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コーフィ=チープはおかしい

俺の名はビルゼ。

冒険者をしている。

現在はあの最強の冒険者と名高い《暴君》であるガイ=ドラグーンとパーティを組んでいる。


今日は以前からの予定で魔の森の奥で狩りをしている。

そんな時、あいつがやってきた。


最初は名前が判らず誰なのか不明だったが、ガイさんの話によると以前にガイさんと組んでいたあの伝説のパーティの1人らしい。

名前はコーフィ=チープ。

結界と領域の魔法使いでパーティ時代はガードナーをしていたらしい。


ガードナーなんてパーティ内で戦闘を行わない拠点の作成や防衛。狩りで得た獲物の管理や採取が基本のおまけのような存在だ。

無論、長期間の狩りの時には必要な存在だが実力はそれほどいらない。

現に俺達のパーティのガードナーもサポーターも実力は大したことない。

俺達と組んでいるから攻略組だがそうでなければ魔の森に潜ることはできないだろう。


俺は実力的に個人でも魔の森の初心者組ぐらいにまでは潜れるレベルだ。

これは実はすごく強くないとできないことだ。

集団戦でなければあのガイさんですら初心者組のいる入り口付近でなければ魔の森に潜れない。

無論、俺よりは奥まで探索できるが中間組までは辿り着けないだろう。

だが、この時の俺はそのことを考えていなかった。


だから、こいつのことも大したことない。

あの伝説のパーティの荷物持ち(ガードナー)ぐらいにしか思っていなかった。

最初にこいつがいきなり来て俺達の収穫物に手を出した時に声を荒げて突っかかるとガイさんに怒られた。

なんでも、手伝ってくれていたらしい。

俺は最初この男がガイさんにお願いして昔のよしみでハイエナ的行動でもしているのかと思っていたのだ。


だが、それが誤りだったことをすぐに悟った。

ガイさんの話によるとこのコーフィという男が「魔の森の中に喫茶店を出したので行こう」という話になった。

俺はそれを聞いた時に「どんな冗談だよ」と笑った。


拠点を作り魔法で隠蔽しても強力な魔物や魔獣の出現でどんな防御もパーティですら瞬殺される危険のある魔の森で店を出す。

その言葉の意味が理解不能だった。


そんなわけで誰もが反対したが、結局はガイさんに押し切られる形で俺達は移動を余儀なくされた。

仲間のガードナーとサポーターと合流して拠点の撤去を行うと俺達は行軍を開始した。


魔の森の行軍は時間がかかる。

馬などを使用できない徒歩という理由もあるが、最大の理由は魔物との遭遇の危険性があるからだ。

俺達のパーティですら攻略組のいる魔の森の奥では強クラスの魔獣に会えば逃げることしかできない。

戦うことなど以ての外だ。

中ぐらいならば事前の作戦と入念な準備があれば狩れるレベルだ。


そんなわけで魔の森の行軍速度は時速3kmぐらいの速さでゆっくり慎重に進むのがセオリーだ。

遅い所はもっとゆっくり進むのだが、俺達は優秀な索敵魔法の使い手にして隠蔽の魔法が得意な魔法使いボルフさんがいるのでこの速度で進行できる。


だが、コーフィ=チープが先陣を切る進行速度は異常に早かった。

時速にして恐らくは15kmは出ているだろうか。もしかしたらそれ以上かもしれない。

魔の森を索敵も隠密行動もなしに一直線に目的地に向かって走っていく。


ガイさんもそれについていくので仕方なく俺達もそれについていくことにした。


「ボルフさん。こんな進行速度で大丈夫なんですか?」


「さぁな。俺からすればただの自殺行為だが・・・ ガイさんが普通についていくから問題ないだろう。」


魔の森の魔獣や魔物は隠れるのがうまく複数の探索魔法をかけなければ発見できない。

中にはそれでも発見できない厄介な奴までいる。

そんな理由もあって魔の森内部での索敵は非常に難しい。


だが、それをものともせずに突き進むコーフィとそれについていくガイさんに俺達は何も言えなかった。

ガイさんをパーティに引き入れる時の条件が『ガイさんがリーダー』で『リーダーの命令は絶対』というものだったからだ。

《暴君》という異名にふさわしい無茶な要求だったが、その無茶な要求についていくうちに俺達は実力を上げて中間組からついに攻略組へと昇格した。


だが、こんな行軍が素直に終わるはずがない。

俺達の総意ともいえる予感はすぐに的中した。


俺達は最悪の敵に遭遇した。

この近辺の最強クラスに属する魔獣であるフォレストビッグフットにあってしまったのだ。


俺は咄嗟に臨戦態勢を取って声を張り上げようとした。


「ぎ・・・」ゴス


その瞬間、俺の頭には拳骨が落ちた。

拳骨を落としたのはガイさんだった。

ガイさんは俺に拳骨を落とすと周囲の仲間に「声を潜めろ」と合図を送る。

仲間達は臨戦態勢を取ったまま口をすぐに噤んだ。


だが、フォレストビッグフットはすぐ目の前にいるのだ。

その眼は明らかにこちらを視認している。

交戦は避けられないだろう。


そう思っていると俺達の周りを何かの結界が包み込んだ。

発動したのは恐らくコーフィだろう。

仲間のガードナーであるロッシュを見たが彼はフォレストビッグフットを見たまま固まっていた。

発動した結界は『人払いの結界』か『防御結界』もしくは『隔離結界』だろうが、今更そんなものを張っても意味はない。

なにせそんなものではフォレストビッグフットはやり過ごせない。

彼らは雪山の魔獣ブッグフット同様に隠密性が高く、さらに隠れた敵を探すのが得意なのだ。

だから、『人払いの結界』は意味をなさないし『防御』や『隔離』の結界ではその一撃を防ぐことはできない。


なので、俺からすればロッシュの行動は正しくコーフィの行動は遅すぎる。

最早ここはどれだけ派手な魔法で相手の眼を欺いて逃げられるか。

それのみにかかっている。

逃げられなければ死。

逃げられても死力を尽くした逃走の後ではこれ以上の探索は不可能だろう。


だが、俺のそんな予想に反してフォレストビッグフットはそれ以上何もしてこなかった。

それどころか、普通に自分から去っていった。

俺は・・・

いや、俺達には何が起こったのか理解できなかった。

俺達は顔を見合わせてガイさんを見つめて意見を求める。


「じゃ、行こうか。」


だが、そんな俺達を無視してコーフィの奴が結界を解いて先を促した。

ガイさんは俺達を見て「説明は後だ。行くぞ。」そう言って俺達を先に促した。

俺達は仕方なく二人の後についていく。


そして、俺達はこの後も店に辿り着くまでに様々な魔獣に会うがその全てと戦うことなく安全に進んだ。

途中に何回かガイさんがコーフィさんを止めて採取させてくれた。

魔の森の奥でしかも手の付けられていない貴重な薬草が多く手に入った。

だが、こちら側の魔獣は最強クラスの魔獣との遭遇率が高いらしく。

フォレストビッグフット以外の最強クラスの魔獣であるジャックおうランタンや竜種。

魔の森のさらに奥の方に住んでいるはずの麒麟に遭遇した。


それでも生き残った俺達は思った。


(ああ、この人も伝説のパーティの一員なんだな・・・)


ただのガードナーではなく、最強のガードナー《無敗の防壁》の異名は伊達ではなかった。

そして、今気づいたことだが彼はこの魔の森の中をたった1人で行軍しているのだ。

それは最強の冒険者たるガイさんにすらできない偉業だ。

そんなことができる男の存在をなぜ俺達は今まで信じなかったのだろう。

なぜこれほどの力を持つコーフィさんが有名人でないのだろうか・・・


(他の伝説のパーティの面々が全員異名持ちの有名人だったから?)


いや、違う。

誰もコーフィさんのなす偉業を信じなかったからだろう。

俺達だってこの目にするまではとても信じられなかった。

だが、この絶対的な安心感のある行軍に俺達は納得した。


伝説のパーティ名が《散歩に出かけよう》なんてふざけた名前なのはきっとそういうことなのだろう。


そして、俺達はコーフィさんの喫茶店につくとその佇まいに驚かされることになった。


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