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二人二声之影Ⅱ  作者: LAR
本編
18/22

14話 終日の未来へ…後編 (終)

「う~ん…」

勝輝が漸く気がついた。

「うわ、なんだこれは!?」

目覚めて早々驚く。

目の前には、ボタンやレバーの山。

おまけに、よく見回してみれば、戦闘機の操縦席に座っているではないか。

驚くと同時に頭頂部をぶつけ、痛みに悶える。

ゴツン!と、見事にフロントガラスに頭をぶつける音に、司が気づく

「気付いた様だな。どれくらい眠っていたかわかるか?」

開口一番に、時間を聞いてくる。

「5分くらいか?」

勝輝は、大体を予想してみる。

「8分だ。残り時間はもうない。急げ」

「ああ!」

勝輝は、叡智を覚醒させ、金髪の乙女のいたブラストドアの方に機体を動かすのだった。

一方、金髪の乙女はというと、ガラスの方をみて、ある程度の距離を離していた。

「そこを退いてくれ!出撃するから」

出撃のカウントダウンが掛かる中、勝輝の声に、振り返る。

「ん?」

だが全く、退く気配はしなかった。

「まさか!」

その様子を遠くから見ていた司は、ある予感が走る。

口を動かそうとしない乙女、しかし片言も口を開かなかった彼女が満面の笑顔を勝輝に向けたあと…ガラスに向かって駆け出した。

「やはりか!」

司の勘は的中した。

あの乙女は、最後まで勝輝をサポートするつもりだ。

だが、こんなところであんな助走をつけるということは…!

乙女の視界から、宇宙空間が丸見えのガラスまでわずか数メートル。

頭を屈め、両腕をクロスして前に構えた後、ガラスに向かって跳躍前進する。

ガシャーン!

乙女は、無重力の水槽に向かって、生身のまま、飛び込んでいった。

ブリッジのブラストドアがある場所は、完全に足場のない部分だ。

そんな部位をたった一枚の壁面ガラスだけで覆っているとあっては、誤って誰かが突っ込んでいってしまえば、即座に宇宙空間に身を投じることができるだろう。

現に金髪の乙女は、我が身を思う事など無く、単身飛び込んでいったのだから…

背後で戦闘機の発進までのカウントダウンが迫る中、司はガラスが割れた先、宇宙空間を見つめていた。

「無茶をしやがる。末恐ろしい勇気だ!」

地球が、近くにあるために、乙女は引力に流されていく。

「だが、助かる手立てはないだろうな。大気圏に入ってしまえば、後は身が滅ぶまでの僅か数秒間、大気摩擦にすられて融解させられるだけだと言うのに…。」

ありのままを呟くと、発進の邪魔を確信し、短いカタパルトの軌道上から離れる。

3…、2…、1…、0!

何気なく、カウントしていたためか、ほぼ同時に、発進していった。

とても、加速をつけれる距離ではなかったはずなのに、十分に上手く飛べていた。

「叡智の力を借りているんだろうが、素人の空軍兵よりは、うまいな」

そういって、司は、ブリッジの奥にある、指示室へと向かっていった。

その頃、勝輝は、うまく宇宙に出ることはできたが、隕石の位置が掴めずにいた。

「くそ、隕石はどこだ?」

焦りばかりが生まれ、操縦にも乱れが出てくる。

宇宙を飛び交いながら、レーダーと、自身の目を至る方向に促す。

と、その時、無線が入る。

「勝輝、聞こえるか?」

すこしノイズが混じっているが、なんとかこの声が司のものであるとわかる。

「司か、ああ聞こえてる」

勝輝もそれに応対した。

「これからお前に指示を出す、操縦に不慣れなのは分かっているが、時間は待つという言葉など知らない!手短に事を済ませる為にも、危険を承知で隕石に向かえ!」

そういったあとで、戦闘機のレーダーに赤点が出現する。

「隕石の位置をマーカーとして表示した。真ん中にお前を中心として、この点が隕石の位置ということになる」

説明を聞いた勝輝は、すぐさまレーダーに目を向ける。

「真ん中が俺で、赤点が隕石…くっ、真後ろか!道理でいくら見回しても、見つからないわけだ!」

レーダーには、赤点以外にも、白い点や黄色い点があった。

黄色い点は一つかつ大きめ、白い点は、旋回しても、前進しても、一定間隔で無数に、しかも赤点よりも小さく表示されていた。

「黄色の点は位置から見てクラポ。白い点は一体なんだ?」

無線を繋いだままで、勝輝は独り言をつぶやく

「白の点は、漂流物および、目標の隕石以外の小石、若デブリといったところだ」

司の冷静な指示が、勝輝を上手く、目標へと導いていた。

「接触は避けろ、木っ端微塵になるぞ」

「えっ、マジか…って、うわぁーっ!」

目の前にデブリがあることに勝輝は気付かなかった。

明らかに接触した音、戦闘機というものは、装甲は薄い作りだ、たとえわずかでも触れてしまったとあっては、気体に異常が現れてしまう。

しかし、司が艦内のレーダーを確認すると、戦闘機の光点は点滅すらしていなかった。

「なんて頑丈な機体だ、漂流物に当たっても破損が一切ないとは…」

傷一つない、あったとしても操縦に支障が無い程度の損傷、正に奇跡としか言えない。

そしてなにより司は、コンプレクシティの航空技術はここまで進化しているということにも驚きを隠せないでいた。

だが、そこに人の気配がする。

足音に気付き、司が振り返ると

「彩美か」

そういって、即座に構えていた92Fを下ろす。

「もう、サーラはいいのか?」

司の問いには答えない。

腕を組み、彩美はゆっくりと歩み寄ってくる。

司の隣にまで来ると、モニターに映されているクラポのレーダーの光点を見て

「あの戦闘機を使っているのね」

すぐに見抜いたのだった。

「よくわかったな、あんな頑丈な作り、更には、ハイペリオンの投入、コンプレクシティは戦争でもする気か?」

92Fをホルダーに挿し戻すと、モニターの光点、勝輝の機体の位置を慎重に目で追った。

「射民国との戦いになるでしょうね。今でこそコンプレクシティは劣勢状態ですけど、サーラ様をあれほどまで苦しめるなんて許せない」

表情では隠していたが、感情では業を煮やす程、彩美は怒りを抱えていた。

「それと、あの機体の装甲は決して強固なものではないですよ。あの戦闘機には、即効性のバリアシールドを張っているだけなのです」

「なんだと!?」

彩美の発言に、司は驚愕した。

バリアシールドと、いえば、現在ではまだ試作段階で、サイボーグに装備される予定だったものだ。

それがどうしてか、戦闘機に装備させられるほどに進歩していたというのだから、驚愕して当然だろう。

「サイボーグの開発の方が遅れているんですよ。先に完成したシールドは、試作として、あの戦闘機に取り付けたわけです」

彩美はサーラの側近でありながら、火気、パーツ類などの開発チームのプロデューサーも担当している。

「実験という意味合いを持たせていましたが、成功ということでいいですね」

正直彩美には、バリアシールドは不安の塊だったようで、言葉を放つと同時に、悩みが取れた様にすっきりした表情を浮かべて、戻っていったのだった。

「何だったんだ、ただ自慢話を聞かせたかっただけか…?」

8回の『た』を言った発言をする司は、呆然とするしかなかった。

一方、勝輝はというと、隕石を漸く視界に捉え、適正な距離に近づいていた。

「司、隕石の近くまで来た。ここからはどうすればいい?」

数秒ほど応答に反応がなく、もう一度、無線を通そうと顔を近付けたくらいで返答が帰ってきた。

「よし、もう時間がない。武装をハイペリオンに変更した後、照準が重なったらレバー上部にあるボタンを押せ!」

司の指示を聞き、勝輝は、武装変更用のボタンに指をかける。

「2.5mmマシンガン、小型集束ミサイル、ハイペリオンズ、これか!」

機内のディスプレイの右下に、メイン・ハイペリオンズと表示され、目標の隕石に機体を向ける。

静かに定まっていく、二つの照準が重なった時、初めて射出が可能となる。

しかし、中々それは定まらない。

「くそっ、あと少し…」

神経を集中させ、残り僅かな重なりをじっと待つ。

しかし、こんなに、事が上手くいく事など、今までに無いことは何度もあったことだ。

勿論、今回も…

照準が重なり、ボタンを押しかけた時

スラスターの部位、背後から猛襲を浴びた。

「うあっ、なんだ!?」

衝撃によって、照準の定まりは外れ、再び、最初からやり直す羽目になる。

「くっそー、誰だ?邪魔するのは!」

機体を、撃たれた方向に向き返し、レーダーと辺りを見回す。

「司、失敗した。敵がいるみたいだ」

同時に無線を繋ぎ、司に連絡を取る。

「確認した。こちらの方からも索敵に入る」

連絡を受け取り、司はクラポに搭載されている強化レーダー・広範囲スキャンシステムを始動させる。

コンプレクシティが独自に開発を進めていたそれは、ステルスでさえも探知してしまう代物だ。

戦略としては、もう卑怯なものだが、今はそんなことを考えている場合ではないことは司にもわかっていた。

30秒ほど経ったところで、レーダーに赤い光点が浮かぶ。

「な、なに!?」

しかし反応した光点は、目を痛くする程の数をモニターに写したのだった。

「なんて数だ!勝輝には荷が重すぎる!!」

ざっと数えて、30~60はいるだろう。

その数を初心者で、それも叡智を頼っての操縦をしている勝輝一人では、とても話にならない。

それどころか、ハイペリオンミサイルを撃つことができなかったことも大きな問題だ。

待機状態からの射出でなければ、狙いは捉えれない。

だが、この数では悠長に、照準を定めている余裕など全くない。

「くっ!マズイぞ…どうすればいい?」

悩む司、そして突然の奇襲に、戸惑う勝輝。

二人の意志疎通が乱れ始める瞬間だった。

「司、指示をくれ。司?…司??」

応答がなくなった。

その事に気を向けてしまう。

だからこそ側面に対してのデンジャーコールに気付いたのは、攻撃を受けた時だった。

「うああっ!くそ、どこだ!?」

ステルス機を視認する力は、勝輝の搭乗する機体には無い。

その為、攻撃してきた時に、方向だけを捉えることができる。

が、それでは完全に、後手に回るのだった。

更に勝輝は、驚くべき事に気付く!

さきほどの漂流する小石にぶつかった際に働いたシールド。

衝突した時よりも、ダメージが大きいのだった。

今の攻撃が、ただの機銃なのならば、実弾という名目の基、シールドは絶対的な軽減性能を働かせ、僅かな消耗エネルギーで、かつ、そのダメージは最小限に抑えることができる。

だが、もしもエネルギー兵器の類だとしたら…。

「やばい…このままじゃあシールドなんて、一瞬ではがされてしまう…」

現に、実弾と仮定した場合、どう考えてもダメージが大きすぎる。

ステルスを搭載しているのなら、相手も戦闘機の筈だ。

その規模では、それほど大きな弾は撃てない。

同事に仮に大型機だとして、30体以上だとすれば、こんなに漂流物が多いこの空域で、行動するのは余りにも不利すぎる。

少し動く度にボコボコぶつかってしまうことだろう。

おまけに、敵が攻撃を仕掛けてきた方向に対して、勝輝が攻撃しても全く外れてしまう始末だ。

とても、大型機がいるとは思えない。

「ちぃ!、どこにいる?」

殺気は、勝輝と敵の機体があって感じ取るのは難しい。

デンジャーコールが示す方向に、すぐ対応しなければ、やられるのは目に見えている。

「面倒事ばっかりだ。段々嫌になってきたぞ…」

焦りだけが溢れてくる。

勝輝には一刻の猶予も無かったのだった。

再び、デンジャーコールがかかる。

研ぎ澄まされた感覚が、勝輝の拘束を外した。

「そこかぁーっ!」

攻撃の方向は180°背面。

それを僅か、0.6秒で認識し、1.4秒後には勝輝は行動に走っていた。

現代の航空力学上では不可能とされるような、バレルロールをし、一気に攻撃してきた方へと向き変える

「くらえっ!」

すぐさま、見えない敵に対して機銃を放つ。

敵の攻撃は、完全に的を外れ、勝輝の隣りの、何もない空間を横切っていくそれは、青白い弾だった。

(やはりエネルギー兵器だったか!)

電光を放っているそれは、プラズマといっても良いものなのだろう、弾速も中々のもので、後一秒でも反応が遅れていれば、被弾していたに違いない。

確認の後は、勝輝自身の攻撃の結果だ。

が、やはり見えない敵が相手では圧倒的に不利だ、神経を集中させて狙いを定めてみたものの、手応えらしいものは全く感じ取れなかった。

これだけヘイストを加えてみても、当てることができないとなると、もう勝輝には討つ術がない。

相手が視認できず、ターゲッティングによって射出される小型集束ミサイルが使えないことも痛い。

「くそ!」

勝輝は、また操縦機に拳を叩きつけた。

一方、司はというと、勝輝が必死に応戦している中、策を考えていた。

これだけの敵がいる中、ハイペリオンミサイルを隕石に放つのは危険極まりない。

何故なら万が一、射出直後に敵の攻撃がミサイルに被弾した場合、直前で爆発を起こす事もありうるからだ。

そもそも、今の状況では撃てる状態まで、敵が待ってくれるとも思えないが、一か八かで勝輝が賭けに出る可能性も否定できない。

運命というものは残酷なものだ、守るものでさえも簡単に奪えるシナリオを一瞬にして組み上げてしまう。

地球を守る手立ては無いのかと、頭を必死に悩ます司に

「ん?」

レーダーを見ていた視界が、違和感を感じた。

光点が減っている?

その時、無線がつながる。

「司、地球から、凄い量のビームが上がってきている。レーダーに反応している赤点がどんどん消えていくんだ」

その言葉を聞いたとき、司の中で思い当たるものが浮かび上がった。

「まさか、コンプレクシティ!?」

新たな無線が、司にかけられた。

「クラポの乗務員と、地球軍の者に告ぐ!我々は、コンプレクシティの地上隊だ!我が軍の総帥、サーラ様が倒れたと聞き代わりを代表して、サーラ様の宰相・彩美殿より地球軍との休戦、及び、同盟を結ぶ事を約束された。よって、これより君達を援護する!地上部隊はステルスを無力化し、射民軍宇宙航空艦隊を殲滅する。コンプレクシティシンボルのある機体は、直ちに落下中の隕石に攻撃を集中せよ!いくつかの部隊からも、地上から貴方々を支援する!繰り返す、我々はコンプレクシティの…」

長々と、爆音の無線が流れてくる。

コンプレクシティシンボルの機体というのは勝輝の登場する戦闘機の事なのだろう。

この宣告が終わる頃には、レーダーの赤点は10機程になっていた。

「とんでもない殲滅力だ。コンプレクは地上に部隊を集中させていたからな…これくらいは当然か」

独り言を呟き、回線を勝輝に回す。

「勝輝!今のが聞こえたな?お前はハイペリオンミサイルを撃つのに集中しろ!」

無線が聞こえて来る中、無数のビームに次々に落とされていくステルス戦闘機と同じ運命を辿らない様に、避けながら勝輝は「了解!」の返事と共に隕石に距離を合わせに向かう。

これなら、順調にことは進むだろう。

そう司が確信しかけたとき

「…!」

勝輝の背後から、ステルス機を視認できた。

更には、その下に大きなデブリがある。

スラスターを上手く調整して、地球からの援護を振り切っていた。

「まずい!!」

ステルスが無力化されているとはいえ、今の勝輝への妨害は、折角のチャンスを無駄にしかねない。

「なにか、なにか武器はないのか」

司は、辺りを見回す。

「なにか…あれを落とせるだけの威力の武器が」

ブリッジを飛び越して降り、ものの数秒、探索したところで…

「・・・」

それはあった。

一般的な銃とは、群を抜いて異形な銃。

司がコンプレクシティを裏切り、地球に降りる前に最後に自作した銃だった。

「マグネットシーカー…」

司は、銃をその手に掴んだ。

「皮肉だな、開発者自らが制作した玩具を試すなんてな…。だが、これなら落とせる」

そう言って、勝輝の戦闘機が割っていき、今は修復されている最中だったガラスに、92Fを発砲する。

ガシャン!と、小さな一発は派手に割り、司はギリギリの足場で安定させる。

スコープを展開させ、倍率を合わせていく

クラポとステルス機の距離は、とても離れている。

ざっと5000mくらいはあるだろう。

しかし、そんな距離であっても…

「コイツなら当てれるはずだ、否、当ててみせる!」

そう言って、両腕でマグネットシーカーを構える

一方、勝輝は武装をハイペリオンズに変更し、隕石に照準を合わせている最中だった。

その間にも、ステルス機は次々と落とされ、残りは4機程になっていた。

じわじわと合わさる照準。

あと少し、そうすれば撃てるが、その背後には、地上からの猛攻をデブリを盾にして、うまく防ぎつつ迫るステルス機の影。

照準が重なり、射出のボタンを押す直前に、背後のステルス機も高速プラズマ弾のボタンを押していた。

エネルギーが生成され、飛ばされる寸前!

「今だ!」

勝輝、そして司、二人の攻撃が放たれた。

勝輝は超大型ミサイル、司は電磁極線によって反発された弾が放たれた。

ステルス機も、プラズマを放つ瞬間。

司の、マグネットシーカー弾が直撃をした。

機体の真ん中を音速の速さで貫き、真っ二つに折れ曲がる。

プラズマ弾は勝輝の戦闘機の、真上を飛んでいったのだった。

完全に崩壊するまでに5、60発は撃っている。

下方向に折れていればハイペリオンミサイルに被弾し、十分に爆破できただろう。

そして肝心のミサイルは、隕石を正確に狙い、大気圏に入りかかった所で命中し、両方共摩擦の熱ですり燃え、焼滅した。

作戦は辛勝といった形だが、成功を収めることはできた。

勝輝達の戦いは、漸く終わったのだった。






勝輝達は隕石衝突作戦を阻止することができた。

それは太陽系の惑星を一歩とした、銀河系すべての星々に伝わり、その名が高く上げられた。

勝輝を含め、地球軍の戦士達は、コンプレクシティが主催した宴会で、一日を過ごした。

今回の戦いで受けた被害の復興は、二の次にして。

バカ騒ぎの中、勝輝は気になることがあった。

ニュージ・アースを会場としている宴会の、酔っぱらい共を掻き分け、医務室に向かったのだった。

医務室には、二人の重症患者がいる。

それぞれの総大将とも言うべき者達だ。

一人は生きてはいるが、絶対安静状態。

一人は意識不明の重体だが、息はある。

「サーラ」

カーテンを開け、シーツを被っているコンプレクシティの総帥に声をかける。

「勝輝か…」

安静状態といっても、ほぼ状態は正常になっていた。

問題は、過度な気の消費によって、外見ではわからない、精神に障害を抱えていた。

「ティリアは目覚めたか?」

隣りのカーテンで隠されている方を見て勝輝は言った。

「死んでるんじゃないかと思えるくらい、目覚める気配は無い、勝輝、いい加減教えてもらえないか?この娘は一体、何者なんだ?脈はあるのにどうして目覚めない?」

サーラは険しい顔付きをする。

実のところ、サーラがティリアの事を聞くのは、これが初めてではなかった。

もう5回くらいは聞いている。

しかし、返す言葉はいつも

「悪い、それは言えない。深い、深い事情が俺にも絡むから…な」

そして、何か大事なものを無くしてしまった様な悲しい表情をする。

勝輝が全てを知っているのは分かっている。

しかし、勝輝だけではなく、地球軍の者達は皆、訪れる度に聞く者の、誰一人として、ティリアの事を話す者はいない。

深夜を回った頃だろうか、サーラは一人、病室でそれだけが気になる。

「まあ、いいさ、いずれわかるときがくるのだろう…それまで、何度でも訊くだけさ」

毎度この捨て台詞を吐いて、眠りにつくのだった。

結局、勝輝達が地球に帰る時まで、理由は教えてもらえなかった。

ニュージ・アースは、コンプレクシティの修理に出すため、クラポの降下ポッドを使っての地球降下となった。

宴会、そして戦士たちの休息は、もうすぐ終わる。

復興作業の時だ。

またいつ、射民国が攻めて来るかわからない。

その時までになんとしても、ニュージ・アースとクラポは最低限、完治させる必要があった。

次の戦いの時まで地球軍とは、同盟を結んでおくつもりだったサーラだが、不思議と、戦闘意欲に悩まされることは度々あったのだとか…

射民国…それは地球軍からすれば第三の敵。

コンプレクシティから見れば第二の敵という、未知の敵だった。

射民国の構成は、大半が地球人の兵士だった。

嘗て地球が、汚染によって住む土地を失ってしまったために、逃げたした正真正銘の人間達だった。

そんな彼らを指揮する者。それが操葵だった。

地球を取り戻すために戦う地球人、操葵はそんな彼らを協力している…わけではなかった。


射民船・メリベルンヌス艦首

「操葵殿!」

物思いにふけっていると、突然地球軍の兵士が操葵の前で頭を下げていた。

「どうした?」

「観測班からの報告書です!」

隕石落としの作戦が失敗したという伝達と共に、慧の死亡報告が届けられ、操葵は呆れ返っていた。

「取り越し苦労だったな。下がっていいぞ」

では、っと一礼だけをして、兵士は艦内に戻っていった。

渡された薄っぺらい紙の束には目もくれず、操葵は慧の死亡書だけを眺めていた。

「未来では一体どうなっていることだろうな?」

操葵が連れてきた慧は本物の未来人だった。

その未来人は、過去の世界となるここで散った。

今頃、未来の現代では大惨事か、天変地異でも起こっているのだろうか?

しかし、操葵には知った事ではない、寧ろ、いずれくる未来だ。

能力者が勝手に滅びる事ならば、これ以上に都合の良いことはない。

「慧、お前には感謝しているよ。私の目的に大きく貢献してくれたんだ。墓の一つでも立てておいてあげよう」

右腕を上げて広げ、次元空間を発生させる。

「新しい者を連れてくるとするか…」

空間に紙の束が散らばり、次々に吸い込まれていく

「フフッ、今度はもっと有能な者を連れてくるとしよう」

そう言って空間に足を踏み入れると同事に消えた。

いつの間にか、艦首の室内は鍵を掛けられ、密室状態の中、巡洋艦は今も銀河系を巡々続けていた。

彼等、射民国の兵士達が住まう事のできる星を探して…


霊法町・宇宙行きシャトル場


[長旅ご苦労様でした。足元にお気を付けて、お降りください]

各個の降下ポッドが開き、勝輝、司、アルフ、冬嫁、麻衣、斐瑪が出てくる。

「ふうん…くぅー!やっぱり地球の空気は美味いな」

伸びと深呼吸をし、勝輝はポッドから、荷物を取りに行く。

「長い時間、宇宙にいたからな。地を踏み鳴らす足が、妙に重く感じるな」

司は、直立しながら、銃の簡易点検を行っていた。

「宇宙だと寝てばっかで、真面に活躍できなかったからな。地球で大活躍してやるぜ!」

拳をポキポキと鳴らし、アルフは気合に満ちていた。

「無理は、し過ぎない様にね。頑丈なアルフなら、そうそう怪我はしないだろうけど」

隣で冬嫁が、包帯で覆っているアルフの傷口をちょんと触る。

「冬嫁ちゃん。頼んだわよ」

御守りのつもりだった麻衣も、もう冬嫁に丸投げしている。

「冬嫁を困らせるようなら、三枚に下ろす」

アルフの横で、二つの剣を構える斐瑪。

息団欒としている彼等であったが、この先に待ち受ける者に対しての、息抜きだという事を誰もが思っていた。

地球に帰る直前、サーラから、ある手紙が届けられた。

それは霊法町にあるセイレーン教の教祖、黒葉美運からの伝言だった。

[地球に戻ったら、セイレーン教を真っ先に訪ねて欲しい。君達も驚く様な内容を、幾つか用意しているから首を長くして待っているよ]

この文から見て恐く、ロクな内容ではないことは確かだった。

地球での戦いも長い事経験していない。

勘を戻すついでという意味もあって、六人はセイレーン教へと向かったのだった。


教会の大きな門を開く。

相変わらず馬鹿でかい扉だ。と勝輝は頭で思っていた。

門を完全に開ききったとき、教会の中は修道士達が用意したと思われる催しがあふれていた。

「な、なんだこりゃあ?」

まるでパーティー会場にような雰囲気に勝輝達一行は度肝を抜かれていた。

「やあ、お帰り。地球の子達」

颯爽と会場の代表とも言える黒服の青年が姿を表した。

「このパーティーはこいつらが、君達を歓迎する意味で勝手に飾り付けしたんだ。悪いけど、パーティーは決してしないから気をつけて」

その言葉を聞いて勝輝は、キッ!と黒葉を睨みつける。

「じゃあ、一体何をする気なんだ?」

「そうだね。君たちには地球を救ってくれたことに対するお礼と、これから見せる子達を君達の仲間として加えて欲しいんだ」

そう言って、黒葉は指をパチン!とならすと、勝輝達の前に4人の、能力者が現れたのだった。

「あっ!」

勝輝が、その中の一人に大きく注目した。

「あんたは俺を助けてくれた…」

金色に輝く長い髪、乙女だった。

司はというと、その隣りの者に注目していた。

「サーシャ、無事だったのか!」

驚いた様子で、その名を呼ぶ。

しかし、残りの二人は、他の面々共々、全くの反応を示さず、ただ呆然としていた。

勝輝と司の接近を阻止するかのように、黒葉が前に立つ。

「まずサーシャの事だけど、彼女は僕の転生術で蘇らせた。もちろん代償…と言いたい所だけれけど、地球を命をかけて守り抜いた君達に対するお礼だと思って代償は無しにしておいたよ」

サーシャだけが解放され、真っ先に司に向かっていく。

「そして、次はこの子…」

黒葉が、金髪の乙女の前に立つ。

「君達の実力を認めて、この子を保護してもらう事を頼みたい」

唐突な言葉に一同ぽかん、と固まる。

「そういえば君達は、まだ名前を聞いてなかったね。この子は速峰:桜の転生した新たなる子、羅ーだよ」

その名を聞いた途端、全員が驚愕の表情を浮かべる。

まず最初に、司が口を開いた。

「羅ーだと!?まさか、この女が、あの速峰:桜の転生した姿だと…?」

「そうだよ、転生の代償として彼女は言葉を失ってしまったけれど。生前の頃の能力は転生してから更に強力になっているから。彼女自身で生活させるのは問題はないんだけど、うちは資金不足でね。君達に保護者になって欲しいんだ」

黒葉は、あはは、というように羅ーをせっせと差し出してくる。

仕方なしに、勝輝は、その乙女を隣に寄せる。

物の様な感じだが、言葉はちゃんと通じるし、こちらから押してやれば、羅ー自身が動いてくれるため、ただ目的がないのだろうと勝輝は納得する。

「そして、あとの二人は」

黒葉は、勝輝と司を見て、わかっているだろう?、というような顔をする。

それをみて、二人は互を見合って?マークを浮かべるばかりだった。

残っている二人の内一人は検査服に身を包んだ男の子で、勝輝にそっくりだった。

もうひとりは、巫女服に身を包んだ女の子で、姿は司に似ても似つかないものなのだが…

「この二人は、君達のクローンだよ。君達に近い名前を用いらせてもらって、名:水輝と元:椿という名前にしてもらったよ。彼等は君達を上の者と認識するようにしているから、弟と妹ができたと思えばいい」

そういって挨拶を、とクローンの二人に指示する。

「よろしく、勝輝兄ちゃん」

「よろしくお願いします、司様」

勝輝と司も同じように挨拶をし、クローンの二人は、それぞれの隣に立つ。

「さて、これで、僕の用はすんだよ。君達は、もう戦う必要は無いよ。次に来るべき侵略者に向けて、ゆっくりと休みながら羅ーを育てていってほしい」

黒葉は頼んだよと言いたげな、表情をしていた。

「それと、勝輝君。君の住むところも用意しておいた風香町にある廃屋の事務所を買い取って僕宛にしておいてある。そこを使うといいよ。まだ大したものはそろっていないけど、一通りの家具と生活費は用意しているから好きな様に使うといいよ」

その言葉を残して、教祖は教会の奥へと戻っていた。

大勢に、更に増えたメンバー達は、それぞれ息の合う者達同士での会話を弾ませ、それぞれの家へと帰っていった。

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