店の周りをどうすべきか・・・
「うう・・・」
二日酔い特有の頭痛と平衡感覚が定まらない感じに悩まされながらも立ち上がる。
「昨日は飲みすぎたかな・・・」
お酒を飲んだ日のことはあまり覚えていないのでどれくらい飲んだかはわからないが、この頭の痛さからして相当飲んだのだろうとは思う。
バーン!
「よ! 起きたか?!」
そう言って部屋に入ってきたのはガイだった。
彼は探索時に着る鎧姿ではなく軽装をしている。
今日は恐らく探索には出ないのだろう。
(まぁ、帰って来て早々出かける用事もないか・・・)
攻略組の探索は数週間から時に一か月かけることもあるので帰って来た時の休暇も当然長い。
人によっては一度の探索で得た報酬がなくなるまで探索に出ないという人もいるほどだ。
「そういや《魔槍の達人》に《深緑の魔法使い》、《紅蓮の射手》がこの街に来ててよ。3人にお前の話をしたら会いたがってたぞ。 またパーティを組んで欲しいってよ。」
「へ~。彼らが、懐かしいね。でも断らせてもらうよ。僕はもう冒険者じゃないからね。」
「ま、それは自分でいいな。朝食の席をそいつらと一緒しようって言ってるんだ。店代も飯代も奢りだから気にすんな。」
「ありがとう。」
俺はそういうと身だしなみを整えて食堂へと向かった。
食堂に辿り着くと《魔槍の達人》に《深緑の魔法使い》、《紅蓮の射手》の3人と恐らくは彼らと組んでいるパーティメンバーが数名おり、席に座って待っていた。
他にもガイの仲間達も座っているのでかなりの人数が同じテーブルについている。
周りの人もガイの登場でこちらを見ている。
俺達が席につくと周りは静かにこちらの様子を窺う。
ガイは有名だし他の2つ名持ちである《魔槍の達人》に《深緑の魔法使い》、《紅蓮の射手》の3人もこの街では有名だ。
「お久しぶりです。コーフィさん。この街に来たってことは冒険者に戻られるんですか?」
早速、《魔槍の達人》であるガナッシュ君がそう切り出す。
「いや~。ガイ達を送り届けただけでそんな予定はないよ。今はお店を切り盛りしないといけないしね。」
「そ、そうですか・・・」
そういうと彼は残念そうに俯いてしまった。
「まぁ、もし戻られることがあったら一声かけてくださいよ。 俺達、いつでもパーティに参加しますから。」
《深緑の魔法使い》であるセルヴィル君は俺にそういうと俯いてしまったガナッシュ君の肩を抱いて「元々、ダメもとだっただろ」と声をかける。
「あの、お三方はコーフィさんとどういう関係なんですか?」
途中で話に入ってきたのはガイのパーティメンバーであるルビーさんだ。
「ああ、この3人は《散歩に行こう》の中期メンバーだよ。ちなみに俺や他の5人は終期メンバーに当たる。 まぁ《救世主》は初期からいる最古参のメンバーだがな。」
そう言ってガイは皆に《散歩に行こう》の歴史を広める。
と言っても、彼は終期のメンバーなのですべてを知っているわけではない。
ただ、最古参である《救世主》から聞いた話を色々としているようだったし、《魔槍の達人》に《深緑の魔法使い》、《紅蓮の射手》も知っている限りで話をした。
そう《散歩にいこう》は数々の伝説を残したパーティだが、活動期間の10年間の間にメンバー変更はなされている。
最初から最後までパーティに所属していたのは俺と《救世主》の2人だけで後のメンバーは色々と入れ替わっている。
そして、仲間の語る昔話を聞きながら朝食を味わつつ懐かしい思い出に浸るのだった。
(こうしていると、問題なんか忘れてすっきりできるな・・・)
お店の周りの件をすっかり忘れて俺は皆の話を聞いていた。
が・・・
「あ・・・」
「ん? どうかしたか?」
俺があることに気づいて声を上げると話が中断されてガイがこちらを向いて尋ねてくる。
その手にはいつの間にかお酒の入ったジョッキが握られていた。
「そうだ。店の周りの魔獣を掃除したいからパーティ組んでもいいよ。」
「「「「え?!」」」」
俺が思いついたことを口に出すと、《魔槍の達人》《深緑の魔法使い》《紅蓮の射手》の3人となぜかガイが驚いた表情でこちらを見た。
「ほ、本当ですか?!」
一度断られたからかガナッシュ君が机に身を乗り出して尋ねてくる。
「うん。本当。できればもう少し戦力が欲しいんだけど。ガイも行く?」
俺はガナッシュ君に満面の笑みで頷くとガイに尋ねた。
ガナッシュ君たち3人は皆乗り気で喜んでいる。
「ああ・・・ いや、俺は無理。 というか、あんたら3人もやめた方がいいぞ。多分無理だから。」
ガイはそう言って手に持った酒を煽ると3人を止めに入る。
店の周りにでる魔獣の掃除は無理だとガイが判断したからだろう。
「ふ・・・ ガイよ。お前が最強の冒険者と呼ばれていることは知っているが、俺達の方が《散歩に行こう》のメンバーとしては先輩なんだぜ? 高々、店の周りに出る魔獣の掃除ぐらい朝飯前さ!」
今まで無口だった《紅蓮の射手》ことバトラー君がそう言ってガイの言葉を否定する。
「よし! コーフィさんの気が変わらないうちに行こう! お前らもついて来い!」
ガナッシュ君はそう言って他の2人以外のパーティメンバーにそう言って討伐についてこさせる。
「その子たちの実力は大丈夫なの?」
俺は少し不安になって他のメンバーの実力を聞いてみた。
「安心してください。皆、攻略組クラスの実力者ですから。このメンバーなら最奥の150km以降のゾーンにまで潜れますよ。」
俺の不安をセルヴィル君がそう言って払拭してくれた。
「じゃ行こうか。」
「おう!」
こうして、俺は彼らと共に魔の森にある俺の店を目指すことになるのだった。
目的は店の周りの危険な魔獣の排除だ。
そうすることで、店の周りが安全になり冒険者が来やすくなる。
(これでお店も繁盛するかな・・・)
そんな淡い期待を胸に俺は昔の仲間と共に旅だった。
・・・
・・・・
・・・・・
俺の店の周辺領域に到着。
「ブルルル」
目に飛び込んで来たのはなぜか麒麟の群れだった。
おかしい・・・
俺の店の近くにここまで強力な魔獣はいなかったはず・・・
「まぁ、でも排除できないレベルじゃないかな?」
俺はそう思い後ろを振り返って後ろにいる仲間達と作戦を練ろうとしたのだが・・・
「あれ? いない?」
先程まで後ろにいた仲間達はどこかに消えてしまっていた。
いや、いた。
何故か地面で丸くなっている。
「「「「「「「すみませんでした!」」」」」」」
そして、なぜか一斉に謝られた。
いったい何が起こったのか俺には理解できなかった。
「俺達には無理です! 撤収します!」
それだけ言うとガナッシュ君達は全力で逃げて行った。
「ううむ・・・ この数の麒麟を1人でか・・・」
俺はそんなことをつぶやきながら麒麟たちの方を見る。
その数は目に入るだけでも30頭はいる。
群れ全てがここに移住して来ていた場合は100頭を超えている可能性がある。
「はぁ、全部倒すのめんどくさいな・・・」
俺は頭を抱えつつ群れのボス的な麒麟に一歩近づくのだった。