12話 思いビトの大戦
エンジン炉
クラポを動かす炉全体の温度は司と、サーシャに大きく影響を及ぼしていた。
まず最初に能力の強化
お互いが火の力を行使するが故に、その力の増幅は大きな恩恵となっていた。
だが、それだけに、扱う気も大きくなるため、乱用は禁物となる。
唯でさえ、この炉内の熱さは、人間であれば数秒程で脱水症状を起こす温度であり
気で熱さを軽減する必要がある為、気が無くなれば、炉内の熱さだけで体力を奪われてしまう。
なんとしても、気の消費は可能な限り抑えなければならなかった。
しかし、司の相手はサーシャ…
ラー家に気を使わずしてダメージを与える事はできない。
物理的な力は“覚醒壁”によって遮られてしまうからだ。
この壁を貫くには、気を込めた心力による攻撃…つまり覚醒能力による攻撃でなければ、覚醒壁は打ち破れない訳である。
従って、司はかなり難しい状況にいるのだった。
「サーシャ、お前も操られているとはな…」
そして、司にとっては、最も相手にしたくない敵でもあった。
「理由は大体わかっている…。お前の気の循環が効かなくなり、暴走しているわけ、だ」
一人の呟きに意味を持たせるかのように、並べていく
過去のショックが、速峰:桜の死を未だに引きずるサーシャは、自身の気をコントロールできなくし、自らの二次体を作り出してしまった。
それは周囲の同族間にまで影響を及ぼすもので、その例が…フェイルだった。
しかしサーラには影響が及んでいないのが、不思議な事だった。
もしサーラにも影響が出ていれば、この件は操葵にとって不利なものになる。
無差別な交戦に出るため、出方次第では操葵以上の厄介と化する為だ。
しかし、今までのサーシャの暴走によって、フェイルは幾度となく、その影響線に及ぼされていた。
だが、サーラは一度たりとも、それはなかった。
才が発揮されるのがサーラの技能だった、もしかすると、彼女には何かしらの防御能力を体得しているのかもしれない。
それがあれば、サーシャの暴走を抑えることも可能だろう。
だが、結局今は戦闘は避けられない状況だった。
この熱さの中、司は、死をも覚悟する勢いで、煉獄の能力者サーシャに向かっていく!
煮えたぎるような気を循環させ、闘気へと変換すると、司の右腕に気色の剣が発生する。
「一か八かで、試してみるしかないか!」
勢いよく槍の如く、それを投げる。
熱によって水蒸気とかした温風を切りつつ、気の剣は一直線にサーシャにむかって、高度が下がっていく
避けるのは簡単なことだ。
しかし、サーシャは避ける素振りはまるで見せようとはせず、ただ、じっと黒気に満ちた身体を固定させていた。
(なぜ避けない!?)
司は、息を呑む
もし、自らの恋人を傷つけるようなら、その時点で司は人生を見失ってしまうだろう。
己の起こした行動を司は呪った。
だが、そんな心配は無駄に終わる。
サーシャの覚醒壁は、黒気によって更に強力になっていた。
気の剣が直前で消滅する。
そこでようやくサーシャは今の攻撃がどこから来たのかを確認しだした。
サーシャは自身の暴走を必死に抵抗していたのだった。
今の司の攻撃によってサーシャは完全なる暴走した意志に変わってしまった。
「ちっ!」
司には誤算ばかりだった。
ますます勝機は薄れていく
暴走しきったサーシャは司を眼で捉えると、まるで、獲物を見つけたように不敵な笑みを浮かべ、僅かな足場を素早く突き進んでくる。
「まずい、くる!!」
ダメージは無理だが、防御に回すように小型のナイフを抜刀し、サーシャの一撃…気をまとった手刀が振りかざされる。
「早いっ!」
満ちる力はスピードでさえも、俊敏にさせていた。
うまく捉え、防御に成功した司だが、その重さに、怯み気味の表情を隠せずいた。
「重すぎる!!」
手刀でこの一撃の重さ…武器を持たせれば、司の腕は容易に折れてしまうだろう。
本当に、この少女の恋人である自覚でさえも失うほどに、その容赦の無さは、ショックとは恐ろしいものである。
両腕に持ち支える腕を、右腕だけに残し、司はもうひとつの、少し長めのナイフを取り出す。
「あまり使いたくはないが…くらえ!」
サーシャの気を纏う部分、右手首にナイフを目一杯力を込めて、刺す!
覚醒壁に返される事なく…少女の柔らかい皮膚を難なく切った。
痛み、ではなく、刺されたという感覚で、その部分に目を向ける。
その瞬間、サーシャは初めて暴走の中で、驚きの表情を見せた。
そして、ドーンッ!とサーシャの手首が爆発を起こす。
驚きを見せている間に、司は距離を離していた。
(気休め程度だが、これで暴走が解ければ、いいんだが…)
司の使ったナイフは、刃に衝撃火薬を含ませ、覚醒壁に対抗出来る様、サーシャ自身の気を封入した刃物だった。
(対抗策とは言え“グレネードナイフ”を使うのは抵抗があるものだ)
サーシャ自身の気もある為、3本だけ生産し、今の1本がそれだった。
残り2本、対抗策をもっと考えておくべきだったと、司は後悔した。
爆風の規模が凄まじく、ようやく晴れてくる。
暴走している割には、注意力がなくなっているようで、司の眼がサーシャを映した時に見たものは、右頭部から流血していた。
しかし、ただ出血しただけと考えていいかもしれない。
「やるじゃない…まさか、グレネードナイフを使うなんて思わなかったわ」
初めてサーシャの声が聞けた。
「サーシャ!?暴走していても喋れるのか?」
司もようやく精神が落ち着いたのかと、緊張を解こうとしたが…何故か、司の心が、サーシャをまだ敵として認識していた。
(…!?何だ?)
心にサーシャへの接近を止められた。
不可解だった。
なぜ止められるのか?
まるで近付く事で、死がすぐ側にあるかのように
「フーン…心は恐れている様ね」
そこまで言ったサーシャからようやく気付く
内に隠れる、悪意ある感情と、愛しい人を想う心の姿の交差が!
いまなら、司自身もわかる。
まだサーシャは暴走している。
更には暴走の意志が、サーシャ自身の精神でさえも侵食し始めていることまで
司には全てわかった。
「まだ、あの時の事を」
もう、司には腹をくくるしかなかった。
サーシャを止める手段は、自らを失うことだと…
荒い息を抑えるように、全身に温存させていた気を解放し、気の剣を再び生み出した。
先程のものとは違う極小のサイズ、意志でリーチを伸縮自在にできるフレイムスライサーだった。
そして司の表情が、酷変わる。
そんな姿に、サーシャも好戦的な気を漂わせ始める。
「面白いものを覚えたのね、さあ、始めましょう。今夜も最高のパーティーになるといいわね」
そういって、龍炎にも似た気が、全身を取り囲み始める。
暴走に侵食された素の精神によって、生み出された気が少女を闘神の一歩に近づかせる。
「お前は俺が止めてみせる。この身に変えてもな…いくぞ!!」
強者の面構えの前に、清々しい表情で司はアタックをかける!
足場の制限される場所で疾走を繰り返し、サーシャの位置までに炎の剣は中サイズにまで伸びる。
「当たれ!!」
振りかざす。
すぐに降ろし、微動だにしない少女を切りつけたかに見えた。
当たっていない。
すぐさま司は振り返り、サーシャを捉える。
もう一度、アタック!
同じパターンではなく振り上げると、下ろす素振りを見せるようになぎ払う。
しかし切ったのは残像、掠りもしなかった。
「でも、闘神には勝てない、当然の事」
今の回避と共に、別の場所へと移動していた。
「もう終わりにしましょう…それが司の為でもあり、私の為でもある」
サーシャの眼に、龍が通う
「死ぬ為なら、お手伝い致しますわ」
殺気は全身にあった。
避けることもかなわない神速
「ちっ…ここまでなのか」
数秒後には、臓器を抉る一撃と成す腕を構え、少女は司を冷たく見据えた。
「トドメですわ、死になさい!」
一目散に駆け出し、向かってくる。
人間にはとても見えない駆け足、司には、やっとというところだった。
(くっ、なんとか距離を離さないと、暴走を止めれぬまま…)
一歩下がる司、しかし、その一歩にはもう足場がなかった。
突然の事に油断し、司は集中が途切れた。
(しまった!!)
咄嗟に振り返ると、すでにサーシャの腕は司を狙いすましていた。
グシャッ!!
両胸の真ん中を、指が貫通し、心臓を掴もうとする。
僅かに掴みきれなかった。
それは司の腕が、サーシャを止めていた。
防御は不可能と察した司は、サーシャの腕を掴む事で、その動きをなんとか押さえていた。
しかし、こんな事をしたところで、もう司には万に一つの勝機も無かった。
絶望的な状況のシナリオに、足掻くイベントを加えただけだった。
happy endは、もうどうしようとやっては来ない。
「往生際が悪いですわね、大人しく殺られた方がまだカッコイイですわよ」
そう言って、指に気を送り、ガクガクと徐々に心臓に近づいていく
その進行に、痛みの声を司はあげる。
しかし、本当に往生際が悪い…両腕を使って、サーシャの右腕を止めているため、片方を手放そうとすれば、心臓は抜き取られたも同然になる。
そしてサーシャには、まだ左腕が残っている。
今の状況に飽きれば、すぐさま司の腕を落とし、心臓を取るだろう。
腕と心臓を取られるか、心臓だけを取られるか…どちらにしても死は免れなかった。
「こ、ここまで、か…」
次第に腕の力は薄れてゆき、司は眠りの準備に目を閉じた。
覚悟は出来たとばかりに、サーシャのやり方に任せた。
突然の司の抵抗が無くなった事に少々驚きつつも
「さようなら…私の思いビト、せめて楽にだけは死なせてあげる」
優しい声をかけると、ゆっくりとした手つきで心臓を抜き取る指を進行させる。
今正に、司の命がつきようとした。
終わりの瞬間、少女の腕は払われた。
「きゃあっ!!」
悲鳴、と共に司は、隣り合わせの死を回避した。
「がはっ!」
浮いた体が転がり、僅かな足場から落ちそうになる。
しかし、それをあるモノが支え、捕まえ上げた。
「大丈夫かな、元:司くん?」
そこには、見覚えのある姿
小さな青年…触手の左腕
「くろは…よしかず?」
思わぬ救援としか言えなかった。
司の思考が…
「ああ、言葉に出さなくていいよ、傷に障るだろ?」
言葉を発する前に、黒葉が制止させた。
[なぜ、お前がここに?それになぜ俺を助けた?]
司の考えを読み、それに答えていく。
「地球を守ろうとする君達の行動に敬意を評して、僕が助っ人に来たわけさ。一応地球は僕にとっては故郷の様な所だからね」
司はその言葉に、怪訝な顔をする。
[またその様な、くだらん嘘を]
そんな考えの言葉に、クスリと微笑む
「嘘なんかじゃないよ。少なくとも、今は君の味方さ」
そう言って、黒葉の触手に、不可思議な現象が起き始めた。
「…!?」
鳩尾の傷が瞬時に塞がり、司は高速回転する思考よりも早く、言葉を発するようになっていた。
「さあ、闘神との戦闘再開といこうじゃないか、彼女の相手は君一人では重い、僕も協力しよう」
司を定位置に立たせ、触手と化した左腕を、細い腕に戻す。
その行いを終始見ていた龍炎の少女
腕を組みながら眺めていたところを見ると、まだ本当の意志は十分に残っているようだ。
「最後の言葉は終わりまして?それじゃ、そろそろ行きますわよ」
黒葉が加わった事で、サーシャの気が先程よりも大きくなり始めた。
「あなたは神族ね、闘神を相手にして…大罪になってもいいのかしら?」
脅しをかけるサーシャだったが、黒葉は特に怖気付いた様子はなかった。
「心配いらないよ。既に犯罪者さ、神界でも名の知れたね」
黒葉にも悪意のある雰囲気が漂い始めた。
「ところで、お前、サーシャの強さはあの姿を見ればわかると思うが…幾らお前が神と言えど、力押しじゃ勝ち目はないぞ」
「その点についても心配はいらない。能力の構造を僕は知っているからね」
もう敵なしとでも言うように黒葉に余裕の表情が見て伺えた。
「何かわかったのか?」
「ああ、詳しく話している暇はないけどね」
「・・・」
そんな言葉を返された司は、なんとも言い難いような顔をした。
その顔に微笑みを返し、黒葉はサーシャを見ながら言った。
「何れわかるよ。君にも勝輝君にも」
「勝輝も、だと?」
戦闘態勢に入る司はその一言で、油断した。
その間に黒葉は、サーシャに一歩近づいていた。
「ようやくきましたわね。ボルケーノ!!」
サーシャの瞳がキラリ!と輝いた。
その瞬間、炉の温度が黒葉に向かって上がってくる。
「黒葉!よそ見をするな!!」
遅れた司にはわかっていた。
黒葉に、炉の噴火が迫っていた。
「ん?」
しかし、本来なら簡単によけられるはずのそれは、何も見えていなかったようで…
青年の身体は、炉心によって融解された。
「ああ…」
その光景を目の当たりにした司は初めて、人が死ぬことに対する悲しみを覚えた。
「こんなに簡単に、神や人は、死んでしまうのか?」
時には敵でもあり
時には味方でもあった。
少なからず、今回の事で絆を生んでいたかもしれない、欠片を一瞬にして奪われた。
「あはは…大罪どころか、制裁になってしまったわね。所詮油断多き者は、死しか似合わないということね」
サーシャの高笑いの声なども今となっては、司の耳に入っては来なかった。
怒り、憎しみ、それしか、最早見えていない。
「お前が大罪だ!」
司は、前髪に隠れた表情を露にする。
怒りに狂う表情…仲間を失ったことに対する憎しみを、全体から放出していた。
「あら?犯罪者を裁くのは当然でしょう?ましてやそれが手の付けられないほどの凶悪犯なら、死んでも仕方のないことだと思うわよ」
「なんだと!?」
人…神殺しでさえも軽く流すサーシャに、司はますます今のサーシャに敵意を向けた。
「仲間だというのなら、あなたも同じようになってみる?でも怖いわよね、所詮あなたは人、神と同じ扱いは重すぎるし犯罪者なんてねぇ…」
もう、死など、どうとでも良くなっていた。
「貴様!言わせておけば!!」
全力の気を循環させ、一気に駆け出す。
今の司は、サーシャと同じ暴走をしていた。
(考えろ、黒葉は能力の構造が分かったと言っていた)
息つく間もないように、気を込めた一撃を、与えつつも、ある考えを巡らせていた。
[能力の構造、それは能力の発生までにかかる時間と、その力の根源]
何かが司の頭の中で聞こえてくる。
サーシャの当てる拳は尽くガードされ、与えているダメージはとても小さい
[覚醒能力と言うものは、能力者が“それ”に働きかける事で初めて、能力の発動の準備をかける]
怒りに見えながらも、冷静な態度は残っていた。
サーシャの攻撃を、ギリギリ回避できるのは、その為でもあった。
その冷静さはどこからでてくるのか…それはこの頭に響く声が持たせてくれていた。
肉弾戦では敵わないと思ったのか、サーシャは司から距離を離す。
サーシャからすれば軽く飛んだようだが、司には、それすらも大きな後退をしたように見えた。
実際はあれも覚醒能力の一つ、足に気を消費することで、約4倍の跳躍力を得ることができる能力の基礎だ。
今の言葉を、簡単に考えたとすれば
「次の能力の発動は着地まで不可能だということか」
司はすかさず、腰のナイフポケットから、グレネードナイフを抜き取る。
「なら、今この時がチャンスだ!」
着地点を見極め、ナイフを投げる!
中でそれをみていたサーシャにも、司がナイフを投げたことが分かった。
それが衝撃爆破タイプであることも
だからこそ着地と同時に!
ドーンッ!!
地に接触したナイフは爆発を起こした。
たちまち、サーシャを中心とした辺り一帯は煙に包まれた。
「くっ!アジな真似をしますわね」
再び視界が安定しなくなり、サーシャは立ち尽くす。
(とはいえ、この煙が無くなった時が、あなたの最後ですわ、司)
ただ一人でに呟くサーシャだったが、この時、まだ彼女は知らなかった。
煙の外で、司が何をしようとしているのか、知る由もなかった。
「残り一本…こいつで決める」
最後のナイフを構え、司はそのまま煙に向かって駆けていく
全力の気を込めた足さばきは、某マラソン選手のスピードを軽々と上回っていた。
(安定しない視界に気の反応?司が接近してきている!?)
司が向かってきていることを、悟ったサーシャ、避けようと動こうとするが…
後退の一歩で足場がないことが分かった。
(失敗しましたわ。先のナイフの事で、足場の大きさを、見ていませんでしたわ)
着地と同時に煙に包まれてしまった今の足場は、その規模がどれほどのものかわからず、下手に動くことはできなかった。
(仕方ないですわ。司の接触と共に、バックステップで回避を…)
思案し、構えていると司が見えてくる。
「きましたわね、ですが、それこそがあなたの本当の最後。そんな程度の刃物では、私は…」
御託を吐いてる場合などではなかった。
その甘さが、司の決死の覚悟に敗れるのだから
ドスッ!
鳩尾にナイフが刺さる。
中心を正確に見極めた一撃だった。
サーシャが、うろたえている間に、司は距離を離した。
そしてすぐさま、大きな爆発音
煙に次ぐ煙で、もう辺りは何も見えなくなってしまった。
その間の司は荒息を、たて続けていた。
「これで俺にもう勝ち目はなくなった…頼むサーシャ、暴走はもう終わっていてくれ」
そんな呟きを余所に、煙がはれ見えてきたのは、平然と立つ少女の姿だった。
「ダメか」
熱にやられるように崩れ落ち、そのまま微動だにしなくなった。
その途端、サーシャは不敵な笑みをあげた。
中々しぶとかったが、実の恋人は仕留めたも同然の事
次なる目標を定めるかと思いきや…ゆっくりと倒れている司の元に近付き始めた。
淡く光る月が、クラポを覆う
果てない暗さの宇宙空間に、一つの光源体が辿っていった。
この光が、後に浄化の鍵と成る事を、誰が願っただろうか…?
煮えたぎるエンジン炉で、極限の温度を保っているこのフロアに、二人の能力者がいる。
一人は、もうあと僅かの生命力だった。
地に倒れ、じわじわと限界に近付きつつあった。
一方もうひとりの能力者は、熱に抵抗力を持つ少女
今、この二人は、激戦の中で互いの意志を通じ合わせていたのだった。
既に意識を失っている司、その横にサーシャはいた。
何故か、悲しい表情で、頬に雫を滴らせていた。
しかし、炉の熱によって、その雫は、サーシャの皮膚から離れると、地に付く前に蒸発してしまった。
もう少女には、戦闘の意思はなかった。
唯々、自らが起こした過ちに、後悔を見せつけているばかりだったのだ。
まだ自身の力は残っている。
倒れている思いビトに、全身から溢れ出る気を指から司に送る。
しかし、この行為は禁忌にもなる程の禁止行為で起こせば最後、少女は大罪に塗れてしまう
だが、自らがした事に比べれば、禁忌等、恐るるに足りなかった。
元軍人の青年が自身で、生命力の回復が可能になったことがわかると、サーシャは小さな足場の端に踏み寄った。
何言か…後悔を悔やむ言葉が聞こえてくる。
何度も、謝罪を口にしていた。
そして壁で覆われたもっと先…時の操者を、気を通して見捉えた時
口だけが動いた。
「あなただけは、許さない」
涙をこぼしながら、恨みに睨みつけたのち、足場の無い炉に身体をゆっくりと…。
蒸発する涙の数々。
[もう…誰も悲しむことなんてなくなれ]
目も眩む程の、澄み渡る夕焼け空の様な、橙色の炎が解放され
少女はその身を漆黒に焦がし、溶解した。
その数分後、青年は目を覚ます。
そして気付く、大切なヒトを失った事、恋人を失った事
最早、怒りだけでなく
自分の弱さに、情けなさに、青年は時間を費やすばかりだった…。




