目指せ人気者 出演:羅ー、水輝、サーシャ
「みずき~みずき~、ちょっと聞きたいことがあるんだけど~」
みずき…勝輝のクローンで弟の遺伝子が混じっている者である。水輝という名前はあまり気にはしてはいないものの、少しコンプレックスを持っていた。
「ん?どうしたの?羅ーお姉ちゃん」
呼びかけに応じる。
歳は勝輝もそうだが、生前の頃も加えると、当然、羅ーが一番上になる。
周りは気にしないが、水輝はその辺りは特に気をつけていた。
「ツンデレって何~?」
「ツンデレ?聞いたことはあるけど、なんか雑誌にも、たまに載ってた気がするね」
水輝は真剣に悩んでいた。
実のところ本人にもよくわかってはいない。
そもそも雑誌に乗っているかどうかなんてのも、知ったかぶりをするつもりはなかったが、気付けば口に出ていた。
「何なの~?食べ物なの?美味しいの?『うじゅるじゅる』とかなのかにゃ?」
「うっ、うじゅるじゅるって、食べ物…?」
どこで覚えたのか怪しい言葉に水輝は額から汗を流す。
「美味しいんだお、うじゅるじゅるの濃厚ながらもさっぱりとしたその味は、舌の上に広がる広大な大海原の様で、深く、果てない味なんだお~」
「う、う~ん、説明を聞くと、更にどんな食べ物なのか、わからなくなってきた…とにかく、ツンデレは食べ物とかじゃなかったはずだよ。たしか人の内面というか態度を表したものじゃなかったかな?」
水輝の説明は、どこか曖昧で、羅ーもイマイチなのだった。
「う~ん、内面。ツンデレ??ツン…デレ???」
ますます、わからなくなってくる。
と、そこへ、ある足音が聞こえて来る。
「お二人共そこで、何のお話中ですの?」
「あ、サーシャ、ちょうど良い所に、聞きたいんだけど、ツンデレって何か知ってる?」
風呂上がりだったのだろう、濡れた髪を、得意の火気能力によって分散添付することによって乾かしている最中だった。
「ツンデレ?ちょっとくらいは知っていますけれど、話が広がりすぎて、定義が難しくなっている気がしますの」
「う~ん、難しい話~?」
「結局説明すると、どんな感じなの?」
水輝が説明に迫ろうとする。
「いつもはツンツンしているくせに、ふたりっきりになるとデレデレする。というのであったり、好きな人に対して素直になれず、何かにつけてツンツンした態度で言い訳したりする人のこと、でしょうか?要は自分に正直になりきれない、天邪鬼の人の事ですわ」
「つまり、サーシャの事かにゃ?」
羅ーは、あまりにも真正面から真実を言う。
「なんですって!?私はツンデレなんて不器用な人間等ではありませんわ」
「まあまあ、落ち着いて、結局ツンデレっていうのは素直じゃない人間の事なんだね」
「多分、その一言だけではないと思いますわよ。とりあえずの入口としてはそれでいいかと思いますけど」
その説明に、羅ーは少し気を通して、性格を変化させる。
ちなみに、羅ーは気を循環させることによって、人格でさえも簡単に変えてしまうことができるようだ。
「素直じゃなければツンデレなのね、それじゃ…『お前の事なんて嫌いだ』…これでいいの?」
「…う、う~ん。それは、本当に嫌われてる感じがして、余りよろしくないんじゃないの?」
「私も同感ですわ…おそらくなんですけど、ハッキリと嫌いなんて言ってはNGなのですよ」
二人して、気落ちした態度になる。
「それじゃあ、どんなふうに言えばいいんだろ?」
「さっきの、羅ーの言葉だと、例えば…『べ、別に貴方の事なんて好きじゃないんだからね』…みたいな感じかしら?」
「おお~、なるほど、確かにそれだと、自分の本心を隠したつもりになれつつ、相手に諦めさせない感じだね」
水輝は思わず拍手をしていた。
間近でツンデレっぷりを見せられては、拍手せざるを得ないだろう。
「それがツンデレ?」
「今のような言葉であれば一発でツンデレキャラ扱いされますわよ」
「それじゃ…『お前の事、嫌いじゃない…』」
「惜しいですわ、それはクール系が混じっていますわ、もうちょっと声を荒げたほうがいいですわよ。あと、言葉の最初に『う、うるさい』とか『べ、別に』という言葉を恥ずかしげに言うと、ツンデレ度がUPしますわよ」
サーシャのサポートもあって羅ーはもう一度ツンデレっぽい言葉を発してみる。
「『う、うるさいな、私は別に、お前の事なんて好きじゃないんだからね』」
その言葉を聞いた途端、サーシャに黒い気が満ちた。
「これはひどい、絶望した。まるで成長していませんわ」
「…にゃに~!」
ダメ出しされたことに羅ーのお頭が僅かに蒸気を出す。
そんな羅ーをサーシャはチッチッチッとする。
「恥じらいがないですわ。素直になれないという不器用さから醸し出す恥じらいがあってこそのツンデレなのです」
「『う、うるさいなぁ~、私は別に、お前の事なんて好きじゃないんだからね!』」
「それです、それがツンデレですわ」
ようやっと、それらしい形になってきたのを見てサーシャをよくできました、と羅ーの頭を撫でる。
「ツンデレは難しいそう…面倒だにゃ」
「何だかんだで、サーシャは詳しいんだね…というか、羅ー姉ちゃんはどうして急に、ツンデレについて知りたいと思ったんだい?」
水輝の言葉に、羅ーは疲れた顔を戻す。
「俗事についての勉強~、世の中にもっと馴染んでいこうと思うから」
「それで、ツンデレ?もっと普通のことから調べればいいのに」
羅ーは、その言葉にカチンと来た!
「『べ、別にアンタの為にこんな事してるわけじゃないんだからね!』」
「すごい、完璧ですわ。羅ーは既にツンデレを自分のものにしてますわ」
サーシャは驚いていた。
「そう?」
「そうですわ?多分本心を言っておいて自分で否定すればいいのですわ。あとは悲しい時なんかは自分の気持ちを素直に打ち明ければ、ギャップが生まれて良いですわよ。ちょっとした嫉妬も可愛らしいんじゃないかと思いますわ」
サーシャの言葉に、となりのいた水輝もなんとなく、ツンデレを実践してみる。
「『べ、別に一緒に居たいなんて、望んでいるわけじゃないんだからね』『どうして行っちゃうのよ?、本当は一緒にいて欲しいのに』…ていう感じ?」
「意外とみんな簡単に、できるものなのですわね」
「ツンデレなんて簡単なものだにゃ」
羅ーの言葉に二人は唖然とする。
「そういう発言は、沢山の人を敵に回してしまう可能性があるから。黙っていた方がいいと思うけど…」
水輝の言葉を聞く耳を持たず、羅ーは話を続ける。
「あと、メールとかいうのに気持ちを込めると、男はイチコロって聞いたことがあるんだけど」
「あ~そっちなら少しはわかる。なんかハートとか使うと、俺に気があるのかって思われるから、その気持ちを効果的に利用する方法とか」
「他にも、可愛らしいメール、自分を気遣ってくれるようなメールは、喜ばれるんじゃないかしら?」
メールに関する話し合いで、今度は盛り上がる三人だった。
「う~ん、ところで、メールって何?」
「え、知らない?メール?」
思わぬ言葉に水輝は驚いた。
「ツンデレを知る前にそこらへんから知っていくべきだと思うんだけど…とりあえずメールは、そうだね。いうなれば現代の簡単な手紙って所かな。人に頼らずとも機械で自動的に、しかもリアルタイムでやり取りできるんだよ」
「どこでも届くの?」
「うん…外国とか、山の中に入ったりすると難しい場合もあるけど街中にいる限りは大丈夫なんじゃないかな?」
水輝が携帯を取り出して、メールの画面を見せる。
「それは便利だね、便利な世の中、平和な世の中、いい国じゃあにゃいか~この国は!」
「もうやだ、この国って単語もよく聞きますわね」
羅ーの言葉にサーシャは思い出したようにあとづける。
「だから、そのメールのやり取りで、男の人の気持ちをグッと引き寄せる方法がいろいろあるらしいんだよ」
「う~ん、つまり、そのメールにツンデレが加われば、効果倍増って事?」
「確かにそうかもしれないですわね。文面だからこそ現れる可愛らしさ、ていうのもあると思いますし」
サーシャの発言を聞いて羅ーは何か思いついたかのように、水輝に携帯をねだる。そして、メールの作成画面を開き
「それは、もしかしてこういう事?」
羅ーの思考を表現する世界が、二人を覆った。
ピッ!
[べ、別にお前のことが気になるからメールする訳じゃないんだぞ。ちょっと携帯を試しているだけだ、別に気にしなくてもいい、返事なんてしなくてもいいんだからな]
ピッ!
[どういうことだ、私のメールを無視するなんて、返事しなくてもいいとは書いたけど、それでも返事をするのが人としての礼儀なんじゃないのか?]
ピッ!
[どうかしたのか?もしかしていそがしいのか?大変なことなら手伝うぞ]
ピッ!
[大丈夫か?もしかして具合でも悪い?返信できないくらいの体調?]
ピッ!
[もしかして、誰かと一緒にいるのか?]
ピッ!
[それは私の知ってる人?知らない人?]
ピッ!
[女!?女と一緒にいる?]
ピッ!
[無視するな!!メール見てるんだろう!?]
ピッ!
[へ、返事をしろ…どうして返事をしない。してくれない…]
ピッ!
[返事、してよ…。じゃないと、私は…]
ダークな世界を見事に作り上げ、更には演技とは思えないような、真似事までもしてみせたのだった。
「という感じでいいのかな?ちなみにリアルタイムでメールができるとしたら、一時間の間に50通ほど送るべき?」
「ち、違いますわ!それは全然違います!!それはツンデレじゃないですわー!!」
「何か違うことは僕にもわかったよ…」
二人の意見に羅ーは不思議な顔をする。
「どして?最初は素直にならず、そこから相手を心配するような感じだったはず…?」
「その後が、問題なのですわ!」
「ちゃんと嫉妬するそぶりも見せた…サーシャはそれも必要だって、いったお」
「確かに言いましたけれど、違いますわ、そんな恐ろしい感じの嫉妬じゃなくて、もっと、可愛らしい感じの嫉妬ですわ」
サーシャの迫力ぶりに思わず羅ーも身じろいでいた。
「可愛らしい感じ?うん…『お前は、私の事が好きか♪?私だけが好きか♪?』」
「もうツンデレじゃない気がするけど、さっきよりはマシな嫉妬の方法だね…」
水輝は、羅ーの対応の変え方に問題があるんじゃないかと思っていた。
「『そうか、私のことだけが好きなのか、だったら、携帯に他の女のメモリーはいらないな♪』」
「だーかーら、どうして、そういう方向にいくんですのー!!何でもかんでも可愛らしく、『♪』とか『♡』とか付ければいいってものじゃなくてよ!!」
サーシャの苛立ちに水輝はただ、苦笑するしかなかった。
「メールも知らないくせに、携帯のメモリーはわかるんだね」
「う~ん、簡単だと思ったけど、意外と奥が深いんだね。ツンデレは、そう、まるでうじゅるじゅねのように深く…」
またしてもその単語が流れる。
「それはもういいってば、話が難しくなってるのは、羅ー姉ちゃんがややこしくしてるだけだから!」
「そうですわ、羅ーがやっているのはツンデレありませんわ、それはヤンデレですわ。ヤンデレ!」
サーシャの聞きなれない言葉に、一同は唖然となるのだった。
「ヤ・ン・デ・レ?いつもはヤンヤンしてるけど、好きな男にはデレデレする事?」
「ヤンヤン…って、なんだい?ヤンヤンって」
水輝が冷や汗を流す。
全く、この少女は色んな意味で面白い子だ。
「全然違いますわ。ヤンデレというのは相手の男の人の事が好き過ぎて、少し過激なヤキモチを焼いてしまう人のことです」
「少し過激って?」
羅ーを他所に水輝は、サーシャの言葉に耳を傾ける。
「そうね。例えば、空っぽの鍋をかき混ぜたり、包丁や、鋸を持ち出してみたり、するのが代表的ですわ」
「う…それ、危ないって」
「ニンジョウ沙汰だね」
決して人情等ではない為、一瞬心温まるストーリーのようにも聞こえるが、実際には心、氷るストーリーになるだろう…。
「ヤンデレはだめなの?人に嫌われるようなことなのかにゃ…?」
「え?そうですわね、ツンデレ程ではないにしても、コアなファンの人が結構いらっしゃる様ですわよ」
「なら、これも勉強すべき事、問題ないのにゃ!うん♪」
頷く羅ーに水輝はえ?という様な顔をする。
「いや、もっと先に勉強しておくべきことがあるんじゃないのかな?」
「他にはどんなデレがあるの?」
水輝を無視して、羅ーはサーシャに更に問う。
「あとは…そうですわね、『クーデレ』とかありますわね」
「普段はクークーして、」
「いや、それはもういいから…」
水輝は止めにかかった。
「クーデレというのは、性格的にはクールなのですけど、親しくなると、可愛らしい一面を見せてくれるというタイプの人のことですわ。ちなみに素直クールとは別物ですから、気をつけるんですわよ」
「というか…サーシャは、さっきからそう言う系統に詳しいの?」
「え?ちょっとした現代知識として当然じゃないんですか?」
「いや、男だけど、僕はツンデレすら、まともに説明できない気がするよ」
なんだか、負けた様な、何とも言えないような水輝。
「それで、素直クールはなんなの?」
「素直クールは、自分の気持ちを素直に言うのですけど、いつもクールな人の事ですわ」
「それは有名なのかにゃ?」
「うーん、どうでしょう?やはりツンデレが一番人気が高いんじゃなくて?ヤンデレも最近は有名だと思いますわよ」
「そっか~、やっぱり今から人気者を目指すなら、ヤンデレか~」
と、ここで水輝が、え?と、なる。
「どうしてだい?人気者を目指すならツンデレじゃないのかい?」
「そんな既に耕された土地じゃダメだにゃ、これから発展しそうな土地こそ、一番になりやすいのにゃ」
「…意外と、そういうところは計算高いんだね」
「でも、あまり発展していない土地は大変だにゃ、よって、ヤンデレが一番やりやすい」
妙な審議を決めた羅ーにサーシャがつっこむ
「というか黒いですわね、腹黒ですわね…」
「というわけで、私はヤンデレを目指すことにするにゃ!」
「なんか、色々と間違ってる気がするし…そういうのはやめておいたほうが」
水輝は、もうどうでも良くなってきていた。
そもそも、男がこんな話に踏み込めただけでも、相当なものである。
「でも、大丈夫ですわよ」
「どういうこと?」
「そういうのは、なろうとして、なるものじゃないのですわ…」
サーシャに怪しい気が満ち始める。
「自分は普通だって思ってるけど…ていう人が一番怖いんですわよ。ウフフ…ウフフフ…ウフフッフフフ…ウフフフフフフ…アハハハ、アハハハハ、アハハハハハハ、アーハハハハハハハハハハハハハ・・・」
突如として、高笑いが、連呼する。
「…た、確かに自覚症状がないっていうのが一番怖いわ~…」
「アーハハハハハハハハハハハ…って、これじゃ私が天然のヤンデレさんみたいじゃないんですの!?私はヤンデレじゃありませんからね。そんな事、期待されても困りますから!!」
「私も、腹黒じゃないからね、期待しないでよね!」
「なんでだろ…本当に二人は、ヤンデレでも腹黒でもないのに、この流れだと、言えば言うほど…日本語って恐ろしい…。」
水輝は最早、この場を逃げるような思いで、二人に接するしかなかったのだった…。




