勝し、玉座を奪うと大幅な国の改革を行った。
まず最初に行ったのは俺の魔法技術を国内に広く広めることだ。
それによって力を蓄えて他国を淘汰する。
無論、技術を盗もうというスパイもいるだろうが残念ながら俺の開発した技術付与魔法によって技術が漏れることはない。
俺は『与えたい相手に与えたい魔法技術を与えること』ができる。
それが俺の『技術付与魔法』だ。
無論、与えられた技術を使いこなせるかは本人次第だが、俺には『人の適性を見抜く魔眼』があるので十中八九その魔法を使えるようになる。
付与された魔法使いが裏切り者で技術を他の者に教えると言う可能性についてだが、それは俺の技術付与魔法で覚えた魔法使いについてはありえない。
なにせ彼らは新技術の使い方は分かってもどういう原理なのかは理解できていないのだからな。
まぁ、おかげでこの方法で教えた者達は研究者には向かないので俺に忠誠を尽くす奴を探してをそいつらには別に原理を叩き込む必要があるのだがそれは後でいい。
そうした積み重ねもあって俺は今現在、東方で最大の国家と化したヒノモトは俺が即位する以前の7倍以上の国土を手に入れている。
総人口も10倍以上に跳ね上がり活気のある国だ。
これほどの大国は大陸の中央にある三大国家を除けば存在しないだろう。
このまま成長すればいずれは三大国家が四大国家になる日も近いかもしれない。
まぁそんなことをあの三大国家が許すかどうかは怪しいし、中央の方から俺の新魔法技術と同じものが全ての国に無償で技術提供されているのでこれ以上の拡大はないだろう。
(誰がそんな馬鹿なことを・・・!)
と思って調べた所、発信元はオールド=ヴィルターだった。
師匠は俺達3人が旅立つ前に死んだはずだが、どうせ三番弟子のアイツが『自分の名前で広めたくない』とかいう理由で師匠の名前を使ったのだろう。
まぁ、これは師匠の願いでもあったので目を瞑ることにした。
け、決してあの男が怖いわけじゃないぞ!
お、俺様の魔法を使えばああ、あんなヤツ、けちょんけちょんに・・・
「国王陛下少しよろしいでしょうか?」
そう思っていると側近の男が何かを報告しに来たのか尋ねてくる。
「なんのようだ。」
俺は威厳をもって答える。
「先程から陛下に謁見したいという男が城門の前に来ているのですがいかがいたしましょう? そのものは不遜にも陛下のご友人を名乗っておられるのですが・・・」
側近の者が恐る恐る尋ねてくるが正直言って「どこの馬鹿だそいつは・・・」としか思えない。
友人と呼べるほど俺には友達なんていないしな・・・
師匠の下を去るまでは山に籠って修行の毎日だったので正直、友人なんて俺にはいない。
心当たりがあるとすれば、あの2人の内のどちらかが訪ねて来ているいるのかもしれないことだろう。
兄弟子の方は≪西方の賢人≫として西方諸国連盟の盟主をしているそうなので単独で来るとは考えにくい。
だとすると最も警戒すべきあの男がここにきている可能性がある。
正直言って弟弟子であるアイツは今何をしているのか不明である。
師匠の下を去って以降、俺は他の2人の弟子とは連絡を取っていないので2人の存在は風の噂でしか知らない。
兄弟子の方は≪西方の賢人≫として名前も売れているのだが、アイツは異名も名前も聞こえてこない。
多分、最強の冒険者と呼ばれている≪暴君≫あたりじゃないのかと予測しているのだが実際はどうなのかわからない。
「中央の2つ名付きの冒険者の名前って手に入らないのか?」
俺は側近である男にそう問いかける。
話が変わってしまって申し訳ないのだが、俺としては非常に欲しい。
「残念ながら、冒険者の得意とする魔法や本名は国の極秘事項ですので・・・」
そういって側近の男は申し訳なさそうに頭を下げてきた。
確かに、もし国同士で戦争になれば冒険者も戦力として前線に投下される。
そう考えれば2つ名は威嚇のために広めても『本名』や『得意魔法』を伏せるのは情報戦術として間違っていない。
「ふむ。で、そいつはどんな服装をしていた?」
今度は服装から推察してみる。
≪西方の賢人≫ならばお忍びでもそれなりの格好はしているだろう。
最強と呼ばれる冒険者ならば≪暴君≫という異名にふさわしく鎧でも着ているだろう。
「はい。それが東方では見かけない服装でして・・・ 珍しい衣装なので兵士の1人が本人に確認したところ『店の制服』だそうです。 ああ、ちなみにその男は今の所は城門傍の屯所で待機してもらっています。本当に陛下の友人である可能性もありますので・・・」
そういって側近は「ご友人ですか?」と尋ねる様に俺を見てきた。
ハッキリ言ってさっきの発言で分かった。
「この俺の友人が店員如き矮小な存在だと思うか?」
そう言って俺は側近の男を睨みつける。
「では・・・」
男は俺に睨まれても眉一つ動かさず冷徹な目を薄く広げて俺の号令を待つ。
「不敬罪で処刑にしろ。抵抗する場合はその場で殺してかまわん。」
「はっ!」
男はそう言って声を上げるとキビキビとした動きで俺の前から去っていく。
その動きはどこか嬉しそうにも見える。
「俺もそうだが、あの男もまた血の気が多いな・・・」
俺はそう言って笑みを浮かべる。
だが、数十分後に俺はこの時の自分の采配を後悔することになる。