7話 spring winter
コンプレクシティ 超大型強襲用戦艦クラポ会議室
サーラは思い悩んでいた。
黒葉美運の消息不明
更には彩美の地球人抹殺の失敗
課せられた命は尽く失敗に終わる様に、周囲からの信頼を失っていた。
仕方なくサーラは、ある星を攻略した際に捕らえた能力者を雇用することにしたのである。
「こんな扱いをしてしまって本当に申し訳ないと思っている、しかし我々には時間がないのだ。できることなら、君をこき使いたくはなかったよ」
謝罪をするが、誤っている気持ちは微塵も伝わってこない
それを感じ取るのは、騎士風の姿をした大男
右腕には、その何倍もの大きさの巨大な剣
それを肩に軽々と担いでいた。
「御託はいい!本当にこいつを成功させれば、俺達はてめぇ等の支配から解放してくれるんだな?」
「もちろんだ。約束しよう、アポカリプス騎士団第1隊隊長、ジャック:キリー」
サーラのその言葉に、大男は剣を地に突き刺し、左腕を拳に、右腕で包み
「承知した!」
喝を入れるように大声を上げ、任を受けた。
「それと、護衛を一人付けよう。」
「ん?」
パンパンッ!と両手を叩いて合図すると、美しいまでの桃色の髪の女性が現れた。
「及びかい、サーラ?」
その容姿といい、態度といい、まるで見たことのあるような雰囲気だった。
「彼女を護衛につけよう。いいな?」
サーラは微笑ましいまでに生き生きとした表情であった。
回廊
キリーとその女性は、宇宙発艦口へと向かいながら会話を交わしていた。
「お前、確かスプリングとか言ったな?そんな華奢な身体で、護衛なんて務まるのかよ!?」
挑発じみたような声で、スプリングと言う女性に、威嚇的な態度をしてみせる。
「大丈夫、これでも名のある家柄の長女でね」
「ふ~ん、どこの家だよ?」
腑に落ちないような納得だが、キリーはさらに押しにかかった。
「それは言えない…でもすぐに分かるよ」
スプリングは笑顔をみせて、キリーに相槌をうった。
「そうかよ…」
“つまんねぇ”といいたそうな顔をして会話は終わった。
このスプリングという少女…いや、少女だろうか?
170cmはある背丈に、長い半透明ドレス、色気を醸し出す姿からは想像もつかない何かが、この女性には眠っていると、キリーは予期した。
宇宙空間 地球軍本部発艦口
地球軍の本部にようやくたどり着いた勝輝達はドックを抜け、すぐに麻衣を治療所へと運んでいった。
急所は外しているとはいえ、出血がひどく医学に近い技術を持つアルフや、軍事医療にも携わっていた司でさえも、生死がわからなくなるほどだったからである。
「輸血パックが余っていてよかったな、こいつがなければ恐くあの女性は死んでいただろう」
2~3個は所持していたはずの輸血パックはすべて空になっていた。
司はそれを手の上で遊んでいた。
「本当にすまねえな。今の俺はアンタがコンプレクシティの人間だったとはとても思えねぇよ…本当にありがとう」
アルフが頭を下げていた。
学生時代は冬嫁でも見た事がなかった態度の変わりようである。
冬嫁は驚きのあまりしばらく、目の前の光景を分からずにいた。
同時に肩を貸している勝輝にも気が回らなくなる。
「お、お、うおっ?」
ドテッ!と、地に倒され、そこでようやく冬嫁は我に返る。
「…!?ごめん勝輝、ちょっと自分を見失っていた」
「たのむよ、ホントに…イテテッ!」
再び肩を貸してもらう
麻衣の安否を待つ最中、治療所の入口が開く
そこに現れたのは、勝輝達にくらべて一際背丈の小さな女の子
「アルフさん!」
その子はアルフをみつけたかとおもうと駆け寄っていく。
「艦長、ただいま戻りました」
アルフは再びその女子にむかって頭を下げる。
「ご苦労様です。ところで、冬嫁さんに肩を貸されている子が…?」
「はい、嘗ての俺達の親友、名:勝輝です」
アルフは勝輝の今の体勢をすこし睨みつけながらも小さな女の子に紹介した。
「はじめまして、勝輝さん。お話は聞いているかと思いますが、地球軍本部の指揮官でティリア:テア:フィルミといいます」
今度は女の子の方が頭を下げてきた。
「あ、えっ、と、どうも」
馴れ馴れしい態度には馴染めなかったが、いきなりの挨拶に戸惑いを隠せず勝輝はお互いを紹介しあった。
地球軍コロニー ニュージ・アース
「ここが俺達の今の住居としているとこだよ」
アルフが先頭になって、あたりを紹介し始めた。
「今日は勝輝がくるということを皆に伝えておいたんだ。だから今日は歓迎会だ」
そう言った途端、あたりからは子供から大人まで多数の住民達が集まってきた。
全員から気を感じる、全て能力者だった。
盛大な歓迎会の幕開けが、コロニーに一つの火を灯したのだった。
核汚染の影響を受け、覚醒した地球人は全て、独特な扱いで、様々な催しを見せた。
人がバーナーのように火を口からふく、放水で模擬石を破壊する。
雷で辺り一帯の電光を自在に操り、風で物を浮かすなど
まるでここがテーマパークのような感覚に勝輝達は度肝を抜かれた。
「な、なんだ?俺達は一体何と戦ってるのかわからなくなるんじゃないのか?」
「戦士達には休息も必要なのですよ、勝輝さん」
勝輝の言葉を返すように現れたのは、和服、袴に身を包んだ侍女
まったくこの世界には奇抜な人間がたくさんいるものだ。
そんなことを思いながら勝輝は、その侍女の右腕に持つ刀に目が走る。
「見事な刀ですね」
「無銘ですが、そう言ってくれると嬉しいです」
そこまで行ったあとで次女は目的を思い出したかのようにハッ!とした。
「っと、失礼しました。私は花火といいます。よければ私の剣の舞を見てもらえますか?」
どうやら右腕の刀は披露のために用意されていたもののようだ。
どうりで、刃がまるでみえないと、思う勝輝だった。
花火は少し先にある台上へと向かい、コール音と共に、披露宴がスタートする。
数十分に及ぶ、舞に魅了される。
和服にマッチしているのか、おそらくさして美しいとは思えないのだろう舞でさえも
どこか、雰囲気を感じさせるものを周囲に魅せていた。
やがて花火がもどってきた。
先程あった刀は、彼女の右腕からはなくなっていた。
「良かったですよ。花火さん」
いつのまにか勝輝達の横にいたティリアが花火に声をかける。
「ありがとうございます」
花火は頭を下げる。
団欒をそのままするのだろうかとおもえたが、なぜか花火はティリアとひそひそと会話を交わしていた。
そして、それが終わったかと思うと
「勝輝さんと司さん。私に付いてきてもらえますか?」
ティリアが二人に近づいてくる。
「ん?ああ」
「なんだ?」
勝輝は特に動じず、そのままティリアについていこうとしていたが
司はなにか胸騒ぎをしていた。
「あなた達の戦闘能力は素晴らしいものなので、クローンを生成しておこうかと思っています」
「クローンだと!?」
司は驚きに表情を大きく変えた。
(クローンの技術は地球には無かったはずだ…)
司はコンプレクシティにいた頃のことを思い出していたのだ。
「貴様、ティリアとか言ったな?」
勝輝達から一歩踏み出し小さな少女に迫る。
「クローンの技術はコンプレクシティにしかなかったはずだ。貴様は一体何者だ!?」
広場に響き渡るかのような大きな声に、テーマパークの能力者達も動きを止める。
「答えろ!どうして地球にクローン技術などがある!?さては貴様はコンプレクシティの・・」
「おやめください!!」
困惑するティリアの前、花火が仁王立ちをして司を止める。
「艦長にそんな口を聞いて良いのですか!?艦長はあなた方の身を案じて唯でさえ心細かった身なのです!それをあなたはまるで敵を見るような目で」
花火の必死な言葉に、司は少し身を引き始めた。
「司、なんだかよくわかんねーけど、今は俺たちの味方なんだろ?だったら、小さいことでカッカするなよ」
勝輝も、司に言葉をかけてくる。
冷静に考えてみればそうだった。
ここは地球の人間が核汚染の影響によって、持ち得てしまった能力者達の、可哀相な集まりの場
そんな場所で仮にも、この艦長と呼ばれるティリアがコンプレクシティの者だったとして、どうして今まで襲ってこなかったのかということになる。
それに地球にクローンの技術がない事も、かなり前のことだった。
司は血がのぼりすぎていたことを後悔し反省した。
「すまない、先の戦いで、随分とストレスが溜まっていたようだ。申し訳ない」
心が変わったかのようにあっさりと頭を下げた。
そんな司をみて花火はティリアに告げる。
「どういたしましょうか?艦長、こんな奴は危険です。いますぐにでも処分を・・って、艦長!?」
花火の口告が終わる前に、ティリアは頭を下げている司の前に立ったたと思うと、腰を低くして
「これからは気を付けて下さいね、司さん」
司の顔を見てニッコリと笑顔を見せた。
「それでは、適性検査を致しますので、付いてきてもらえますか?」
そしてすぐに、体勢を戻し、ティリアは勝輝達に背を向けて、目の前の施設へと入っていく
「司、いこうぜ。あ、ちょっと待っててくれな~みんな」
肩に手を当て、勝輝は司と共に、施設へと入っていく
「たくっ、司の奴、カリカリしやがって」
アルフは腕を組んでため息をつく
と、そこに斐瑪がとことことアルフに近づいてくる。
「ん?どうした?」
それに気づくと、子供を見るような言葉をかける。
「私、気になることがあるから、少し別行動をする…」
「おお、そうか、遅くならないうちに戻ってこいよ」
腕を振って、斐瑪に伝える、本当に子供と親の会話のようだった。
「さい、僕達はどうしようか?」
次に冬嫁は暇そうにアルフに呟いた。
「そうだな…確かに、暇だな、パークの催しは俺達は見飽きてるくらい見てるしな」
「じゃあ、私達の相手でもしてもらおうかな?」
そこに、桃色の髪の女性の気配を二人は感じ取った。
「ん、お前等は?」
アルフの間の抜けたような声にその隣にいた騎士風の巨体の男が答える。
「コンプレクシティの者だ。あとスプリング、おまえ一応女でしかも下はスカートだろ。そんなんにぶら下がってたら見えるぞ…」
申し訳ないような様子で男は、パークに設けられた高いバランス棒に、足の膝裏でぶら下がっていた桃色の髪の女性とは違う方向を向いて言った。
「何色だったかな?」
まるで平然と、くるっと回転して上下反転し、女性は地に足をつく
ふわっと舞うスカートは美しいものだった…見えはしなかったが
「見てねえよ…」
呆れたように、頭をポリポリとかく
その様子をスプリングと言われた女性は微笑ましく見ていた。
「姉…さん?」
しかし、そんな二人をみていた冬嫁はスプリングの方に見覚えがあったのだった。
そしてその瞬間、微笑ましい表情していた女性は、冷たくも笑顔を無くさずに冬嫁に放つ
「久しぶりだね、冬嫁…いや、ウィンター」
二人に戦慄が走る。
「知り合いか…てか、ウィンターって事は、スプリングってのは春って意味の方だったんだな」
騎士男は感心する様に“うんうん”とうなづいた。
「春嫁だよ。ね、すぐにわかるって言ったでしょう?」
「俺はキリーだ。そっちの…お前は?」
アルフは自分の事だとすぐに察しがついた。
しかしわかっていながらも、お前呼ばわりされたことが不服なようだ。
いい加減な態度で答える
「アルフォード:ネイティヴ、歳は地球が16かいくらい回った数だ」
完全に馬鹿にされていることにキリーは腹を立てた。
同時に春嫁はアルフの子供っぷりにおもわず吹いていた。
「ほぉ~、このガキ…死にてぇらしいな、オイ!」
蟀谷にピクピクとイライラを浮かべ、巨大な剣をどこからか取り出す。
「俺はアポカリプス騎士団第1隊隊長、ジャック:キリー!お前はこいつのサビにしてやるよ」
好戦的な目を向け、キリーは巨大な剣を軽々とふるって構えた後、アルフに向かって素早く駆けていく。
とても巨大な剣を担いでいるとは思えないその軽々しさは感銘すら覚えるほど、シンとしていた。
「じゃあ私達も始めるかな…いくよ、冬嫁?」
春嫁の頭上辺りから、桜吹雪が舞い始める。
その次の瞬間!
「ぐはっ!」
冬嫁は鈍痛に直撃したのだった。