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カルデラの炎 01

 初めてそいつを見た時の印象は……覚えていない。

 だけど二度目は覚えている。奴を意識するようになったその時の印象は、『こいつも俺と同じ外れ者か』というものだった。





 そいつはずっと外套に付いたフードを被って顔を隠していた。周りはそんな奴を『妙な奴』と噂していたような気がする。俺はそんな噂を含め奴に最初は興味が無かったから、その時の奴に対する印象は薄かった。

 ただフードから僅かに漏れる白髪に似た白藍色の長い髪だけが、少しだけ気にはなった。




 魔物の討伐を人々に依頼され、それを仕事として請け負う者たちが集まる喧騒多い場所に、その日俺はそこの一員として立っていた。


「新入りか? まぁ、適当によろしく頼む」


「俺たちの稼ぎをとらねぇ程度に頑張れよ。張り切りすぎると死ぬからな」


「で、君の名前は?」


「……マギ」



 レンツェと……愛する者と共にやって来た港町は、余所者の俺たちにも比較的優しい穏やかな町だった。

 この町は来るものは拒まず、去るものは追わずといった雰囲気の場所らしい。それは外れ者の俺にとっては理想の場所に思えたし、海の見える町に暮らすことを望んだレンツェの希望もあり、俺たちはこの町で暮らすことを決めた。

 しかしどこで暮らすにも金が必要になる。俺は彼女を養う為にしばらくは酒場で働いていたが、やがて彼女には酒場で働いていると言いながら、実際には彼女には内緒で街の魔物討伐専門のギルドへと自分の名を登録していた。

 こういう荒仕事の方が金を稼ぐには効率がいいからこの仕事を選んだが、レンツェに正直にこの仕事を選んだと言えば俺を心配して止めるだろう。だから俺は彼女にはこの仕事は秘密にすることにした。隠し事をすることに心苦しさはあったが、しかし何の取り得も無い俺が彼女を養って生活していくにはこれくらいしないときっとやっていけないだろう。だからこの仕事の事は彼女には感づかれないように気をつけないとと思いながら、俺はギルドから支給された真新しく重い武器を受け取った。


「今月の新人は、お前とあのフードの男の二人か……」


 誰かが俺の近くでそう囁くのが聞こえて、俺はまだ重さに慣れない大剣を背負い直しながら、何となく周囲を見渡した。

 ギルドの隅、薄暗い部屋の角に一人背を預けて佇む男がいた。そいつは不自然に思うほど深く外套のフードを被って顔を隠していて、他の者たちと離れてただそこに存在していた。おそらく奴が今誰かが囁いた俺と同じ”新人”なのだろう。でも、それだけだ。その時はそれ以上、そいつについて興味を持つことはなかった。ただ一つ、フードから僅かに覗き見えた白髪のような長い髪だけは少しだけ気になったけれども、でもやっぱり俺はそれ以上そいつに興味を示す事は無く視線を奴から離す。俺はギルドの喧騒に居心地に悪さを感じながらも早くここに馴染もうと、近くにいた男にここでの仕事についてを詳しく尋ねることにした。




 ギルドに名を登録した後しばらくは、新入りだった俺に回ってくる仕事は、危険は少ないが報酬の安い討伐仕事ばかりだった。それは仕方ない事だろう。無名の新人にいきなりハイリスクハイリターンの仕事を回すなんてこと、まともなギルドならしない。つまりこの町のギルドは、各々の能力に合わせて仕事を選び回してくれるまともなギルドだということだ。

 だが俺はそのことに納得しつつも、多少の不満も感じていた。安い仕事が来るたびに、自分はまだ認められていないのだと言われている気がしたのだ。勿論それがいかにくだらない感情なのかも理解していたから、俺は不満を抱えたまま黙々と報酬の安い仕事をこなしていった。



 ある日俺にギルドの受付が、こんな依頼の話をしてきた。それが奴を意識し、知るきっかけとなる。


「ちょっと今人手が足りなくて、君とあともう一人の二人で行ってもらいたい仕事があるんだけど……人数少ないんだけど、大丈夫かな?」


「……どんな仕事だ?」


 とりあえず内容を確認したいと俺が問うと、受付の男は書類を見ながら内容を語る。討伐依頼の内容自体は、いつも俺に回ってくるもの同様に手ごわい魔物相手ではない簡単なものだった。


「えーっと、東の峡谷に怪鳥の群れが出たので退治してほしいという依頼だね。場所は遠いが、魔物の種類は中型でそう脅威になる種類では無いね。勿論油断は禁物だけども」


「その程度なら二人でも大丈夫だろう」


「そうか。じゃあお願いするよ」


 受付の男に返事をし、俺は書類に何か記載する彼にもう一つ聞きたいことを問う。


「それで、俺の他のもう一人とは誰だ?」


「あぁそうだね。彼だよ」


 受付の男は顔を上げ、俺の背後を指差す。俺が振り返り受付の男の示す先へ視線を向けると、そこにはあのフードの男が立っていた。


「……」


「新入りの二人だけというのは不安なんだが……今ほとんどの者が、エルドーラ火山に出た古代竜討伐の方に出ていてね。だから人手が足りなくて」


 受付の男の不安そうな声を背後に聞きながら、俺はフードの男を見つめたまま「かまわない」と返事をした。




「同じ時期にここへ来たのに、喋った事はなかったよね」


 受付を離れると、フードの男が俺へと近づきそう声をかける。


「名前も知らんな」


「自己紹介もまだだったね。今まで一緒に仕事したことなかったし」


 男は小さく笑いながら、「ジューザスだよ、よろしく」と言って俺に手を差し出す。握手を求めていると理解したあと、俺はその手を無視する理由もなかったので握手をした。


「マギだ」


「あぁ、私は君の名前を知ってるよ。同期の新入りだし、興味があったから他の人から聞いたんだ」


「俺はお前にとくに興味は無かったが」


「ははっ、そうか」


 ジューザスと名乗った男は、何が可笑しいのかさっぱりわからないが、俺の言葉に笑った後に俺を外へと誘う。


「とりあえず町で装備を整えて、出発の準備をしながらお互いのことを自己紹介しよう」


「……名前以外に説明することなど無いのだが」


 俺がそう答えると、ジューザスは「じゃあ私が質問するよ」と言う。


「命を懸ける仕事だからね。共に戦う仲間のことはよく知っておきたいんだ。そうしないと上手くいかない気がして」


「……」


 変な奴、と思いながら、俺はとりあえず奴の言うとおりにしようと、そいつと並んでギルドを後にした。


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