1話 地球降下作戦
無限に広がる宇宙空間を移動する、巨大なそれは地球にある人物を送る計画を進めていた。
戦艦の如くといってもいいほどの規模で、蠢くその大型艦は地球からクラポと名付けられていた。
超大型強襲用戦艦クラポ
降下ポッドの射出準備を完了させ今尚も、次々とコンプレクシティの隊員は地球に降り注がれていた。
「いいか?この件に関しては極秘と同じ扱いだ。他言は無用にしろ」
コンプレクシティに先日配属し今や副官クラスの階級となった元:司は、よきパートナーとなった、サーシャに一時の別れを終えていたところだった。
「どうか地球の生き残りと接触出来ることを願いますわ」
そんな司を笑顔で見送るサーシャ
二人でそっと交わした誓いを互いの唇を合わせて確認する。
「行ってくる」
そういって射出ポッドに乗り込んだ司は、暗い宇宙を漂流していった。
大気圏 地球まで37564km
射出ポッド等と言われているものの実際には、個人での大気圏突入を可能とした小型バリュートである。
少数ながら階級の高いものほど機能面が強力になっており、降下座標の特定など、様々な状況に対応できる仕様になっている。
武器の携行も可能としているため、戦闘員には特に憧れているポッドの一つでもあった。
とてつもなく長い距離の降下の中
何機もあるはずの無数のポッドが次々と爆発を起こしていく
そして司のポッドにも画面にはDangerと表示された。
「何事だ!?」
司は生きている別のポッドに非常外線を繋ぐ
「敵です。仲間が12機やられました」
隊員を既に12人も失ったことになる。
このポッドは副官の仕様となっているためポッド自体に武器は搭載されていない
その結果、敵の思い通りに次々と落とされていくしかなかったのだった。
「お前も俺もいつおとされるかわからん、緊急用バリュートを展開しておけ!」
司は兵達の指揮官を任される身となり的確に指示を出した。
「りょ、了解!」
そういってさらに3機程が撃墜された。
「くっ、一体どこからだ?」
司は無限に広がる宇宙空間を見渡す。
近眼の人間の目ではとても見えない
(ちっ、ここで気はつかいたくないが…)
司は能力者の眼を見せた。
はるか宇宙の彼方…
人間の目では見渡せない距離でさえも、この眼となれば映し出すことができた。
「あれか!」
約4649km程、宇宙上空から高速で飛行してくる戦闘機が映った。
「迎撃は不可能か」
小型とはいえ、小火器程度ではどうにもならない装甲だ。
迂闊に手を出せば狙われるのは司だけになりかねない。
「各員に告ぐ!」
司は再び非常外線を全ポッドにつなげる。
「敵は小型の戦闘機一機、だがこちらは武器がない状態だ、こうなれば、回避を重視しての効果しかないだろう」
戦闘機からの攻撃がまた一機のポッドを撃墜した。
「このままでは全滅も考えられる。いいか、座標はずれてもかまわない各員、この攻撃を全力でよけろ!」
そういって兵達の返事も聞かずに外線を切った。
宇宙を降下するポッドは警戒を強め、地球の降下を慎重に遂行させるのだった。
司の過去を知る者は、コンプレクシティでも多くはない。
彼がコンプレクシティに参加したのは、地球を見たかったからだ。
不思議と、司は地球を味方するのに十分ふさわしい人物になりかねないことをコンプレクシティは予想しなかった。
地球から北半球ロシア方面
地球降下を完了した司に通信が入る。
「司中佐!ご武運を…うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーっ!」
通信の相手は地球降下の任を受けた、司の兵士のものからだった。
宇宙空間・降下射出ポッド
超加速を繰り返すポッド内で、司は迷っていた。
敵は自在に宇宙を移動できる小型の戦闘機一機
しかし、この状況では、こんな小さな戦闘機ですら、油断ならない相手となる。
残る兵数はわずか…しかし、このような状況では兵達を囮にすることもできなかった。
(どちらにせよ、こいつらを見殺しにしてまで助かりたいとは思ってはいないがな…)
ひとりポッド内でつぶやく矢先、幾重にも離れた距離から戦闘機から放たれたホーミングミサイルが司のポッドに向かってきていた。
しかし司はそれに一歩気付くのが遅かった。
「しまった!!」
思わず声を上げたその時!
ドーン!と司の目の前が爆発した。
「!?」
その時、司が見たものは…
外線がつながる。
「中佐、ご無事です・・か・・・?」
自ら盾となりミサイルを直撃したポッド
「リゼル!」
それは司の護衛を任されていたリゼル:クローウン大尉だった。
「中佐・・自分は離脱します。ご武運を」
そういって音のしない空間で爆発だけを起こし、ポッドは大破した。
「あの紙飛行機モドキ!」
怒りに血がのぼった司は肉眼で確認できる程、近づいてきた戦闘機を見て驚いた。
「コンプレクシティのマーク・・・だと!?」
その戦闘機には複雑の意味を表すかのような桃色のブラックホールのマークがついてあった。
「中佐!」
それを他のポッドの兵が伝えに来ようと接近してきたかのように、司に次々と兵士たちのポッドが集まってきた。
「自分達が盾となり、中佐をお守りします!中佐は最大下降速度で一刻も早く地球へ」
最早、迷っている時間はなかった。
返事を答える前に司はポッドを最大出力にし最大下降速度にて地球の大気圏へと突入し始めた。
地球から北半球ロシア方面、第35コンプレクシティ基地
そして現在に至る。
その司は今まさに、困難と立ち向かっていた。
基地内には無数とも言える兵士が出入りを繰り返していた。
更に開閉式シャッターには手配書…司の写真と共に、賞金300万silverと貼られていた。
「いつの間にか賞金首か…嫌な世の中になったものだ」
一人でそう呟き、所持品を確認する。
近接用ナイフに、小型投げナイフが12本、M92F、モスバーグM500といったところだった。
「重火器はあのポッドに不向きだからな…」
M92Fを構え、乗り込もうとした時
「そこにいるのは誰だ?」
司に焦りの色が見えた。
なぜなら司は、今現在一般の兵士には見えない、光学迷彩の衣に覆われている。
それが見えるものということは…猛者である以外なかった。
「宵闇:影深智、お前か…」
司はその猛者の名を知っていた。
機械化した左腕、整えられたショート髪、そして決めつけは右目の目玉の代わりに付けられたグラス
格好は軍服なところを見ると、単に目をやられた軍師にもみえる。
「こんなところで手配書の人物に会えるとは思いませんでしたよ。元中佐、覚悟はいいですか?」
影深智という人物は機械化した腕を司に向け、電気を発生させ始めた。
「待ってください影深智さん!」
そこに現れたのは、透き通ったような半透明のワンピースを着た長身の少女
髪には中世の時代の王女のような大きな星の形をした髪飾り、ロングストレートの髪からは錯覚を覚えさせるかのようにキラキラと輝いていた。
「皇女様、どういうつもりですか?」
今まさに電気を帯びた機械腕を振るう勢いを止め影深智はその少女に理由を聞く
「ここは見逃してあげましょう」
その少女の強い眼差しからでた言葉は軍人にあるまじき言葉であった。
「皇女様、軍人に戦いをやめろと言われて、果たして戦争を止めることができますでしょうか?ましてや私は、もう少尉という階級、今更戦いをやめろと言われて止めることなどできませんよ」
影深智は、自らが軍人であることに誇りを示していた。
例え、上からの命令とあらば、赤子ですら殺しかねないほどに
「私が許可します。戦いをやめてください」
皇女様と言われた少女のその言葉を聞き入れ、影深智は電気を放つ腕を、地面に叩きつけた。
「フッ、皇女様、ひとつ貴方は勘違いしていらっしゃる」
影深智は機械の腕を軍服の袖で覆い隠す
「彼と私はあくまで戦友というだけの間柄です。裏切り者であるならば、私は自らの命に変えてでも、被害を最小限にするため中佐を殺します」
そして、司と皇女に背を向け
「あなたのその言葉を命令と見受けて、今回は刃をおさめましょう」
そういって基地へと入っていったのだった。
ホッと肩をおろす司であったが、すぐに皇女に腕を引かれてどこか遠くに連れて行かれた。
ロシア第35コンプレクシティ基地から約700m
そこはひとつの小屋があった。
皇女に連れられた先はこの小屋だった。
「危なかったですね。元:司様」
皇女は笑顔を向け、安堵の息を漏らす。
「助けてもらった事には感謝している。しかし、お前は何者だ?なぜ影深智に命令できた?」
司は疑問を次々に当てていく
「そ、そんなに一度は答えれませんよ~><」
目をバッテンにさせて皇女は困り果てた。
「まず、私の名前から…私は銀星輝といいます。宇宙の遥か彼方…3億5000万光年離れた先にある小さな銀の星の王です」
銀星輝はどこから取り出したのか、銀河系の図の隅の方を指差した。
「私が地球に降り立ったのは、唯一の生き残りとされている。少年の保護の目的で、この地球に銀の星のジェットで降り注ぎました」
小屋の裏を指差し、司がそこに向かってみると巨大な星の形をしたロケットの様な物があった。
「地球に無事降りることはできたのですが、着陸と同時に頭を打ってしまって、気を失っていたところを影深智少尉に助けてもらったのです」
銀の星の皇女はそれからも、様々な事を話し、それだけで一日を終えてしまったのだった。
小屋をそのまま借りて、一日皇女と寝食を共にした司は、朝早くから目覚め、出発の支度をしていた。
ふと未だに眠っている皇女の顔を見る。
整った顔立ち、長い銀色の煌めく髪。
銀の星の人々の寿命は分からないが、顔だけ見ると地球人でなら10代後半といった顔立ちなのだろうか?
結局の所、唯一の地球人を探す上では二人の方が効率がいいと考え、司は銀星輝と共に地球人を探すことにした。
しかし、司の支度はもう終わったというのに、未だに眠っているこの皇女様は…
「おい、起きろ!お前の目的は地球人を探すことだろう?いつまで眠っているつもりだ!?」
小屋に響き渡るほどの声を上げ、銀星輝はもぞもぞと蠢きながら目を開けた。
「ふにゅ~ぅ、まだ眠いんですぅ~。それに~そ~かんた~んにみつかるわけな~いんですからぁ~、もうちょっとねちゃいましょ~よぉ~」
目を擦りながらゴニョゴニョとしゃべりだす。
「何を寝ぼけた事を言っている!その調子ではいつまでたっても見つかりはしないぞ!!」
30分程、皇女を起こすのに努力を見せた。
「う~ひどいですよ~司さん」
あさっぱらから暴れたせいか、銀星輝の服は少々ぼろぼろになっていた。
「いつまでたっても起きない貴様が悪い。朝が低血圧なら先に言え。起こす手立てを立ててやる」
さっさとしてくれと言わんばかり司は銀星輝の支度を手伝っていた。
「何か考えてくれるのですか!?」
目をもキラキラさせる銀星輝
その皇女様の頭にポコッ!と拳を当てる
「あうっ!痛いです><」
頭を押さえ涙目になる。
「手を止めるな、ただでさえ、もう50分も遅れているんだ。1時間でさっと終えてもらうぞ」
威厳を示しかのように司から恐い気が現れた。
「わかりました~ぁ」
怯えたような、声で返事をした銀星輝
ロシア、小屋の外
結局支度が終わった頃には既にお昼時となっていた。
いつの間にか銀星輝のボロボロになっていた服は元通りに修復されていた。
「これ、私の能力なんです」
笑顔で見てみて!と言うように司に見せてみた。
そんな笑顔に少しながら心を許してしまう司
「そ、そんな能力では生き残れん。もうすこし攻撃系のはないのか?」
そんな司に銀星輝は
「やっと、反応してくれましたね」
「?」
銀星輝の突然の言葉に司は表情は一気に冷たくなった。
「何がだ?」
「私、これでも皇女として認められているんですよ」
再び満面の笑顔に司は戸惑いを浮かべる…場合ではなかった。
先程から、二人に忍び寄る気配が、司に警戒を抱かせていた。
「おしゃべりはそれくらいにしろ!何か…来る!?」
「えっ?きゃあ…!」
突然、腕を引っ張られ、宙に浮かされたと思えば、司にお姫様抱っこをされていた。
そして司は背後から迫ったモノに対して、後ろに下がり、銀星輝をおろす。
「外したかぁ~」
よくは分からなかったものの一瞬、大地が揺れた気がする。
「久しぶりだなぁ、はじめぇ~」
「蜘蛛男…ネッドか、まだ生きていたのか」
二人の刺客はまさにこの男だった。
細い華奢な体格、白いスーツの姿と、右腕は地面を叩きつけた平手
その腕は指が歪な方向に傾いていた。
「ひっ!」
その指を見て銀星輝はヒステリックを覚えた。
ベキベキ!と指はすぐに形を戻し、ネッドの意のままに動くようになったからである。
「手配書を見たときは驚いたぜぇ。お前がコンプレクを裏切るなんざ、兵の奴ら誰も思っちゃいなかった」
「だったら、なんだ?お前は俺を仕留めるか?」
司は挑発的になる
「よろ、こんでぇ!」
蜘蛛の如く高く飛び上がり、口から糸を吹き出す。
「絡みな!そして、派手に散れぇ!」
司に向けられる蜘蛛の糸、しかしそれは即座に、綺麗に切り落とされた。
その左腕には、各指に挟んだ投げナイフ
「甘いな…だからお前は俺には勝てない」
ネッドの蜘蛛の糸は気の込もりが弱いため、刃物を扱えば簡単に切れてしまう
その特性を知っている司の情報勝ちだった。
「次に糸を放えばお前の負けは確定する。今なら撤退を許してやる」
ネッドの弱さはいつもそうだった。
単騎突入、徹底抗戦
司から見れば無謀の塊ともなるものだった。
ネッドは司の警告を無視し蜘蛛の糸を放つ
「どんな脅しだぁ!?」
司はあえて右腕を糸に絡ませる。
「頭の悪い奴だ…」
その途端、司の気が濃くなった。
ぼわっと!右腕に絡みついた糸は炎上していき、糸が導火線の様に、燃え進んでいく
「ぐぎゃああああーーーーーーーーーーーっ!」
やがてその火はネッドの口内にまで到達し、体内から全身へと火が走っていった。
宙に浮いていた体は気を纏わなくなった状態で落ちていき地面にバサッ!という音をして事切れた。
「お前のことだ。どうせまた蘇るんだろうが、今は急いでいる。後回しだ!」
赤眼の気をおさめ、素へと戻った司は、銀星輝に向き返り、急ぐぞ!と言わんばかりな表情をしようとして…
「・・・」
みると銀星輝は自分の腰を摩っていた。
先ほどのお姫様抱っこをされた事に、抵抗があったのだろうか、頬を赤らめ司をみる。
「司さんは、過去にお姫様抱っことかしてました?」
訳がわからない事を言い出したので司は大丈夫か?というように目を細めた。
「私はこんなひょろい身体だから、その…ちょっと気持ちよくて…」
次第にその表情が真っ赤になっていく
そして、何を考えていたのだろう。
急にボンッ!と何かが蒸しあがったかのように皇女は目をグルグルにして倒れた。
「おい!?どうした?大丈夫か!?」
すぐに司はその肩を貸し、銀星輝を近くの街を探し始めた。
ロシア ニューソ連・第35統合混成軍制支援街 空家
そこには人っ子、一人見当たらなかった。
ロシアのあたりは特にコンプレクシティの影響は強いようだ、今は空家を勝手に使わせてもらっているものの、いつ兵士が見回りに戻ってくるかわからない
銀星輝を看護しながら、司は警戒網を強めていった。
「う~ん…」
その時、銀星輝が唸り始めた。
「勝輝さ~ん。こっちですよ~・・・そこは違いますぅ~・・・ですからここはナイラカルペス川ですってぇばぁ~♪」
寝言なのか、司はそう思う前に…
(勝輝とは誰だ?まさか…地球人か!?)
そんなことを考えていると、再び銀星輝は寝言を語り始める。
「あなたは唯一の・・・・・ですからぁ~、もうちょっとしゃきっとしてくださいねぇ~♪」
司は銀星輝を起こしにかかった。
「銀星輝!勝輝の居場所はどこだ?答えろ起きろ!」
怒鳴り声のように響く大声は銀星輝を苦しくした。
「うにゃ~!何ですか!?それにここは…?」
銀星輝は飛び起きてあたりを見回すが、それよりも司の顔がすぐそばで唇が触れそうなほどに接近していることに気がついた。
「ふにゃ~!司さん、近い!近いですよー!」
それから、銀星輝と司は再び、イチャイチャと騒ぎ立てたのだった。