あなたは人間ですか?
私達は現在、最速で走りながら逃げ惑っていた。
仲間達は応援を呼ぶためにコーフィさんの下に走り、私はガイさんと二人で敵を惹きつけながら魔獣のいる方に逃げ惑う。
縄張りを荒らされた魔獣は私達に対して怒りを持つが、それよりも私達を追ってやってくる魔獣に牙をむく。
どちらがより危険か理解したのだろう。
中には縄張りを荒らされても、私達を追う魔獣を見て逃げ出す者達の方が多い。
ああ、なぜこんなことになってしまったのだろうか・・・
ガイさんと共にやってきたガイさんの元パーティメンバーである伝説のパーティ《散歩に行こう》の一員だった元ガードナーのコーフィさんの店からの帰り道だった。
攻略組すら入らない冒険者達が探索に入った道から外れたその場所は普段よりも強い魔獣がひしめいていた。
冒険者が来ないので討伐されていないのもあるが、それよりも討伐できないモンスターが多いから冒険者たちの進む道が東にそれたのだろう。
この辺りには中から最強クラスの魔獣しかいないようだった。
最弱と弱がいないので狩りをするのは難しい。
採取の方はし放題だろうが、探している時間が長いと危険度が増すので慎重に帰らなければならない。
「私達ってどうやって辺りを抜けたんでしたっけ?」
ロゼがどうやって行きが安全だったのか尋ねる。
だが、それに答えようとする者はいない。
何故かは尋ねたロゼすら分かっているからだ。
元伝説のパーティのガードナーであるコーフィさんのおかげだ。
だが、それを口にしたくない人はたくさんいるだろう。
なにせコーフィさんは元ガードナーだ。
ガードナーは拠点の作成や防衛を主に担当するが、魔の森の様な長期探索を行うような場所でない限り必要とされない。
サポーターは救護班としてどこでも必要とされるし、ソルジャーはほぼすべての冒険者がその役割を担っている。
なので、ガードナーの地位は必然的に低く見下されやすい。
魔の森に探索するパーティの中にはガードナーは必要ないとしてパーティ内にガードナーを入れないパーティも多数存在する。
しかも、そういったパーティが攻略組に多いことからガードナーには足手まといのお荷物的な印象がさらに強まってしまっている。
斯く言う私達のパーティ内でもガードナーのロッシュの立場は低い。
なにせ彼には行軍時の発言権がほとんどない。
そんなわけで、誰も「コーフィさんのおかげだ」とは口が裂けても言えない。
ただ、唯一の例外はガイさんぐらいだ。
「な? 俺なんてたいしたことないだろう? あいつの方がよっぽど化け物だぜ!」
ガイさんはそう言って快活に笑いながら先頭を歩く。
その顔はどこか誇らしげだった。
きっと昔の仲間の自慢と自分が昔云ったことが真実だった皆に伝わったからだろう。
それは以前にガイさんに聞いた伝説のパーティの話だ。
《暴君》《韋駄天》《破滅の射手》《破断の魔女》《救世主》そして《不敗の防壁》といった二つ名を持つ者のみで形成された伝説のパーティ。
その実力は一人一人が人界にある国全てに認められているという。
寧ろ、二つ名のみが広がり実際の人物を見たことがない人も大勢いるだろう。
大国からの要請で人が入れぬ未開の地から出て来た謎の魔獣を対峙するお話は、英雄譚として吟遊詩人にささやかれ、本当かどうか定かではないが『実は魔の森の向こう側に行った』という噂や『六人揃えば大国と喧嘩できる』とか噂されている。
それ故にパーティ解散の理由も『大国や各国の謀略』によってという噂もあるぐらいだ。
ガイさん曰く、「そんなことはない」そうだ。
ガイさんから聞いた話では魔の森のまだ誰も言ったことのない深部まではいったことがあるらしい。
ただ、入ったは良いが実力不足のために引いたらしい。
私達からすれば、大陸中の冒険者の中でも最強と目されるガイさんですら実力不足だなんてあるわけがない。
きっとガードナーの《不敗の防壁》やサポーターである《救世主》が邪魔だったのだろう。
もしくは速さしかとりえがない《韋駄天》かも知れない。
だが、ガイさん曰く違うらしい。
まず、第一の勘違いは『ガイさんが最強ではない』ということ。
「六人の中で、俺は一番弱かったよ。まぁ、今でも最弱だろうけどな。」
という本人談。
さすがに信じられない。
本人曰く、『態度と見た目が一番強そうって理由で俺がリーダーでパーティ中最強ってことになってるけど実際は一番格下のペーペーだぞ。まぁ、あのパーティに入る前にいろいろと問題起こしたからそのせいで悪評が広まってたからそう思うのも無理ないか。』ということらしい。
そう言われればガイさんの武勇伝は伝説のパーティに入る前のものが有名だ。
伝説のパーティに加入前のそれ以前のパーティ内では浮いた存在だったので1人での武勇伝が豊富だ。
逆に伝説のパーティに入って以降は六人で語られることが多い。
二つ目の間違いは『リーダーは《破滅の射手》だ』ということ。
彼は作戦を考える参謀の様な立場で作戦の立案をしていただけで、最終的な決定はリーダーである《不敗の防壁》が行ったそうだ。
大国の軍隊との共同作戦で、作戦の立案に立ち会った《破滅の射手》こそがリーダーだと思われていたがそうではなかったという。
「リーダーなのに作戦の立案に参加しないだなんておかしい。」
という私達の反論にガイさんは苦笑しながらこう言った。
「あれは策を必要としない人種だからな・・・」
その顔はどこか遠くを見つめていた。
なぜ、どうしてそんなことを言ったのか。
この時までの私には理解できなかった。
だが、この日。
私はその言葉の意味を理解することになる。
最後の間違いは『九頭龍殺し』は六人で行っていないということ。
これも、あの光景を見た後ならば納得できるというものだ。
私達が逃げ惑っていると遂に助けが来た。
《不敗の防壁》の登場に心が躍った。
彼の放った結界魔法が私達を追う魔獣を捕獲する。
だが、魔獣を見てコーフィさんが驚きの声を上げた。
「なんでこんなところに麒麟がいるんだい?」
「俺にもわからん。」
コーフィさんの言葉にガイさんがそう答えた。
ともかく、結界に入ったので逃げ様とする私だったが、ガイさんがそんな私を止めた。
「ここにいた方が安全だ。」
言葉の意味が解らなかった私とガイさんをコーフィさんの結界魔法がつつんだ。
「あれはお店には近づけられないな・・・ すまないが少し待っていてくれ。」
そう言って彼は服を脱ぎ、シャツのボタンを緩めると動きやすい格好になる。
「ヒィイイイン!」
麒麟は嘶きと共に雷を放電すると結界魔法にヒビが入る。
そのことから、あと二回ほどの放電で結界は破られるだろうと察しはついた。
「雷の魔法は四大属性でも二極属性でもなく、対となる魔法がないとされているが、唯一対と言える魔法があるとすればそれは無属性魔法だろうな。」
ガイさんはそう言って私にヒントをくれた。
それを聞いて、すぐに私は理解した。
魔法には火・水・風・土の四大属性と光と闇の二極属性がある。
四属性は火と水、風と土がそれぞれ対となる存在である。
だが、全七属性の魔法の中で唯一孤立しているのが雷だ。
どれとも対をなさない孤高の属性とされる雷だが、その特徴から無属性、まはた純粋魔力と言われる魔法の対になるのではないかと言われている。
対になる魔法同士は反発しあうのでぶつけ合うと相殺しやすい特徴がある。
そして、コーフィ=チープの得意とする結界魔法や防御魔法の類は無属性魔法に分類される。
つまり、雷の属性で相殺しやすりのだ。
実力差が相当あれば、対の属性であろうと相殺できないが相手はガイさんの話によると200kmを超えた先にいるはずの最強クラスの魔獣であり、竜種に属する魔獣らしい。
魔獣の中でも最強種とされる竜種。
その中でも麒麟は恐らく古龍種クラスの実力があるらしい。
竜種の中でも最強とされる竜種、それが古龍種だ。
(勝てるわけがない・・・)
そう聞かされた私は絶望のあまり立ちくらみがした。
馬の形をした魔獣だったので、竜種だとは思ってもいなかったし、さらには竜種の中でも最強の古龍種に追われていただなんて思ってもみなかった。
だからこそ、ガイさんは私に今まで情報を与えなかったのだろう。
「ヒィィイイイイン!」
麒麟がもう一度なくと先程よりも大きな雷撃が発生し、二撃目でコーフィさんの結界が破られた。
そして、それを見てコーフィさんが麒麟の元にゆっくりと歩いていく。
「森の奥に帰ってはくれないか?」
そうと問いかけるが、麒麟は興奮しているのか。
嘶きを上げると先程よりもさらに大きな雷撃をコーフィさんに向けて放った。
(防御しきれない・・・!)
そう思った私は思わず目を閉じそうになったが、その速さに私の行動が追い付かなかったのか。
私が目をつぶるよりも早く、雷撃が掻き消えた。
「え・・・?」
私が何が起きたのか分からずに目を見開いて戦いを見ると、次の瞬間にはコーフィーさんの姿も麒麟の姿もなくなっていた。
「えっと・・・ なにが・・・?」
私は目の前で何が起きたのかガイさんに尋ねた。
「コーフィが雷撃を拳圧で掻き消して、その後で、麒麟の首にハイキックかまして向こうに没飛ばした。」
そう言ってガイさんが指さす方向を見ると、左にあった大樹に穴が開いていた。
その向こうでは稲光が見える。
恐らくは麒麟とコーフィさんが戦って理うのだろう。
「ええっと・・・」
私は何を尋ねればいいのか、何を話せばいいのかわからずにそう呟いていた。
「気にすんな。あれは人外の化け物だ。そんで、あれと一緒だったからこそ、俺達パーティは最強だったのさ。」
そう言ったガイさんの瞳はどこか寂しげに遠くを見つめていた。
伝説のパーティ《散歩に行こう》のリーダーであるコーフィ=チープはパーティ最強の防御力を誇る結界魔法の使い手であり、パーティ最強の戦力を持つ格闘家だった。
「コーフィさんが攻撃魔法や武器を使わないのって・・・」
「自分の拳より弱い物を持っても意味ないだろ?」
私の質問にガイさんが無情な答えを返してきた。
十分後、「いや~。久々にいい運動になったよ。」と言って帰ってきたコーフィさんの衣服はボロボロだった。衣服の下は修練を積んだであろう筋肉と古傷がたくさんあった。
ただ、今回の戦闘で追ったと思われる真新しい傷は一切なかった。
麒麟には森の奥におかえりいただいたらしい。
さすがのコーフィさんも一人では仕留められなかったのだろう。
私はそう思うことにした。
たとえ彼が、全力で戦っていなかったとしても・・・
ええ、喫茶店の話してないですね。
なんでか戦闘に走ってしまう今日この頃。
ほんわかした話って作るの難しいですね。
ちなみに、魔の森の入り口から50kmまでが初心者組ゾーン
50km~100kmまでが中間組ゾーン
100km超えたら攻略組ゾーンです。
攻略組ゾーンはさらに100~110kmまでの攻略組なり立てゾーンや110~150までの攻略組中堅ゾーンと150~以降の攻略組最強クラスの人達がいく最奥ゾーンがあります。
ただし、200kmまで潜れる冒険者は現在いません。
魔獣もだいたい50kmごとに強くなっていきます。




