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不思議な喫茶店

私の名前はロゼ。

魔法使いの冒険者。彼氏は絶賛募集中。

安定、安全な仕事についていることは絶対条件で、金銭的にある程度余裕があるとありがたい。

現在は《暴君》率いるパーティに所属している。


今日は以前から予定していた魔の森で攻略組のいる場所を探索する。

数日かけて攻略組のいる場所まで移動して着いたのは二日前。

最初の二日間は採取をしながら狩りはほとんど行わなかった。

この辺にどんな魔獣がいるかのレクチャーを受けていたからだ。


それから、この辺にいる魔獣の数と質を調査した。

魔の森の状況は刻々と変化する。

だから、着いたらまず状況確認が基本だ。

これは初心者組がいる入り口付近ならばともかく、中間組のいる場所まで行けば誰でも覚えることだ。


もしそれを覚え無い者がいればその者はすでに死んでいるか、ただのバカだ。

そうでなければ、それは人の形をした人外の生物だろう。


ただ、私はそんな人は存在しないと思っていた。

最強の冒険者と名高いあの《暴君》であるガイさんですら不可能なのだから。


だが、今日私はその人外の生物に遭遇した。

以前にガイさんが所属していた伝説のパーティ《散歩に行こう》のメンバーでガードナーをやっていたコーフィ=チープだ。


今日はそんな人外の生物が開いた喫茶店になぜか行くことになった。

パーティリーダーのガイさんが「行こう!」というので私達は逆らうことができなかった。


そして、やってきた喫茶店は私の理解の範疇を超えていた。

まず、お店は木を刳り貫いて出来ており普通に看板を掲げていた。

しかも、デカデカとだ。

森の中にある違和感漂う木を刳り貫いてできた一軒家。

こんなのが普通にあってよく魔獣に襲われないものだ。


チリンチリ~ン


店内に入ると木造でできた意外と広い店内に雰囲気のあるオレンジ色の照明がとても美しく映える。

「へ~・・・」と感心したかのような声をガイさんがあげた。

私も内心は感心していた。

ここに来る途中の話では店を出して一か月以上が経過しているそうだが争った形跡や襲われた跡がない綺麗な店内だった。


ただ、少し気になったのはなぜか入ってきたドアについているベルが風鈴だったことだろうか。

魔の森に来る以前には東方の方で修行を積んだので東方の物もある程度知っている私からすると違和感しかない。


「これ使用方法違いますよ?」


そう言おうと思ったのだが、風鈴を見たことがないガイさんが「これ何?」とコーフィさんに聞くとコーフィさんは自慢気に「東方の行商人から買ったフウリンって品だよ。良い音色だろう?」と言ってフウリンの下についている紐を振ってチリンチリ~ンと音を鳴らす。

そのあどけない笑みに私は言葉を失った。


(知らない人からすればただの鈴だし・・・ 別にいいよね。)


そう思って私は見て見ぬふりをすることにした。

買った本人が喜んでいるのだ。

使用方法が正しいかどうかなどは本人の自由意思だろう。


私達はカウンターにつくとメニューを渡された。

渡されたメニューは二つで一つは普通に喫茶店のメニューが書かれたものでもう一つはサービスメニューの様で回復魔法などを受けられれるらしい。

場所が場所だけにいいメニューだと思う。


ただ、気になるのは普通の喫茶店のメニューに『漬物』があることだろうか。


いや、別に軽食屋兼喫茶店的な店でメニューが充実している。

というならわかる。

東方の風鈴を購入していたのでその伝手で漬物やご飯などを入手してお店に出しているのかもしれない。

そう思って懐かしの東方の料理に手を出そうとしたが、残念ながらなぜか漬物以外は特になかった。


「あの漬物って何の漬物ですか?」


とりあえず、私は何の漬物かだけ確認してみた。


「ふふふ。色々あるよ。東の商人から作り方を教わったりしてね。現在はいろんなものに挑戦中だよ!」


そう言ってコーフィさんは足元の棚を開いていくつかの壺を取り出す。

その上には石が載っており恐らくは漬物石だろうということは分かった。


ただ・・・


なぜか一つだけ漬物石の代わりにおもちが載っていた。

大きな丸いおもちは確かに重く石代わりになりそうだが・・・

いや、さすがに石代わりにはならないか・・・


私は首を捻ってなぜそこにおもちがあるのかを考えるが、やはり結論は出ない。

よく見ればおもちはなぜか真っ二つに切られていた。

このおもちにはいったい何があったのだろうか。


「あの・・・これは・・・」


私は勇気を振り絞っておもちについて尋ねてみた。


「ああ、これのことか・・・ そうだ聞いておくれよ・・・」


そう言って彼は「東方の商人に騙されたんだ」と涙ながらに語った。

コーフィさんの話によると「店ではおいしいおもちを売り、売る時は硬い食べられもしない物を売り付ける酷い商人だ」ということだった。

ただ、私からすればそのおもちは十分に食べられるのだが・・・


カビも生えてないし腐ってもいない。

少し日が経っているがそれ以外は問題がない品だ。

おそらくまだおいしく頂くことができるだろう。


「あの、それ貰っても構いませんか?」


私は「まだ食べられますよ」とは言わなかった。

おもちの食べ方や調理方を知らないコーフィさんを騙すつもりでいったのではない。

ただ、いらないなら欲しいと思っただけだ。


(私は嘘をついていない。騙したわけでもない。)


ただ、この場で白状して仲間達とおもちを分けるよりも『東方の品を独り占めしたい』という感情が強かっただけだ。

だって東方の品ってすごく高いんだもの・・・

東方に行って食べれば100Gの価値なのにこっちではその数十倍の価値があるのだ。


(あんなに大きなおもちならきっと買う時に・・・)


そんな邪な気持ちが働いてしまった。

そんな私の気持ちを知ってか知らずかコーフィさんは「こんなものでよければ・・・」と言って快く譲ってくれた。


悪いと思って私は漬物を適当に注文していただくことにした。

魔の森の喫茶店なので一つ一つの値段が高い・・・

そう思っていたが街で食べる物の三倍の値段だった。


(こんな危険な場所なのにたった三倍なんだ・・・)


場所が場所だけに人は来ないだろうが、そんな場所だからこそ法外な値段を取ると思っていた。


(なんという良心価格・・・)


何も知らぬコーフィさんからおもちを巻き上げた私の良心がすごく痛んだ。

あと、漬物は意外においしかった。

まさか、糠漬ぬかづけまで作っているとは・・・

恐るべしコーフィ=チープ


あとは、白いご飯さえここにあれば・・・


私はもらったおもちを撫でながら心の中で悔しがった。

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