4話 夜神
教祖室
司と黒葉は互いに向き合って座っていた。
ギシギシと音が鳴る古めかしい椅子などではなく、真新しい黒檀の椅子だった。
「で、貴様は俺とどんな話をしたいんだ?」
司は面倒そうに頬杖を付きながら、黒葉に言う
「そうだね~」
黒葉はワザと考えるフリをする。
「じゃあコンプレクシティの中でも迷信とされている、速峰:桜の話でもしようかな…」
「何だと!?」
頬杖を崩し、真剣に聞こうとする司。
そして司は知ることとなった、速峰:桜の死。更には黒葉が蘇らせたこと、加えては今でも地球の何処かで息を潜めていると…
セイレーン教 地下3階
冬嫁と銀星輝はお互いに同じ場所に落とされた。
最初に気がついたのは冬嫁
それからしばらくして銀星輝にも意識が戻ったのだった。
辺りは虹彩が働いてやっと見えるほどの暗さ、冬嫁は目を凝らして周囲を散策していた為に限界になりかかっていた。
「大丈夫ですか、冬嫁さん?」
立ちくらみを起こしたのか冬嫁はその場で膝を付いた。
「うん、大丈夫…ちょっと、目が疲れてね」
口ではそういう冬嫁だったが、銀星輝には無理をしているようにしか見えなかった。
その時、暗闇の中から、声が聞こえてくる。
「そこにいるのは…だれ?」
その声に、二人はビクッ!っと悪感を感じ取る。
ただでさえどこにいるのかもわからない真っ暗闇の中で、二人は恐る恐る返事をかえしてみた。
「私達は、ここに閉じ込められてしまったんです。その、もし宜しければ出口を教えてもらえませんか?」
銀星輝は声の主が、どこにいるのかさえもわからない暗闇の中で、必死に哀願した。
その銀星輝の気持ちがわかったのか、声の主は起き上がる気配を示した。
「黒葉に監禁封印されたわけじゃないのね。あなたは、私と違って前人、すなわち、私が生んだかもしれない人の子…」
声の主はそっと銀星輝の元に近づいてくる。
銀星輝は声の主が何を言っているのか、まるで理解できなかった。
「どういうことですか?」
その言葉の瞬間辺りは、薄く明るくなり始めた。
同時に声の主は二人の目の前にいた事がわかった。
身長は150cmくらい。黒いゴシック服、腰辺りにまで伸びる黒髪。皮膚以外はみんな黒かった。
反面、皮膚は輝くような白さを持っていた。
「?…その子、大丈夫?」
まず最初に冬嫁に目がいく。
「少し、目が疲れたらしくて」
「そう、ここは神気が充満している…私のせいかもしれない」
そういって黒髪の少女は冬嫁にすがるようにして頭を下げたのだった。
そんな少女の行動にふたりは、互いに顔を合わせて、なんのことやら?と意志疎通する。
「謝る必要はないと思いますけど…それに神気なら、寧ろ冬嫁は目が疲れる理由にはならないのでは?」
銀星輝は改まって少女に向き直り、顔を上げて、と両腕を上下に振る。
「癒しを与える神気だけが存在するとは限らない…全ての神が人を見守る訳じゃない。暗黒の神だって、どこでもいるもの…」
少女は言いづらい事を少しづつ告白しだした。
「私は夜の神の化身、夜神:斐瑪…神界では夜蔵之九十九神と呼ばれている」
そういって両腕を、肩の高さまで広げ背を向ける。
そして服の後ろについているボタンを一つずつ外し、二人に背中を晒した。
「なっ!」
「ちょっと、あなた」
二人は驚き声を上げる。
いきなり背中を向けたかと思えば、服を下ろしその背を、二人に見せたのだ驚くのは当然のことだった。
そしてなにより、それはこの少女自身が自らの意志で行ったことだった。
こんなことをすれば普通の一般男性であれば、即座に堕ちてしまう事だろう…しかし、目の前で背中を魅せる少女にはそうさせないモノがあった。
「これは…神痕?」
銀星輝は黒髪の少女…斐瑪の背中にある、小さな円錐の、鉄芯の様なものが皮膚にきっちりと埋め込まれているのが見えた。
銀の星で、一説でしか聞いたことはなかったが、神を示す証拠は身体のどこかに、金属が埋め込まれているのが神だというのを聞いたことがあったのだ。
そしてその金属と思われるものは自然界には存在せず、神々が独自に作り出した金属で、神気を発生させる物なのだと聞かされた。
「でも、あなたが神だというのは信じるとして、どうしてこんなところに?」
銀星輝は、それが気になっていた。
「黒葉に捕らえられていた…それが紛れもない事実」
証拠を見せ終わったところで、斐瑪はさっと服を着直した。
「あなた達はどうするの?ここから出たい?」
斐瑪はどうやら出口を知っているらしい。
ついでに自身もここを出たいのだろうと、銀星輝は悟った。
「とりあえず冬嫁をどうにかしないと…」
出口と思われる場所に向かっていく斐瑪に銀星輝は冬嫁に肩を貸そうとした。
「待ってて…」
しかし斐瑪は、祭壇のような場所まで行くと、ブツブツと呟きながら、何かにお願いするかのような姿勢をとりはじめた。
「我、この空間にて夜を支配するものなり…」
斐瑪の言葉と共に、周りの空気が変わった…感じがした。
「我が命に従い、この空間を外界とつなげたまえ…」
そして斐瑪が、強く願いを思った瞬間!
周りの空気がとても新鮮なように感じれた。
「あ、目が…」
同時に、冬嫁の目も疲れがすぐに取れ、立ちくらみはまるで嘘のように思えた。
「これでよし…」
斐瑪は、ふうっと息をついたあとで、二人に面倒な報告をしなければならなかった…
「これであなたは大丈夫なはず…だけど、この神気はここの邪気を封絶するために私がまいていたもの…」
斐瑪のその言葉に、二人は警戒し始めた。
「既に魔は私達のすぐ傍にいる…覚醒して、私では手が足りない」
言う前に冬嫁と銀星輝は、既に能力を開化させていた。
同時に、三人の周りには、明らかに敵意を持っている邪魔の姿
三人を視界に捉えると、目に見えるのが辛うじてかの様な、歪んだ透明な魔は牙を向け掛かる。
「光源…解!」
静かに斐瑪は右腕を広げると、白く輝く剣が現れる。
(あれはレイブレード!?夜の神がどうして?)
銀星輝は、その斐瑪の右腕に現れた光の剣を凝視していた。
「くる!」
斐瑪の言葉と共に、数不明の魔はただ、我先と三人に襲いかかってくる。
迫り来る邪魔の前に、斐瑪は果敢に駆け抜け、その中で数体の邪魔を切りつけていた。
斐瑪の駆けるスピードは、邪魔の視界には捉えきれず、後方列の邪魔が、一斉に斐瑪に向き返っていく
「遅い…それでは私に勝てない」
黒い声で大きめに言った声は、邪魔達の耳に入り位置を特定させようとする。
しかし、そうしている間にも、斐瑪は一体ずつ隙だらけの邪魔を切り落としていくのだった。
一方、銀星輝は銀の星を幾つも拡散させ、大量にできた星型の手裏剣を一気に邪魔に向かって投げ飛ばす
一斉に解き放たれた手裏剣は一つ一つがまるで意思を持っているかのように、邪魔を各一体ずつ、次々に切り裂いていった。
「第二波、いきますよ!」
更に覚醒し今度は、銀星輝の頭上30センチ程のあたりから無数の星が、邪魔に向かって拡散する。
その星に触れた邪魔は次々と星に力を吸収され、邪魔は薄れ枯れていく
そして冬嫁はというと…
「くっ、流石に少し数が多過ぎるな…」
三人の中で唯一、苦戦していたのであった。
冬嫁の意識弾は極度の集中力を必要とし、さらには単体の対しての能力であるため、今この場にいる無数の邪魔には圧倒的に不利な状況だった。
そうこうしているうちに邪魔の一撃が冬嫁に向けられた。
ゴスッ!っと生々しい打音に冬嫁は、勢いよく吹き飛ぶ
「ぐっ!」
壁に見事に激突し、背中の強打によって体制を崩してしまう
「…!冬嫁!」
さっと斐瑪はそれに気付き、再び邪魔の中を駆け抜ける。
しかし、冬嫁を助けることに集中し、今度は魔をきらなかった。
そこへ、魔の腕が斐瑪の腕を掴む
「…!きゃあっ!」
見事に振り上げられた魔の力に斐瑪は、宙に浮かされる。
例え神といえど、姿は人間そのもの
魔の力によってその身体は軽く天井近くまで放り上げられた。
そして魔の拳が斐瑪に向かって直撃させられる。
だが、星の手裏剣がそれを防いだ。
魔は切られた勢いで消滅し
代わりに斐瑪が地面に強い衝撃を立てて、倒れる。
しかし、頑強な身体が死など、許しもしなかった。
即座に顔を上げて起き上がり、銀星輝の方を見る
「斐瑪さんは冬嫁を!」
「わかってる。ありがとう」
そして冬嫁の元へと向かっていく
既に魔が冬嫁の周りに大量に群がっており、とても近づけるような雰囲気ではなかった。
しかし斐瑪は、新たなる覚醒をして、魔の大群を一斉に消滅させたのだった。
「どけ…光追剣閃」
斐瑪の身体…背から、巨大な輪が現れ、頭上あたりまで上がると、細い光が無数の魔に向かって、幾重も放たれる。
焼けるような、衝撃と共に次々と魔は消え、次第に冬嫁の姿が目に見えた。
「冬嫁、今助けるから」
輪を下ろし再びレイブレードを片手に残存する魔を斬り、さらに道を開いていく
しかし、切りそこねた魔もいくつか残す中、冬嫁の元へと着いたのだった。
介抱し、息があるのを確かめる。
「よかった…生きてる」
ホッとしたのもつかの間
斐瑪の背後に、魔の一撃の寸前が…
ドゴッ!
生々しい重い一撃に、斐瑪は強打された後頭部を押さえ、倒れた。
そのころ、銀星輝は砲台と化していた為に魔に完全包囲されていた。
「くっ、完全に囲まれた」
万策尽きたかと思いきや、周りを取り囲む魔の大群は、後ろからバッタバッタと倒されていく音が聞こえてきた。
銀星輝は斐瑪が冬嫁の救出に成功したかと思った。
しかし、次第に見えてきた人物は…
「えっ、どうなってるの?」
銀星輝が視界に捉えた人物は、人物というよりはもっと生物のようなモノ
「まさか、覚醒生物!?」
大型の蟷螂のような姿に、銀星輝は唖然とする。
その巨大すぎる体格は人の大きさを軽々と越え、この空間の天井にぎりぎり頭が当たらないくらいのサイズだった。
その蟷螂は、無抵抗な魔を次々にその鋭利な鎌で切り裂いていく
そして、銀星輝の元へと、たどり着いた時…蟷螂はまるで銀星輝をご主人の様に道を開こうと…しなかった。
鎌を容赦なく振り上げ、銀星輝に下ろす!
「きゃあっ!!」
既のところでかわしたが、左脛の辺りの衣服が破ける。
そして僅かに切り傷…
「なんて気の強さ!当たらなかったのに剣圧で身が切れた!?」
そしてすぐに伝わってくる小さな傷以上に大きな痛み
銀星輝の左足はしばらく力が入らずにいた。
「くっ、ここで…死ぬの?」
痛む左足を押え、銀星輝は覚悟を決める決意をしようとする。
よけられるとは思っていなかったのだろうか?
蟷螂は銀星輝が仕留められていないことに驚き、もう一度鎌を振り上げる。
「あぁ…銀の星の民よ、私は地球で死ねる事を幸せに思います…」
ズシャーッ!
だから民よ…地球人は決して怨んではいけません。
それが私からの王としての命令であり、銀の星の一人の願いでもあるのです。
真っ二つになった、銀の皇女は、切り裂かれた部分から肉を晒し、双方に倒れた。
今この場で、たった一つしかない命が、国王という使命を負った少女が惨殺された。
「うっ…」
鈍痛が未だ響く頭を押え、斐瑪は意識を取り戻す
周りに魔の姿はない
3m程離れたあたりで、なにやら大群に集まっている。
「・・・!!」
魔は透明のような生物
つまりは彼らの群がる中で何が起こっているのかがわかる
「ああ…」
それは神である斐瑪ですら、見たことがない光景だった。
一人の人間の肉を引き裂き、食い破りと、めちゃくちゃにしていた。
そして、顔だけも残っておりそれが誰なのかがわかった。
「銀の王…どうして?」
それは銀星輝の、悲惨な姿だった。
その姿には最早先程までの銀星輝の面影などはまるで残っておらず、只々魔の力で引きちぎられていくだけだった
抉られた肉から溢れ出る流血は斐瑪に醜悪を生み出される。
血の匂いがどんどん強くなっていくうちに、夜の神は本当の姿をさらけ出し始めていた。
そもそもどうして斐瑪が夜の神と呼ばれているのか、それは彼女の正体にあった。
「血の匂い…壁が邪魔」
今の斐瑪は斐瑪ではなかった。
さっと立ち上がったかと思うと、魔の集まるところへと一目散に駆けていった。
それはさっきの少女の姿以上に素早く
そんなことにまるで気づきもしない魔は斐瑪の奇襲に意思が反応する前に消滅してしまう
「ダークネスウェーブ…」
駆ける斐瑪が小さく呟いたかと思うと、黒い霧が周囲に立ち込めた。
視界を遮られ、何事かと辺りを見回そうとしているうちに魔は爪のようなもので引き裂かれる様な感覚を受ける。
それは次第に広がり、やがて魔は自己身体を維持できなくなり消滅していく
全ては斐瑪が行っていたことだった。
高速で霧の中を駆け巡り、魔を一体ずつ手短に始末する。
霧の中はテリトリー、斐瑪は無重力かのように宙で方向転換したり、逆さまから魔を追撃した。
魔を一体残らず仕留め終わると、銀星輝の辺りに近づく
紅き眼の涙腺から雫を零しながら斐瑪は死体に向かって
「ごめんなさい…」
と言った後
辺りの流血を啜り始めたのだった。
それはまるで吸血鬼のように
彼女はヴァンパイアという名を持つ、夜の神だった。
魔がいなくなった代わりに残骸と化した銀星輝を引き裂く音は、斐瑪が発する事となった。
そんな中、ようやく冬嫁は意識を回復したのだった。
「っ!まだ背中と頭が痛む、これは強打してるね。あとで銀星輝にでも治療を…」
後頭部を左手で押さえながら、さっきから耳障りな音をする方を見る。
「あや・・め・・・?」
冬嫁は驚いたような、しかし目を疑うような表情で斐瑪に声をかける…
聞こえないような声のつもりだったが斐瑪には聞こえたらしく、吸血を一時止め、困惑する少年を見返した。
そしてすぐさま、自らの行為を見て、斐瑪は苦難した。
夜の神を人の姿へと戻し、冬嫁に真実を告げようとした。
「今はいい…とりあえず、ここを出よう」
しかし冬嫁は聞きたくないとばかりに斐瑪に背を向け、辺りを調べ始めた。
それからしばらく、二人は辺りを調べるうちに脱出への次元空間を見つけたのだった。
教祖室
「何だと!?じゃあ二人はもう死んでいるのか?」
机をダンッ!っと勢いよく叩きつけ司は向かい合っている黒葉に問う
「落ち着きなよ、あの二人は強力な能力者。簡単に死にはしないさ」
黒葉はそう言うが、司には大きな胸騒ぎを抱いていた。
「それにあの二人の気の強さは見ずとも、今までの君が一番よくわかっているはずだよ。心配はかえってあの子達に余計な気を使わせるだけだよ」
黒葉は宥める様に、しかし心の底では嘲笑を浮かべていた。
と、そこに教祖室に入り口辺りに空間が現れた。
「お、帰ってきたようだね、おか…」
挨拶が終わる前に黒葉は部屋の隅へと吹き飛んでいった。
そして空間からは
「黒葉美運!」
斐瑪の怒り狂ったような声が響いてきた。
「お前は許さない。神界の名誉の為にも…確実に殺す」
そう言って、左腕から闇の剣を、右腕からは光の剣を出現させた。
「お前が何神であろうと、私はお前を生かすつもりなどない…覚悟!」
容赦のない一撃に駆けだす
「痛っ…」
その頃には既に頬を撫でて、立ち上がる黒葉
最初の一撃には驚かされたようだが、威力はまるで通用していないようだった。
すぐさま目の前を見れば斐瑪の猛攻の寸前!
「僕もヤキが回ったものだ…なんてね」
斐瑪の一撃が黒葉を銀星輝のように真っ二つにした。
…のは錯覚だった。