表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/102

VS麒麟 会話無き攻防

俺は現在、史上最大と言っていいピンチを迎えている。

敵は古龍種に属する霊獣・麒麟。

それは群れを成して俺の前にやってきた。


数は見える範囲で100体は超えている。

そして、その数は今もなお増え続けているのが遠目にも見える。


だが、そのことを考えている暇は今の俺にはない。

なにせ相手は次から次に増えているが、俺は一人しかいない。

今、目の前にあることを一つ一つやっていくしかない。


まず最初にやることは机の運び出しだ。

麒麟の数は異常なほど多い。

それに麒麟は一体一体が人間に比べて大きい。


お店の中には入りきらない。

というか、麒麟の頭の先端にある立派な角が天井に刺さりかねないので入ってもらうのは気が引けたのだ。


「よし! いらっしゃいませ。お客様。こちらメニューになります。」


俺は机を並び終えるとお客様に対して失礼の無い様に誠心誠意、お客様をもてなす。

相手が人間であろうと麒麟であろうと態度を変えてはいけない。

相手が何者であれ、お金を払ってくれるのであればお客様に変わりはないのだ。


「ブルルル」


(く・・・)


俺の精一杯のおもてなしを受けた麒麟のボスが嘶いた。

接客態度が悪かったのだろうか。

そう思ったが、まぁこうなることは予想済みだ。


なにせ相手は古龍種とはいえ人語を話せるわけではない。

知能は人間並みでも、文字も言葉も違うのだ。

こちらの言葉で書かれたメニューを見ても、向こうは戸惑ってしまうだろう。


だからと言ってさすがの俺にも麒麟の言語が判る筈はない。


(一体どうすれば・・・)


コーフィの戸惑いと苦悩は麒麟側にも伝わっていた。

彼らは知能が高く、機微というものを感じ取る能力が高い。

故に言語を特に持たずとも同じ麒麟同士なら会話が成立し、魔獣同士であっても会話が可能なのだ。


だが、人間は違う。

言語という確かな形を手にした人は会話という明確な手段を手に入れた反面。

人以外の種族と行動の機微によって相手のことを悟る能力が低下していた。


なので、コーフィには麒麟の意図が正しく伝わらずお客様という勘違いを引き起こし、麒麟はコーフィの対応から勘違いだと気づいた。

が、彼らはコーフィの勘違いを正すことはできない。

なぜならば、彼らは人の言葉を理解しているわけではないからだ。

例え理解していても竜種だが、馬を基本形にしている彼らは人間と違い声を出す器官が根本的に異なるために話すことができない。


知能は人間並みなのに人の言葉が理解できないのはおかしい。

そう思う人がいるかもしれない。

ファンタジーの世界ではよく人の言葉を理解した魔物が出てくるのだ。


だが、人間社会と照らし合わせると現状は特に不思議ではない。

彼らは種族が違う異国人に近い存在同士だ。

例え知能が高くても日本語しかできない日本人と外国語しかできない外国人では会話を成立させるのは困難だ。


同じ人間でもできない。

会話の成立を人と魔獣が行うのは至難の業に近い。

だが、その困難を麒麟達は臨機応変に対応することを迫られた。




私は麒麟の群れでボスをしているシュルツという。

今日はこの魔の森に新しく入っていた怪物に先日の非礼を詫びに来たのだが、なぜか相手はこちらをもてなす気でいるらしい。

勘違いしていることはなんとなくわかるが、勘違いを解こうとして相手に「俺のもてなしが気に食わないと言いたいのか?!」と勘違いされては私達は全滅の憂き目に遭う。


(ここは相手の勘違いに乗せてもらおう。)


『非礼を詫びに来た相手をもてなす』という行為は別に悪い事ではない。

これを機に仲良くできればこちらの生活は安泰なのだ。

だが、すぐにその希望は頓挫しかけた。


相手は木製の台の様な物を私達の前に並べると何かを広げてこちらに見せる。

だが、こちらはその広げられた者の中身がわからないのでどうすることもできない。

友好的な態度なのは相手の動きからわかるが、何をどうするのが適切なのかは定かではない。

『どうすればいいのか』尋ねようにも・・・


「ブルルルル」


こちらには相手にわかる様な話方はできない。

私の声を聴き、相手も対応を拱いているようだ。


このままでは、『互いに理解できない存在』と位置付けられて争いになってしまう。

もしくは、相手に恥をかかせて怒らせてしまうかも知れない。

そうなれば、またも我々は全滅の負い目に立たされることになるだろう。


どうすればいいのかわからず、群れから連れてきた若い雌たちがこちらを不安気に見つめている。

群れのボスとして、ここは私が先陣を切るべきだろう。


そう思い、私は広げられた物の中から適当な物を選んでそれを頭の角を使って地面に書くことにした。

全く同じとはいかなかったが、こちらとしては精一杯出来ることをしたつもりだ。


私は顔を上げると相手を見つめる。

反応が気になったからだ。


「これは・・・! オホン。失礼しました。オーダー。ありがとうございます。」


相手はそう言って頭を下げるとまた巣の中へと帰っていった。

どうやら、対応は間違っていなかったらしい。

私は相手がいなくなったうちに他の奴らにこの方法を伝えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ