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喫茶店を初めよう。

剣と魔法の世界≪アナトリア≫

大陸の南北に巨大な山脈と広大な森が存在し、そこから北側が魔族の住む魔界と呼ばれ魔族が住む世界が広がっている。

南側には人界と呼ばれる人間の住む世界が広がるが、人間の世界は一国に纏まっていないので複数の国が乱立しているのだが魔界との境界線上である魔の森の攻略やその先にある魔界への進行のために現在はどこの国も停戦状態が続いている。

そのため冒険者や王国の兵士が魔の森の攻略や逆に魔界から攻めてくる兵士との戦闘を散発的に行っている。

ちなみに、間の森は広大でしかも特殊な木々が乱立しているために焼き払っての進軍はできない。

なので、進軍は進まず現在まで魔の森の先にある魔界にいった者は一人としていない。


とまぁ、ここまでがこの世界の現在の状況だ。


そんな世界に生まれ落ちた俺も昔は魔界という未知の場所を発見する先駆者に憧れていたのだが、残念ながら齢26にして諦めた。

諦めた理由は俺とパーティを組んでいた5人の内の2人が結婚で抜けて、以前から某国の文官志望だった奴がついにその夢を実現して某国の文官になったからだ。

貧しい生まれながら努力でそこまで上り詰めたあいつはすごいと思うし、その努力も知っていたので俺はこれを祝福した。

無論、仲間の結婚もだ。

俺達のパーティは6人全員が男のむさ苦しい集団だったが、腕が経つ面々が揃っていたからだろう。

それなりに有名ではあった。

冒険者ギルドで行われた魔の森で一番奥深くまで進んだ記録を勝負するランキングには常に上位をキープしていたほどだ。

だから、仲間の1人が村娘をナンパして出来ちゃった婚や貴族の令嬢と恋に落ちて結婚したり、仲間の1人が夢を叶えて宮仕えすることになったりでメンバーが半分に減ったことによるパーティの解散は冒険者ギルドが説得して止めに入ったほどだ。


「代わりの人間を紹介する」

「俺を仲間にしてくれ」


そういった声があったのは俺達のやってきたことが本当に偉大で人の役に立つことだったからだろう。

でも、成人してからの10年間でパーティメンバーの変更は何度もあったがあれほどのメンツが早々揃う訳もないだろう。

実力ではなく能力の噛み合いと精神的な波長が合う最高の仲間達との冒険は眩しすぎて、あのメンバー以上に出会える気がしなくて・・・


俺は冒険者をやめた。


お金はあったし冒険者時代の活躍からいろんな国から士官の話が来たりもしたが、俺はそのすべてを蹴った。

貴族同士の権力争いも軍律に従った団体行動もできそうになかったからだ。

そういえば、残った2人のメンバーの内の1人がどこかの国に仕官したと聞いたな。

最後の1人は新しい仲間とまた冒険者をするらしい。


かつての仲間達が未来へと進む中で、俺も新しい未来に向けての第一歩を踏み出した。

それは新たなる冒険への一歩でもなければ、権力を欲した男の熱い成り上がりものでもなく、ただの平凡な日常を求めての逃避行。


「さぁ、開店だ。」


朝日が昇り夜が明けた頃にドアを開くと冷たい空気が流れ込んでくる。


「朝は寒いなぁ・・・」


などといいつつも、新規開店する喫茶店のマスターとして気合を入れてドアについた板を裏返して『クローズド』から『オープン』へと替える。

そして、ドアを閉めて室内に戻る。

今日から俺は冒険者ではなく喫茶店のマスターになる。

殺伐とした冒険者生活とも、人間同士の醜い覇権争いも関係ない。

ただの平凡な喫茶店の経営者に転職して1年。

色々あって店を作るのに苦労したが、今日ようやく開店初日を迎える。


「でも、お客は来ないだろうなぁ~・・・」


だが、気合を入れた次の瞬間にはもう椅子に座ってへこたれる。

だってお客が来る気がしないんだもの。


「なんせ、ここは・・・」


人界と魔界の境界線たる『魔の森』の中なのだから・・・


人付き合いが苦手なので静かでのどかな場所を求めて半年ほど各地を転々としながら仕入れ先や仲介所の人との縁を作り、旅をしたのだが結局ここが俺にとってのベストプレイスだった。

そもそも、お金があると言っても仕入れや新築の喫茶店を開こうと思うとさすがに予算的に厳しかったことに後で気づいたのだ。

だから、喫茶店がうまくいかなくてもいいようにコンセプトを


『誰も来ない様な店を経営しつつお金に困らないための狩場が近くにある場所。』


に設定したらどこの街や村に行っても「そんな場所はない」と両断されてしまった。

だから、俺的に必死に考えに考えた。

その結果がここだったのだ。


(いや~・・・ 馬鹿デカい木を刳り貫いて喫茶店を作るのには苦労した・・・)


だが、そのおかげで店代はタダな上に場所が場所だけに税金も取られない。

お金が欲しければ森を探索して魔獣や魔物を狩ったりしてギルドに持っていけばお金に換えてくれるし、食べ物や飲み水もこの店の近くで簡単に手に入る。

店で使う食材などは街に買いに行かないといけないが、客なんて来ないだろう。


「悠々自適な生活も悪くないなぁ~・・・」


喫茶店の経営者として全くヤル気のない言葉を吐きながら俺は天井を見上げる。

魔の森にできた喫茶店、名前は≪憩いのオアシス≫と名づけた。


(お客さん来ないかなぁ~・・・)


俺はそんなことを思いながら喫茶店の中でお客さん第一号を待ち続けた。


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