奏でる僕らの輝く旋律
深く考えず軽く読んでください。
この世は音楽で満ちている。聴こえてくる音色に耳を傾けてごらん。ほら、トモダチの声が紛れているから―――
僕は、急いでいた。今日は友達と楽器の練習をする約束をしているのだ。なのに、もう待ち合わせ時間ギリギリだ
楽器は持った。デッキもセットしてある。昨日の内に用意していたからね。ただ、寝癖を直す暇さえないほど寝坊しちゃっただけ。まさか、あの真面目な目覚ましが仕事をサボるなんて……。
楽器、音楽はこの世界で欠かせない大事な大事なファクターである。だと言うに、僕はどうも上手く行かない。偶然にも憧れのサクヤ様と同じバイオリンが主楽器なのだが、まだまだだ。サクヤ様は僕より確か一つか二つ上なだけなのにねえ。この差は何だろう。才能と努力の差ですね、はい。
急がねば、と息を切らし漸く駅前に到着。待ち合わせによく使われる、漢は黙って赤ふん像を目指す。周りでは、音楽決闘をしている人達がちらほらといる。僕も観戦組に回りたいところだが、グッと堪えて前に進む。くうっ、あっちとか凄い激戦だよ! レベル高いのは音で分かる!
誘惑を振り払う僕。懸命に堪えるも、目の前に現れた男によりその努力も無に還った。
ギターを持った男だった。モヒカンに、素肌に袖を引きちぎり前を全開にした革ジャンを着た、一昔前のロックミュージシャンみたいな格好の男だ。ただ、顔も体も貧相と言うか優男なので似合ってない。
「そこのキミ! 俺とデュエルだ!」
ああ、やっぱり……。つかその見た目でキミって…。
案の定、デュエルを仕掛けられた。どうしようか……むむむ、いやいや、うん。
「受けて立つッ!」
楽器の練習にはデュエルが一番いいしね! 売られたデュエルは基本買わなきゃね! つーか、やりたいしね!
大丈夫大丈夫、友達だって許してくれるさ。デュエルだしね! 勝てば問題ナッシング!
「ルールはどうする?」
「待ち合わせがあるから、タイマン一回でお願いします」
「よし来た!」
見た目に反して中身は好青年なギタリスト。中には一方的に決めちゃう人もいるからなあ。
ルールって言っても、まあ勝負方式を決めるくらいで他は基本のまま変えない場合が多い。フルバトルは五対五で、先に全部倒した方が勝ちにしたり、一対一五戦中勝ち星の多い方が勝ちになったり、ルールは変えられる。今回はタイマン一回、つまり一回勝負だ。
僕がケースからバイオリンを出し構え、二人でハモって宣言と、曲を奏でる。
「「フィールド展開、オンステージ!!」」
そして出来るのが、ステージ……デュエルフィールドだ。地面を透明な青い長方形の光が覆い、僕達プレイヤーも下から光に照らされる。広がると、勝手にフィールドの端に移動させられるのは未だに不思議だ。
「「カード展開!」」
若干変わった曲調と声に反応したように、デッキホルダーに入れていたカードがくるくると列をなしてプレイヤーの周りを回る。モンスターカードは十五枚、補助カードが二十五枚で、そこからランダムでカードが弾かれ、相手には裏面を向けた状態で並び他のカードはホルダーに収まった。
モンスターカードが一枚、補助カードが五枚。一対一の時の基本ルールそのままだ。モンスターカードが一枚増える度に補助カードも一枚増える。フルバトルだと、モンスター五枚に補助十枚となる。デュエル中使えるのは、基本このランダム選出のだけだ。
「じゃ、行くぜ!」
選ばれたカードを見ていると、ギタリストがギュイーンと召喚の曲を奏で始めた。曲はモンスターのランクと属性、レア度で変わる。中には固有曲を持ってるカードもあるが、これは……ランク2の火属性、レア度は8か。
「来いッ! 俺の『暴走フレイムライダー』!」
一枚のカードが曲に合わせくるくる踊り、フィールドにて弾ける。その光が結合し幾重もの帯を揺らめかせ、集まり、ひとつの影が形作られていく。ぱんっ、と光が弾け現れたのは、スクーターに乗った人型の炎だ。
ランクは5段階あり、ランクアップさせる事により見た目や強さも変化する。ランクアップはそれぞれランク間に設定されているレベルを上げていけば出来る。レア度は最高20で、8はノーマル。レア度が高いほど能力が高かったり特殊だったりする。
相手が召喚したので、僕も召喚。向こうの曲が途切れたのを見計らい、奏で始めた。ランク2・水属性・レア度14の曲を。
「行くよ! 僕の『ウンディーネ』!」
精霊族は軒並みレア度が高い。だからと言って確実に勝てる訳ではないが、相手には多少動揺を与えられるだろう。引きが良かった。
カードが地面の光にとぷんと沈み、こぽこぽと水を溢れさせた。水はどんどん増えていき、バシャン! とそこから勢い良く飛び出したのは、小さな美しい青の魚。多分鯵くらいの大きさだ。ランク1は貝だったのでまだマシである。
「ウンディーネか……相手にとって不足なし!」
「絶対負けないよ!」
攻撃、防御、技、補助カード使用も曲を奏でて行う。あとは口で指示も重要だ。複数の事を同時にしなければならないのだが、プレイヤーの楽器の腕前や状況把握能力が勝敗を左右するので、気が抜けない。全て満遍なくこなさなければならないのは、かなりの集中力を有する。
そして、戦闘が始まった。
「フレイムライダー! 攻撃だ!」
「ウンディーネ、避けて!」
フレイムライダーがスクーターで突っ込んできたので、バトルミュージックに指示の一節を混ぜる。常に演奏していないといけないのは辛い。モンスターにより曲は違うのだが、不思議とどのモンスターの曲も重ねてもおかしくないように出来ている。全く違う曲のはずなのに、重なるとまた別の曲となり、観戦組は目でも耳でもデュエルを楽しめる。
プレイヤーは楽しむ余裕なんてないけどな! 集中力が!
「ウンディーネ反撃! アクアタックル!」
技の曲を混ぜるが、技名を言わなきゃどの技を使うのかモンスターが分からないので、みんな言います。ちょっと恥ずかしいが、必殺技はもっと恥ずかしいので気にしない。
螺旋を描く流水で出来た円錐形の水を纏い、フレイムライダーに突っ込む。相性はこちらが有利なので、当たればそれなりのダメージだろう。ミスもないし、レベルもそんなに差はなさそうだし。
「くっ、『火神の加護』発動!」
げっ、補助カードかよ! しかもそれ、ランク4のレア!
補助カードはレベルもないしランクアップもしない。ただ、ランクとレア度が比例していて、神系は軒並みレアだ。かく言う僕も持っていて、デッキには入れたが選出されなかった。
補助カードによりパワーアップしたフレイムライダーは、スクーターにも炎を纏い黒光りする鎧を身に纏った。あれは攻防力を上げるんだよね、特に火神は攻撃力が上がる。
迎え撃ったフレイムライダー。相性はこちらが有利でも、攻撃力は遥かに向こうが上なので相殺された。技を使ったから相殺で済んだが、通常攻撃だったらウンディーネがダメージを負っていたかもしれない。
「よしっ。続けて『爆炎轢』!」
ゴッと炎を大きくさせたフレイムライダー。タイヤの大きくなったスクーターで轢き殺すつもりらしい。やらせんッ!
「『聖なる湧き水』発動! 『雷様の太鼓』を犠牲に更にパワーアップ!」
「なっ…!?」
とっておき発動! いやあ、雷属性のブーストカードが混じってた時はショックだったが、これがあってよかった!
基本的に、デッキの属性は統一する。ブーストカードはあった属性のモンスターしか強化しないしね。僕はデッキはころころ変えるのだが、今日は水と雷にしていた。雷のブーストはウンディーネに使えないので本来なら死にカードなるのだが、聖なる湧き水があったので生きた。
このカードは、補助カードを一枚犠牲にする事により、どんな属性のモンスターだろうとパワーアップさせる。だがこのカードの真骨頂は、水属性に使うと一時的に1ランクアップさせるのだ。
ウンディーネが現れた湧き水をこくりと飲むと、青い光に包まれた。光が大きくなり、キラキラのエフェクトを纏い大型の魚に進化した。美しいターコイズブルーのシーラカンスのような魚だ。ランク3になり、更に火神の加護ほどではないにしろパワーアップもされている。うん、強い。
「まじかよ…!」
音楽の合間に、ギタリストの驚愕の声が聞こえた。ふふん、凄いだろう! うちのウンディーネ、美人だろう!
フレイムライダーは攻撃力が非常に高く、防御力は並。デッキ構成のコンセプトが、ガンガン行こうぜ! の人が好むモンスターだ。対してウンディーネは、攻撃力はやや高めで防御力は並。だが自然治癒の特性を持ち少しずつ回復するので長期戦では有利になる。長期戦は考えてないので、ぶっちゃけちょっと不利だったのだ。ウンディーネは大器晩成型なのでランク2じゃ正直弱い。が、しかし。
ランク3になり飛躍的に上がった能力値! これで勝つる!
………と、調子に乗ったのが失敗だった…。
「ウンディーネ! 『タイダルウェーブ』!」
ウンディーネが呼び起こした津波が、フレイムライダーに迫る。僕の演奏にも力が入る。上手ければ上手いほどパワーアップするからね! ……代わりに、失敗すればパワーダウン。
「発動! 『ちゃぶ台返し』!」
ギタリストが補助カードを発動させた。確かあれは、攻撃を跳ね返すカードだ。しかも自分の攻撃力も上乗せして。ただ、現れた巨大なちゃぶ台をタイミング良く引っくり返さねば、攻撃をダイレクトに喰らう。
今使えるウンディーネの技の中でも、特に高い技だ。必殺技は治癒と防御の一体技だから、これが一番。返されれば大ダメージだが、当たれば瀕死に追い込めるはず。津波は全体攻撃だから、返してもダメージは与えられるはずだが、三割から五割程度しか削れないだろう。失敗しろ!
緊張の一瞬。津波がちゃぶ台を呑み込まんとする、その時!
「―――今だあああっ!!」
ブオンッ! とウイリーするように前輪を上げちゃぶ台を放る。宙を舞うちゃぶ台は、見事に津波を返した。
「うそっ!?」
いくらそこで演奏を止めても、威力は返された時の物で固定されている。避ける間もなく、ウンディーネは津波に呑み込まれた。ぎ、ギリギリ防御の旋律は間に合った! …多分!
水が消えた後、ウンディーネの体力は六割も削れていた。大半を返されたからなあ……水に水はダメージ少ないし、ウンディーネはランクが上がれば水を受けるとパワーアップするようになるくらい水に近いので、この程度で済んだ。まあ、上乗せしてあったから六割も、になるのかもしれないが。
で、動揺で旋律が大分乱れた僕。一度乱れると立て直すのが難しい。僕だけか?
「トドメだ! 『大車輪』発動! 『グランドファイアアタック』!」
ブルォンッ! と鳴らし、巨大化したスクーターのタイヤで突っ込んでくる。スクーターには巨大な炎の槍が生えていて、轢かれなくてもヤバい。飛んでくる槍もあり、あれ必殺技じゃんか!
大技の反動で動きの鈍いウンディーネは……避けられないな。くそっ! あくまで轢き殺す気かよ! ならこっちだってこれ使うぞ!
「『底無し池の落とし穴』発動! 更に『アクアリング』!」
モンスターを粘着性のある落とし穴に落とし暫く行動不能にする補助カードだ。そして防御系の技、アクアリング。ウンディーネの前に水のリングが現れ、水の膜が張った。正面しかガード出来ないが、その分防御力は高い。
フレイムライダーは落とし穴に落ちたが、飛んでくる炎槍はそのまま向かってくる。炎槍と水の膜がぶつかり合い、水蒸気が発生する。
「負・け・る・かあああああッ!!」
「行っけえ────ッ!!」
拮抗している場合は、プレイヤーの腕前で勝敗が決まる。さっきは調子に乗って油断したが、もう油断はしないよ!
感情が高ぶり、早弾きになる。指が攣りそうになりながら、互いに全力を振り絞る。所々互いにミスをしながらも、それでも奏でられる力強い旋律に、周りは息を飲んだ。ひとつの曲として成り立ってるそれは、負けたくないと言う心の現れ。
言っていた。サクヤ様は、音色に耳を傾けろって。モンスターとの……トモダチの声が分かるからって。
集中しろ、僕。ウンディーネの声を聞け。すべき事を理解しろ!
「――ッ!? なっ、何だ!?」
突然変わった曲調。早弾きは変わらないが、ギタリストはその旋律に目を丸くした。その際ミスをし―――僕に、有利となる。
一瞬で、技から回避に転換する。スピードアップの旋律だ。補助カード以外での強化と言ったら仲間から(タッグバトルの時のパートナー)の支援と、プレイヤーの旋律だけ。強化の旋律は、かなり難しい。僕も間違えまくり強化も微々たるものだが、元々素早さは高いのでかすった程度で済んだ。体力は残り三割。
「行っけえウンディーネ!! 『アクアタックル』!」
水の弾丸となり飛んでいくウンディーネが、身動きの取れないフレイムライダーの顔面を抉り、体力を削り取った。
砕けて光となり消えたフレイムライダーを見届け、『WIN!!』の文字にホッと力を抜いた。
「やった、やったよウンディーネ〜!」
やっほう! と寄ってきたウンディーネを撫で回す。ランク2の小魚に戻ったウンディーネ。嬉しそうにするウンディーネにぶちゅぶちゅキスすれば、擽ったそうに身を捩った。嫌そうじゃないからよし!
ウンディーネをカードに戻し、フィールドは消える。おっ、レベル上がってる! ランクアップも近いね♪
「いやあ、キミやるね!」
「ありがとうございます。ギリギリ勝てました」
近寄って握手する。音楽決闘ってのは一種のスポーツだからね、こうした敬意を表す握手は普通だ。
実際、ギリギリだった。僕はこう見えて音楽決闘の盛んな学校に通ってるから一応強い方なんだよ? 学校では並だけど。なのにこんな追い詰められるなんて思わなかった。舐めてた訳じゃないが、見た目が下っ端臭いんだもん。無意識に侮っていたのかもしれない。
指が限界だったので、多分二対二以上だったら負けてた。
いや、楽しかった。周りからも拍手を送られ―――その中に、こめかみに青筋を浮かせた友達を発見し固まった。わわわ、忘れてた!!
「うふふ……目の前で道草なんていい度胸じゃない」
「ひいっ! すんませんッ!!」
腕を組み黒い笑みでそう言った友達に、腰を折ってバッと頭を下げた。怒らせちゃいけないタイプなんだよ、彼女は!
隣にいるもう一人の友達はおろおろしている。うう、心配性だから心配させたかもしれない。だって涙目!
「全く、やるならやるで一言声かけなさいよ! すぐそこだったでしょ!?」
「……心配したんだよ? 事故にでも遭ったんじゃないかって」
「ごっ、ごめんね!」
ぬうん、申し訳ない。モヒカンギタリストさんは苦笑しながら離れていった。逃げるのかっ? 助けて!
僕が悪いんだけどさ、分かってるけどさ? 泣かれるのは嫌だよ〜。
わたわたしていると、はあぁ、と溜め息を吐かれた。
「仕方ないわね……まあ、いいわ。私達ともデュエルするなら許してあげる」
「マジか!」
「う、うん。わたしもやりたい」
僕はいい友達を持った。同じプロを目指す同志だから、売られたデュエルを買わない方がきっと怒られただろうね。だからこれくらいで許してくれる。――だがしかし。
今指が可哀想なのでちょい時間ください。ねっ。
この世界で暮らすのに大事なファクターである音楽。僕達はプロの音楽決闘士を目指し、今日も日々精進します。
なんかすいませんでした。
遊○王とポケ○ン合わせて劣化させたみたいな内容になってしまった……