一夜明けて
ガイたちが来てから一日が経過した。
昨夜は遅くに来たので宿泊施設に泊まったのだ。
「じゃ~な!」
ガイはそう言って片手を上げて挨拶をすると店を後にした。
他の仲間達も思い思いのセリフを残して去っていった。
「お気をつけていってらっしゃいませ。」
俺はそんな彼らを見送り、一礼した。
そして現在、俺はお店の掃除をしている。
昨夜はガイ達のパーティが泊まったので部屋の掃除をしなければならない。
ベッドシーツの洗濯、部屋の換気、お風呂場も掃除しなければならないので今日は大忙しだ。
いつもは喫茶店の掃除を先にするがやはり太陽が出ているうちに洗濯物を干してしまいたいので宿泊施設の方から手を付けている。
ベッドのシーツに掛布団、バスタオルにタオル、宿泊客用の寝間着と洗っては干し洗っては干しを行う。
洗う場所は近くを流れる小川で、干すのは俺の喫茶店がある木の先端まで登らなければならない。
なにせ魔の森の木は基本的にデカい。
平均が30mを超える大樹しかない。
俺の店の近くには小さいが湖畔が広がっているのである程度の日差しは確保できるが、やはりこの森で洗濯物を大量に干すには木の上に出てしまうのが一番早い。
普通ならば木の上に洗濯物を干していると魔の森の上空を飛んでいる魔獣によって汚されたり持っていかれたりするが、俺の場合は魔法で結界を張っておけば問題ない。
なにせ俺の結界魔法は《不敗の防壁》の異名を取る通り、負け知らずだ。
まぁ、あの人には破られるから本当は不敗ではないのだけれど・・・
ともかく、俺は店の中や外、屋上にと大忙しで駆けまわっていた。
(これが終ったら在庫の確認をして、それから喫茶店の掃除か・・・ 今日は忙しいなぁ・・・)
「~~♪」
忙しい忙しいと思いながらもいつのまにか鼻歌を歌ってしまう。
きっと今の俺の顔は満面の笑みを浮かべていることだろう。
だが、それも仕方がないことだと自分でも思う。
なにせ昨日は初めて喫茶店としてのメニューが売れた記念すべき日なのだ。
昨日は宣伝もしているし、ガイ達が街に帰って俺の店でのことを話のネタにしてくれればお客さんの増大は間違いないだろう。
喫茶店としての味も少しは自信があるし、ここでしか取れない特殊な食材を使った料理も美味だ。
正直言って料理の味に関しては文句を言われることはないだろう。
コーヒーとハーブティーはまだ練習中だけどね・・・
「よし!」
俺は干し終った洗濯物を見つめて声を張り上げた。
なんとなく一仕事終えた気がしてしまったのだ。
白く汚れのない洗濯物が太陽の光を反射するのか煌めいているように見える。
これを見ているとここが危険な魔の森だということを忘れてしまいそうだ。
「次は在庫の確認だな。」
俺はそう言って仕事に戻っていった。
自分にはまだ仕事があるということを声に出して認識しないと次に進めないような気がしたのだ。
なんだろう。
一仕事終えたことで今日の仕事が終わった気になってしまったのだろうか。
(ああ、そう言えばこんなに一気に洗濯物干したことないかも・・・)
今まで使わなかったので新品のまま保存の魔法をかけて放置していたのだ。
「さて、在庫は特に異常なし。」
在庫の確認は一瞬にして終わった。
在庫の確認は木の上から喫茶店に戻る時に行う。
在庫が置いてある倉庫に行くかなくても俺の結界魔法によって覆われているこの店の内部状況はすぐに確認可能なのだ。
ただ、確認する時には確認用の魔法を使わなければならない。
結界に攻撃があった場合は自動で知らせてくれるのだが、在庫の管理などの放置している物に対しては魔法を展開しないとわからない。
ただ、この魔法は鮮度もある程度分かるので非常に便利だ。
「魔法って便利だなぁ~♪」
俺は魔法の便利さに感謝しつつ宿泊施設内の掃除や喫茶店の掃除を行う。
洗濯物を干していたのでかなり時間が経っており、本来ならば店を開ける時間なのにお店の掃除が終わっていない。
(ううん・・・ やっぱり一人じゃ厳しいよなぁ~・・・)
さすがに喫茶店だけでなく宿泊施設もやるのは無理があったかもしれない。
今の所はお客様がいないが、いずれはガイ達の噂話や宣伝によって大勢の客が来る可能性があるのだ。
そう考えると今のうちに何か手を打っておいた方がいいのかもしれない。
(魔法で従業員を作れないかな?)
ゴーレムや死霊などを操る魔法を覚えた方がいいのかもしれない。
そんなことを考えながらお店の掃除をしていると突如としてドアを叩く音がした。
ドドドドン! 「開けてくれ~!」 ドドドドドドン! 「開けろ~!!」
必死にドアを叩く音と叫び声に驚きながらも俺はドアを開けた。
ドアを開けるとすぐさまガイの仲間達が入ってきた。
「た、助けてくれ! ガイさんが・・・!」
入ってきた仲間の1人が俺の肩を掴んで助けを乞う。
入ってきた人数は全部で6人。
ガイの他にもう1人。
確かサポーターのルビーだったか・・・
「ふぅ・・・ しょうがないな・・・」
彼らの慌てようからなんとなく事情を察した俺は彼らに店内にいる様に云うと店を後にした。