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カルデラの炎 05



「はぁ……倍働いたら、倍以上疲れたよ……」


 先に倒した火竜同様の姿となって倒れる古代竜を眺めながら、ジューザスがそう呟く。


「しかし凄いね。いくら閃光弾で視界を奪っていたとはいえ、古代竜の口に自ら突っ込んで剣突き刺すなんて……まさかそうするとは思わなかったな」


 ジューザスは俺に聞かせるような口調で、「私にはそんな勇気はないよ」と言う。俺はそれに何も返事はせず、ジューザスに背を向けた。


「だって下手したら食べられちゃうじゃないか……って、あれマギ、もう行くのかい?」


「こんな所に長く居ても仕方ないだろう」


 先ほどジューザスが言ったようなことを言い、俺は山を降りる為歩き出す。


「あ、ま、待ってくれ!」


 俺が歩き始めたのを見てか、ジューザスが慌てて俺の後姿を追う。その時だった。


「!?」


 重い地響きを感じ、俺は足を止める。ジューザスも俺の後ろで「な、なんだ?!」と困惑した声を上げていた。


「地震……いや、噴火か?」


「えぇ!? ちょっとマギ、怖いこと言わないでくれよ!」


 地響きは直ぐに止み、ジューザスは「あぁ、よかった」と安堵を呟く。俺はそんな奴を見て、少し笑った。


「弱虫め」


「いや、普通は怖いって。ここの火山はまだ活動してるんだし、いつ噴火があってもおかしくないんだから。私はまだ死にたくないよ」


 ジューザスは「やっぱりここ、さっさと離れた方がいいよ」と言ったが、俺は気まぐれに怖がりな奴を少しいじめたくなった。

 俺はまたジューザスに背を向け、少し離れたところにある崖の縁へと歩いていく。


「って、マギ……今度はどこに行くつもりだい? 帰る道はそっちじゃないよ」


「いいからこっちに来い、ジューザス」


 俺がそう言うと、ジューザスは「死にたくない……」と訳のわからないことを言いながらも、俺の後を追って来た。



「なんだいマギ、今度また古代竜が出たら私は……」


「……ジューザス、あれを見ろ」


 崖の縁に立ち、俺はそこから眺められる崖下の様子を見ながらジューザスにそう言う。ジューザスも俺に並び、俺の視線の先を追った。そして奴は感嘆の声を漏らす。


「う、わ……」


 見下ろした視界の先には、大きく陥没したような不自然に低い黒の土地。その所々に紅い色が覗き見え、その色の正体を示すように白い煙が緩く立ち上る。


「あの赤いのは溶岩かい?」


「あぁ」


 溶岩を真下に孕む地は高い崖の遥か下だが、それでもその熱を感じられる場所に俺たちは立っていた。黒い地面の下に、炎を固めたような鮮やかな色のうねりが見える。溶岩はあの真下で、確かに流れ動いているのだ。

 ジューザスはしばらく眼下のその光景を見つめ、やがて独り言のようにこう呟いた。


「……ああいうのを見ると、この星はまだ生きているのだと思わされるね」


「……ホシ?」


 聞きなれない単語を口走ったジューザスに、俺は疑問の眼差しを向ける。ジューザスは下を見つめたまま、俺の疑問に答えた。


「昔に賢人と呼ばれる老人に色々と興味深い話を聞いたことがあってね。その時に知った言葉さ。旧時代より遥か昔に人々……いや、それより古くにここに住んでいた者たちがこの世界を”星”と名づけ呼んだのだと、ね」


 何となく興味を引かれる言葉に、俺は沈黙したままジューザスの説明の続きを待った。


「星とは広大な空間にいくつも存在するもので、その星のひとつがこのリ・ディールなんだと彼は語ってくれたよ。今の時代にはそれを知るものはほとんどいないらしいらしいけど。そして他の星のひとつがエレで、我々が魔界とも言う異世界なんだって。……星は複数存在すると言うのなら、異世界はエレの他にもまだきっとたく さん存在するんだろうね」


「……胡散臭い話だな。だが興味深い」


 俺がそう正直な意見を返すと、ジューザスは小さく笑う。


「珍しいね、君が興味を示すなんて。基本的に君は全てに無関心なのに」


「俺だって時々は、何かに興味引かれることもある。ただ興味の無いことの方が圧倒的に多いだけだ」


 俺の返事に、また奴は笑う。そして続けた。


「ほら、まるで星の命の鼓動に見えないか? あるいは血液というか……不思議な光景だからかもしれないけど、何かそういうものに見えるよ」


「あの溶岩が、か?」


「そうそう」


「……なかなか面白い発想をするんだな、お前は」


 俺がそう返事をすると、ジューザスは苦笑を漏らした。


「ほし、か……」


 確かに、ジューザスの言うとおりに思える気もする。

 マナが減った死にかけのこの世界は、それでもまだしぶとく残り生きている。あの鮮やかな赤はそれを俺たちに訴えているようにも思えた。



「……マギ、私はこの世界がそれなりに好きでね」


 唐突なジューザスの呟きに、俺は無言で耳を傾ける。


「少し期待もしているんだ」


「期待?」


 死に掛けのほしとやらに、一体何を期待すると言うのか。


「嫌味ではなく……私は君のように強くないから、どうしても居場所を求めてしまうんだ」


「この世界にか?」


「うん」


 ジューザスに視線を向けると、奴は何か想うような眼差しでまだ溶岩を孕む大地を見下ろしていた。


「……くだらん」


「君はそう言うと思ったよ。でも私は弱いから、拒絶されながら生きることは出来ないんだよ」


 奴は俺を孤独と言った。それが俺の強さとでも思っているのか。


「だからこの世界に居場所を求め、期待してしまうんだろう」


「お前の自覚するその弱さは、期待などしているせいだ。弱いから期待するのではない。元々この世界に何も期待してなければ、ここに居場所を求めようという気にもならないと俺は思うがな」


 俺自身がそうだから、俺はそうジューザスに返事する。しかしジューザスは納得でき無そうな様子で、沈黙した。そして長い沈黙の後、ジューザスは呟くように言葉を零す。


「やはり私には、君のような生き方は出来ないようだ。誰かに……何かに求められたいという欲求が根本にあるからかな。居場所に対して無関心には生きられない」


「……別に俺のように生きろとは言ってない。ただ俺は俺の考えを言ってみただけだ。それにそういう迷いや期待は、お前らしいとも思える。理解は出来ないが……だが、お前はそれでいいんじゃないか?」


 随分とらしくないことを言ったという自覚はあった。ジューザスも驚いたように目を丸くして、俺を見つめている。


「どうした、間抜け面して。俺を笑わせたいのか?」


 ジューザスの間抜け面の意味を理解しながらも俺がそう問うと、ジューザスは何か少し照れたように笑った。


「い、いや……なんだか君に随分優しいことを言われた気がして……あ、ありがとう!」


「……なぜそこで礼を言うんだ」


「えっと……本当だ、どうしてだろうね。ただ何となく……かな?」


 よくわからない男だ。

 だが俺はこいつが、嫌いでは無いと自覚した。好きというわけでもないが、関心を持っていた。自分が他人に関心を持つなんて、レンツェ以来な気もする。


「……そろそろ戻るぞ。腹が減った」


 ジューザスは何か気になる様子で、また眼下の赤に視線を落とす。俺はそんな奴に背を向け歩き出した。

 ジューザスは「あ、うん!」と返事し、慌てたように歩き出す俺の背中に続いた。





 余計な仕事までした帰り道、俺は何か話しかけるジューザスの言葉に適当に返事をしながら考えていた。

 俺はジューザスのような、おそらくは”普通”である生き方は出来ない。ジューザスが俺のような生き方が出来ないと言ったように。

 俺もジューザスも同じゲシュだが、俺は獣になることを選んだ。そしてジューザスはヒトである事を望んだ。俺たちが互いの主張を理解出来ないのは、その違いなのかもしれない。


 ヒトは孤独には生きられないと言う。ならばただ唯一俺が依存するレンツェが、かろうじて俺を完全な獣ではなくしてくれているのだろうか。



「ねぇマギ、この世界に居場所を求める私は変かな?」


「……俺に聞くな」


「あはは……ごめん」


 俺たちはその生き方で分かり合える事は無いだろう。だがジューザスが選んだ生き方の行方には、多少興味があった。いや、違う。ジューザスに興味を持ったから、奴の進むべき方向にも興味を抱いたというのが正解か。


「だが……こんな世界に期待出来るのは少し羨ましいかもな、お気楽で。やはり俺には無理だ」


「あれ? なんだがちょっと嫌味な言い方してない、マギ」


「気のせいだ」


 小さく笑い、俺は足を早める。ジューザスも今はまだ俺と同じ方向へと向かい歩いた。



【END】

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