宣伝 友人
ゾルディア君への宣伝を終えた俺はその後で数組にの冒険者たちに店の宣伝を行った。
店の位置関係上、攻略組以外への宣伝は意味がないので宣伝する数が少ないことを今になって後悔した。
もっと、魔の森でも入り口付近の初心者組のいる場所かもしくは初心者組と中間組の間ぐらいにでも出しておけば宣伝できる組の数も多かったのだ。
(でも、あんまり多く来過ぎても問題なんだよな・・・・)
店に来るお客様が多いことにこしたことはないのだが、残念ながらうちは小さな個人経営の喫茶店だ。
お客様が多く来られると対応が間に合わない。
そうなると本気でアルバイトか従業員を雇って経営を行うかだが、それはさすがに遠慮したい。
今から経営のノウハウを学ぶのは時間がかかるし、お金儲けよりもどちらかというと人情に篤い優しい雰囲気のお店を経営したいのだ。
なので、俺の理想としては1人でも十分回せる程度の数人のお客様が来る程度でいいのだ。
お金に困ったら魔の森で適当に採取や狩りをすればいいだけなのだから、本格的な経営は困る。
なんせ、本格的な経営になったら魔の森での採取とかじゃ賄えないだろうからね。
というか、それで賄うぐらいなら冒険者に戻るよ。
そんなわけで、奥深くでも問題ないのかもしれないけれど。
さすがに、全く誰も来ないのは困りものだ。
(お客が来過ぎてもダメ。来なくてもダメって・・・ 我が儘だよなぁ~・・・)
自分がどれほど我が儘なことを思っているのかは重々承知している。
しかし、人間とはそういう生き物なので仕方がないのだ。
適度な状態、それは人間の求める欲求の一つだろう。
高望みしているわけではないのだから、それぐらいのわがままは思ってもいいだろう。
思っていても叶うかどうかは誰にも分からないのだから・・・
またしても、考えに耽りながら森の中を走っているととてもよくしている顔に出くわした。
彼は現在、仲間との狩りの最中らしく魔獣と戦っていた。
「オラァアア!!!」
ガタイの良い大男が叫び声を上げて剣を振り回すと剣先から衝撃波が発生し、それがまるで台風の如く嵐を巻き起こしていた。
その衝撃波は魔力の炎を帯びているだけでなく、鎌鼬の様に魔獣を切り裂く。
現在、戦闘中の魔獣は高い再生能力を持つラビットジャヴァウォックだ。
略称でラビックと呼ばれるこの魔獣は人に似た体格で二足歩行をするウサギの獣人の様な姿をしている。
言葉を理解しないのでラビックは恐らく魔族や獣人ではない。
ラビックは群れを組んで行動する癖に高い再生能力を利用して長期戦を挑んでくる。
そうして、ジワジワと獲物を弱らせて狩りをする魔獣だ。
魔の森の攻略組がいる様な奥深くに住む魔獣なので単体での戦闘能力も高いので油断はできないし、下手な攻撃は通用ない。
対処法としては、弱点を突いての一撃で仕留めるか。
炎や氷結系の魔法が効果的だ。
なので、本来ならば大男が繰り出す斬撃の様な衝撃波だけではあまり効果がないのだが、魔力で生成された炎を纏うことで斬撃で切った部分を焼き、ラビックの高い再生能力を封じている。
中には斬撃の衝撃はによって一撃で首を落とされて息絶えるものもいる。
もっともそういうのは大男の近くにいないやつらの話だ。
大男の近くにいるラビックは剣の衝撃波で全身がバラバラになりながら消し飛んでいる。
それでも有り余る威力を持つ衝撃波と炎がその後方にいるラビックだけでなく森の木々を切り裂き焼き払う。
魔力でできた炎は森の木々に燃え広がることなくすぐに消える。
そんな大男が先頭で暴れている間、大男の仲間達は後方から傷を負って動けなくなった魔獣を確実に仕留めていく。魔獣の急所を確実に射抜く一矢一殺の老練たる弓使いに魔法を使って一撃でビックを仕留める麗しの女魔法使いなどの後方組。
さらに、後方組が仕留め損ねて大男の横を抜け出た敵を仕留める槍使い。
この四人の連携は遠くから見る限り隙がない。
正面の男を倒さない限り正攻法では後方組にはたどり着けないだろう。
それをラビックも悟ったのか大男の攻撃の届いていない木々に身を隠し、遠回りして接近を図るラビック達。
だが、そんなラビック達を音も悲鳴も上げさせずに仕留めていく者がいた。
二本の刀剣を持つ長髪の美男子と眼鏡をかけたニヒルな笑顔の似合いそうな魔法使いの男。
彼らが左右二つから後方組に迫るラビックを瞬殺していく。
しばらくその様子を見守るとやがてラビックの群れはその数を半数にまで減らしたところで逃げて行った。
戦っていた冒険者たちが獲物の収集にかかったところで俺は挨拶に向かった。
「よっ。久しぶり。」
俺は片手を上げてまず、友人である大男に話しかける。
「おお、久しぶりだな。 どうしたんだ? こんなところで・・・」
大男は獲物の回収作業をやめて俺の方にやってきた。
周囲にいる冒険者たちは俺の顔を知っているのか何も言ってはこなかった。
いや、もしかしたら《暴君》の二つ名を持つこの男に遠慮して何も言えないのかもしれない。
「ああ、実は魔の森に喫茶店を出したからその宣伝に来たんだ。他の人にも挨拶したいんだけどいいかな?」
そう言って俺が話しかけるのは俺の友人であり、元冒険者仲間でパーティを組んでいた現役冒険者で《暴君》という異名で呼ばれるガイ=ドラグーンだ。
「おお、いいぞ。その代りにちょっと獲物を集めるの手伝ってくれ。手伝ってくれたらこの後、お前のお店に遊びに行ってやるよ。」
「え?! ほんとに?!」
俺はガイの提案に乗って早速、ラビックの遺体の回収を行った。
俺が回収する姿を見てガイの仲間の1人が「得物を横取りしている?!」と思ったのか止めに入ろうとしたがガイが「邪魔すんな!」と拳骨を落として止めていた。
相変わらず口よりも手の速い乱暴者のようだ。
「相変わらず、乱暴だなぁ。」
仕方なく俺はガイの仲間に治癒魔法をかけてやる。
最強の冒険者と呼ばれるガイの拳骨は非常に痛い。
彼らの拠点には治癒魔法を使える仲間がいるだろうが、そこまで帰るまで痛がり続けるかもしれないし、半分は俺のせいなのでここはサービスしておこう。
回収後、俺はガイ達の拠点に移動して自己紹介を済ませると拠点を引き払ってお店に移動した。