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シグムント

俺には才能がない。

そう思うようになったのは、つい最近のことだ。


昔は俺は天才でできないことなど何一つないと思っていた。

だが、コーフィ=チープと彼が育て上げた弟子達を見て俺は思った。


才能とは様々な形や種類があり、それに強弱はあっても万能でもなければ絶対でもない。

そして、才能なんてなくても強い奴は強い。

それを知った時、俺は努力という不断の行為に意味を見出した。


強くなるためには常に強くなる努力が必要だと初めて知った。

笑えることに、それを教えてくれたのがコーフィ=チープという世界最強の生物であったことには笑いをこらえるのに必死だった。


既に、最強で無敵な男がだ。

弟子を鍛えながら自分を鍛える様を見て何がしたいのか俺には全く分からなかった。

偉そうに踏ん反り返るわけでもなく、力を誇示する訳でもなく、天然な性格であるままに自由にのんびりと過ごすように見せつけて、誰もいないところでは不断の努力を怠らない。


一度なぜそうまでするのか。

聞いたことがある。


「姉に勝つためだ。俺の姉は世界で一番強い。そして、恐ろしく・・・哀れな人だ。その人が今、魔の森の向こう側にいる。魔界で何かしらの答えに辿り着けたのならそれでいい。だが、そうでなかった場合は・・・」


遠くを見ながら、どこか寂しそうなその横顔を見て俺は何も言えなかった。

姉のことについても、元《散歩に行こう》のメンバー全員が知らないらしい。

なにせ、コーフィが姉と別れたのは冒険者になるさらに前、新魔法術式の開発に関わるその前だそうだ。




なぜ、そんなことを思い出すのかはわからないが、俺は今。

誰かと戦っているらしい。

戦い方は無茶苦茶なように見えて、これが本来の戦い方だと言いたげに誰かが声をかけて来る。

遠くに見える人影は≪救世主≫か?

≪雑魚狩り≫も加勢しているのか?


それでも、止められないのは・・・

もしかして、俺か?


『ちげーよ馬鹿野郎。俺だよ俺。』


そう言われて振り向いた先には一本の剣があった。

俺のよく知る。

俺の相棒。

コーフィから何人かに配られた現状最強の武器の一本。


「シグムント。お前喋れたのか?」


『そんなわけねーだろ。これは俺の記憶の残滓。いや、俺の作り手と俺を使ったコーフィによって作られた俺様の力の断片にお前の想いに答えた俺なりの答えだ。』


よくわからない発言だが、こいつはこいつで知性を持っているわけではないらしい。

しかし、会話はなんとなく成立しそうだ。


「で、今どういう状況よ?」


『なんだ。覚えてないのか?』


俺の発言にまるでやれやれと言った感じで剣が揺れる。

本当に知性を持っていないのか?普通に対話で来てる気がするんだが・・・


『ま、俺が知性を獲得するのは時間の問題だろうがまだ早い。それをお前がさらに早めたというか。お前を乗っ取る形で知性があるように見えるだけだ。』


俺の質問よりも俺の心の中を読んだかのような回答。

というか、知性を獲得するのは時間の問題って、そんな話コーフィからは聞いてねーぞ。


『言う必要がないだけだろうさ。あいつにとって俺達が進化するかどうかは書けの要素が強い。それに、いらん期待を駆けられてもお前も困るんじゃないか?』


確かに、コーフィから「ガイの実力次第で剣が進化して知性獲得するから頑張ってね。」とか言われても困る。

それに、武器に意思があったら使いにくくないか?


『それは俺も知らん。だが、あいつは俺達が進化することで性能の向上を図っているみたいだ。事実として俺の性能は少しずつ上昇している可能性がある。まぁ、それがあいつの必要としている性能に届くのかどうかは俺は知らんだな。』


「そうか。まぁいい。とりあえず、さっき聞いた現状に対する説明が欲しいんだが?」


シグムントのいうこともコーフィの思惑もよくわからんが現状についての説明が今は欲しい。

確か、教会に呼び出されて≪救世主≫と≪雑魚狩り≫に会ってそれから・・・


『お前の仲間と《獅子皇帝》の連中が≪救世主≫の教育を受けることになって、それに反発するお前を≪雑魚狩り≫が邪魔してたんだが、お前が秘伝を発動しようとして失敗したんだ。』


シグムントはやれやれといった感じで俺に説明をする。それを聞いて俺はすぐに思い出した。

そうだ。

≪救世主≫の魔の手から仲間を救わなくてはと・・・

なるほど、だから俺は今、2人を相手に戦っているのか。


「でも、失敗したら普通戦えないと思うんだが?」


明らかに2人と互角に戦う俺の姿を遠くから見つつ尋ねると、シグムントはなぜか後ろを向いた。

まぁ、後ろを向いたと言っても剣を横にした状態だったので両刃のシグムントの向き自体は全く変わっていない。


『それなんだがな。どうやら俺とお前が共鳴したようだ。』


何のことだがさっぱりだが、こいつ自身にも正確なことはわかっていないのはなんとなく察しがついた。


「で? 共鳴と言ってるが具体的にどういう状態なんだ?」


正確にはわからずとも、こいつにはなんか知っている雰囲気があるので尋ねる。


『お前が行った秘伝は失敗に終わった。だが、お前の垂れ流した闘氣に俺が反応したんだ。そんで、主人の危機に対して呼応してな。俺がお前を乗っ取る形で秘伝を成功させて今暴れまわってる。』


信じがたいことだが、知性を獲得した武器が秘伝を使うって・・・

流石はコーフィが持ってきた武器というべきか・・・


「それで、これ。止まるのか?」


半ばあきらめ気味に聞きてみると、シグムントもあきらめ気味に答えた。


『無理だな。俺も初めてのことで事態の収拾方法がわからん。昔、コーフィに試験的に使われていた要領で秘伝は発動することができている。問題はお前の精神異常だ。俺には本来、使い主を操る機能はない。にもかかわらず、暴れているのは俺が操っているか。もしくは、お前の闘争本能が自己防衛のために制御できずに暴れまわっているかのどちらかだ。しかし、俺もこうしてここにいる。つまり制御不能だ。』


なるほど、俺もこいつもこうして第三者視点で戦いを見ていることから意識はお互いに正常ではない。

俺の体は本能のままに、シグムントは俺の意思に答えて機能だけが動いている状態。

秘伝発動中ということは、その力はほぼ無尽蔵。力付きつことはほぼない。

俺が意識を取り戻して暴走を止めるか。気絶させられるか。死ぬまでこの状況は続くのだろう。


「だが、全く何もできる気がしない。」


俺はそう呟きながら点を仰ぎ見るように≪五高弟≫2人相手に全く引けを取らない俺自身を称賛すればいいのか。さっさととまれというべきか迷いつつおそらくはこの異変に気付いて駆けつけてくれるであろう。親友を待つのだった。


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