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外道屋の文化祭 前編

もっと早く更新したかったんですけど、遅くなりました。

次はもっと早く、出したいと思います。

 夏休みは明け、気怠い学校が始まる。

 そして、現在は文化祭への準備に明け暮れている。

 こんな俺でも文化祭の準備はそれなりに真面目にやっている。 クラス全員でやることだから、参加しないと悪いかなぐらいの気持ちは俺にもある。

 ちなみにうちのクラスがやるのは劇だ。 当然、俺は裏方だ。

 あと、主役は光士と美春になった、 何せ顔がいいしな。 ま、演技力に関してもあいつらがクラスで一番だと思うけどな。

 シナリオは社長が担当した。 というより、劇を提案したのが社長だ。

なんでも、自分の昔話をもとにしたんだとか。

 文化祭は始業式から一週間後の土日。 衣装やらセットやら大忙しだ。

 三年にもなって、ここまで頑張ろうとするのは一般で受ける奴がほとんどいないせいだろう。 一般受験を考えているのは学年全体で百人にも満たない人数しかいない。

 俺、美春、光士は一般受験を考えているのだが、社長命令ゆえ仕方なく頑張っているわけだ。 もちろん、社長に言われたからだけでなく、さっきも言ったとおり自分なりの責任感のようなものがある。

 ただ、この作業を行なっている間不愉快なことがある。 それは俺だけでなく、クラス全員……いや、学年全体が嫌に思っているだろう。 

「失礼します」

――風紀委員だ。 奴らは不定期に教室を周り、校則や文化祭においてのルールを破っていないかチェックにくる。

 悪いことはしていないのに、嫌な気分になる。 何も悪いことをしていないのに警察に見られたり、話を聞かれたりするのと同じような気分だ。

「失礼しました」

 何事もなかったように風紀委員の男子生徒は去り、クラスメイト全員で安堵の息を漏らす。

 このようになるのは、他愛のない校則違反で反省文や停学の処分を受けるものが後を絶たないためだ。 ある意味、恐怖政治にも似たものを行っていた。 それゆえにこのようになるのは仕方ないと言える。

 たった一ヶ月で――実働しているのは一週間にも満たないにも関わらず、世間ではこの地域で最も校則に厳しい学校と囁かれるようになっていた。

 裏生徒会はといえば、有馬清真にバレてはいるのだが確たる証拠がないので、俺たちをどうにかするまでには至っていないようだ。 社長は普段通りにしているだけだし、このことについて不安になる必要はないのかもしれないな。


 今日の放課後は久しぶりに裏生徒会室に集まることになった。 なんでも新しい依頼が来たそうだ。 文化祭の準備でだるいのに……。

 クラスの奴らには適当に理由をつけて、行動させてもらう。 さすがに光士と秋奈は難しいようなので、俺だけ抜ける。


 裏生徒会室には、秋奈と結良ちゃんがいた。

「よっ」

 俺は右手を上げて、軽い挨拶をする。

「こんにちは、先輩」

 結良ちゃんが挨拶を返してくれる。

「先輩も社長に呼ばれて?」

「あぁ」

「何をするんでしょうか?」

「さぁな。 思い当たる節がないわけでもないが……」

「へぇ~。 どんなのですか?」

「あ、私も気になります」

「多分、風紀委員のことだと思う」

 秋奈と結良ちゃんは納得といった表情だ。

 そこで、社長もやってきた。

「みんな、今日は来てくれてありがとね。 文化祭で忙しいのに」

 あんたが命令したからだろ……。

「今日の本題はみんな察してるかもしれないけど風紀委員のことだよ」

 そして、久しぶりにメー君を取り出した。 そこからどんどん紙が出てきた。

「これ、ほとんど風紀委員関連よ。 一部は私たちへの批判だけどね」

 うわぁ……。 ま、そうなるよな。

「全部で五十枚ぐらいかしらね。 ま、何が言いたいかといえば、差はあれどみんな風紀員が邪魔で邪魔で仕方ないわけだ。 つまり――風紀委員はぶっ潰しまーす」

 推測通りといえば、推測通りだけどさ……

「それはやりすぎだろ」

「そんなことないわよ。 風紀員になって調子に乗って悪いことしているような子もいるみたいだし、あと単純に正義の神とも決着つけようかと思って」

 さらっととんでもないこと言いましたよ、この人。

「文化祭でおびき出すための餌も考えたし、念の為に知らせておこうと思ってね」

「それは、つまり……」

「特に何もしなくてもいいわ。 ただ、私の行く末を見守ってて」

「行く末って……」

 今回ばかりは初めて社長の真面目な顔を見た気がする。

「餌の方に関しては、とっても楽しめると思うわ」

「餌って何するんですか?」

「それは、お・た・の・し・み」

 社長のいつもと変わらないその微笑みが俺に厄介事が起きる予感をさせる。

 ただの厄介事なら、まだいいんだが……


 文化祭 一日目

 文化祭が開催され、特に行きたいところもないので俺は三階の端にあるクラスの劇で使う教室に動かずにいた。

 初回の舞台はこれから一時間後だが、準備も既に終え、あとは役者を揃えればすぐにでも開演できる。

 ただ、俺は観客席に座っていた。 どこかを注視しているわけでもないが、ただぼーっと一点を見つめていた。 そして、俺はそのまま意識を失いそうになっていた。

「白城君」

唐突に俺を呼ぶ声が聞こえた。

その声に俺は「うん」とも「あぁ」ともなんだかよくわからない音の返事をした。

「何言っているかわからないわよ……」

 声のする方を見ると美春がいた。

「なんだ……美春か……」

「……」

「どうした? 急に黙って」

「あなたが私の名前呼ぶの初めてじゃない?」

「そういえばそうだな。 心の中では美春って呼んでたから、意識が朦朧としてて、つい言っちゃったみたいだな」

「……へぇ」

「それで四季は俺になんのようだ?」

「ちょっと!」

 美春が急に声を荒げた。

「な、なんだよ」

「今度からは私のことは名前で呼んで。 秋奈との区別もそっちの方がしやすいでしょう」

「あ、あぁ。 わかったよ」

「それと何の用で呼んだかといえば、私と一緒に文化祭を見て回らない?」

 これはお誘い……というやつなのだろうか? 俺には理解しかねる状況だ。

「わかった。 とりあえず落ち着こう」

「私は落ち着いてるわよ」

「わかってる。 慌ててるの俺だから」

「……一体何を言っているのよ」

美春は呆れた表情していた。

俺は軽くひと呼吸おいた。

「それで、どうして俺となんだ?」

「それは……相手がいないからよ」

「美春ならいくらでも相手してくれる奴がいるだろ」

「私は誰だっていいわけじゃないの」

「……俺はそんなにいいやつでもないだろう」

「そんなことない。 私はあなたのことが嫌いじゃない」

「そりゃ、どうも。 けど、時間のほうは大丈夫なのか? 一時間もないだろ」

「ちょっと秋奈のところに行くだけよ」

「それなら一人でもいいだろ」

「それを言うなら、あなたを連れても別に問題はないでしょう」

「それもそうだけど……」

「それじゃ、行こう」

「わかったよ」


二階にある秋奈のクラスの出し物――メイド喫茶まで行った。

メイド喫茶なんてありがちだが、なんか無駄に完成度が高いらしい。

しかし文化祭が始まって、まず妹のところに向かうなんてどんだけシスコン……もとい妹思いなんだか。

 教室へと入ると「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」とわかってはいたものの多少の気恥かしさを感じる挨拶をこの教室にいる秋奈を含めた三人から受ける。

「お姉ちゃん! それに、先輩まで」

「秋奈、しっかりやってる?」

「当たり前よ。 って、先輩は何をぼーっとしてるんですか?」

「いや、なんというかだな、こういうの初めてでな……」

「見蕩れてたんですか?」

 秋奈は笑みを浮かべて言う。

「あぁ、そうかも」

 俺は正直な感想を告げた。

「ちょっ、冗談だったんですけど……。 それで誰に?」

「誰とかじゃなくて、この場の雰囲気なんだが、誰かといえば秋奈になるな」

「そ、そんなこと言われたって……あの、別に何もないですからね!」

 顔を真っ赤にして俺から顔を背けた。 ツンデレか? ツンデレなのか?

「あなたたち、本当に仲がいいわよね。 私は秋奈が心配でここに来ただけだけど」

「それで、去年も来たじゃない。 大丈夫よ、失敗したことはなんだって出来るんだから」

「そうね。 でも、あなたの姉なんだから心配したっていいでしょ」

「お姉ちゃん……」

 この姉妹は本当になんであんな仲悪かったんだろう?

 まぁ、とりあえず

「姉妹愛を見せつけるのはいいから、紅茶くれ」

「「なっ!」」

「姉妹揃って、同じ反応をしなくてもいいだろ」

「狙ってやったわけじゃないわ」

「そうですよ。 それにいきいなり何を言っているんですか」

「いや、誰が見ても見せつけてるようにしか見えんだろう。 こんな空間でやってるんだから」

 二人して、言い返せないようだ。 顔も真っ赤だし相当恥ずかしかったのだろう。 それを目の前でやられた俺はもっと恥ずかしい……。

「ま、とにかく早く紅茶を入れてくれよ。 ここは紅茶にこだわってんだろ?」

 教室の前に置いてある看板にはオススメに紅茶と書いてあったからな。

「そうですねっ。 すぐにお入れしますよ、ご主人様っ!」

 怒気を孕んだその声が周りの人をビビらせたのは言うまでもない。

 秋奈のクラスの出し物であるメイド喫茶では既製品を使わず、パックではあるがお茶の葉からお湯出しして、提供しているようだ。 お茶の葉自体は安物でも入れ方にそれなりのこだわりがあるそうだ。

 秋奈はティーポットととグラス、熱湯の入ったやかんを持ってきた。

「砂糖は入れますか?」

 俺たちは砂糖を入れてくれるよう頼んだ。

 秋奈は熱湯をティーポットに注ぎ、パックを入れ蓋を閉める。

「少々お待ちください」

 一分ぐらいたったところでパックを取り出し、砂糖を入れてかき混ぜ、グラスに大量の氷を入れてそこに注ぐ。 そして、スプーンでかき混ぜた。

「お待たせしました。 アイスティーです」

 ここにはホットもあるようだが、暑さの残るこの時期で好んで飲む人は稀だろう。

 そう思ったからこそ、秋奈はアイスティーを迷わず選んだのだろう。

 しかし、聞かなかったあたり怒っているか、忘れていたかのどちらかだろうが。

 まぁなんにしても、秋奈の手際は良かった。

「おぉ。 なんかそれっぽいな」

 俺は正直な感想をいった。

「別にそれほどでもないです」

「美味しいな。 色も綺麗だし」

 美春は早速飲んでいた。

俺も美春に続いて飲む。

「確かに。 美春の言うとおり、うまいな」

 俺の言葉に秋奈が少しむっとしたような気がした。

「それで、お姉ちゃんと先輩は何の目的で?」

「俺は連れてこられただけなんだけどな……」

と誰にも聞こえないように小声でぼそっと呟いておく。

「特に他意はないわよ。 ただ、私のクラスの出し物を見に来て欲しいだけよ」

「お姉ちゃんのクラスの出し物って確か、演劇だっけ?」

「そうよ。 かなりのできだと思うから見に来て欲しいのよ」

「別に構わないけど、こっちは忙しいからいつ行けるかわからないよ」

「今日と明日で合計四回やるからそのどれかを見に来てくれれば、大丈夫よ」

「お姉ちゃん、全部出るの?」

「当たり前よ。主役なんだから」

「先輩は?」

「俺は裏方で準備してただけだ」

「そうじゃなくて、先輩はそれを見に行くんですか?」

「うん? まぁ、見に行くというよりその場にいると言った方が正しいかな」

「……お姉ちゃん。 私に見に行くから」

「そう。 今日も明日も十時からと三時からにやるから見に来てね」

「わかった。 多分今日の午後には見に行けると思うよ」

「わかったわ」

 美春はアイスティーを飲み干すと席を立ち上がった。

「これから準備があるから、そろそろ戻るわ」

「おう、行ってこい」

「頑張って」

 俺と秋奈は美春に手を振る

「それじゃね」

 そう言って、教室を出て行った。

「先輩は行かなくてもいいの?」

「別にすることもないし、どっかでゆっくりとしてるさ」


 そのまま三十分ほど座ってくつろいでいた。

「ねぇ、先輩」

「何だ?」

「さすがにここまでくつろいでいられると邪魔です」

廊下の方を見れば列をそれなりに長い列を作っていた。

「……わるい」

俺は一言いって席を立ち上がり教室を出た。

「先輩」

教室から出ようとしたところで、秋奈が声をかけてきた。

「何だ?」

「また来てくださいね」

「あぁ」

 そうして教室を出たのはいいが、することがない。

 今いる場所も騒がしいが、外はもっと騒がしい。

 野外に作ってある小ステージで盛り上がっているようだ。

「行ってみるか」

 暇を潰せそうなところへとゆっくりと足を運んだ。


「さぁ、みなさん! 誰か参加しませんか! 披露したい芸があるのならなんでも構いません! え? 次は叩いてかぶってジャンケンポン? それでは、参加者を募集しておりまーす!」

 司会者と思われる男子生徒が声を上げている。

 間違いが何のその、荒ぶるテンションに身を任せ場を盛り上げている。

「俺には無理だな……」

 簡易的に作ってある観覧用の木の椅子に座りながら呟いた。

 俺の低いテンションとは裏腹に周りも司会者のテンションに乗せられて大して面白くもない見世物に大はしゃぎ、そして笑い声で溢れかえっていた。


 一時間ぐらいぼーっとつまらない見世物を見ていたころ

「さて、隙間時間ができてしまいました。 ここは、カラオケでもやって場を温めましょうか。 誰か歌ってくれる人ー!」

 既に温まりきってるだろ。 もはや、熱すぎるレベルだ。

 と思いつつも、俺は手を挙げた。

「おーっと! 参加者現る! 挙手をした方、ステージにどうぞ!」

 無言でステージに上がる。

「学年と名前をお願いします」

 マイクを受け取り、俺は声を出した。

「三年の白城です」

「……白城さん。 僕はこの名前聞き覚えありますよ。 去年も参加されてましたよね?」

「あ、あぁ、そうだけど……」

 普段の態度からは信じられないかもしれないが、俺は毎年ここでカラオケに参加していた。

「やっぱりぃ! 普段は全く知りませんが、以前ここで聞いたときはホントーに盛り上がってましたよね!」

 う、うざい……。

「もういいだろ。 カラオケをやらせてくれ」

「おっと! 失礼しました。 それでは⭕’zのウルト⭕ソウルをどうぞ」

「おい! まだ俺は何を歌うなんて言ってないぞ!」

 ツッコミむなしく、曲が流れ始めた。

 ……はぁ。 とりあえず、歌うか。



「そぉしてぇ輝く、ウルトラソウゥッ!」

「Hi!」

今までにないテンションで歌いきった。 

普段は俺になんとも思っていないであろう女子が何故か黄色い声援をあげ、一部の男子は指笛を鳴らす。

この状況は気分がいいわけでもないこともない。

「それでは、クラスの宣伝どうぞ」

 時間が押しているのか、司会者がさっさと終わらせようとしてきているようだ。 仕方ないことだとは思うが。

「うちのクラスではオリジナルのストーリーで演劇をやっています。 是非来てください」

「ありがとうございました」

 俺はステージから降り、そそくさと昇降口の方へと向かった。

 ……楽しかったが解せぬ。 嫌いじゃないが何か歌わされた。

「おや? 白城さん」

 昇降口の奥の方に光子がいた。

「光士か」

「先程まで、カラオケをしていらしたようですね」

「あぁ」

「珍しいこともあるものですね」

「お前は珍しいというが、実は毎年出ているぞ」

「そんなにカラオケが好きだったんですか?」

「まぁ、そうだな。 それに、暇つぶしにちょうど良かったんだ」

「暇つぶしで、こんな大勢の前でカラオケをしようとする人はいないと思いますけど……」

 光士は呆れたような、引いているような何とも言えない顔をしている。

「別にいいだろ」

「それはそうなんですが……。 暇でしたら、一緒に小井塚さんのところに行きませんか?」

「お前から誘いを受けるとはな」

 しかも、結良ちゃんのところ。

「まだ昼食には早いですし、まだ様子を見に行ってない小井塚さんのところにでも行こうかと思いまして、そこで白城さんに会ったものですから」

 つまり、明奈のところへは行ったのか? まぁ、どうでもいいが。

「なるほど。 俺も暇になったところだし、ちょうどいいな」

「それでは行きましょうか」


 俺は、光士と行動していることに若干後悔した。

 俺自身は気にしていなかったが、光士は現在どこかは知らないけど王子の格好をしており、また、光士はどちらかといえばイケメンの部類の容姿なので、人の目線を引き寄せていた。

「白城さん、人気ですね」

「これ俺の人気じゃなくて、お前のだから」

「そうなんですか?」

「お前なぁ……」

「まぁまぁ。 それより、つきましたよ」

 そこはハロウィンのような装いをしていた。

 吸血鬼や魔女の格好をした人が飴やクッキーなどのお菓子を売っていた。

 もちろん、そこには結良ちゃんがいた。

「おーい、結良ちゃん」

 俺は手を振った。

「あ、神宮寺先輩と白城先輩。 こんにちは」

 結良ちゃんが俺たちのもとへと駆け寄ってきた。

 結良ちゃんは魔女の格好をしていた。 だが、魔女というより魔法少女って感じがした。

「ちょっと様子を見に来ただけなんだけど、迷惑だったかな?」

「いえ、そんなことないですよ。 来ていただけるだけで嬉しいです」

「すいません。 小井塚さん、ちょっといいですか?」

「なんですか?」

 光士は結良ちゃんと俺から少し離れたところへ行った。

「――――」

 光士は結良ちゃんに耳打ちをしているようだった。

「……はい。 わかりました」

「よろしくお願いします」

 そして、二人が戻ってきた。

「なんで、俺に聞こえないようにするんだ」

「それは、あなたに聞かれたくない話に決まっています」

「それを目の前でするってどうなんだよ」

「聞こえなければ問題ありません」

「何て野郎だ……」

「ま、気にしないでください」

「気にするなっていう方が無理だろ」

「あの、私も気にしないようにお願いします」

 結良ちゃんまで、そういうとは……。

「仕方ないな」

「ありがとうございます」

「ちょっと待っててください。 お菓子持ってきますね」

 結良ちゃんが駆け足でかごに入れたクッキーいくつか持ってきた。

「どうぞ」

「ありがとう」「ありがとうございます」

 俺と光士はクッキーを食べた。

「うん、うまいな」

「そうですね」

「ありがとうございます」

あ、そうだ。

「結良ちゃんは俺たちのクラスの演劇は見た?」

「いえ、見てませんけど……」

「午後三時からあるんだけど見に来ない?」

「……すみません。 その時間帯ちょっと忙しいので無理です」

「そっか。 それは仕方がないな」


三十分ほど経ち……。

「もう正午ですし、一緒に昼食を食べに行きませんか?」

「そうだな。 結良ちゃんも一緒にどう?」

「まだ、この仕事がありますしまた今度お願いします」

「わかったよ。 それじゃあ、行くか」

 その後、俺と光士は適当にぶらつき、焼きそばとフランクフルトを食べた。

「それでどうするんだ?」

「実はミスコン――つまりミスターコンテストに参加しなくてはいけないので、これで失礼します」

「そっか。 じゃあ、見ていてやろう」

「少し恥ずかしいですね。ま、格好も何も変えるわけではないんですが」

「応援はしよう」

「ありがとうございます。 それでは」

 光士は足早に体育館ステージの裏に向かった。

 俺もゆっくりと体育館に向かうとしよう。


 体育館に入り、観覧席になっているパイプ椅子に座る。

 始まるまで少し時間があるようだった。

 退屈だし、食べたばかりということもあって、俺は睡魔と戦っていた。

 ……もう眠い。 ま、寝てもいっか。

 俺はそのまま眠りについた。




「――ください。 起きてください」

「ん、あ?」

 目を覚ますと光士がいた。

「なんだ? もう終わったのか?」

「とっくに終わってますよ。 舞台から寝ているの見てましたよ。 さすがの僕も少し苛立ちを覚えましたよ」

「……すまん。 なんか眠くてな」

「ま、予想通りといいますか、予選落ちですが」

「今日のやつって予選なのか……」

「知らなかったんですか? 今日で学年で一人づつ候補を出すんです。 それで、明日ミス神高とミスター神高を決めるんです」

「へー」

「興味なさそうですね」

「興味ないからな」

「ま、いいですけど。 ……少し早いですが、演劇の準備に向かうことにします」

「そうか。 また後でな」

「はい。 今度は寝ないで下さいね」

「わかってるよ」

 そのまま光士を見送り、しばらくパイプ椅子でだらけた。


 時計を見ると、時間は二時四十五分だった。

 もう、教室に戻るか。

 俺は背伸びをして、体育館をあとにした。


教室に戻るとそこには秋奈がいた。

「あ、先輩。 こっちですよ」

 秋奈は既に椅子を確保しており、俺は秋奈の隣に座った。

「早いな」

「楽しみにしてましたからね」

「ほう。 意外だな」

「お姉ちゃんがあそこまで勧めるのは珍しいですし」

「なるほどね。 そういや、俺、これ全部見たことがないな」

「自分のクラスの出し物なのにですか?」

「あぁ、興味もなかったしな」

「……それはちょっと」

 秋奈は若干引いているように見える。

 俺がひどいということは自覚がないわけではないが、冷たい目線だったな。

 小さく作られた舞台の横に女子のクラスメイトが立つ。

「これより、演劇『呪われた少女と王子』を開演します。 他のお客様の迷惑となりますのでケータイ等は電源をお切りください」

 端にいたクラスメイトたちが扉や窓に暗幕をかける。



『仮想中世ヨーロッパ。 魔女狩りが盛んに行われていた頃。 そのようなことは全く行われていない孤立した王国がありました。 人々は周りの国とは全く違う宗教を持ち、崇め奉っていました』

 先ほど注意をいったクラスメイトがナレーション役のようで、台詞を言い始める。

 舞台袖から光士が現れる。

『彼はこの国の王子。 賢く逞しい立派な人。 しかし、彼は性格に多少の難がありました』

「我が国の民は何と愚かなのだ。 神などという得体の知れない何かに頼り、責任を押し付ける。 我ら王族が導かなければ、すぐに滅びてしまうだろう」

『王子は心の底から臣民を見下していました。 そして、同時に哀れみを持ち、導かなければならないという責任感を持っていました』

「よし! 今日は市井を見てまわろう」

 場面を移すために周りがせわしなく動き、城からレンガ街と思われるセットになった。

「出ていけ! この国から出ていけ!」

 布の服を纏った美春がモブキャラと思われる国民達から石を投げられていた。

 もちろん投げるふりだったが。

「何をしている!」

「げっ、殿下!」

 石を投げていたキャラは逃げていった。

「立てるか?」

 光士もとい王子が美春に手を差し伸べる。

「ありがとうございます、殿下。 しかし、私から離れた方が良いと思います」

「何故だ?」

「私は呪われています。 そのために災厄が殿下に降り注がないとも限りません」

「我はそのようなものは信じていない。 我が民は神や呪いといったものを愚直なまでに信じ込んでいるようだがな」

「殿下の仰る通り、呪いなどというものは存在しないのでしょう。 しかし、この国に関して言えばそれは適用されません」

「どういうことだ?」

「……殿下はこの国の民に特別な力があることをご存知ですか?」

「いや、知らぬが。 それと、何の関係があるのだ?」

「この国の臣民たちに自覚はありません。 自覚した場合、おそらく力を失ってしまうそんな力だからです。 その力とは、願望を実現させる力にございます」

「願望を実現させる力だと? そんなものがあったら世の中すでに乱れきっているぞ」

「正確には、彼らが信じて疑わないことが現実になるのです」

「信じて疑わぬこと……? 何にしても、それとそなたが呪われているということに何の関係があるのだ?」

「私は異民族の生まれなんです。 それと、ちょっとしたドジを繰り返してまして、いつからか呪われていると言われるようになりました。 それからは本当に呪われたかのように不幸が襲いかかってくるのです」

「……そなたが本当のことを言っているのかは分からぬが、気を違えているようにも見えぬ。 それに…………いや、なんでもない。 とりあえず、城に戻り父上に話を聞こう」

「陛下に話を聞いてどうなさるおつもりなのですか?」

「我はこの国において知らぬことなどあってはならぬ。 王位についたとき、この国を導いていくため、父上に助言を請うのだ」

「……そうですか。 私の話を聞き入れてくださいまして、ありがとうございます。 殿下に不幸が襲うといけませんので私はこれで失礼します」

 秋奈の演じるキャラはそのまま立ち去った。

 そして、また忙しくセット移動が行われた。

 セットの移動が終わるとそこには王座に座る付け髭を付けた男――おそらく王役のひとだろう――がいた。

「何用だ?」

「父上に聞きたいことがあります」

「……いいだろう。 なんでも聞くがよい」

「父上は我が国の民が特殊な能力を持つことをご存知ですか?」

「なに! それをどこで聞いた!?」

 王は立ち上がった。

「ご存知なのですか?」

「そんなことはどうでもよい! それをお前に教えたのは誰だ!?」

「街にいた、民から呪われていると言われている娘ですが……」

「衛兵よ! 聞いておっただろう! その娘を即刻捕らえよ!」

「はっ!」

 外側から声が聞こえた。 兵士役はこの場にださんのか。

「何故です!? 父上!」

「お前にもいずれ話すつもりではあった。 だが、この国は我が民たちによって無自覚に支えられている。 それを自覚することになれば、この国はたやすく滅びる」

「何を言っておられるのですか、父上」

「絶対に我が民たちには知られてはならんのだ。 少なくともその娘だけでも捉えておかなくてはならない。 誰に言うかもわからないからな。 それと、お前はしばらく部屋にいろ」

「…………わかりました。 父上」

 王の剣幕に押されきったのか、そのまま引いてしまった。

 そして、部屋が真っ暗になる。 どうやら、場面展開のために人が動いているようだ。

 明るくなると、錠をつながれた美春もとい呪われた娘が王座の前で跪いていた。

「お主が呪われた娘とやらか?」

「はい。 そうでございます」

「王子を呼べ」

「はっ!」

 兵士が王子を連れてくる。

「そなたは!?」

「王子よ。 こやつが呪われたと言われていた娘に間違いないな?」

「……はい。 ……違いありません」

 呪われた娘はずっと無表情のままだ。

「その娘は牢に入れておけ」

「はっ!」

 兵士は呪われた娘を連れ去っていった。

「父上はあの娘をどうされるおつもりなのですか?」

「力は口で聞くより目で見たほうがはっきりするだろう。 あの娘はそのための生贄だ」

「……父上はそんなことのために、一人の命を犠牲にするのですか?」

「今言ったのは事のついでだ。 どんな力を持とうと記憶を消すことはできん。 抹消するためには殺すよりほかはない」

「それならば、我も殺さないのですか?」

「お前はこの国の次期国王だ。 殺すわけにはいかん」

「それならば、我は王位を継ぎません」

「……お前はなぜあの娘にそこまで肩入れする?」

「我もわかりません。 ただ、僅かな危険性のために民を殺すのはどうしても我慢ならないのです。 我は愚かな民だからこそ我が導いてやらなければならぬと思いました。 しかし、これでは我らが民に生かされているだけではありませんか」

「それが民のためになる」

「そんなものは己のためだけではないですか! 真に民を思うのならば、一人の命も犠牲にすることなく、すべての民を豊かにし幸せに導くべきです。」

「そんなことは不可能だ。 人とは常に何かを犠牲にしなくてはならない」

「それはわかります。 しかし、こんな犠牲は必要ないはずです」

「必要だ。 先も言ったが民の能力がなければこの国は容易く滅びる。 それを失う可能性があるのならばそれは何においても抹消しなければならない」

「……何を言っても無駄なのですね」

 王子はその場を去っていく。

「おい! 何処へ行くつもりだ!?」

 王子は振り返って応える。

「自分の部屋ですよ」

「……そうか。 ならよい」

 照明が消され暗くなる。

『その後、王は臣民に呪われた娘は死に至る病にかかっているという嘘をつきました。 その嘘は臣民の間で真実となり、呪われた娘は本当に死に至る病にかかりました。 それは王子に伝えられ、王子は呪われた娘が囚われている牢屋へと向かいました』

 セットをまた忙しなく動かし、牢屋に変えられる。

 照明が付き、そこには王子と呪われた娘がいた。

「なんのようですか? 殿下」

 呪われた娘は咳き込む。

「……そなたは怖くはないのか? もう命は長くないのだろう?」

「怖くありません。 この世になんの期待も抱いていませんゆえ」

「わからぬ。 死とはもっと別のものであろう?」

「私と死は無縁の関係ですから」

「……どういうことだ?」

「……すいません、殿下。 私はいくつか嘘をついていました」

「嘘?」

「私は呪われてなどいません。 というより人ではありません」

「は? 何を言っておるのだ?」

「人ではないから、死はないのです」

「そなたが人でないというのならば、なんだというのだ」

「この国には二種類の神がいることはご存じですよね」

「あぁ、知っている。 悪の神とされているものと正義の神とされているものだな」

「そうです。 私はその悪の方です」

「……何を言っているのだ。 気でも狂ったか」

「信じてくれないのなら構いません。 どうせ、この肉体は滅び行く宿命。 最後に真実を伝えようと思っただけです」

「…………何故、我にその真実を伝えようと思った?」

「この肉体を作り出したのはあなただからですよ。 殿下」

「なんだと!?」

「この国の民は特別な力を持っていると言いましたが、王族もその例に漏れないのです。むしろ、この国の民より強いぐらいです。 そして、私のこの姿は昔、殿下が想像した悪の神の姿そのものなのです」

「なるほど。 だから、そなたは我好みの女であったのか」

 呪われた娘……ではなく自称悪の神は面食らったような表情をする。

「……それは、知りませんでした」

 王子がはっとしたような表情をする。

「忘れろ! 今のは忘れてくれ!」

 悪の神はクスクスと笑っていた。

「しかし、何故我の想像だけが反映されたのだ?」

「この国の民は、悪の神の姿をイメージするのだけで忌諱とされてましたから、おそらく私の姿をイメージしたのは殿下が最初だったのでしょう」

「そうだったのか」

 悪の神が俯く

「しかし、そうなると命が少し惜しくなってきました」

「死にたくないということか?」

「えぇ。 ただし、正確にはこの肉体を失いたくないですね。 私は私を信ずる者がいる限り完璧に消滅することはありませんから」

「そうか。 ならば、生き延びる術はないのか?」

「ないわけではありません。 殿下に辛い思いをさせることになりますが」

「よい。 そなたを救えるのであれば」

 また照明が消され、暗くなった。

『悪の神が提示したその術とはこの国から遠く離れた地に赴くことでした。 遠く離れた地に行くことでこの国の民の力は及ばなくなり、病は治る。 しかし、悪の神である娘はその力で存在しているので、それがなくなれば消滅してしまいます。 存在するための力を得るために王子と共に行かなければならなかったのです』

「つまり、殿下は国を捨てることになります」

「……そうか」

「やはり、やめますか?」

「そのようなことはない。 むしろ、大歓迎だ。 この国がこんなにも腐っているとは思っていなかったからな。 王座は惜しいと言えば惜しいがそなたといた方が楽しそうだ」

「おかしな人ですね」

「人でないものに言われたくない」

 王子と悪の神は笑っていた。

 王子は牢屋の鍵を開け、悪の神を外へと連れ出す。

 そして、セットが森へと切り替えられる。

「悪の神よ」

「なんですか?」

 王子は跪き、悪の神の手を取る。

「我はもう王子でもなんでもない。 ならば、そなたの方が目上の者となる。 これからはあなたに忠誠を誓い、尽くそう」

 そして、悪の神の手の甲にキスをした。

「ありがとう」

 二人は手をつないで歩き、舞台袖に消えた。

『その後、悪の神である少女の病は治り、王子であったものと末永く暮らしました。 これにて、呪われた少女と王子の話はおしまいです』

 役柄を演じた、キャラが全員舞台に上がった。

 全員で礼をし「ありがとうございました」と言う。

 その後、役者が一人一人自己紹介をして、演劇は終了となった。



「演技うまかったですね」

「さすがは光士と美春と言ったところか」

「そうですね。 あの二人万能みたいですから」

 それ、お前が言うのか?

 ふと、舞台袖を見ると美春が廊下に飛び出ていくのが見えた。

 どうしたんだろ?

「どうしました?」

「いや、美春が焦った感じで走ってたから」

「あぁ、多分ミスコンですね」

「……あれか」

「間に合えば、お姉ちゃんの優勝は確定だと思いますけど」

「お前の自慢のお姉ちゃんだもんな」

 からかい気味に言ってやる。

「そ、そんなんじゃありません! ただ、お姉ちゃんのことは私が一番知ってますから」

 デレたな。

「ミスコン、見に行きませんか?」

「ま、そうだな」

 ミスコン会場である体育館に向かうと既に始まっていたようだった。

 美春は何とか間に合っていたようで、ステージに立っていた。

 息が荒く、汗をかいていたが逆に扇情的で色っぽい感じだった。

 結果は秋奈の予想通り美春が優勝した。

「これで本選へ向かう三人の女性が決まりました!」

 司会者である男子生徒が高らかに叫ぶ。

 体育館の暗幕を閉め、プロジェクターが起動する。

 そこに映し出されていたのは、結良ちゃんと秋奈と美春だった。

「一年生代表は小井塚結良さん! 小柄な小動物的可愛さに惚れた人が多かったのでは?」

 結良ちゃんも参加していたのか……。 見ておけばよかった。

「二年生代表は四季秋奈さん! 容姿端麗で溢れ出る高圧的な態度! あっち方面の人はみんなベタ惚れか?」

 あっち方面ってなんだよ……。 横で秋奈は若干キレてるっぽいし……。

「三年生代表は四季美春さん! 四季秋奈さんの姉であり、また違った美しさを醸し出す! やはり、大人っぽい女性が一番いいのでしょうか!?」

 なんとなく、失礼な奴な気がするぞ。 この司会者。

 

 これで、今日の文化祭の全てのプログラムが終了した。

 

 

 今日、社長の言う餌がなかったということは、明日あるのだろう。

 大きな不安と僅かな楽しみを抱きつつ明日を迎えることにした。


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