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二人二声之影Ⅱ  作者: LAR
本編
13/22

11話 被検体

バチバチと影深智の、改造された左腕の三叉の鉄針が、雷光を走らせる。

自らの意志で電圧を起こせる為。

影深智からすれば、これは威嚇である。

「神が俺の相手をしてくれるなんて、いい気分だよ。どうして俺はこんな姿になったのか…ずっと考えていた」

半機械化…その名のとおり影深智は、上半身の左側、顔の右半分が、人工皮膚で覆われていた。

「最初は健康診断という名目で、俺は実験室に呼ばれたよ。あの時の俺は、そこが実験室なんて、思いもしなかったけどね」

人工脳を組み込まれた状態ながらも、生前の記憶を徐々に思い出していく

頭部は、完全に機械と化し、生身の人間とは到底思えない姿だった。

「最早、今の俺は人間じゃない…宵闇:影深智はもう、この世にはいないんだよ」

思い出したくもない過去の自分がどれだけ足掻いたかということを

「斐瑪と言ったね?神である君にさえも、俺は殺せるか?」

鉄針の電圧が上がる。

「私の意思では殺さない、唯、あなたが死にたいというなら遠慮はしない…」

闇の気を増幅し、斐瑪の全身から悪意に満ちた瘴気が放たれる。

「勝輝達がいなくてよかった…この瘴気は人間なら、猛毒と同じ、吸い込めばこれ以上にない苦で息絶える」

そして、斐瑪の眼は、黒く覆われていく瘴気の中で怪しい赫光を放つ

「じゃあそろそろ、始めようか。被検体同士、仲良く死ねるのも本望じゃないか!!」

電圧を更に上げ、漏れ出した電気が、辺りに走っていく

そのスピードは速く、瘴気が光速の風圧によって僅かながら奥へ、奥へと押し流されていく

(…!なんて電圧!?瘴気が押しのけられて、力がうまくコントロールできない?)

斐瑪には若干ながら不安を覚えた。

最悪の事態も覚悟しなければならないようだ。

「いくぞ!!」

重く巨大な三叉の鉄針を振り上げ、斐瑪のいる位置を、勘で狙いすまし刃を振り下ろす

バチチィィィィィィィーーーッ!!

その位置には、無数のPCがある位置でもあった。

「きゃあぁっ!」

攻撃は間一髪避けれたものの、電圧によって生じた放電と、PCの回路に集束した電気が至るところに走り、斐瑪に触れ、感電したのだった。

影深智の電撃は想像以上の破壊力を持っていた。

PCは尽く破壊され、白煙によって、斐瑪の瘴気は完全にかき消されていた。

ショートを起こし尽くしたスクラップの山が、辺りを瓦礫の山のように変えていた。

白煙はひいてゆき、視界はようやく安定する。

影深智は高性能マニピュレーターを起動させ、辺りを確認する。

[安定視界領域確保…各機能に異常無し、索敵開始]

頭の中で聞こえてくる、電子発声。

その声を聞く度に、影深智は思うのだ。

彼自身をこんなにした奴…全ては運命という名の、神の導きの仕業なのだと

(許せない…(クズ)等消えてなくなれ!)

次第に影深智の怒りが満ちてくる。

「なら…あなたが消えなさい!」

突如、マニピュレーターに探知されなかった斐瑪が、不意に影深智の前に出る!

「なに!?」

驚きつつも、鉄針を振り上げるが、それは重かった。

間合いは十分、威力も十分に浴びせれる距離で、斐瑪は渾身の飛び蹴りをする。

ドゴォーーッ!!

骨を折るかの様な、痛々しいまでの一撃が影深智を襲う。

「ぐっ!はぁ!!」

バキボキ!と、肋骨に響く肘が、影深智をPC室の奥へ、奥へと吹き飛ばす。

頭一個分、更にはサイボーグであって、多大な重量を誇る巨体でさえも、斐瑪の神気の烈蹴の前では、サッカーボールの如く長距離に飛ばした。

「っ!」

しかし、やはり、先程の電撃を浴びたことにより、力がうまく制御できないでいた。

烈蹴を使用した左足は、骨がわずかに曲がっていた。

だが、この程度ならまだ、マシな方だった。

ひどい時は、足を失いかねないものだからだ。

骨の位置を戻すために、神気をうまくコントロールする。

「いっ!」

コキコキと、嫌な音と、痛みに、斐瑪は目を瞑る。

その瞳からは涙が出るほど・・

「奴はまだ生きて、っ!急がないと、やられるのはわた、し、いっ!」

斐瑪は人間であった頃を懐かしく、余韻に浸っていた。

あの頃の暖かさは、懐かしかった。

ふと、思う

傷の痛みなどいつの間にか、感覚を失っていた。

人間だった彼女は、今とは違う…明るい生活を送っていた。

そんな中、突如襲ってきた能力者狩り

斐瑪は、素質のある者として狩人に狙われていた。

元々開花寸前の身だった彼女にとって、狩人は大した敵でもなかった。

だが、当時の斐瑪は、まだ優しい一面を持っていた。

それが爪を誤り、敵に対して手加減を持たせてしまっていた。

その油断は狩人にとっては斐瑪を捕らえる一手となる。

そして気付けば斐瑪は、身体をボロボロにされていた。

最早、生きる希望すら失っていた。

友を殺され、両親を殺され、果ては自らも失っていた。

巨大なホルマリンの水槽に沈められ、何千年もの月日の中で…

気付けば彼女は負に塗れた中で、神という座にいた。

未熟だが、斐瑪という少女は、神気を帯びていたのだった。

一体どこでそうなってしまったのか、神々達に何度も問われようと、斐瑪には心当たりも覚えてもいなかった。

とりあえずは、こんな形とはいえ事は、慎重に検討された。

斐瑪は、オリンポス神の最高に当たる者、ゼウスの養子という形で引き取られた。

生前の頃に負った傷が、彼女を心の殻に篭もっている事を、ゼウスは真っ先に見抜いたからだ。

同時にゼウスは、斐瑪が狩人に捕らわれてからの行く末を、全て知っていた。

斐瑪が、自ら心の殻を破り、一人で行動できるようになると、それを知らせるつもりでいた。

しかし、斐瑪はゼウスが思っている以上に、行動的であった…

神界の資料庫と呼ばれる場所に、斐瑪はいた。

散々探し回って、やっと見つけたと、ゼウスが斐瑪の側に寄っていこうとして、驚いた。

斐瑪が手にしていたのは、人界の事象録

見ただけでは分からない膨大すぎるページの中から、斐瑪は、斐瑪自身がどういう行く末をたどってきたのか、その部分を正確に読み上げていた。

その内容は驚くべきモノだった。

元々能力者狩りの主要メンバーは、神々の一部の者が動かしていたという事

そして、指導者はゼウス

拭わず頬に伝う水、分厚すぎる書にその雫は零れ落ちる。

気配に気づいたかと思うと、そこにはゼウスが顔を俯かせていた。

もうそれからは、しどろもどろだった。

神界からは異端のモノと唆された近衛隊に毎日の様に追い追われ、それでも、斐瑪は逃げ続け

漸く霊法町へとたどり着いた時、ある者が彼女に救いの手を差し伸べた。

それが黒き神、夜蔵之九十九神という名を託した、教祖だった。

今にして思えば、あの時から斐瑪には、地球と連携することを望んでいたのかもしれなかった。

長い思い出話もそろそろ終わらせねば、と、斐瑪の視界にサイボーグの姿が映る。

ガシッ!ガシッ!っと、大きな足音を立てて、それは迫る。

その姿に斐瑪は目を疑った。

(左腕の武装が変わっている!?あれは何?)

影深智の左腕に備わっている筈の、三叉の鉄針はまるで衝撃で破損したかのように、丸い肉塊の様な形に変わっていた。

そして、その左腕から少し上に、ビットが3つ浮いていた。

それは影深智が足を進める度に、ゆっくりと付き従っている。

「まさかっ!?」

斐瑪の予感は的中だった。

「そのまさかだよ!!」

言葉を放った途端、ビットは不規則な動きを見せて、斐瑪に向かってくる。

同時に、斐瑪は全力で側面に逃げる。

その間も、ビットは、ぐんぐん距離を縮めていく

「終わりだな、死ねっ!」

ビットから、光線が放たれる。

「物理反転壁!!」

壁に追い詰めたところで、斐瑪は右腕を素早く凪ぐと、半透明の薄い壁を発生させた。

光線を跳ね返し、射撃を行なったビットは破壊される。

「残り二つ!」

一発限りの反射壁は消え、斐瑪は、素早く移動する。

ビットは交互に斐瑪を挟み込むように、位置を変え光線を放つ!

「甘い!」

立ち止まる素振りを見せ、すぐにジャンプをする。

光線は互いのビットに命中し、二つともスクラップとなる。

着地した斐瑪に、今度は影深智が迫ってくる。

「また、武器が変わってる!?」

巨大な大刃を構え、急速に駆け寄ってくる影深智に、闇の気を覚醒させる。

「トドメだ、死ねーっ!!」

左腕のリミッターが外れ、人が振るうとは思えないほどの速さで、斐瑪にその刃が下ろされる。

しかし、それはダークネスブレードで防がれた。

闇の光源体をイメージさせて発生させる刃は、実体剣としても分類できる。

大刃でさえも受け止め、その攻撃を遮断できるほどだった。

しかし斐瑪はこの時点で両腕を使用していた。

「惜しいな、俺の方が力は上なようだ。右腕がまだ使える」

生身の右腕を腰に回し、何かを取り出す。

「…!!」

それを見た斐瑪は驚愕に満ちる。

「わかるか?流石の神でもこれなら、一撃死だろうな」

影深智が取り出したのは逆十字の形をしたナイフ

斐瑪が身を引こうとする隙を与える間もなく、その刃を切りつけた。

逆十字は神への反逆、神の者であれば死と同等の一撃になるものだった。

「はっはっはっはっ…遂に勝ったのだ、神に、もう神であろうと、俺には敵わない。これさえあれば、敵などいない」

高笑いを幾度も起こし、フロアを出ようと背を向ける。

ドスッ!

その音が聞こえるまで、影深智は歩みをやめなかった。

大量の吐血を起こし、その背にいる者を見る。

「な・ぜ・・だ?神の・・お前は・死んだ・・・ハズ」

既に息絶える直前にまで生命力を削られていた。

それはその背に刺さるものが、ダークネスブレードであるからだろう

生気を吸い取る闇の刃に、影深智は、エネルギーを根刮ぎ削がれていった。

倒れる寸前にその刃を抜く

身の切れる音はとても人間に程近い音だった。

「敵を欺くのも戦略の一つ…あなたは、私を神と勘違いしている」

赤黒光る眼がこの少女、反逆の神、斐瑪を強くイメージさせていた。

「数年前までは確かに神だった。だけど神気なんて扱いの難しいものでしかないモノ、私には似合わない」

いつの頃からか、斐瑪は神と人間を自由に選択できていた。

「だけど、例え人間でも、刺されれば痛いという感覚はある…引き分けといったところ」

急に力が抜けたように、斐瑪もその場で倒れた。


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