14話 終日の未来へ…中編
勝輝は叡智の眼で、落下する隕石をくまなく見透していた。
「隕石はこの世の物のようだ…、劣化度や銀河系の流れからみても、この隕石は未来のものじゃない」
勝輝自身が、その言葉を走らせていた。
慧が、どれくらい先の未来から来た能力者なのかは分からないが、少なくとも、目の前の隕石は、未来から運ばれてきたものではなかった。
更に暫く、隕石を調べていると「わかったぞ!」と、大きな声を上げた。
「隕石自体はこの世のものだ。あの未来人は隕石の位置変更と、覚醒壁を張っていたんだ。今はそれがなくなっている」
慧はただ隕石に、わずかな施しをしただけだった。
だが、それでは慧を倒しただけでは隕石は止められないことになる。
今までの戦闘は、ほとんどが無意味な時間稼ぎという形で終わらせてしまえる。
「とんだ時間の無駄使いをしてしまってる!隕石が地球圏に落下するまでの時間は?」
サーラに時間の確認をさせる。
「のこり42分だ。急げ…大気圏に入られてしまっては、もうコンプレクシティでも手が付けられなくなる!」
焦り気味に、近くにあった制御盤を操作し、サーラの右手首につけていた、小型ウォッチャーに情報を添付する。
ここからニュージ・アースまで戻れば、光子力砲で、隕石を破壊できるかもしれない。
気を消費してダッシュをすれば、約30分くらいで、たどり着けるだろう。
しかしサーラには、かなり無理をさせることになる。下手をすると死ぬこともありえる…
「サーラ、俺はニュージ・アースに戻る。お前は、ここで、隕石の様子を…」
そこまで、言った時、サーラはかなりの疲労を見せていた。
慌てて、勝輝が介抱にかかる、そして気づいた。
さっきまで触っていた制御盤、その電源が完全に切れている。
「お前、まさか、もう気が残っていないんじゃ…」
勝輝には分かった、あの制御盤、あれは能力者の気と同調させることによって、脳内をフルスキャンし、指定した情報をファイル化させる装置だった。
但し、気の消費量は大きく、起動している間だけでも、並みの能力者なら、立ちくらみを起こすほどだ。
「勝輝、私の事はいい…真っ直ぐにニュージ・アースに戻るのなら、連絡通路を使うといい」
サーラが、シャッターの場所を指差した。
「あの制御盤が、シャッターの開閉装置にもなっている…私が開閉させよう」
年老いた御老体のように、よろよろとしながらも、サーラはわずかな気を制御盤に注いだ。
「ああ、もう、手が動かない。勝輝、スクリーンの開閉装置のONを…早く」
急すが、勝輝はどうしても躊躇ってしまう。
何故なら、シャッターの開中も、制御盤は容赦なく気を喰らうことを勝輝はわかっていたからだ。
「早く…押せ!地球の運命はもう…すぐ隣にあるんだ!」
サーラは、勝輝が敵とか味方だとかは、とっくに捨てていた。
「お前の躊躇いで…地球に住む63億人の人間の住処を無くしてしまうのか!?」
勝輝の脳裏に地球の運命が定まった光景を浮かべた。
それでさえもサーラは見抜き、自らを犠牲の糧として、最後の言葉を吐いた。
「ヒトデナシの名は私だけで十分だ…早くそれを押せえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーっ!!」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!」
もう、何も考えられなくなった。
スクリーンに映るのは、開中と表示され、シャッターがけたたましい音で少しづつ、上がっていく。
その中を勝輝は、全力で駆けていった。この上ない足捌きで、艦内の床は足音を反響させ続けていた。
イグニスプリズム
司、彩美はアルフの傷の手当を終え、麻衣の手当始めているところだった。
アルフの傷は完全ではないが、立てるくらいには回復してもらっていた。
「捨て身の特攻だったのに、掠りもしないわ、モロに食らうわ散々だぜ、くそっ!」
いたく不機嫌だったアルフは、硬盤の床に、思いっきり足を叩きつけた。
ゴーン!と鐘を鳴らしたかのような響きに、ある信号が4人の耳に伝わった。
「むっ!」「えっ!」
しかし、この信号はアルフと麻衣には分からなかった。
司と彩美に伝わってきたのは、サーラが倒れたという感覚だった。
「司、ここはお願いします。私はサーラ様の確認へ…」
言葉を言い終える前に、彩美はサーラの位置を辿っていった。
「任せろ、行ってこい!」
司は、余っている気を麻衣に分け与え始めた。
「サーラ…無事でいろよ」
脳裏には全く違うことを想いながら…
クラポ連絡通路
張り裂けそうな思いと共に、勝輝は駆け続けていた。
どれくらいの距離を進んだのかはわからないが、ざっとクラポ全体の半分くらいは進んだだろうか?
時間は10分もかかっていない。
「とりあえずは前進あるのみだ…。一刻も早く、隕石を止めないと」
勝輝は気をフルの循環させて、駆ける速度を更にあげた。
連絡通路前 傍観経路 制御盤
彩美がたどり着いた時、既にサーラは変わり果てたように力ない姿で発見した。
「サーラ様!!」
すぐさま、サーラを仰向きにし、腹部の辺りに右腕の上に、左腕を重ねて平をし、少し距離をあけて構えた。
(気がもう見透かしても見えないくらいに小さくなってる…このままだと確実に死ぬ!)
彩美は腕から発する気を腹部に対して大きくして、気を送り込んだ。
その時、彩美の背後から、一人の少年がよろよろと向かってきた。
「はっ!」
あからさまな殺気を発していたのにも関わらず、サーラに集中しすぎた。
「しねぇーっ!」
緑の刃が彩美に横薙ぎで来る。
ズシャーーーッ!
普通の刃物で切られるよりも、ダメージは大きい一撃
彩美は、避ける体制は取れていた。
だが、避けるわけにはいかなかった。
「っ…くうっ!!」
振返り様に受けた傷、左の脇腹から流れる出血は凄まじかった。
しかし、この状況で彩美が避けてしまえば、サーラに当たっていた事だろう。
治療に専念したこともあってか、彩美は反撃する力がなく、ただサーラを後ろに、仁王立ちに構えるしかできなかった。
「さあ、くるのなら、来なさい!」
今、変異してしまえば、周りが見えなくなり、サーラでさえも襲いかねないからだ。
感情が制御できるほど変異能力は勝手が利く能力ではない。
「…フン!」
彩美を襲った者…慧は、まるで相手を間違えたかの様に、構える彩美など無視して、シャッターが空いてる場所の消えた。
その途端、彩美は緊張の糸が切れたように。その場でお姫様座りで崩れた。
「な、何だったの?今のは…痛っ!」
言葉を発した途端、脇腹の傷が更に酷くなっていることに気付く。
出血が酷い、これではサーラの治療に専念できない。
「サーラ様…ごめんなさい」
両頬に涙を伝わせながら、彩美は自身の治療を開始するのだった。
ニュージ・アース前 傍観経路
勝輝は漸く、拠点へと戻った。
しかし、そこで見たものとは…
「おいおい…何だよこりゃ!?」
勝輝の目に映ったのは、夥しい数の地球軍兵士の死体だった。
一目で花火の裏切りの際に、切った者達だというのはわかったが、普通は処理班が回収にまわるはず
「なぜ死体処理班が動いていない!?」
急いで、ニュージ・アースのハッチを開け、艦内に入る。
よくよく考えてみれば、こういう状況だということは、何かそれ以上の事が起こったに違いない。
艦内を駆け、途中すれ違いそうになった、看護員に声をかける。
「おい、一体何が起きている?」
勝輝は、看護員の両肩を力強く押さえ問いただす。
看護員は一瞬、驚いた表情を浮かべるが、すぐに事情を理解し、ティリアと冬嫁が医務室にいることを教えた。
「ありがとう!」
一言礼だけを言って、再び駆けていった。
医務室
自動ドアが開かれ、勝輝が入ってくる。
医師は驚いた表情をするが、勝輝の顔をみると、全てがわかったかのように
「こっちに来なさい」
と、奥へと案内してくれた。
そしてベッドの前にかかっているカーテンを払うと、ティリアが横になっていた。
「ティリ…ア?」
しかし、目は開けていたものの、その瞳は虚ろな方を見ていた。
何度かティリアを呼んでみるが、全く反応はない。
10回程呼んだところで、先程の医師が現れ、こんな事を呟いた。
「彼女は、操縦席で倒れていたそうだよ。脳波装置のヘルメットを被りながら、出力コードを全部切られていたそうだ」
そこまで聞いてわかった。
ティリアの感情は、精神世界の中にあるのだと
「言ってみればあれだね。ゲーム中のデータを保存している段階で、メモリーユニットを引き抜かれたような状態だ。この子のデータは脳と、精神世界の間で破壊されたんだ」
医師が言わずとも勝輝は、叡智で先に分かってしまっていた。
だから、顔を低くしていた医師だったが、今後どうするかという相談で顔を上げた時、勝輝は既にいなかった。
ニュージ・アース前 傍観経路
焦りながら必死に考える勝輝
ティリアだけではなく、コードまで切断されている、それでは操縦することさえできない。
ニュージ・アースは使えない、だとすれば他の手を考えるほかなかった。
(なにか…なにか手はないのか?)
もう一度、最初に来た時の道をたどろうとした、その時、司と麻衣、そしてアルフが戻ってきた。
アルフは、まだ傷が塞がりきっていない麻衣に、肩を貸していた。
「司!」
勝輝は救世主を見つけた。
「勝輝、こんなところで何をしている!?」
「ニュージ・アースは動かない…なにか、隕石を破壊する手はないか?」
勝輝は必死に、司に説明していった。
長々とした会話を5分程したところで、司は大きなため息をついた。
「…お前、ニュージ・アースで隕石が破壊できると思っているのか?」
「え?」
司の口から発されたのは、真実だった。
「構造を調べたが、隕石を破壊することは不可能だ!」
「どうしてだ!?」
ニュージ・アースが使えないことをすっかり忘れるほどに、勝輝は頭に血が上った。
「光子力砲だが、クラポに突進した際に、光集力機関が破損した」
光集力機関とは、光子力砲を撃つまでの、光を集める機関のことだ。
「撃つ事は出来るが、十分な威力は期待出来ないだろう。あれでは、隕石を削る事はできても、完全に破壊することはできないな」
司の傭兵時代は、機械工学、電気学、全てにおいてトップクラスのメカニックマンだった。
ニュージ・アースの外傷など、一目見ただけで分かってしまっていたのだ。
しかし、そうと分かれば、一体どうすればいい?
そもそも、ニュージ・アースは操縦することすら不可能なのは分かっている。
勝輝は、司に更なる助言を求めた。
そして司は再び、呆れるような溜息を付く
「お前は本当に馬鹿な奴だな…。」
あまりに馬鹿にされた態度に、さすがの勝輝も、怒りが満ちてくる。
「いいか?ここは強襲用とは言え戦艦だ。この意味がわかるな?」
人差し指を立て、よく考えろとしてみせる。
「過去に対艦用兵器、ハイペリオンミサイルを搭載した戦闘機が、実戦配備されたと聞いたことがある」
対艦用ミサイル、そんなものを使えば、少なくとも隕石は簡単に消し飛ばせる。
問題は、この巨大な戦艦の何処に、その戦闘機があるかだ…。
と、そこに彩美と、サーラ、そして、斐瑪が現れた。
「戦闘機なら、艦の中間にある…目覚めたら、影深智が倒れているところに、ブリッジがある」
都合がいい事だ、三人は、うまく鉢合わせしていた事により、ここまで早く戻ってくることができた。
「目指すは、ブリッジだ。行ってくるぜ!」
善は急げとばかりに、勝輝は一即座に、駆けていく。
もう聞こえはしないところで、彩美が、ぽつりと呟く。
「ただ、あの未来人が、まだ艦内を彷徨いてるいるのが気がかりです…。どうやら、精神が異常をきたしているようで、私達を襲ったのにも関わらず、連絡通路を通って行ったんです。今頃何をしているのでしょう?」
慧の事だ、まだ生きているとわかれば、何れは驚異となりかねない。
「全く、未来人というのは、ほとほと迷惑な奴ばかりだな…俺も行ってくる。アルフと麻衣は、ニュージ・アースの修理、斐瑪と彩美はサーラを回復させておけ!」
返事を聞くこともなく、司も勝輝の後を追ったのだった。
二人の地球軍がブリッジへと向かう中、地球からある光が監視していた。
「隕石はまもなく、地球に落ちる…果たして君達に止めることができるかな?」
残り時間は10分足らず、彼らは最後の頼みだろう。
「協力は惜しまないつもりだけど…やはりあの子を送ろうか」
霊法の教祖は、まだ切り札を隠している。
地球人は無限の可能性を持つと信じている。
だから、使いたくはなかった。
「頑張るんだよ。地球の少年達」
望みは託した。神でありながら、神頼みをして
一方、勝輝は召集室を抜けて、PC室の通路を横断しているところだった。
「勝輝!」
そこへ司が、漸く追いついてくる。
「来ると思ってたよ」
「お前はまだ能力者としては経験が浅い。発射口は俺が開けてやる」
二人、隣同士で駆け合う
ブリッジまでもう、それほどの距離はない。
残り時間は10分を切ったくらい。
まだ十分な時間は残っている。
楽勝だ!そう勝輝は思っていた。
しかし、叡智が二人に危機を察しさせた。
「はっ!司、危ない!!」
「むっ!」
勝輝が司をドスッ!と突き飛ばす。
その直後、司のいたところから、巨大な電光が上がった。
艦の床をベニヤ板の様に壊し、更には、天井に次ぐ天井を次々と壊していきクラポを貫通する。
銀河系の遥か何万光年という距離を、真っ直ぐに走っていったのだった。
「な!何だ!?」
驚いた勝輝はクラポの天井を確認する。
風穴が空いた先に見えるのは、宇宙空間。
しかし、クラポは全体をCPUが管理しており、貫かれた装甲はすぐに修復がなされた。
「一体、あの電光は?」
勝輝が、穴のあいた床を見たとき、そこに見えたのは…。
「未来人、竜胆:慧」
絶望に浸るような声で、その姿を見た勝輝は、フルネームを言ったのだった。
「みぃ~つけたぁ♪」
彩美が言っていた通り、どこか様子がおかしいのは確かだが…それは精神に異常をきたしているモノではない。
そう、まるで彼自身が、なにかに取り憑かれたかの様に、彼を取り巻く気には大きな邪気が混じっていた。
「ククク、よく今のを避けたね、流石は戦人、叡智クンだね」
その名を呼ばれた時、勝輝の意志は眠り、もう一つの人格が表に出る。
「今のは荷電粒子砲…貴様、自らの魂を売ったな!?」
勝輝の眼に、慧を見通す力が宿る。
気の循環がケタ外れに早くなっている、たとえどんなに強力な能力者であっても、血液の循環を超える早さは、能力者では不可能だ。
すでに慧は人ではない、人の皮を被ったモノ、覚醒生物と化していた!
「アハハハハハハ、だったらどうなるんだい!?叡智!!」
慧の背中の皮膚が割け、肢が二本現れる。
骨髄が変形を起こし、慧の首が後ろに90°曲がり、更に首の全面からは牙が幾つも現れたかと思うと、顎が溶け、大きな口ができる。
そして、逆向きの状態を宙返りで起こし、尾骨が急激に伸びる。
それは強度と柔軟性に優れ、先端には毒素が染み出ていた。
最後には両手首、踵から、新たに現れた5本の指、前方向と合わせると、合計40本の指が爪の様に鋭くなる。
「蠍!?なんて変体を…」
勝輝の真なる人格でさえも、その姿には驚いた。
そもそも、間近で覚醒生物となる能力者を見ることでさえ前代未聞だった。
普通に生まれた訳ではない、能力者が自身を制御できない程の執念にかられて、変異を起こしたのだ。
こうなってしまっては、人語は喋れても、人の感情は一瞬で消え失せる。
勝輝が殺られれば、次は司、そしてクラポ自体を破壊することになるだろう。
殺戮衝動しか持たなくなってしまっている。
人間達の間の作り話でも、妖怪という者がそれに当たるものだった。
だが妖怪の中には友好的な者もいる。
しかし目の前の巨大な生物は違う、見えたもの全てを本能が根絶やしにする、それが例え覚醒生物同士であってもだ。
更には、能力者の意志を受けている為、能力もそのままに行動できる点は何よりも厄介だ。
「クソッ…」
勝輝、いや叡智は焦っていた。
時間はあと僅かしかない、にもかかわらず、目の前の覚醒生物は手強い存在だ。
とても10分で、倒す事は不可能だ。
「どうしたんだい、僕の姿に怖くて、身動きが取れなくなったのかな…?」
挑発をかけ、振り向いた矢先、毒尾が接近してきていた。
「しまった!」
叡智には似合わない、油断だった。
しかし、すぐさま御剣を生み出し
「当たると思ったか」
毒尾に構え、バサリ!と切り落とす。
「ぐぎゃあああ!」
すぐさま切れた尾を戻し、悶え苦しむように尾だけ、あたりをのたうち回る。
「その程度の攻撃で、殺られるか。このまま決めてやる!」
叡智がトドメとばかりに、剣を突き立てる態勢に入った時
蠍はニヤリと笑みを浮かべた。
うつぶかせての表情、しかし叡智には何かを感じ取れた。
「今だ!」
尾を叡智に向け、切れた先に気を集中させた。
「そうか、あれが…」
叡智は、電光の発生源を解き明かした。
「死ねぇーっ!」
荷電粒子砲が放たれた。
叡智は剣を前に構え、電光に直撃した。
光に飲み込まれ、そのまま粒子はクラポの壁を突き破って、宇宙の彼方へと消えた。
「はっはっはっはっ!遂に、叡智を滅ぼした!」
小惑星か、デブリか、いずれにしても、何かに当たるまでは半永久的に直進し続ける。
実際の粒子砲と違い、僅かな抵抗が加わった程度では、曲がったりはしないのだった。
「僕の体内から生まれる邪気を、大量に含ませた光線だ。オリジナルと称するなら魔断粒子砲とでも、言おうか」
蠍はもう興奮して、ドタバタしていた。
絶対なる勝者として、未来でも歴史に残っている叡智は、慧の星を軽々と攻略したことで名が上がっていた。
誰もが憧れる存在として、未来では見守られているのだという。
「次は地球人の殲滅だな…叡智が滅んだ以上、もうお前達には一片の勝機もない」
蠍は手始めに、ブリッジの入口付近の壁際で倒れている司に目を向けた。
「まずはお前だ!死ねーっ!」
余裕綽々で、再び、尾に気を集中し始めた。
荷電粒子砲が、今正に撃ち出されようとしたとき
ザクッ!
何かが、蠍の尾を根元から切り落とした。
「ぐぎゃああああああああああああああああああ!!!」
先程、切られた時よりも大きく悶え苦しんだ。
根元から切られてしまうと、もう我慢がどうとかいうレベルじゃない。
「誰だ!ブッ殺してやる!!」
更に異形を取り、人の姿では両肩の部位だった部分が割け、鋏が現れる。
向き直ったその眼に見えたもの
金色の長い髪に、ワンピース風の動きやすい服の乙女。
どこかで見たような図だが、変異能力者ではなかった。
右腕に、強酸を纏わせ、強い眼差しを蠍に向けていた。
左腕には…
「べはっ!」
勝輝がいた。首根っこを掴まれて。
「操葵の言っていた変異能力者か?だが、弱点だらけで能力者としては、決定打にかけるそうじゃないか!」
蠍は、左の鋏を伸ばし、金髪の乙女に刃を向ける。
右の鋏はというと、鋼板の床を通して、地からの強襲を仕掛けていた。
サクッ!と、空を切る。
勝輝を手から離し、軽々と避けていた。
能力者でも簡単に避けれるような、緩やかな一手。
もちろんこの先手が、後の一撃で致命傷を浴びせる為の囮である事は、知られていないと慧は確信していた。
後退と同時に跳躍し、地に足を付く金髪の乙女。
その瞬間を、蠍は見逃さなかった。
「そこだ!!」
金髪乙女の背から、僅かに距離を離したところで右の鋏が姿を現す。
「油断大敵、大した事のない援軍だったね」
鋏は確実に、乙女を切り裂いたかのように見えた。
しかし、次の瞬間、蠍はバラバラになっていたのだった。
金髪乙女に能力が、発動していた。
「自意幻覚…」
ようやく、頭を上げた勝輝が、叡智の眼でその力を見抜いた。
見事に蠍を倒し、乙女は背後にいる勝輝に、方向を向けた。
幻惑の様に妖艶な金色の髪が、仄かに輝る。
「お前、一体何者だ?」
勝輝はその圧倒的なまでに強い彼女を、酷しい眼で見た。
しかし、金髪の乙女は、何一言も、口を動かすことはなかった。
その時、クラポの警戒システムが何かを探知する。
緊急事態のブザーがなり、何事かと、勝輝は近くにあったモニターにアクセスを図った。
emergency callと表示されたモニターは、ある図を表示させた。
蠍が起こした衝撃、そして地に潜入させている間に切断されたと思われるコードのエラーによって、発進路を閉じているブラストドアが、動かなくなってしまったようだ。
このままでは、戦闘機は発進させる事もできない。
「まずいな。これじゃあ本当に、指を咥えてみているだけになる。どうすれば…」
叡智はもう、万策尽きかけていた。
その時、ガシャンッ!と何かが割れる音がした。
驚いて、音のした方を見ると、金髪の乙女が、ブリッジの側面を閉ざしているブラストドアを無理やり引き上げ、ガラスを割っているではないか。
そして、今の音は、勝輝を呼ぶ為に起こしたモノでもあったようだ。
勝輝が気付いた事を確認すると、首をクイックイッ!と動かしていた。
「その手があったか!」
勝輝は急いで司を起こしにかかる。
「司、起きろ!」
頬をバシバシ叩いて、無理にでも目を覚まさせる。
「うっ!くっ!」
叩かれていることを苦しそうに、司は徐々に覚醒していく
ドゴー!
「痛いんだよ!貴様!」
だから、完全に目覚めた途端、相手に強烈な、鉄拳を喰らわせていた。
「むっ!?」
鉄拳は見事に勝輝にあたっていた。
叡智を覚醒させている勝輝ならば、簡単に避けれるはずなのだが…
しかし、当の本人は、食らった衝撃で壁に、脳天をぶつけ、気絶していた。
「全く仕方のない奴だ…」
司はそういって、周りの状況を確認すると、一目散に行動に移ったのだった。




